関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

黛弘人騎手

記者:黛騎手、今日はよろしくお願いします。

黛:よろしくお願いします。

記者:こちらのお店「Beenie Cafe」は、黛騎手の師匠である中野栄治先生の娘さんが経営されていらっしゃるという事で、黛さんもよくお越しになるようで。

黛:はい、よく来ますね。食べ物も美味しいので。…この紙は何ですか?

記者:これは以前に黛騎手がインタビューに答えていた原稿があったのでプリントしてきたんです。おそらくスポニチの鈴木さんが取材された原稿だと思いますけど。

黛:ああ、覚えてますよ、その取材。懐かしいー。

記者:その取材では10の質問に答えてますけど、現時点でその時と答えが変わったところはありますか?

黛:あ、尊敬する騎手は変わりましたね。

記者:そうですか。ルメール騎手から変わってどなたに。

黛:松岡(正海)先輩です。よくよく考えたら僕、ルメール騎手と話したこと無いですし(笑)。騎手として上手いとは思いますけど、やっぱり1回も話した事の無い人を尊敬するっていうのも何か違うなって。松岡先輩は技術ももちろん凄いですけど、人間性も良い人ですから。総合的に考えると、やっぱり松岡先輩ですね。

記者:そんなに良いですか、松岡先輩。

黛:良いですよ。大好きです。

記者:一緒にいて緊張したりする事はないですか?

黛:全然しないですよ。

記者:周りのジョッキーも松岡先輩の事をそう思っている感じですかね?「松岡さん、ちょっと怖くて近づきにくいな」って言っているジョッキーなんかいませんか?

黛:全然そんな話は無いです。みんなに慕われていますよ。兄貴分的な感じで。

記者:今の話を松岡先輩が聞いたら喜びますよ。実はつい先日松岡先輩にインタビューさせてもらいまして、その時に黛騎手のブームが来ているとおっしゃってまして。

黛:そうなんですか(笑)。

記者:「もしマユちゃんが、僕のことを好きじゃないって思っていたらショック。人間不信になる」ともおっしゃってまして。今回黛騎手にインタビューする事を伝えたら「僕のことをどう思っているか、それとなく聞いて欲しい」って依頼を受けまして。これを聞けば安心されますよ、きっと。

黛:そんな事を心配していたんですか(笑)。カワイイ、松岡先輩。

記者:(笑)その松岡先輩と一緒にバンドをやっているそうで。

黛:はい、ノビーズっていうバンドを。他には助手の西塚さんと会津さんとあとジョッキーの南田先輩がいて。

記者:先日(4/29)にはライブも行われたそうですね。

黛:まあまあでした。いっぱいお客さんが来てくれたんで、それは良かったですけど肝心の演奏が上手く行かなかったです。お客さんの盛り上がりは良かったと思います。

記者:黛さんはギターですけど、歌も歌ったりします?

黛:はい、ライブでも歌いました。歌詞も飛ばなかったし盛り上がったんですけど、僕の出来としてはまあ平均点くらいだったかな?練習以上でも以下でもなく、普段通りの出来栄えで。

記者:ライブは何回目だったんですか?

黛:2回目でした。

記者:ライブの時は緊張しませんか?

黛:少しは緊張しますけど、ジョッキーをやっていると大観衆の前に出ることも多いから、ほとんど大丈夫ですよ。

記者:黛騎手を見ていると、そもそもあまり緊張しなさそうに見えるんですけど、今までで一番緊張したことって何ですか?

黛:あー、競馬学校の時の免許試験ですね。免許試験の障害の時が一番緊張しました。僕、障害が苦手だったので。

記者:試験でコンビを組む馬はどうやって決まるんですか?

黛:抽選なんですよ!だからそれも緊張しましたね。中にはやっぱり乗りづらい馬もいますから。でも無難な馬が当たったんで良かったです。

記者:パートナーの馬にも恵まれて、無事に卒業されて。

黛:本当、卒業した時が一番嬉しかったですね。僕、1年から2年に上がる時に留年しているんで、多分他の人の倍は嬉しいですよ。メチャメチャ嬉しかったですもん「やっと卒業したー」みたいな(笑)。

記者:今はこうやって笑って振り返る事が出来ますけど、留年が決まった頃は悔しかったでしょう。

黛:凄くイヤでしたよ、実技で落とされて…悔しかったですね。

記者:よくクサらずに続けましたね。

黛:どうしてもジョッキーになりたかったですし「もう馬の仕事しかないな」と思って。

記者:そもそもジョッキーになろうと思ったのはいつ頃なんですか?

