G1馬の仔ブライトエンブレムが3連勝で頂点へ
2014/12/14(日)
半信半疑の中で快勝した新馬戦
-:すでに札幌2歳Sを勝っているブライトエンブレム(牡2、美浦・小島茂厩舎)ですが、活躍したブラックエンブレムの仔で、いきなり大きいところを狙える馬が出てきましたね。最初にご覧になった時の印象はいかがでしたか?
本田達調教助手:顔などは似ていると思いました。乗った印象でいえば2歳なりで、後ろのトモは緩いなと。ただ、しっかりはしている馬ですね。
-:しっかりはしていても、トモは緩いのですか?
本:これでどれくらい走れるのかな、という感じですね。
-:それは新馬戦の前からそういった感じだったのですか?
本:そうですね。段々としっかりしてきましたが、今でもまだ緩いですね。
-:僕らのイメージですが、関東馬は関西馬に比べると全体的に調教が緩い印象があります。小島茂厩舎はいかがでしょうか?
本:どちらかと言えばハードな方ではないでしょうか。けっこう乗り込みますし。
-:それは時計を出している時だけではなく、ということですか?
本:ええ。運動量は多いと思いますね。
-:それではトモの緩い、まだ若い馬に対して新馬戦を使う前に、どのくらいの負荷を掛けてきたのですか?
本:そこまでは追い込まずに、手探りですね。
-:それではビッチリ仕上げて挑んだ新馬戦ではなかったということですか?
本:全然仕上がってなかったです。追い切りもそんなに動いた訳ではないですし、走ってくれるだろうとは思っていましたが、どこまでやるのかは半信半疑でしたね。
-:ゲートの出はそんなに良くなかったです。
本:お母さんもそんなに良くなかったみたいで、中で暴れたりする気の強い面があって、反応が遅れてしまいますね。周りがバタバタすると自分も一緒になってやってしまうところもありますね。
-:それでも後方から差し切りました。レースを見てどうでしたか?
本:本物なのかなと。実戦に行って、これだけ強い勝ち方をしたのでね。
-:トモが緩いイメージですと、終いに良い脚を使えないイメージがありますが、実戦では使いましたね。
本:でも、スタートは良くないですし、その緩さからもスタートの悪さはきているのかなと思いますね。
栗東滞在中も無難に順応
-:2戦目の札幌2歳Sの時もトモの強化という点では、それほど成長した感じはなかったのですか?
本:やっぱり緩かったですね。
-:札幌に入厩して環境が変わった訳ですが、そのような変化には対応できましたか?
本:あんまり気にするタイプではないみたいですね。栗東に来ても馴染んでいますし、どこでも順応できる、そういうタイプです。
-:ややまったりしたところのある馬ですね。
本:普段からそんな感じですね。
-:2戦目でここが良くなったという点があれば教えていただけますか?
本:ちょっと馬に芯が入ってきたかなと。緩いなりにですが。ゲートなどの変化はありませんでしたが。
-:それでも重賞を勝てるというのは凄いですよね。しかも小回りでしたからね。今度は舞台が阪神に変わって、坂があるとはいえ、馬場も速くなることが予想されます。馬場の変化には対応できそうですか?
本:ええ、対応できるのではないでしょうか。
-:むしろ札幌よりも硬い馬場のほうが良さそうな気もします。
本:どんな馬場でも対応してくれるのではないかと思うんです。重かろうが、軽かろうが。
-:栗東に来たのは11月21日ですが、約3週間が経ちました。その間の調整について教えていただけますでしょうか?
本:栗東に来ると、逍遥馬道だとか坂路など設備が変わるじゃないですか。やり過ぎないようにしていますね。疲れを残さないよう、そこは注意していますね。
-:以前、関東の先生に栗東に来る時のお話を伺ったですが『栗東の坂路で走ると馬が疲れる』とおっしゃっていました。栗東に入って、施設の違いで馬が戸惑うようなところはなかったのですか?
本:特にはないですね。ウッドチップの入れ替えがあって、今では美浦の坂路の方がしんどいと思います。その面では大丈夫だと思います。
-:栗東の逍遥馬道はブライトエンブレムにとってはリラックスできる場所なのですね。
本:今はリラックスして、しっかりと歩けていますね。
血統らしからぬおっとりした気性
-:今回のレースで3戦目になりますが、前走からもうワンランク良くなっていますか?
本:良くなっていますね。
-:1週前追い切りでしたが、時計自体はもう少しやるのかなと思ったのですが、いかがでしょうか?
