戦国ダート界の主役へ ベストウォーリア再び盛岡に登場
2014/10/31(金)
盛岡への長距離輸送を克服できる回復力
-:ベストウォーリア(牡4、栗東・石坂厩舎)についてですが、昨日の追い切りを見せていただきました。荻野助手が乗って、併走馬を相手に鋭く抜けてきましたね。
古泉博英調教助手:そうですね。ただ、併走馬は動く馬じゃないので。
-:それでも、反応は良かったじゃないですか。
古:(南部杯を)一回使ったのでね。使った後は体が締まりました。
-:より走れる状態になったということですね。
古:同じ体重でも、休養明けと一回使った後では、ムダ肉の有無が違うんですよね。ベストウォーリアは休み明けで緩くみせてくるんですよ。
-:今回は再度、盛岡へ遠征ですが、ファンにとっては、栗東から盛岡への遠征と聞けば、余りイメージが湧かないものです。実際、馬運車でどれくらい時間が掛かるのですか?
古:この前は行きが凄くスムーズに行ったんです。ウチには盛岡の経験者もいるので、当初は12~13時間は掛かる、と聞いていたところ、実際は11時間半で着いたんですね。それでも11時間半(笑)。帰りはきっちり12時間掛かりましたね。
-:中央競馬を使うよりは長距離の輸送の場合、馬体の心配や、着いてからの馬のコンディションなどが気になるところなのですが、着いてからはどうでしたか?
古:着いてからは、特に気にならなかったですね。東京でも着いたら前掛けしてすぐ寝るんですよ。体をチップに擦り付けて、リラックスするんですね。いつも厩に入れたら、まず、それをさせるんです。ジッと立っているのは、やっぱりちょっとストレスにはなっていると思うんです。
-:そうやって寝転がって、輸送の疲れを癒やしているのですか?
古:馬自身はずっと移動中固まっているわけですからね。グーっと体を伸ばしたいんですよ。僕らだって満員電車で動けなかったら、しんどいじゃないですか。
「スイッチの切り替えは、やっぱり上手な馬だなと思います。人間のアスリートでも、中々スイッチをうまく切り替えられない人って居ますからね。流石オープン馬だな、という感じです」
-:向こうについてからのレース前までの飼い食いですが、少しは餌を食べてくれるのですか?
古:飼葉は綺麗に食べますよ。ほぼ残すこともないですね。
-:じゃあ、輸送に関しては心配しなくていいタイプですね。
古:ただ体重に関しては、凄く減るんです。今年、3度、府中にいって、3回とも栗東で量った体重から12キロ減っていたんですよ。その予備知識が頭にあったので、盛岡ではどうかな、と思ったんです。栗東に居る時は520キロだったので、府中に行くには幾らか太いと思っていまして、府中くらいしか減らないのだったら、ちょっと重め残りになるとは考えていたのです。実際はもっと減って506キロで競馬が出来たので、これは相当減るな、と思いましたね。結果的にスッキリした体で競馬が出来たわけですから、良かったですし、飼葉は食べていたので、体にエネルギーは入っていましたしね。
-:ということは、今回はそれを考えて、また+20キロ近い作りで行くわけですか?
古:そうですね。ただ有り難いのは、あんなにキツい輸送を経験しながらも、3日くらいでまた戻るんですよ。月曜日に競馬をして、台風の影響で火曜日に戻ってきて、金曜日に計量したのですが、その時もう524キロになっていましたからね。あの馬が有り難いのはそういうところですね。
-:回復力の早さと、飼い食いが減らないところですね。
古:ただ、帰ってきてもずっとイライラしていましたけれどね。やはりストレスからですね。輸送が辛いんだと思います。
-:やはり、馬房でゆったり出来るのがあの馬の強みですよね。
古:ですね。ああいうスイッチの切り替えは、やっぱり上手な馬だなと思います。人間のアスリートでも、中々スイッチをうまく切り替えられない人って居ますからね。そうやって切り替えられる馬は、流石オープン馬だな、という感じです。
厩舎サイドは距離に不安も
-:じゃあ、あとの課題は距離だけ。
古:距離ですね。ここは実績がないのでね。
-:ちなみにジャパンダートダービーの時に2000mを走っていますね。あの時の敗因で、距離以外に何か挙げるとすれば何かありますか?
