関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

吉澤克己社長

馬術を競走馬に取り入れたパイオニア

-:個人の施設としてはすごく多機能で充実していますね。

吉澤克己社長:弊社は社台グループでもないですし、アラブの王様でもないですから(笑)。こういう施設を1人で造るというのは大変です。会社にしたのは平成7年。そこから今日まで17~8年は赤字申告をしたことがないんです。だから銀行がお金を貸してくれた訳です。

-:17年前、当時30歳という若さで吉澤ステーブルを立ち上げたんですね。

吉:そうですね。あの頃の僕は乗馬・馬術しか知りませんでした。競馬のことは何もわからなかったんですよ。馬が何カ月で生まれる、といったことさえ知らなかったし。その頃、門別の牧場で働いていました。そこの牧場も育成をやっていたので、種付けに行ったり、育成の基礎を教えてもらうことができましたね。種付けに行ったときにはあまりにも無知だったから、社台スタリオンの角田先生に笑われていました。「何も知らねえんだな」と。

5年間そこの牧場で、牧場長というポジションで仕事させてもらいました。多くの経験をさせていただきましたよ。その牧場には引退された山本正司先生も頻繁に来られていましたね。たまに当時は騎手だった松永幹夫先生も来られていましたし。その牧場には「僕はいずれ独立します」ということは言っていったのですが、お金がないから自分で牧場を造れる目処は立っていませんでした。

平成6年の開業時には100万も持っていませんでした。この資金でどうやって育成場を立ち上げようか考えました。そこで、BTCに行けば馬房や調教施設があるし、そこを借りることができれば100万円でもできるなと思ったんです。経費はそんなにかからなかったから、できたんですね。でも、浦河のお年寄りは言うんです。僕のことを「落下傘部隊」だと。ある日、空からムチ1本だけ持って降りてきて、馬をドンドン集めて、「とんでもないヤツだ」って(笑)。


-:地元の人たちには軍隊みたいに写った訳ですね。

吉:はい、馬術の(笑)。

珍しい2階建ての厩舎の2階部分


-:馬術をいくら経験されていても、当歳や1歳馬の馴致は特殊ですよね。完成された馬に乗る技術はもちろん持っておられるでしょうけれど、どう動くのか見当もつかないのが仔馬は特に難しかったのでは。

吉:いや、簡単ですよ。

-:そうなんですか?

吉:馬術の場合は馬を横に歩かしたり、後ろに歩かしたり、障害を落とさず綺麗に飛ばしたりと、色々高度な技を要求されます。でも、競走馬は真っ直ぐ走らせたら良いだけですからね。真っ直ぐ走らせて、コーナーをちゃんと曲がれれば良いだけですから馬術に比べたら競走馬の調教は簡単だと思います。

-:競走馬の方が縛りが少ないと?

吉:ただ、獣医学的な観点から馬術と競馬を比べると、競馬の世界は獣医学が進んでいます。馬術の獣医学というのは遅れていて、この時にどういう薬を使ったら良いかとか、全く分かりませんでした。ですから獣医学は起業してから勉強しました。

-:人間ほど複雑でない生き物だから、カゼをひいたりしても、スンナリ治りやすいという話を聞いたことがあるんです。

吉:でも、人間と一緒ですよね、鼻水を垂らして。頭が痛いとかは、しゃべらないから分かりませんが。

-:馬も風邪をひくと機嫌が悪くなったりもしますよね。

吉:そこも人間と同じですよね。だから、獣医学を勉強して、今ではとても変わったおもしろい治療をすることもありますよ。

-:それはどんな治療ですか?

吉:コレは誰でもできない治療方法だから、詳しくは教えられません(笑)。

吉澤社長が所有するアメリカンウィナー


40人で150頭を完璧に管理する施設

-:それにしてもWESTは良い感じでの施設ですね。

吉:やるからには今まで思い描いていてきた理想の調教を目指すための施設を作ろうと思いました。仕事がしやすく、尚且つ馬の事故がない施設を考えて作りました。もし、調教中に落馬して馬が逃げたら色々なとこを潜り抜けてこないと、戻って来れません。馬は絶対にここまで辿り着くことはできないんですよ。だから、あれだけ、万全に何カ所もゲートを貼ってあるんです。

-:外に出られないようになっているんですね。もし、馬が逃げても馬場の中で捕まえられると。

吉:出られないようにというか、そもそも、走れない。アスファルトの上で転んでケガをしたら大変ですから。

-:社長の理想であるこの施設の管理頭数など、データ的なことを教えて下さい。

吉:今は117頭入厩しています。来月(3月)には新しい厩舎が建ちますので、プラス27頭になります。合わせて、144頭ですね。僕は150頭以上は入れるつもりはありません。厩舎を建てるのは、これで終わりです。今、WESTには従業員が40人いますから、この40人で最大150頭を完璧に管理しようと思っています。

-:結構、従業員が多いんですね?