黛:小学校3年生くらいですね。他の人と比べるとちょっと遅いかもしれないですけど。

記者:確かに父親がジョッキーだったという事を考えると、小学校3年でなろうと思ったというのは遅いかもしれないですね。

黛:僕が子供の頃はあんまり競馬を見せてくれなかったみたいですけどね。馬には興味があったんですけど、競馬の事は全然知らなくて。それで小学校3年生の頃に初めて競馬を見に行って、すぐに「ジョッキーになりたい」と思いました。お父さんがレースに出ているのを見て「格好いい!」って。

記者:素敵ですね。黛さん、ジョッキーになりたいと思ってから生活行動を変えた事ってありますか?

黛:野球を始めました。それまで運動は全くやった事が無かったから、野球をやって体力をつけようと思って。ホント、体力無さ過ぎで虚弱だったんで(笑)。走れないし運動オンチでした。

記者:へー。運動を全く。他に力を入れていたものでもあったんですか?

黛:もうずっと家でゲームをやっていました。小1の頃からスーパーファミコンをやったり。

記者:あ、ゲームを。ちなみに一番やり込んだゲームって何ですか?

黛:とりあえずFF(ファイナルファンタジー)は全部やりましたね。

記者:そうですか。ゲームばかりやっていて、ある日「ジョッキーになりたい」と思って野球を始めた、と。体力はつきましたか?

黛:はい。一気に体力が上がりましたね。けっこう練習もハードで、マラソンもやったんで持久力もつきましたね。筋肉もついたし、脚も速くなって標準以上になりました。野球をやる前はバットも振れなかったんですけどね。

記者:か弱い女の子ですね。

黛:そうなんですよ、女の子みたいでした(笑)。次男なんで女の子みたいに大事に育てられました。お兄ちゃんの陰に隠れて。

記者:私も次男なんですよ。兄と一緒に悪い事をしても、大体は兄だけが怒られていました。

黛:そうなんですよね(笑)。

記者:そういう次男の特権をフルに活かしてきたんですね。

黛:思いっきりぬくぬくと育てられて(笑)。今になってみれば「もっとちゃんとやっておけば良かったな」と思いますけどね。甘やかされ過ぎていたから。でも、それも野球を始めてから変わりました。お父さんからも「変わったな」って言われるようになりました。あのー「ドラゴンボール」観ていました?

記者:アニメはあまり。漫画は読んでいましたよ。

黛:あの孫悟飯と一緒です。小さい頃は泣き虫だったんですけど、ピッコロさんに預けられて、鍛えられて強くなるという(笑)。

記者:アハハ、孫悟飯と一緒(笑)。じゃあそのまま競馬学校に入る前の中学3年まで野球を続けられたんですか?

黛:はい。チーム自体は弱かったですけど、野球も好きになりましたし良かったです。今は観る方が好きですね。

記者:応援しているチームはあるんですか?

黛:日本ハムが好きなんですよ、稲葉選手とか稀哲選手とか結構個性的な選手が多いんで。札幌ドームにも見に行きましたよ。

記者:熱心ですね。ではまた話を競馬に戻して、学校を卒業していよいよデビューというところですけども、デビュー戦の事は覚えていますか?

黛:覚えています。あの時は「出遅れないように」って、スタートだけ気をつけていました。あとは、思いっきり乗ろうって。目立つように、とも思っていたんですけど、ケツからケツでしたけどね(笑)。

記者:その注意していたスタートは上手くいきましたか?

黛:出遅れずに済みました。でもその後が全然付いて行けなかったんで。(資料を見ながら)ディアトラック…、懐かしいな。

記者:黛さん、デビューは朝の第1レースだったんですね。

黛:そうです。超緊張しました。パドックで先輩たちを見たら、何か威圧感がありましたね。もう「スゲー」という感じで。

記者:「同じジョッキーとしてライバルだ」というような見方なんかは。

黛:出来ないですよ!出来る人もいるかもしれないですけど、僕は出来なかったです。もう威圧感に負けました。雰囲気に呑まれまくりですよ(笑)。でも千葉(直人騎手)と一緒にいたんで安らぎました(笑)。千葉も一緒のレースだったんで、二人でくっつきながらソワソワしていました。

記者:そんな状態で「思いっきり乗ろう」という目標は達成出来ましたか?

黛:それは出来ました。やれるだけの事はやって。

記者:そうですか。初勝利はデビューから約1ヵ月後ですね。

黛:今思えば結構早かったなと思いますね。今の時代というか、今の若い子はもっとかかりますもんね。僕は恵まれているんですね。

記者:初勝利をあげるまでの1ヶ月間は不安だったんじゃないですか?本当に勝てるのかな、とか。

黛:それは思いましたね。「一生勝てないんじゃないか」とか。

記者:そんなお気持ちになりながらも無事に初勝利をあげられて。その時はどうでしたか?

