関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

榎本優也調教助手

初の海外遠征となったドバイDFを圧勝。その勝ちっぷりに日本だけでなく、世界の競馬界を震撼させたジャスタウェイ。快挙の裏側での陣営の苦労は、想像するに難くないが、今や世界レーティングでトップをひた走る愛馬を手掛ける榎本優也調教助手は、ここまでの道のりでどんな日々を過ごしてきたのか。はたまた安田記念へ向けての臨戦態勢は?競馬ラボではコラムを担当してくれていることで知られる、榎本助手にじっくりと語ってもらった。

※インタビューはレース1週前に行ったものです。福永祐一騎手が騎乗停止のため、乗り替わりとなりました。
文句の付けようがない好気配

-:先週、今週とジャスタウェイ(牡5、栗東・須貝尚厩舎)の調教には福永祐一騎手が乗って、榎本さんは追い切りを見る立場だったと思うのですが、今までと比較しての中間の気配はどうですか?

榎本優也調教助手:本当に動きとしては、先週も今週も文句の付けようがありません。

-:僕も今週は映像を見られましたけど、凄かったですね。時計もそうですし、動きもあの手応えですからね。それに、終い11秒台(11秒9)というのは、今までそんなになかったんじゃないですか?

榎:11秒台は初めてですね。ドバイへの出国前の最後の追い切りで、12秒0というのが一番速かったと思うので。あの時は単走でしたけど、まっさらな馬場を走った中での時計でしたからね。今回も比較的良い時間帯ではあったんですけど、他に乗っていた人たちの話を聞くと「若干、馬場が重かったな」ということを言っていたので、そういう馬場差を考慮しても、素晴らしい時計というか、動きも含めて、今までにない感じだったのかなと思いますね。

-:ドバイの時は検疫のために国際厩舎に隔離された状態で、調教の時間帯も一般の馬とは別の時間帯にやっているから、馬場が天侯以外の条件で、悪くなる要素がない中での時計でしたからね。それに比べたら、今回は馬場も良馬場とは言え、多少重さがある中での時計と動きだったと言うことですね。その追い切りは須貝厩舎では見慣れない厩舎服だな、と思っていたら、やっぱり角居厩舎だったんですね。

榎:そうなんですよ。2週前の時点で、ウチで入厩している中では一番動くだろうというクリーンエコロジーとやったんですけど、全く相手にならなかったということもあって、1週前は前々から「ビシッと負荷を掛けたい」ということは言っていたので、「そうなると相手がいないな」という話になったんです。それで、先生(調教師)から話をして、角居先生が「そういうことなら協力しますよ」と言ってくれたので、攻め駆けするエアハリファを用意してもらいました。



-:ジャスタウェイの動きと時計を見れば、やっぱりさすがだなと思いますけど、相手もそれなりの馬を選んでくれたというか。

榎:そうですね。「動く馬を」ということをリクエストをしただけあったので、非常に助かったと思います。

-:相手もすごいなと思いましたけどね。

榎:いや~、そうですね。追い切り前に「(時計的に)どれぐらいやりたいの」という話をしていたんですけど、本当に向こうは「なんぼでも動くんで、併せます」と自信を持って言われていたので、相当に動く馬だったんだと思いますけどね。オープンに行く馬ですから、流石というのもあるんでしょうけど。

-:そして、1週前時点ではシッカリやるという予定があって、次週の見込みというのは、ある程度は軽めという感じになるのですか?

榎:まだ、ハッキリとは決めていないんです。ただ、仮にユーイチさん(福永祐一騎手)が乗るということになっても、サラッとですね。輸送もありますし、本当に今週が競馬でも力が出せるんじゃないか、というぐらいの状態にはあると思うのでね。(レース後に)無事なら宝塚記念も、という予定になっていますから、そこまでやらないだろうとは思うんです。

当日理想の馬体重は500キロ前後

-:ドバイ帰りとはいえ、しっかりと調整はされてきましたが、体重はどれぐらいになりそうでしょうか?

榎:いつも東京に行くと、8~10キロぐらい減ってしまいます。それで、今朝(5/29)の体重が510kg。そう考えると、中山記念(502キロで出走)と一緒か、500を切ってしまうか、500前後で出られれば、ちょうど良いかなと思いますけどね。

-:この2週間はジョッキーが乗ってくれました。今週、追い切りに乗られてからのジョッキーの感触は、どんなコメントだったのですか?