吉:はい、多いですね。北海道の本社と合わせると、100人います。

-:もちろん、全員が乗り手ではないですよね?

吉:そうですね。でも、ここWESTでは40名のうち、乗り手は30人ぐらいいますよ。

-:じゃあ、4頭とか、5頭が1日に乗る数ですね。

吉:全体的に数えれば、1人3.5頭持ちの計算になります。その3.5という頭数を意識しています。これより馬が増えれば管理できませんし、これよりも少なければ経営に支障が出てしまいます。

延長中の坂路コース

坂路コースの内部

全長500mの周回ダートコース


-:なるほど、理想の調教を管理しながら利益も確保する。非常に難しいお話ですが、次にコースの高低差、坂路の距離、周回コースの砂質など、調教施設について教えてください。

吉:坂路はまだ350mしかありません。半年後には650mになります。トラックは500mです。ここも屋根付きで、全天候型のトラックにしてます。坂路はウッドチップを30cm入れて、上は10cmのバークを入れています。トラックの砂は目の粗い川砂を使ってます。

-:ダートの周回トラックはちょっと重めな訳ですね?

吉:いや、そうでもないですよ。

-:では、ダートの砂厚はどれぐらいですか?

吉:10cmです。普通だと思いますよ。坂路はチップの上にバークを入れていますから馬の足跡が付きません。ズボッと入らないようにしてあります。表面は脚を傷めないようポリトラックのようになっています。

-:こちらは標高が345mでしたよね。そこが一番、高い所。低い所は45m下がる地形ですね。

吉:一番低いところで標高300mです。小高い丘の上にありますから、風通りは良いです。丘の頂上ですが、それほど風も当たりません。何よりWESTの一番良い所は栗東から近いということです。新名神の信楽インターが近くにあるということです。トレセンから栗東インターに乗ってしまえば、馬は楽です。短時間で来れますから。

-:1時間掛からないですからね。

吉:乗用車だったら栗東トレセンから30分、ゆっくり走っても40分ぐらいで到着します。だから、馬だけじゃなくて、調教師さんも来やすい環境なんです。そうすると、調教師さんと綿密な打ち合わせができます。その馬が次にどこの競馬を使うのかというのを教えていただいて、馬の予定に合わせて進めていきますし、栗東で2本、3本追い切りしたら使える状態でトレセンに送り出します。それぞれの厩舎でやり方やスタイルも違いますから近さを活かして綿密な打ち合わせができるということですね。トレセンにいる時間も短縮できますから、オーナーは預託料を抑えることができます。

-:馬だけでなくオーナーにも(金銭的に)やさしい施設なんですね。

吉:オーナーにとっては栗東にいる時間が短い方が良いですよ(笑)。

-:先ほども庄野(靖志)先生が来られていたように、近くにあるから、調教終わりにWESTに来て馬体をチェックされて打ち合わせができるんですね。

吉:そうですね。栗東から帰ってくる時は「ここが痛い、ここの具合が悪い」と全部教えてもらって、それをなるべく早く治すようにします。そして、なるべく早く競馬に使っていただく。そうするとオーナーにも喜んでいただけます。

吉澤克己社長インタビューインタビューPart.2(後半)
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ワイドバッハをチェックする庄野調教師


【吉澤 克己】Katsumi Yoshizawa

1994年、北海道の浦河町で牧場を開場。乗馬で培った技術、ヨーロッパで学んだ経験を活かし、前衛的なスタイルで頭角をあらわすと、タニノギムレット、ウメノファイバーなどの活躍馬を輩出。北海道と福島に牧場を構えていたが、2011年の東日本大震災をきっかけに新たな牧場を造ることを決意。昨年秋から栗東トレセンの近郊(車で30~40分)である滋賀県甲賀市信楽町に「吉澤ステーブルWEST」を設立。
WESTだけで約150頭弱の管理馬、40人の従業員を抱え、ゴールドシップを筆頭に栗東トレセンの有力馬の外厩として、重要な役割を帯びる。「僕が雑誌とか、テレビとかのインタビューに出るというのは、ほとんどないんですよ」と語るように、貴重な独占取材に応じてくれた。

≪関連リンク≫
吉澤ステーブル 公式HP