黛:凄く大きい声で叫びましたよ「ヨッシャーッ!!」って叫んでガッツポーズして、愛撫の意味で馬をパンパン叩きまくって。次の日みんなに笑われましたもん。

記者:そんなに大きなリアクションをとっちゃったんですね。

黛:はい。でも、あれだけですね、レースが終わってガッツポーズをしたのは。

記者:それだけ感激が大きかったんですね。(資料を見ながら)着差は1と3/4馬身ですから、割りと勝利の感触を味わいながらゴール出来たんじゃないですか?

黛:いや、もう焦っていましたよ。大丈夫だろうとは思いましたけど、後ろから差されたくないと思って一生懸命追っていましたね。デビュー戦だけじゃなくて今でもそうですよ、必死ですから。だから僕、あんまり勝った余韻に浸れた事が無いんですよね。最後の直線で流す人もいますけど、僕はいつでも不安なんで最後まで追っちゃうんです(笑)後ろから差されるんじゃないかって考えちゃって。

記者:夏にもう1勝して、そこから次の勝利まで間が空きましたけれども、その間というのは。

黛:もう「勝ちたい」という気持ちばかりが強過ぎて頭を使っていなかった気がします。ただ一生懸命乗ってやろうっていう気持ちばかりで「この辺で脚をためよう」とか、そういう風に冷静に考えられていなかったと思うんですよね。

記者:先輩からアドバイスを受けたりは?

黛:いろいろ教えてもらったんですけど、頭では分ってもレースでは出来なかったですね。

記者:印象に残っているアドバイスはありますか?

黛:うーん「ゴールから逆算して乗るといい」って言われた事ですかね。松岡先輩にも言われたし、関西の秋山先輩にも言われました。

記者:そういうアドバイスを受けながらレースに乗って、10月にいきなり2勝されていますね。この2勝をあげた後は結構騎乗依頼が増えたんじゃないですか?

黛:増えました。でもそこからまた勝てなかったんですよね。

記者:2年目が終わって4勝という現状に関してはどう思われましたか?

黛:いや「ヤバいなあ」と思いましたよ。で、3年目になってケガしちゃったんですよね。しかも年が明けたばかりの1月2日の調教中に。かなりショックでした。

記者:ヤケになったりしませんでした?

黛:ヤケも何も…、放心状態でした。脚も痛いし歩けないし。

記者:そのケガから復帰されてすぐに勝ちましたね。稲葉厩舎の馬ですけれども、黛さんは稲葉厩舎で結構勝っていますね。

黛:そうですね。良い馬に乗せていただいています。

記者:そして師匠である中野栄治先生の管理馬でも初めて勝利をあげられていますが、これも他とは違う嬉しさがあったんじゃないですか?

黛:はい、凄く嬉しかったですよ。

記者:2008年はだいぶ勝つペースが上がっていますけど、何か理由は考えられますか?

黛:いやー、特に…。どうなんでしょうね?

記者:例えばエージェントを付けたりだとか。

黛:ああ、はい。付いてもらいました。それまではいなかったんですけど、もう3年目だしやれる事は全部やろうと思って。

記者:悔いを残さないように、と。

黛:はい、そうですね。

記者:関西の厩舎にも結構乗っていらっしゃいますよね。

黛:はい。北海道に行った時に知り合えたり、あとは先生同士の繋がりで声を掛けていただいたり。小島貞博先生と中野先生は仲が良いですからね。

記者:その2008年には6勝をあげられて。今年は既に8勝をあげて過去最高の成績を残されていますけど、これもまた何か変わったところがあるのか気になりますが。

黛:いや、特には何かを変えたっていう事は無いと思うんですけど。

記者:趣味でギターを始めたくらいですか(笑)?

黛:そうかもしれないですね(笑)。やっぱり趣味があるって良いですよね。馬に乗っているだけじゃいけないなって。仕事して帰って来てご飯を食べて、また次の日も仕事して、の繰り返しよりメリハリがありますよ。ギターにハマって友達と飲みに行ったりする事も減ったかも。

記者:飲むのは好きなんですか?

黛:はい。

記者:そういう時に寮って良い環境ですよね。行こうと思ったらすぐに声を掛けられますもんね。

黛:そうですね。仲間がいるんで(笑)。

記者:ちなみに一緒に飲みに行くのはどなたと行かれるんですか?

