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野中賢二調教師

未勝利当時は芝で2度の3着があるものの、6戦目の初ダートで急激にレース内容が良化したカゼノコ。そこからはとんとん拍子でオープン特別まで制し、3歳ダート王を決めるジャパンダートダービーへと駒を進めてくる。現代のダート馬には珍しい超が付く決め手を持っており、その末脚は個性的だった母タフネススター譲り。当時からの流れを引き継ぐ野中賢二調教師に、JDDの展望とその将来像を聞かせてもらった。

縁の母の素質を引き継ぐ馬

-:カゼノコ(牡3、栗東・野中厩舎)ですが、お母さんのタフネススターが先生の師匠である藤岡範士先生の管理馬で、重賞のカブトヤマ記念を勝ちましたし、愛知杯や新潟大賞典でも牡馬相手に2着と健闘した芝馬でした。その当時、先生も藤岡範厩舎で助手をされていたので、思い入れがあると思います。お母さんの話から聞いてもいいですか?

野中賢二調教師:今のカゼノコの芝版の馬ですね。切れは凄かったですし、カゼノコが転厩してきた時もそういうイメージで、ああいう切れ味を持っているのかなと思って、お母さんを基準に見ていましたね。脚をタメたら素晴らしい切れ味で、京都の1800外回りとかなら、幸四郎(騎手)がついて行けない、って言うくらい凄い切れ味だったんです。今、考えると、もっと勝たせてやれたなかと思います。

-:お母さんのタフネススターも5勝していますが、それ以上のパフォーマンスができる馬だったんですね。カゼノコは父がアグネスデジタルで、芝・ダートを問わない万能型というイメージがありますが、ダート色が強かったのでしょうか?

野:乗ったら馬が柔らかいですし、まだ緩いですが、良い背中をしていて、先々もっと良くなるだろうなという感じでした。得てしてダートを勝ってくれて、毎日杯で芝を試してみましたが、不発でしたね。お母さんをイメージして、幸四郎にもそういう指示をしたのですが、ダメでした。真一郎(秋山騎手)にそのイメージのまま、ダートで競馬をさせたら嵌りました。

-:タフネススターの現役時代の切れ味は知っていますし、毎日杯の時の馬場はちょっと重かったです。だから、カゼノコがダートで未勝利を勝ち上がったことがプラスなのか、お母さんの切れ味をイメージするとマイナスなのか、プラスマイナス0みたいな難しいところでしたが、ダートに戻ったらすぐに勝てましたね。

野:今は適性がダートで、“お母さんのダート版”かなという感じです。



-:この馬が普通のダート馬と違うのは、未勝利を勝つ時は安牌なポジションで勝つものですが、この馬はお母さんの血を引いているのか、後方から良い脚を使って勝ってしまうという。こういうタイプのダート馬はあまりいないですよね。

野:前走(鳳雛S)も35秒台の脚を使っていますし、良馬場でそんな脚を使う馬はなかなかいませんよね。その前も36秒台でけっこう凄いな、と思いましたが、上がりを1秒くらい詰めてきていますからね。前走にしたら、啓介(太宰騎手のアスカノロマン)が完璧に乗って勝てるレースでしたよね。あれは捕まえられないかなと思ったけれども、差し切りました。ダートでこれだけ脚を使える馬はいないですよね。

-:乗っていても、一介のダート馬ではないと感じますか?

野:まだ遊び遊びですからね。VTRなんかを見ていても、急に追われたり、叩かれたりすると、耳を絞って反抗していますし、前々走のゴールを過ぎた後の耳の絞り方なんて凄かったです。本当にまだ子供ですね。この血統は脚元が弱いところがあるので、その辺も上手く制限して使ってもっと固まったら、さらに走るでしょうね。ただ、今までこれだけの脚を使うと、ダートとはいえ、(反動が)怖いところがありますよね。



コンパクトな現在の馬体がベスト

-:体重に関してですが、未勝利を勝った頃は今より20キロ弱重かったです。468キロが1番太かった時ですが、そこから未勝利を勝った時に8キロ絞って、この前の鳳雛Sでは450キロでした。体重が全てではありませんが、今度は輸送もありますし、どのくらいで調整されていますか?

野:体を見ると、オープンを勝った今がベストでしょうね。あれだけ切れましたし。

-:ダート馬だからと言って、筋肉量を増やし過ぎなくていいのですね。

野:ええ。切れが勝負ですから。藤岡範厩舎にいた時はカイ食いがちょっと細い仔でしたが、こっちではやるだけ食べています。本当に食わし込んで鍛えています。調教を強めていますが、全然問題ないです。



-:ヘロヘロになりそうですね。

野:ヘロヘロになりますが、そこをケアして乗り越えさせていかないと、今度はオープン馬が相手ですから。前走も中1週ですが、しっかり乗って、しっかり作っていっています。あそこを勝たないと、ここに出られないと分かっていますし、馬はタイミングなので、良い時にしっかり勝たせてやって、次に行かないと。経験上わかりますが、一回躓いて出世しない馬もいますし、勝負所でしっかり行っておかないとね。

