ジェンティルドンナ女傑伝説・最終章は生涯初の中山で
2014/12/21(日)
-:いよいよラストランとなるジェンティルドンナ(牝5、栗東・石坂厩舎)です。3連覇が懸かったJCでは、不向きな馬場もあって4着でした。ジェンティルなりには目一杯走れていましたか?
井上泰平調教助手:頑張ってくれたと思います。
-:勝ち馬もこれまでにない脚を使って、あれは勝った馬を褒めるしかないですよね。
井:そういうことですよね。
-:終わった後のジェンティルの具合はいかがでしたか?
井:そんなに疲れもなさそうで、体重も次の木曜日には484キロまで戻っていました。ダメージはありませんでした。
-:良い馬場状態で走らせたかったという悔いは残りますか?
井:当日は雨が降っていなのですが、アスファルトもずっと濡れているような感じで、芝もなかなか乾かないだろうなと思っていました。ジョッキーも「下が緩かったから、持ち味が出せなかった」と言っていました。
-:今回はまた戸崎ジョッキーに戻ります。天皇賞(秋)でも惜しい2着でしたし、良いイメージを持って乗ってくれると思います。
井:相性も良さそうです。
-:今週も戸崎ジョッキーが駆けつけてくれて、1週前追い切りが終わりましたが、その感触はいかがでしたか?
井:ジョッキーは「天皇賞の前に乗った時よりも、状態が良さそうだ」と言っていました。
-:井上さんがリードホースで、ペースメーカー役をしたのですか?
井:そうです。今週は馬場が難しかったです。中が濡れていて、表面が凍っている乗りづらいものでした。僕の乗っていた馬の手応えは悪くなかったのですが、追ってもあまり伸びませんでした。横で見ていましたが、ジェンティルは終始、僕に併せてくる感じでした。最後の1Fはサーッと行くのかなと思ったら、50mないくらいをちょっと行かせただけで、ずっと引っ張ったまま乗っていましたね。時計は最後掛かっていますが、僕の馬に併せている感じがありました。
12/17(水)、坂路で戸崎圭太騎手が騎乗
馬なりで4F53.8-39.4-26.2-13.5秒をマーク
サンライズネオを0.7秒追走し0.2秒先着した
-:今週は寒波の影響で、いつもの坂路と状態が違いました。時計どうこうよりも、負荷が掛かり過ぎないようにしないといけないですよね。
井:そうですね。今週は坂路で転倒してしまった馬が2頭いたみたいです。最近、馬場のトラブルが多いです。
-:入れ替えた直後ですものね。
井:それに、雨が降ったり、寒波で凍ったりで、コンディションが良くないです。どの厩舎も、気持ち良く乗っている感じではないと思います。(一日の)後半なんて酷いですからね。躓いたり、脚を取られたりしています。
-:追い切りの映像でも確認できます。そんな中で、1週前としてビッシリやり切れましたか?
井:負荷は掛かっていると思います。最後の1Fも13秒台になっていますが、スーッと行かせていれば時計は出たと思います。ジョッキーがあえてそうしなかった感じがします。
-:ちょっとセーブ気味にしたのですね。
井:3回目なので、そんなにビシビシ鍛えなくてもいいのかなという気がします。順調にきているので、出来ないからやらなかった訳ではないです。
-:体がなくなって、時計を調節しなければいけない状態ではないのですね。
井:そういう状態ではないです。今日も量ったら88(488キロ)ありました。
-:ちゃんとやらなアカンくらいですね(笑)。
井:輸送でまた減ると思いますし、今くらいでキープですね。
-:中山は初めてのコースになりますが、いかがでしょうか?
井:右回りがダメと言われていますが、自在性がありますし、右回りのG1も勝っています。古馬になってからの右回りのG1は、馬場が渋っていることが多かったので、右回りよりも馬場だったのかなと思います。
-:クラシックの三冠も、2つは右回りですからね。
井:戸崎さんも、乗っていて右がダメという感じはないと仰ってました。
-:改めて総括すると、良馬場で時計が速いような条件が合うのですね。
井:合うんじゃないかと思います。
-:右回り、左回りは関係ないのですね。
井:そういう気がするのですが、実際に結果が出ていないので、ファンの皆さんに右回りはダメだと言われたら、ダメなんじゃないかという気もしています。
-:それは個々の判断に任すということですね。これだけの実績を上げている馬が、コース形態がどこじゃないと走れないとか、そういうのはないと思います。実績の割に、ファンの評価はイマイチですね。
井:いえいえ、ファン投票2位にして頂けました。本当に有り難うございます。
-:ジワジワ上がっているのですね(笑)。1位のゴールドシップも出ていますし、レーティング世界No.1のジャスタウェイも出ています。
井:(レーティング)2位のエピファネイアもいますよね。うちは牝馬なので、比較が難しいです。数字じゃなんとも言えないですから(笑)。
「ただ走らせるだけの、いい加減な調教はしてないです。そういう仕上げにしてしまったら、逆に壊れてしまうこともあると思いますので」
-:それよりもやはり結果ですね。
井:結果も凄く重要で、しっかり順調に調教を積んで、いつもと変わらないように仕上げのトレーニングをしています。最後ですし、結果が良ければ最高ですが、無事というのが第一条件です。ちゃんとゴールして帰ってくることです。
-:ファンの中では、ジェンティルがJCで引退するプランもあったので、有馬記念出走に懐疑的な人もいると思います。条件さえ揃えば、安心してジェンティルの競馬をして、力を出せますか?