黛:田辺(裕信騎手)先輩とか、千葉(直人騎手)とも行きますし、いろんな人と行きますよ。ヒマそうにしている人がいたら「一緒に行きましょうよ」って声を掛けて。

記者:黛騎手、本当に育ちの良さそうな次男パワーが炸裂していますね。見ていると、あんまりガツガツしている感じには見えないです。

黛:うーん、そうですか。レースの時は普段よりガツガツしていると思うんですけどね。絶対にハナは譲りたくないっていう時は何が何でも主張しますし。でもそれでももっと自分を出せると良いと思います。やっぱりジョッキーにとってはレースで目立つのが一番だと思っているので、僕は。

記者:レース中のこんなところを見て欲しいっていうところはありますか?

黛:僕はスタートには自信があるんで、スタートを見て欲しいですね。

記者:得意なんですか。

黛:はい、出遅れってほとんど無いと思いますよ。

記者:そうですか。何かコツでもあるんですか?

黛:うーん、まあいろいろ工夫をして。ゲートの中であまり馬をいじくらないようにしていますけど。

記者:スタートが得意っていうのは、ファンだけじゃなくて関係者にとっても良いアピールになりますよね。

黛:そういう風に思われていないかも知れないですけど、僕は上手いと思っています(笑)。

記者:そうやって言い切れるのは素晴らしいですね。今年も5月の時点で既に8勝をあげられていますし楽しみですね。

黛:そうですね。今が踏ん張り時です。

記者:なるほど。目標はありますか?

黛:目標は…、毎週毎週絶対に1勝したいなって思って励んでいます。最低でも1勝はしたいなって。

記者:頑張ってますもんね。調教にもたくさん乗られて。ちなみに今日は何頭に乗ったんですか?

黛:今日は6頭です。大体そのくらいですよ。最低でも6頭っていう感じで。

記者:どんな厩舎のお手伝いをされていますか?

黛:戸田先生、稲葉先生、奥平先生、伊藤圭三先生…。

記者:そのまま黛騎手がレースでも騎乗されている厩舎さんばかりですね。

黛:そうですね、直結です。有難いです(笑)。おかげ様で、僕も調教からレースをイメージして乗れます。

記者:いい流れですね。では、そろそろ最後の質問になるんですけど、仕事をしているうえで気をつけている事は何ですか?

黛:気をつけている点、油断と集中力ですかね。油断は絶対にしないようにしています。馬が近くにいる時は油断しないように、馬に乗った時は集中するようにしています。常にアンテナを張るようにしていますよ。自分の馬の動きとか周りの馬の動きとか。

記者:そういう注意が足りなくなるとケガをしてしまったり。

黛:ありますね。やっぱりケガをすると全く良い事ないですから。本当に。

記者:そうですよね。最後にもう一つ聞いていいですか?

黛:はい。

記者:もうすぐ父の日があるんですけど、お父さんに何かメッセージがあれば。黛騎手のお父さんは現在中野栄治先生の厩舎にいらっしゃるんですよね?

黛:はい。凄く一生懸命仕事をしているなあって感じがします。あとは怪我はしないで欲しいですね。

記者:お父さんと似ているなって思うところはあります?

黛:歩き方です(笑)。歩き方は凄く似ているみたいです。あとは喋り方です。

記者:自分では思わないんですか?

黛:思わないです。自分の歩くところって普段見ないですし。

記者:確かに。ちなみにお父さんのこういうところは凄いなって思うところはありますか?

黛:やっぱり仕事を凄く一生懸命やるところですね。本当に好きなんでしょうね。もう仕事イコール趣味みたいな感じなんじゃないですか。

記者:仕事の話を一緒にされたりします?

黛:しますよ。向こうから「どうだ?」って聞いてきてくれたり、「あの馬はこうだよね」って話したり。

記者:いいですね。では、そろそろこの辺で。長々とお時間いただいて申し訳ございませんでした。ありがとうございました。

黛:こちらこそありがとうございました!





黛 弘人

1985年茨城県出身。
2006年に美浦・中野栄治厩舎からデビュー。
JRA通算成績は18勝(09/5/21現在)
初騎乗:2006年3月4日 2回中山3日1R ディアトラック(14着/16頭)
初勝利:2006年4月1日 3回中山3日8R イチライタッチ

デビュー年と2年目は共に2勝に終わったが、3年目には6勝と徐々に成績を上げ、4年目の2009年は5月の時点で自己最高の8勝と現在勢いに乗っている。自身のアピールポイントは「出遅れが少ないこと」。趣味はギター。松岡正海騎手が所属するバンド「ノビーズ」のメンバーでもある。 父は元ジョッキーの黛幸弘氏。