榎:コメント的には「バッチリだった」という感じで、先週も「唸っているわ」と言っていたように、変わりはない雰囲気でした。ただし、表情などを見ていると、本当に良かったんだろうなと、というのは言葉は少ない中にも感じられますね。僕も普段乗っていて、ビッシリやったら良い時計が出るだろうなと思っていたんで、みんな思い通りというか、思っているより更に上に行っていたと思うんですけど。



-:昔の調教に比べたら、やっぱり調教一つを見ても変わってきたなと。

榎:いや、本当にすごいですよね。

-:これだけ変わるもんだなという感じはしますよね。

榎:そうですね。それに、まだ良くなるのか、という感じがしますもんね。

-:あとは調教で良くなっているというのを過信するわけじゃないですけど、時計やその辺に求め過ぎなければ良いのかなという懸念は、何となくある気はするんですけどね。

榎:でも、本当に時計が出るようになったというのもそうですけど、これだけやっていっても、ヘコむようなところもないですし、これだけ攻めながらも、ちょっとずつ体重が増えていっているぐらいの状況なので、内面もシッカリしたとは感じますね。

状態面においての不安は皆無

-:誰もがドバイ帰りというので、状態面を気にされる方がいると思うんですよね。初の海外遠征を経験した訳ですけど、その感触としてはいかがでしょうか?

榎:ドバイに行った時もそうですけど、やっぱり輸送で若干萎んだようなところがあって、厩舎に戻すタイミングも、意外に早いかな、と僕は感じていたんですけど、馬は帰ってきた時から元気はすごいあったんですよ。それだけ攻めていっても、全くヘコたれるところもないですし、「遠征帰りだから」というような言い訳は、あり得ないというか、疲れのかけらも感じないですね。

-:逆に、その順調過ぎるところが、落とし穴になったりしないと良いのかな、という心配もちょっとはあるんです。

榎:僕は比較的弱気というか、慎重なコメントをする方だと思うんですけど(苦笑)、今回に関して言うと、本当に今のところは何も心配がないです。

-:慎重なジャッジをする中で、好調だとおっしゃっていた去年の関屋記念も、勝ってはいないとは言え、ちゃんと圏内には来ていますからね。

榎:あの時も本当に、何もかも上手くいったという感じでしたけど、レースだけ上手くいかなかったですけどね。だから、ドバイのレースでもそうだったんですけど、行き脚がつかないようなところが出てきているのでね。ゲートは出ても、ダッシュがつかないみたいなところはあるのは確かですから、そこは心配な点ではありますね。

でも、ユーイチさんもどこかの媒体でコメントを出していたのですが「前半は多少置かれるかもしれないですけど、終いはあれだけの脚が使えるので大丈夫だろう」と。距離が足りない、というところさえなければ、結果は付いてくると思うんですけどね。




-:期せずしてトウケイヘイローだったり、この馬に少し味方になりそうな展開を作ってくれる馬というのが、ここ最近は常にいると思うんです。今回はその点、斤量も軽くて積極的なジョッキーが乗るミッキーアイルがいるので、そんなに緩いペースにもならないでしょうし、誰もがジャスタウェイをマークしてくるであろう中でも、そういった面では展開の有利さというか、余裕はある感じがするんです。

榎:ユーイチさんもこの馬のことは分かってくれていると思いますし、その気になれば行けなくもないというのも……。

-:実証されていますからね。

榎:そうなんですよ。なので、無駄な心配をしても、仕方がないところなのかなというのはありますけどね。

-:それはジョッキーが乗ることと、実際、当日であったり、レースに行っての流れがありますから、スタッフが言えることというのは、限られる部分がありますよね。

ジャスタウェイの榎本優也調教助手インタビュー(後半)
「昨秋からの激変の要因」はコチラ⇒

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【榎本 優也】Yuya Enomoto

競馬ラボでは『トレセンLIVE!』のコーナーでコラムを担当。
大の競馬ファンである父親の影響で、幼い頃から阪神競馬場、京都競馬場へ足を運んでいた。 武豊騎手に憧れてジョッキーを志すも、目の悪さで受験資格をクリア出来ず断念。 しかし、競馬関係の仕事に就きたいという思いに変わりは無く、牧場勤務を経て、25歳の時にJRA厩務員課程へ入学し無事卒業する。

しばらくの待機期間を過ごし、09年5月に須貝尚介厩舎で待望の厩務員生活をスタート。 7月には持ち乗り助手となり、それ以来、2頭の競走馬を担当している。

同年10月17日、4回京都3日3Rの2歳未勝利で、担当馬ニシノマナザシに初めて武豊騎手が騎乗。 憧れの存在との初仕事に喜びと緊張を感じる。

その後は、アスカクリチャン、アスカトップレディ、クリーンエコロジーなど、厩舎の代表馬の育成を担当。2012年に担当するジャスタウェイがアーリントンC(G3)で重賞初制覇。NHKマイル、日本ダービーと駒を進め、遂には2013年に天皇賞(秋)を制覇。そして今年、ドバイデューティーフリーを制し、世界の頂に辿り着いた今、次なる目標へ向けて、日々精進している。