本:「そんなに速い時計を出さなくて良い」という指示でした。まだ週末、来週とあるので、全体的に大きく乗ってあげて、息を入れるように作る調整だったと思います。
-:動き自体は良かったと。
本:凄く良かったですね。チーターみたいな感じで、良いフットワークだなと。ゴール板を過ぎてから馬の反応を確かめてみても、すぐに反応していたので、これならば、と思いました。
「(危うさは)競馬中ではないでしょうか。それが良い方に出れば爆発力に繋がると思います。普段からスイッチの切り替えは凄いですね」
-:血統の話になりますが、お父さんがネオユニヴァースで母系にウォーエンブレムがいて、冒険した配合のような気もします。それでいながら、ブライトエンブレムはまったりしているところもありますが、危険なところはありますか?
本:競馬中ではないでしょうか。それが良い方に出れば爆発力に繋がると思います。普段からスイッチの切り替えは凄いですね。
-:その辺りはパドックや返し馬に行く辺りで気合いが乗るのですか?
本:そんなには暴れないですが、それなりにパドックでも気合いは入っていると思います。返し馬で飛んでいくようなことはないですね。
-:ウォーエンブレムの仔は結構、痩せ型が多く、飼い葉を食べていても肉が付かないのか、飼い葉自体が細いのか、傾向があると思うのですが、ブライトエンブレムはいかがでしょうか?
本:全く心配ないですね。飼い葉も乾草もよく食べていますよ。
-:調教が終わった後に、砂場で砂浴びをしますが、あれはブライトエンブレムが好きなのですか?
本:ハハハ。あれは日課ですね(笑)。
-:人間で例えると、どのような意図があることでしょうか?
本:シャワーを浴びるようなものではないでしょうか。痒いところとかを全部砂で洗い流す感じですかね。ストレス発散になっているのではないでしょうか。美浦でも1ブロック先くらいになりますが、それぐらいの距離には砂場があります。
来年のためにも進化した競馬を
-:それでは3連勝が懸かったレースになりますが、意気込みをお願いします。
本:勝ちたいのはもちろんですが、とにかく無事に、かつ良い結果ができればと思います。来年に繋がるような競馬になれば良いですね。
-:お母さんとは脚質が違うと思っていた方がいいのでしょうか?
本:ゲートを出るようになれば少し変わると思います。好位から競馬ができたら、レースをしやすくなると思います。今は捲り一辺倒なのでね。
-:ちなみにそのゲートの練習はこの中間にしてきましたか?
本:駐立とかはこまめにしています。美浦でもこちらでも。
-:クリアしていますか?
本:そわそわしますが、暴れたりとかはないですね。ただ、本番に行ってどうなるか、ですね。周りが暴れたら、不安になってやってしまうかもしれません。
-:そうなると、奇数番で長く待たされるのはあまり良くないと。あとは無敗の馬に重箱の隅をつつくようで失礼ですが、あまり速い上がりを使っていません。これは良馬場になれば終いの脚も時計が出そうですか?
本:新馬でも札幌でも上がりは一番なのでね。レースに応じて対応できると思うのですが。
-:最後に応援しているファンにメッセージをお願いします。
本:この先もどこかで大きなところを狙える馬だと思います。
-:正直、もう少し距離があっても良さそうな気がします。
本:そうですね。2000からその先でも対応できると思いますし。競馬で掛かったりするタイプではないですからね。
-:それだけにゲートを克服して、これまでの2戦とは違った中団ぐらいからのレースを見てみたいですね。
本:そうすればもっとハラハラしなくて済むんですけどね。
-:レースまで慣れない場所でのお仕事ですが、頑張ってください。ありがとうございました。
本:ありがとうございました。
(取材・写真=高橋章夫 写真=武田明彦、競馬ラボ特派員)
プロフィール
【本田 達】 Itaru Honda
父は高松邦男厩舎に勤め、83年の天皇賞(秋)を制したキョウエイプロミスの担当をしていた経歴を持つ。その父の影響もあり、本格的に競馬界への道を考え始めたのは高校の頃。卒業後には北海道のファンタストクラブなどを経て、競馬学校へと入学。
修了後は森安弘昭厩舎に所属するも、すぐに縁深い高松厩舎へと転厩し、調教助手となる。その後は「持ち乗りもやりたい」との思いから小島茂之厩舎へと移り現在に至る。これまで担当してきた馬には08年秋華賞3着のプロヴィナージュなど。モットーは「馬が故障なく無事でいること」。
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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