古:夏場と中間の調教がキツかったかなと。坂路を50秒くらいで最終追い切りをした上に、その中間でも14~15くらいで3本くらい入っていたので。あの時もユニコーンSからの中2週の日程だったんです。今、振り返ってみると、3歳ということもありますし、夏場が苦手な馬ですから、ちょっと状態面がキツかったと思います。ただ、インターネット上で戸崎ジョッキーのコメントが見られるのですが、それを見ていたら、JDDの敗因は距離じゃない、と彼は言っていましたね。
-:それは競馬ラボのサイトじゃないですか(笑)。
古:ハハハ(笑)。ですから、敗因は馬の状態じゃないかということですね。
「ジョッキーは馬がきちんと出来ていれば、距離は関係ないと思っているんじゃないでしょうか。僕と先生は、幾らか2000mは長いのではないか、と勘ぐって見ていますが」
-:では、コンディションさえ整えば。
古:距離を心配しないというのは、多分そういうことでしょうね。彼は馬がきちんと出来ていれば、距離は関係ないと思っているんじゃないでしょうか。僕と先生(石坂正調教師)は、幾らか2000mは長いのではないか、と勘ぐって見ていますが。
-:ぜひ、その思いを裏切ってほしいですね。
古:いい意味で(裏切る)、ですね。そうなってくれたら有り難いのですけどね。選択肢も増えるし。
-:一方でココをこなしてしまうと、人気馬になってしまうので。競馬の馬券ファンからしたら、妙味があるとしたらココじゃないですか(笑)。そして、フェブラリーで大敗したのが気になっているファンもいると思うんです。やはり揉まれ込むとよくないのでしょうか。
古:我慢はきくのですが、あの時は内枠に厳しい競馬でしたからね。中1週で、馬がいつもよりピリピリしすぎていたところもあったと思いますね。
-:すると、この馬の場合は間隔をとってやって、という方向がいいのではないでしょうか?
古:休み明けでも成績良く走っているというのは、そういうところだと思いますね。
-:今回は叩き2戦目ですけれども、しっかりと調整はされたのでしょうか?
古:調整自体はうまいこといったかな、と思うんです。
-:楽しみですね。
古:どうなるんでしょうかね(笑)。
調整は思惑通り 戸崎ジョッキーへ連日の活躍を
-:恐らく2000mではなく、1800mだったら人気になると思うんですよね。
古:盛岡の2000mってキツいですからね。
-:だから馬の絶対能力が出てくると。
古:そうですね、ごまかしがきかない競馬場です。割とゆったりとしたコーナーで直線も長い。幾らか東京らしいですね。
-:その王道の競馬場で走るわけですね。
古:相手の馬も強いですしね。その辺とどれだけやれるのか。
-:ただ、いずれは世代交代していくわけですから。ワンダーアキュートなどをはじめとした日本のトップホース達の中に、割って入るべき馬ですから。
古:そうなって欲しいのですが、天下を獲れるのかどうか、ハハハ(笑)。ダートも戦国時代ですよね。
-:楽しみにしてますので、ベストウォーリアと戸崎さんのファンに向けて、最後にメッセージをお願いします。
古:南部杯後も順調に調整は出来ました。追い切りはテンが少し遅くなりましたが、中2週で盛岡へ行くことを想定していたので、ちょうど良かったと思います。馬体重も昨日の追い切り時が530キロだったのですが、また10キロ減るということを考えれば、ちょうどいいかなと。あとは無事に行くだけです。
-:あとは片道11時間半~13時間の行程ですね。
古:早いにこしたこと無いですね(笑)。
-:3連休で天皇賞のあと、ということですが。
古:日曜日と月曜日に我々が良い競馬を出来ればいいんですけどね。
-:ジェンティルドンナですね。
古:ジョッキーも一緒なんで(笑)。
-:盛岡のパドックで声を掛ける時に、「おめでとう」と戸崎さんに言えたらいいですね。古泉さんも頑張ってください。
古:そうですね。僕はもう馬とジョッキーを応援するだけなんで(笑)。
-:じゃあ、取り敢えず気を付けて行って下さい。
古:はい、ありがとうございます。
(取材・写真=高橋章夫 写真=競馬ラボ特派員)
プロフィール
【古泉 博英】Hakuei Koizumi
昭和42年5月生まれの47歳。大学生時代、アルバイトの同僚が大の競馬好きでその影響を受ける。その後、スーパークリークやオグリキャップの活躍に感化し、競馬ブック裏の牧場スタッフ募集広告に目をつけ、美浦トレセン近くの武田牧場で競馬人生がスタート。入学ギリギリとなる26歳で競馬学校の厩務員過程に入り、卒業後は解散するまでの7年間、大根田裕也厩舎に勤務。現在は石坂正厩舎に所属し、先日の南部杯ではベストウォーリアでG1初制覇。思い出の担当馬としてサイレンスボーイや、ウインシンシアを挙げてくれた。
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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