井:いい加減にただ引退レースをさせようという調教はしていないです。いつもと同じですし、人間が引退レースと言っているだけで、馬は分かりません。いつもと同じように、元気に走ってくれると思います。
-:その言葉を信じて、最後までジェンティルドンナを応援したいと思います。できたら勝って欲しいですね。
井:勝って引退式を迎えて欲しいです。
-:無事に繁殖牝馬として送り出すことですね。
井:それが大前提ですが、ただ走らせるだけの、いい加減な調教はしてないです。そういう仕上げにしてしまったら、逆に壊れてしまうこともあると思いますので。
-:体を守るためにも、しっかりトレーニングをするのですね。
井:そういう部分は、今まで通りと変わりなくやっています。
-:石坂先生のジェンティル愛というのは、凄いものがありますよ(笑)。我が娘を守りきって、引退させてくれるでしょうね。
井:最後だから引退レースは回ってきて、という気は、陣営には全くないです。
-:どんな子供を生んでくれるかという楽しみは、この後のことですよね。
井:大きくなって、これがジェンティルの仔かと、見られる可能性はありますけどね。その楽しみの前に、結果を出したいですし、無事に帰ってきて欲しいです。それに、あの馬は引退レースって知らないですから、必死で走ってくると思います。
-:伝わってないですか?動物ほど敏感に伝わるものはないです。
井:引退するとは思ってないんじゃないですか。
-:また府中に輸送されるのかと思って行った先が中山です。
井:来たことない所だな、というのはあると思います。
-:中山の出張馬房は、環境的には落ち着いて一夜を過ごせそうな所なのですか?
井:そういう面に関しては、輸送で色々な場所に行っていますから、そこまで馬房に注文が付く馬ではないと思います。ドバイみたいに、日本の馬房2つ分くらいあるようならリラックスもするでしょうが、大して変わらないと思います。
-:僕らが最も注目すべきは、馬場状態ですか?
井:そうですね。最後くらいは良い馬場でやらせてあげたいです。
-:中山競馬場は芝も張り替えて、新装されました。井上さんの目から見て、この馬場ならジェンティルに合いそうですか?
井:良馬場であれば問題ないと思います。
-:我々の他の注目ポイントは、枠順発表のクジ引きです。馬名が引かれて、担当調教師さんにカメラが切り替わって指名します。
井:1分以内って酷ですよね。2分くらい欲しいと思うんです。
-:やっぱり、見ている側の基準なのでしょうね。その時期の中山2500mは、普通の注文が付かない馬であれば、内が良くないですか?
井:スタート地点から考えると、内が有利かなと思います。
-:2、4、6、8、1、3、5、7という順番で選んでいくのですか?
井:たぶん、そうなるのでしょうね。
-:ジェンティルはどの辺が良さそうですか?
井:内目が良いのでしょうが、ゲートセンスが凄いので、ちょっと外くらいでもポジションは取れると思います。出たなりで良いところに行けると思いますが、距離ロスが嫌なだけで、後手を踏んでしまったということは、今まで見たことがないです。大体、ちょっとフライング気味にパーッンと出ちゃいます。クジ運が悪くてちょっと外目になったとしても、ジョッキーが上手く乗ってくれると思います。
-:ジェンティル史上初のコーナー6個です。
井:器用な馬で、手前も上手に替えますから、大丈夫だと思います。
-:心配するとしたら、馬場コンディションと枠くらいですか?
井:馬場コンディションが一番だと思います。枠はクジなので、お祭りみたいなところもありますから、そればかりは分かりません。もしかしたら、物凄く良いところを引けるかもしれないですね。
-:天皇賞(秋)みたいにですね。
井:1番は問題ないのですが、1回だけ潜ろうとしたことがあったので、長くなる1番は嫌だなという気がします。
-:2、3、4番くらいなら理想的ですか?
井:4くらいが良いですかね。
ジェンティルドンナ・井上泰平調教助手インタビュー(後半)
「勝つつもりで使う引退レース」はコチラ⇒
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プロフィール
【井上 泰平】Taihei Inoue
大阪府豊中市出身。9歳から乗馬を始め、高校生時代に国体を優勝。必然の流れにより大学では馬術部に入る。卒業後は美浦分場に2年間勤務。アイルランドの研修などを挟んだ後に競馬学校へと進学し、中村均厩舎からトレセン生活をスタート。その後は開業直後の角居勝彦厩舎で調教主任を務め、大久保龍志厩舎では持ち乗りから攻め専に転身。後の名門厩舎の基盤を築く。
32年に渡る馬乗り人生の中で、現在モットーにしていることは「馬との信頼関係を築くこと。分かりあえたかなと思っても、また違うのかなとそれの繰り返し」と。石坂正厩舎の屋台骨を支えるベテラン調教助手。
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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