関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

今野貞一調教師

今野貞一調教師


“競馬”という職業の尊さ

-:これから、調教師としてどんな馬を作りたいですか?

今:結果的には競馬で勝てる馬を作りたいです。100%の素質を持っている馬を150%には出来ないですよね。いや、100%素質を100%出し切ることさえ難しくて、出し切っている馬はそんなに居ないと。それを極力、レースの度に100に近づけようと考えています。

-:早く結果を出すというよりじっくりと育てていきたい考えですか?

今:成長の具合にもよります。レースに出るからには良い状態であることが大前提です。でも強い調教をしたから新馬でいきなり走るとは思っていません。やっぱりちゃんとした走り方が出来ていない馬はかけっこをしているようなもの。子供のかけっこであって陸上競技ではないですよね。出来るだけトップアスリートの走りをさせようという考えです。

-:しかし競馬は1頭で走るわけではないですよね。

今:そうです。相手次第。相手が弱ければ負けないんですよね。勝てる馬というのは段階の最後のことで、勝つかどうかは相手によるので勝てるように持っていく。それがその馬の100の力です。その馬が100の力でも負けたらそれは仕方のないこと。相手が強ければ負けるのですから。実際その馬の100%にもっていくのは難しいことで、本当の理想の馬作りをしないと多分80も行かないのかもしれません。

-:今野先生が思う理想の馬とは?

今:競馬は馬という動物に人間という動物が乗って走る特殊なスポーツですよね。そういうレースは競馬しかないですから。逆にそこが競馬の一番面白いところ。他の競走とは違うところなので、ただ速い馬に人間が乗っかっているだけではなく、人間がコントロールしたり、駆け引きがあったり、それが競馬の魅力だと。それだけに人間のコントロールが利く馬が一番強いと思っています。



-:血統は気になりますか?

今::血統は僕には変えられないものです。血は血ですから。ただ中央競馬はとてもハイレベルなところなので、素材的に中央でやっていけそうかどうかですよね。その中に脚の角度だったり歩様だったり、後は人間との関係がどうなのか?ちゃんとしつけが出来ているか?ですね。

-:調教スタイルは考えていらっしゃいますか?

今:スタイルはないですが坂路を多く使うと思います。危険度が一番少なくて作りやすいので。まずは並脚からちゃんと作って行くというイメージ。速いところを何本したから仕上がったとは僕は全く思わないですね。

-:予想のファクターとして坂路時計は注目されますが?

今:坂路の本数は「心肺能力的は出来ていますよ」というだけで、いいフォームで走っているかは別ですよね。適当にバラバラな走りでも能力さえあれば時計は出ますから。でも競馬ではあまり通用しません。坂路一番時計でレースに負けるというのはそういうことなんですよね。僕は時計を全く気にしないので、乗り手にもこういう感じで乗ってくれとニュアンスだけを伝えます。

-:時計を出す事よりもまずはフォーム重視なのですね。

今:イメージとしては、良いフォームで走ると心地良いというのを馬に覚えてもらう感じです。馬はこっちが思う良いフォームで走ると苦しいのでフォームが崩れる。力が付いていないと良いフォームでは走れないですから。苦しくても良いフォームで走った方が効率もいいし、後々苦しくないですからね。まず、時計を出すよりも、そういうことを馬に覚えてもらうのが先決です。

-:厩舎目標を教えてください。

今:ゆくゆくは世界のレースで。海外というよりも、どこに行っても通用する馬を。競馬は世界のどこでもしているので、日本の競馬しか出来ないというのではなく、どこに行っても力がだせるような厩舎にしたいですね。有り難い事にトウショウフリークやローレルブレットなどクラスの高い馬を引き継がせてもらいました。勝ち星の計算は出来ないので具体的に何勝というのは……。とにかくコンスタントに馬が力を発揮できるようにしたいです。

-:今年の2歳馬はどうでしょう?

今:楽しみな2歳がいるのですが……、隠し玉です(笑)。

厩舎の大将格といえるオープン馬・トウショウフリークと


-:取りたいタイトルはありますか?

