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内田博幸騎手



プロフィール
【内田博幸】
1970年福岡県生まれ。
1989年NAR免許を取得。東京・大井競馬場を中心に騎乗する。
2008年JRA免許を取得。
JRA通算成績は148勝(4/10現在)
初騎乗‐1993年 7月 25日 2回新潟4日 2R ワカバトウショウ( 5着/ 16頭)
初勝利‐2002年 4月 21日 3回東京2日 1R イルラーゴ
■主な重賞勝利
・07年NHKマイルC(ピンクカメオ号)
・06年根岸S(リミットレスビッド号)
・06年オーシャンS(ネイティヴハート号)

大井競馬所属時代に、数々のビッグレースを制し、年間最多勝記録を塗り替えるなどの大活躍を続け、ついに08年、JRAへ移籍を果たした。 既にG1レースには欠かせない存在で、07年NHKマイルCに続くビッグタイトル制覇に期待がかかる。




記者‐内田騎手、よろしくお願いします。早速ですが、内田騎手の中央競馬におけるダービーの思い出についてお聞きしたいと思います。内田さんは、04年にマイネルデュプレで初めて出場されていますね。その時はいかがでしたか?

内田‐「そうですね、他のG1にも乗った事はあるけど、ダービーは全然違いました。もう、一大イベントという感じで、別格です。あれだけの大観衆の中で騎乗する事は地方では無かったので。地方の騎手でありながら、中央のダービーに乗れたっていうのは、本当に夢みたいな事です。競馬に携わる人みんなが目指す、競走馬が頂点を目指す最高峰のレースですからね。何千頭も産まれたサラブレッドの中の18頭しか出られない、凄く狭い門ですよ。乗れるだけでも光栄です」

記者‐ダービーの雰囲気を楽しめましたか?

内田‐「そうですね。本当にもうワクワクしたというか、『騎手をやってて良かった』と思ったし、・・・『凄いな』という一言ですね。いや、凄すぎて、言葉じゃ表現出来ないですね」

記者‐ダービー騎乗が決まって、夜眠れない、という事は?

内田‐「それは無いですね。自分の中でオン・オフは切り替えているつもりですから、ダービーに限らず、レース前日に眠れないという事は無いです。レースのときはオンにして、レースが終われば、いくら翌日に大本命に乗る予定があっても、オフにして」

記者‐レース中は普段と人格が変わったりされますか?

内田‐「自分では自覚はないですけどね。昔は、僕のことを『普段はおっとりして大人しい感じなのに、レースになるとガンガン来る』という風に思っていた人もいたみたいです。やっぱり、レースでは『何とかしよう』という気持ちがありますからね」



記者‐なるほど。では話題を変えまして、中央競馬のレースで「内田さんが一番印象に残っている」というレースがありましたら教えてください。

内田‐「そうですね、印象に残る馬はたくさんいますけど・・・初めて重賞を勝たせてもらったラントゥザフリーズですね。中央に乗りに来るようになっても、まさか中央の重賞を勝てるとは思っていなかったし、そこで勝てたのは凄く自信になりましたね」

記者‐2003年の共同通信杯ですよね。自信はありましたか?

内田‐「人気もそこそこあったんで、自分が上手く馬群を捌いてレースを運べればチャンスはある、と思いました。二度と来ないチャンスだと思って乗っていましたから、ホント、勝てて嬉しかったです」

記者‐この勝利で、その後の騎乗にも影響がありましたか?

内田‐「そうですね、また冷静なレース運びが出来るようになったと思うし、少しずつ周りの信用もついたんじゃないか、と思います。あと、新聞や雑誌でも大きく取り上げてもらって、関係者にも良いアピールが出来て、ホント、僕の名刺代わりみたいなレースになりました」

記者‐では、昨年NHKマイルCをピンクカメオで勝った後も、更に影響が?

内田‐「そうですね、反響が大きかったです。また自分としては、地方所属の時にJRAのG1を勝たせてもらえた事に意義がある、と感じましたね」

記者‐「ピンクカメオ、届くかな?」と、レースを見ていたんですけど、手応えはどうでしたか?

内田‐「手応えは良かったですよ。『オッ、これは入着は確実だ』と思って乗っていたんですけど、坂を上がりきった時も、伸びがもの凄いんですよ。それで『ここで勝たなきゃいつ勝つんだ』って、必死に追いました。馬場が悪かったり、牡馬相手だったり、いろいろ未知な部分はありましたけど、腹をくくって乗ったのが良い結果に繋がったんじゃないかと思います。こういう騎乗を1番人気の時にも出来るかどうか、という点が課題になりますね。マイルCは人気が無かったから大胆なレースが出来たけど、同じような乗り方を人気を背負った時にも出来なきゃいけないな、と」

記者‐人気が余計な意識に繋がる事もあるんですか?

内田‐「それは十分ある事じゃないですかね。競馬だけじゃなく、どんなスポーツにも言える事だと思いますよ。『絶対勝てる』と周りに言われるなかで勝つっていうのは、簡単な事では無いと思います」

記者‐地方所属時代から中央のレースに数多く騎乗されていますけど、初めて中央のレースで乗った頃に、何か驚いた事などありますか?

