関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

中野 省吾騎手

中野 省吾騎手


1月18日、高知競馬場で行われた『第25回 全日本新人王争覇戦』において総合優勝。さらに昨年は年間35勝(一昨年は8勝)を挙げるなど、目覚しい活躍を見せている南関東・船橋競馬所属の中野省吾騎手。平成生まれの19歳。あどけないその様子は普通の十代と変わらないのだが、いざ競馬の話になると、その顔は勝負の世界に生きるプロの顔つきに。今年注目の若手成長株である彼の素顔に迫った。

-:今年で騎手デビュー3年目を迎える中野騎手。まずは中野騎手がジョッキーになろうと思った経緯を教えて下さい。

中:はい。本格的に騎手になろうと決めたのは中学生の頃です。受験シーズンに、中途半端な気持ちで高校へ進学するのはどうか?という気持ちがあったんです。学校の勉強は凄くできる方ではなかったので、進学校へ行くということも難しくて…。だったら思い切って変わったことをやってみようと。

-:それで競馬の世界に? ちなみに中野騎手は富山県出身でしたね。あまり競馬というものが浸透していない地域だと思うのですが、そういう環境でどうやって競馬を知ったのですか?

中:小学4年生の頃、親戚の紹介で乗馬クラブに通いはじめたのがキッカケです。そこは乗馬の基礎を1から10まで教えてくれるところで、馬房の掃除とかもやらせてもらっていました。競馬というものを深く知ったのは、この乗馬クラブに入ってからですね。

-:なるほど。では、ジョッキーになりたいから乗馬クラブに入ったという事ではないのですね。

中:そうです。はじめは馬に乗りたいという気持ちはあまりなく、ただ親に連れて来られたって感じです。一番最初に乗馬クラブへ行った時の話なのですが、まだ通うと決めた訳じゃないのに、現地に着いたとたんに準備が始まって、鞍を着け終わったら「はい、乗ってきていいよ」と言われまして、あっという間に馬へ跨ることになったんです(笑)。それが全ての始まりですね。

-:それは凄い流れ(笑)。かなり怖かったんじゃないですか?

中:緊張はしましたけど、初めて馬に乗った時の感動の方が大きかったです。当時に感じたのは、重量感のあるオモチャを触った時と同じようなものでした。今まで感じたことのないアクションの大きさは、今でも忘れられません。そういう形で乗馬の世界に入れたので、馬に乗ることに関して怖いとか、嫌だとか思ったことはありせんね。



-:そんな乗馬クラブですが、お聞きしたところによると、中学校に上がってからは所属していた野球部との掛け持ちだったそうで。スケジュール的にも体力的にも大変だったのでは?

中:朝、普通に学校へ行って授業を受けて、放課後は部活が始まります。部活はだいたい18時くらいに終わるので、その足で乗馬クラブに行っていました。ただ、さすがに乗馬クラブへ着くのは遅い時間になってしまうので、馬に乗れるのはせいぜい1日に1頭くらい。騎乗時間も本当に短かったですよ。

-:それを毎日続けられていたのですか。休日はありましたか?

中:決まった休みはなく、ほぼ毎日通っていました。その乗馬クラブは人手が足りていなくて、僕がいないだけでも大変な状態になっちゃうくらいだったんです。僕が住んでいた舟橋村は富山県の中でも一番小さいところで、中学の野球部の規模も小さく、部員は9人ギリギリでやっていて、どちらも休めない状況でした。日課みたいになっていたので、辛いという事は考えたこともなかったです。

-:素晴らしいですね。それを聞くと、地方競馬教養センター時代に皆勤賞を授賞されたことも頷けます。さて、次にその後のお話を伺いたいのですが、中野騎手が地方競馬を選ばれたのはどういう経緯があったのでしょうか。

中:中央競馬の試験は一度受けさせてもらい、2次試験までいったのですが、残念ながらそこで落ちてしまいました。

-:そうでしたか…。翌年以降、再度チャレンジしようという気は?

中:ありませんでしたね。2次試験と言ってもかなりの倍率ですし、来年受けて必ず受かるという保証もありませんからね。落ちたのは悔しかったですが、1回目の受験で2次試験までいけたことはむしろ自信にもなりました。そのお陰もあって、すぐに地方競馬の試験に切り替えて集中することができましたから。

-:地方競馬教養センターで生活はどうでしたか?

中:実習や勉強が苦しいと思ったことはありませんでした。ただ、敷地内から外へ出られなかったのが一番辛かったですね。24時間あの中にいると、休みの時間でもすることがなくなってきて…。本当に退屈でしたね(笑)。それでもプロになって忍耐力を鍛えるためだと思い、何とか頑張りました。

-:なるほど。それで見事、地方競馬の騎手学校に合格され、2年後には騎手デビューを迎えられました。続いて騎手生活の話を伺います。現在まで48勝を挙げて、同期の中ではトップの勝ち星です。これまでの成績を振り返って、自分の騎乗をどう捉えていますか?

中:デビューした年は、同期で同じ船橋にいる小杉(亮)がどんどん勝っていたので、焦っちゃって…。あれは凄いプレッシャーでしたね。

-:年齢的には年上の小杉騎手ですが、そういった部分は気にされたりはしなかったんですか?

中:そういうのは全くないですね。同期は同級生、年上年下ということは考えたことがありませんよ。

-:勝負師らしいコメントですね。そして、そのデビュー年は8勝で終えましたが、翌年は大幅にアップしての35勝。この間で自分がどう変わったと思いますか?

中:数を乗っていくことで、決めたいところで決められるようになり、徐々に自分の腕は上がってきているのは感じます。1年目から見ると、直線で追っている時の姿勢はだいぶシッカリしてきたんじゃないかと思っています。

-:技術向上にあたって努力したこと、参考にされた先輩の騎手などはいますか?