今:大きいレースは全部取りたいです。アメリカのGIにも挑戦してみたいですね。

-:開業にあたり、厩舎スタッフの方達とはどんなお話をされましたか?

今:「今までやってきたことが普通だとは思わないでください」ということは言いました。このトレセンでしていることが当たり前ではないということです。競馬は世界中でやっていますしトレセンの外でも、牧場はいっぱいあります。トレセンで産まれ育ってトレセンで死ぬ馬はいません。馬はいろいろな場所でたくさんの人とかかわります。外国に居た馬がトレセンと同じように扱われていたかというと違いますよね。逆にトレセンでは出来ていたことが外国に行って環境が変わったから出来ないというのでは話にならないです。トレセンでしか通用しないということは普通のことではないわけです。例えば馬に携わる人の中にはセリで引き馬だけする人もいますが本当に上手に誘導しています。トレセンの厩務員がパドックでちゃんと引き馬が出来ないというのは可笑しな話なのです。どうしてもうるさい馬なら仕方ないですが、基本通り出来ていないという意識を持つことが必要ですよね。トレセンのことしか考えない仕事では小さい。絶対に頭を広げた方がいい仕事に繋がるということです。広い視野を持ってもらいたい。幸いスタッフも知らないことを知りたいという勉強する気持ちがあるので助かります。その気持ちがなかったら終わりです。いや終わりというよりも仕事ではないですよね。

-:厳しいですね。

今:意識の問題です。無理なことは無理ですが、ずるいことをしようとする人が居たら許せないですね。高い意識を持ってもらいたい。技術がおっつかないのは仕方のないことですが、馬や人のせいにしない。自分が出来ない事を認識しているかで違います。

-:先生からお話を伺っていると馬の為に出来ることは何でもしよう!という強い気持ちが感じられるのですが、この仕事の魅力は何ですか?

今:こちらが毎日同じにしようと思っていても出来ないのが動物です。馬の生き方が携わった人間によって何かしら変わって行く。それは凄いことだと思っています。一つの命の生き方を変えていく。それって神の領域だと思っているので。調教や与える餌によって馬が変わってきたとか、生き物を意図して変えていけるのは神の領域ですよね。神様にはなれないけれど、神の領域に一歩だけ近づける気持ち良さ。でも上手くいかない時はちっぽけ感を味わうのですが……。一つの命を預かっている重みを感じる仕事です。

-:競馬ファンの方へ、意気込みやメッセージをお願いします。

今:競馬界で働きたいという人が徐々に減ってきているそうです。でも大学を出るまで素人だった僕がこうやって頑張れているので、若い人たちにもっと競馬の世界に入って来て欲しいと思います。なかなか入り難い世界ですけれど、入ってきたら何とかなるのでこの仕事を目指す人が増えて欲しいです。そして競馬に興味を持ってもらいたい。競馬をもっとメジャーにしたいです。その為には何をしたらいいのか考えたいですよね。僕自身、厩舎の結果を出していくことで注目してもらい、そこから何か大きいことに繋げられるようになれば良いなと思っています。

-:今日はありがとうございました。今後のご活躍、期待しております。

今:こちらこそありがとうございます。期待に応えられるよう頑張ります!

今野貞一調教師インタビュー前半→

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【今野 貞一】 Teiichi Konnno

1977年大阪府出身。
2010年に調教師免許を取得。
2012年に厩舎開業。
JRA通算成績は1勝(12/3/31現在)
初出走
12年3月3日 1回阪神9R ローレルレガリス
初勝利:
12年3月31日 2回阪神3日目7R マルカプレジオ


1977年4月24日生まれ。座右の銘は『見ている人は見ている』。これは、色々な努力というのは人には分かり難いものかもしれないが、分かってくれている人は必ず居るはずだという想いを込めたもの。常に、自分は間違っているかもしれないと思う心を持つ事で、ずれずに真っすぐ進むようコントロールしてとのこと。実直で冷静。物腰がとても柔らかいクールなイケメン。