内田‐「一番身に染みて感じたのは、馬場の大きさとかファンの人数の多さといった、スケールの大きさですね。本当に府中なんて、ゴールの場所が分かりませんでしたから、広すぎちゃって(笑)。別に舞い上がっていたわけでもなく、冷静に『あと残り4ハロン、2ハロン』って見ながら進んでいたんですけど、ゴール板が見えない(笑)。ゴールを目指して、馬を追いますから、その目標が分からないと力をムダに使いすぎちゃって、人間が途中でバテちゃうっていう事もありますからね。まあ、経験を積んでいくうちに分かって来ましたけど、まだまだコース取りとか、仕掛けどころとか分かっていない部分もあるかもしれないので、早く覚えて行きたいな、と思っています」

記者‐中央に移籍されて、レース以外の部分で想像と違った事、意外だった事ってありますか?

内田‐「やっぱりトレセンの設備の広さですね。設備がいっぱいありすぎて、自分でどう乗っていいのか迷う事もあります。どこから入ってどこに進んで行けばいいのか、まだちょっとアバウトにしか分からなかったりしますね。雰囲気にはもう慣れましたけど」

記者‐地方時代、中央移籍後に関わらず、内田さんが仕事をする上で気をつけている事は何ですか?

内田‐「体ですね。体調の維持管理、それが一番ですよね。良い体調でレースに挑むために、食生活にも気をつけます。『体調がイマイチかな』っていう時は生ものを避けたり。体調を崩してレースに乗れなくなったら、みんなに迷惑がかかりますからね」

記者‐内田さんは、地方競馬にも精力的に騎乗されて、移動だけでも大変だと思いますが、どのような手段で移動されるんですか?

内田‐「地方所属の頃は、競馬場ごとにタクシーがあったんで、それに乗って、中央に乗りに行く時は、自己負担でタクシーを呼んで乗っていましたね。今も車が多いです」

記者‐お車での移動も疲れますよね。体の疲れを取るためにされている事はありますか?

内田‐「マッサージしかないですね。マッサージに来てもらって1日の疲れを取るんです。毎日レースに乗っている頃は、2日連続で来てもらったりした事もありますよ。疲れが溜まると、筋肉が硬くなっちゃうんですよね。そこに疲労が溜まって負担がかかると、どうしても動きが悪くなっちゃうんで」

記者‐そうですか。では次の質問ですが、今、内田騎手が一番欲しいものは何ですか?

内田‐「欲しいもの、ですか。僕、あんまり物欲が無いんでね(笑)。やっぱり・・・ビッグタイトルですね。いや、重賞だけじゃなく、とにかく勝ちたいので『勝利』が欲しいものって事になりますね。あとは、レースで勝てなくても、ファンや関係者の人から『内田、頑張っているな。良い騎乗だったな』と思ってもらえると嬉しいですね」

記者‐信頼、ですか

内田‐「そうですね、ファン、関係者から信頼されたいですね。また、初めて競馬を見に来る人を魅了出来るような騎手になりたいです」

記者‐内田さんの騎乗見たさにファンが競馬場に来てくれたら・・・

内田‐「もう、最高ですね!やっぱり、僕もプロスポーツ選手なんで、ファンに認めてもらえるっていう事は凄く嬉しいんです。大井時代からファンの方には良くしていただいて『ファンって温かいな、良いな』と思いましたので、今度は中央にも新しい競馬ファンを呼び込めるように頑張りたいです。そうする事が、僕を育ててくれた大井競馬に対するお礼にもなるだろうしね。

記者‐そんな競馬ファンと、競馬のビギナーファンへメッセージをお願いします

内田‐「『馬』という、どこの国でも芸術作品に使われるくらい綺麗で魅力的な動物が、過酷なレースを戦う、互いに競い合う姿を、ぜひ競馬場で見てもらいたいと思います。馬が走る時の筋肉の躍動感なんかは、本当に素晴らしいですから。そして、勝ち残った馬が子孫を残して、その子供たちが頑張って新しい歴史を作る、という繋がりも楽しんでもらえるといいな、と思います。競馬を『単なるギャンブルだ』というイメージで、敬遠されている方がいたら凄くもったいないと思うんですよ。競馬は歴史あるスポーツなんですから。また、単なるギャンブルというだけなら、天皇陛下も競馬場にお見えにならないでしょう?」

記者‐そうですね。昨年のダービーも天覧競馬でした

内田‐「『それだけ由緒あるスポーツなんだ』っていう事を皆さんに知ってもらいたいですね。あのダービーの時の四位さん、カッコ良かったです。シビれましたよ。僕も、今は夢のまた夢ですけれど、いつか同じ事をやってみたいと思っています」

記者‐では、最後に抱負をお願いします

内田‐「騎手がたくさんいる中で、今、有力馬にたくさん乗せていただくチャンスをもらっていますから、しっかり結果を残して、いつまでもこういう状態が続くように頑張りたいです」



★取材日=08/04/10
★取材場所=大井競馬場