中:基本的にはレースの映像を見て、色んな人の騎乗を盗みながら勉強しています。スタイルは僕と違うかもしれませんが、身近な先輩では町田さん(川崎競馬)、繁田さん(浦和競馬)、本橋さん(船橋競馬)たちの直線の追い方を参考にさせてもらっています。また、休みの日に時間があれば中央競馬のレースも見ていますし、良くして頂いている馬主さんに中山競馬場へ連れて行ってもらって、実際に見て勉強したりもしています。

-:今年で3年目を迎えますが、騎乗するにあたって、これまで以上に心がけていることはありますか。

中:馬の特徴を掴むことは常に心がけています。ありきたりかもしれませんが、これは凄く大事なことだと思っているので。騎乗する馬にどういうペースで走らせてあげるのが一番楽なのかは、毎回考えて騎乗するようにしています。

-:数を乗った馬であれば扱いやすいと思いますが、最近はテン乗りの騎乗依頼も増えてきていますよね。初騎乗の馬などはどう臨んでいますか?

中:これだけ数多く乗せてもらうようになってからは、騎乗する馬の特徴を待機所では自然とジックリ見るようになっていますね。背格好や性格などをできるだけ把握しようとしています。そして、パドックで跨ってからは背中の上から感じて、厩務員さんにも特徴を聞いたりしています。それで、以前に跨ったことのある違う馬と照らし合わせて「あの馬と同じイメージ乗れば良いのかな」と想像していますね。

-:そういった感触・感覚は、1年目や2年目の頃はあまりなかったのでは?

中:そうですね。とくに1年目は「とにかく前に行かなきゃ」ってことばっかり考えていて…。レース前からそんなことを考えている余裕はなかったですね (苦笑) 。そう振り返ると、今は冷静にレースができていると思います。



-:そうやって力を付けてきての3年目。ズバリ今年の目標は?

中:騎手としてデビューしてから、『よりファンを増やす』というのは常に思っていることなんですけど、具体的な目標でいえば年間50勝をすることですね。あとは、重賞レースに騎乗して良い成績を挙げたいです。

-:ファンを増やすという点ですが、何かこれといった取り組みや意識があったりしますか?

中:ファンからのサインはできるだけ応じるようにしています。とくに大井競馬場では、口取り写真を撮る場所がスタンドに近いので。また、レースではファンの方に見られているということを意識して、少しでも格好良く追いたいと思っています。ジョッキーが追っている時、腕が伸びてると格好良く見えるじゃないですか。今はまだ色々と研究しているところですが、もっと綺麗に追えるようになりたいですね。

-:中野騎手は勝負服や鞍などにも自分をアピールするための工夫をされているんですよね?

中:はい。勝負服はとにかく目立つようにと思って、親方(渡邉薫調教師)と考えて決めました。鞍も同じで赤や黄色の目立つ鞍を使っています。今度はもっと目立つようにオレンジ色の鞍を考えています。オレンジ色を使っている人なんてきっといないでしょうかね。イメージとしては(ブランドの)エルメスっぽく作りたいなぁと思っているんです (笑) 。

-:そういう事なら、先月の全日本新人王争覇戦で優勝されたことで、全国に顔を広めることができたと思います。レース後の反響はかなりあったのではないでしょうか?

中:あれは凄く嬉しかったですし、アピールもできたと思います。でも、他の先輩ジョッキーや中央競馬のジョッキーたちに比べるとまだまだですからね。それにジャンルは違いますけど、やっぱり斉藤佑樹さん、石川遼さんは憧れますね。

-:それは凄いところにいきますね。

中:競馬が残念なのは、野球やゴルフと違って認知のされ方が異なってしまうところだと思うんです。学校では「ギャンブルはダメ」と、あまり良く言われないことが多いですよね。僕もそう教わってきたので、小さい頃は良いイメージを持っていなかったのですが、でも、いざこの世界に入ってみると全然そんな事はなくて…。毎日が忙しく、あっという間に一日が終わってしまうんです。騎手として競馬場にいるというよりは、本当に作業場で淡々と働いている感じです。ファンの方にお金を賭けてもらっているという意識を持ってレースには臨んでいますが、それまでに色々とやっているというところは分かって欲しいと思うようになりましたね。

-:そうですね。そういう裏方の部分は、ファンの人はもちろんですが、まだ競馬を知らない人たちにももっと伝えていくべきだと思います。最後に、中野騎手がこれからファンの人たちに『自分のココを見て欲しい』と思うポイントはありますか?

中:できれば普段、馬とフレンドリーにしているところを見て欲しいのですが、さすがにそれをお見せするのは難しいですからね(笑)。やっぱり、レースで最後の直線を一生懸命に追っているところでしょうか。

-:ありがとうございます。これからは南関東競馬を引っ張っていくくらいの気持ちで、レースの内外でどんどんアピールしていって欲しいですね。頑張って下さい。

中:はい、頑張ります!






【中野 省吾】Syougo Nakano

1991年 富山出身。
2009年 騎手免許を取得。
初騎乗:2009年5月4日
初勝利:2009年6月8日
地方通算成績は48勝(11/2/18現在)

名馬・名ジョッキーが生まれる船橋ケイバのホープ。昨年、勝ち鞍を著しく伸ばすと、高知で行われる名物レース『全日本新人王争覇戦』を総合優勝と、勢いに乗っている。
今、現在、中央・地方問わず、どんな馬にも乗れるとしたら、中央のターゲットマシン(牡3、美浦・宗像厩舎)に乗ってみたいとの事。船橋の渡邊薫厩舎所属。好きな騎乗方法は「差し」。