-:リズムが狂わないように、行くところは行かないといけないのですね。

野:当然、しっかりとケアをしながらの話ですが。

-:未勝利を勝つのに8戦を要した馬が、先生のところにきてからは2戦目で勝ちました。

野:それは藤岡先生のところが良いタイミングで、良い状態でウチにくれたということです。それをちゃんと大事に走らせて、恩返ししないといけません。


「お母さんも調教していたりして、そこからまた縁ができて、オープン馬が出て、統一G1に行けるというのは、凄いところですよね。それがこの世界の良いところですよね」


-:タフネススターの馬主さんと同じですよね。僕らオールドファンからしたら、懐かしい勝負服です。

野:僕が助手の時から声をかけて頂いて、そういうチームの馬です。お母さんも調教していたりして、そこからまた縁ができて、オープン馬が出て、統一G1に行けるというのは、凄いところですよね。それがこの世界の良いところですよね。こんなところで繋がっているのだという縁が、今は上手いこと廻っていますよね。

-:個人馬主さんがお母さんからの流れを汲んで、オープンまでたどり着けるというのは競馬の魅力の一つですが、今はそういうのが淘汰されて、競馬のロマン的なところが薄れています。そんな時代にこの馬ができたのですね。この馬のカゼノコという名前の由来も、タフネススターの切れ味がカゼと喩えられているのですかね。今度はJDDということで、今までよりもワンランク上のパワーが要される馬場の舞台に替わります。450キロくらいのスパッと切れる良さが消されないか、という心配があります。

野:それは走ってみないと分からないです。かといって体重を増やしたから走るというものでもないですし、地方の馬場に対しては適性の有無がはっきりします。直線が長いといってもコーナーはキツイですし、うちの馬はその辺がキツイです。ああいう脚質の馬ですから、小回りだからとテンを急がして脚を使えるかと言うと、使えないですし、うちの馬は自分のリズムで競馬をして、届かなければダメだし、馬場適性が合わなかったらしょうがないです。それはどの馬も同じですが、この馬に関してはそのへんだけですね。

-:現時点では、ちょっと他力本願な部分を切れ味で埋め合わせていく感じですね。時期的に梅雨となると、ひと雨降って走りやすい馬場になるのが理想ですね。

野:その方が絶対に競馬はしやすいですよね。



取りこぼしをなくすように矯正を

-:どういう将来像になるか楽しみです。

野:こっちが思っているより、今は上を行ってくれています。脚の使い方とか。これだけのパフォーマンスを見せていますから、馬をもうちょっとしっかりさせて、上手く成長させれば、凄い面白い良い馬になるでしょうね。

-:もう一回芝に帰ってくるというのはありますか?

野:それは片隅にあります。もう一回やってダメなら諦めますけどね。

-:毎日杯で乗られた幸四郎さんは何かおっしゃっていましたか?

野:「道中から真面目に走ってないというか、全然集中力がなかった」とは言っていました。ちょっと難しいところがあります。

-:そういう馬が砂をかぶるダートで集中力は大丈夫なのですか?

野:逆にそこがないから、最後に切れるんですよ。


「前々走よりは、前走の方がちゃんと出ていますし、段階的にちょっとずつ、どうすればできるか、それを調教でやらせています。前走もあの馬にしては、良い流れで最初はサーっと出て行っています」


-:1番人気に毎回応えるというタイプではなく、アップダウンありつつ、嵌ればバキュンとくるのですね。

野:それじゃダメだから、これからはそれをどうして行くかです。ゲートの出はだんだん良くなっているんです。前走もいつもよりはゲートを普通に出て、スッと進んで行っているんです。その距離は長いんです。そこから自然に下がっていっていますし、それはこっちも色々考えてやっていますし、オープンで取りこぼさないようにするには、そこも直していかないといけません。

-:スタートしてポジションを取ったところでずっといられるようにですね。

野:前々走よりは、前走の方がちゃんと出ていますし、段階的にちょっとずつ、どうすればできるか、それを調教でやらせています。前走もあの馬にしては、良い流れで最初はサーっと出て行っています。道中もそれができれば楽になりますよね。



-:そうなると、より最後の脚が利いてきますね。

野:出てから、追っ付けて行って後ろにつけるのと、スッと行ってジッとしているのとでは、全然違います。

-:ガソリンのロスが違いますよね。

野:たった何秒ですが、全然違います。その辺はちょっとずつ。リスクが少ないところで、どういう競馬ができるかというところをやっていかないと、追い込み競馬一辺倒ではやっぱりキツいですし、負担も掛かります。

-:ここから骨格的にも体質的にもしっかりしてきますよね。

野:まだ3歳ですから。

-:将来を楽しみにしています。また秋に取材させてください。

野:了解です。

-:ありがとうございました。


【野中 賢二】 Kenji Nonaka

1965年福岡県出身。
2007年に調教師免許を取得。
2008年に厩舎開業。
初出走
08年3月1日 1回阪神1日目9R トウカイフラッグ
初勝利
08年3月15日 1回阪神5日8R トウカイインパクト


■最近の主な重賞勝利
・13年 関東オークス(アムールポエジー号)
・12年 ステイヤーズS(トウカイトリック号)
・12年 愛知杯(エーシンメンフィス号)


厩務員だった父の影響で10歳から乗馬を始める。昭和57年10月から藤岡範士厩舎に入り、厩務員から助手へと転身し、その後は厩舎を開業するまで所属。
藤岡範師を「父であり人生の師匠」と尊敬しており、番頭を任される中でタフネススター(カブトヤマ記念を勝利)などを育て上げた。当時の雰囲気を自厩舎で継承しつつ、目標でありライバルとしては「昔から一緒に馬乗りをやっていて、お互いやろうとしていることが分かる。スタッフを揃えて技術を上げていって、ああいう風にやっていきたいというのはある」と、藤原英昭師の名を挙げる。馬に対して「生きてきたそれそのもの。本当に感謝しかない」と語る。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

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