関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

国枝栄調教師

国枝栄調教師


‐:有馬記念に出走するマツリダゴッホマイネルキッツに関して、国枝調教師にお聞きします。よろしくお願いします。

国:よろしくお願いします。

‐:まずはその前に通算500勝、おめでとうございます。

国:ありがとうございます。馬主さんをはじめ、多くの皆さんのサポートによってここまで来られましたので、今後も良い仕事をして、皆さんの期待に応えられるようにしたいですね。500勝するまでは数々の失敗をしていますから、それを反省材料にして、勝率や連対率も更に上がるように、より良い競馬をしていきたいと思います。

‐:そして500勝を達成された翌日に、アパパネで阪神ジュベナイルフィリーズのタイトルを手にされました。

国:アパパネは、金子オーナーとの付き合いの中で預けていただいた馬なんですよね。この馬の母親も、兄弟も預からせていただきましたから。そういうお付き合いの延長でこうやってG1を勝たせていただいたので、本当に金子オーナーのおかげなんですよ。

‐:なるほど。馬主さんのおかげという事で。今後のアパパネの活躍を期待しています。さて、今回の本題であります有馬記念に関してお聞きしたいのですが、2007年にはマツリダゴッホで優勝されていらっしゃいます。こう言っては失礼ですけど、驚きました。

国:あの時は、人気も9番人気で大して注目もされていなかったんですけど、こちらとしては自信がありました。競馬場のスタンドで見ていて、ゴッホが良いポジションに入った時点で「これは一発あるな」という気持ちはありましたよ。

‐:そうだったんですか。

国:だからワクワクしながら見ていて、最後は現実的にその通りになりましたからね。「やっぱり俺は競馬が分かる」なんてね(笑)。「馬券が買えれば大金持ちになってたな」って(笑)。まあ、勝つレースは、この間のアパパネもそうですけど、完璧なんですよね。

‐:素晴らしい走りでしたよね。では今回のマツリダゴッホについてお聞きしたいのですが、まずは前走の天皇賞秋から振り返っていただけますか?

国:今回は一昨年の天皇賞秋よりも良い内容の競馬が出来たと思うんですよ。外からでしたけど前へ行って、良い位置取りで行けましたからね。直線の手応えも良かったので「これは」と期待したんですけれども、そこからガス欠というか、終わってしまって、結果的にブービーになってしまいましたけれどもね。

‐:敗因はどのあたりにあったとお考えですか?

国:周りからはよく、左回りが原因だろうと言われますけど、その前年のジャパンカップでも4着に来ていますから「ちょっと解せないな」という感じはありますよね。

‐:先生としては、一概に左回りが敗因とは言えないのではないか、と。

国:うん、そういう風には思っていないんですけどね。それが今回の天皇賞を見て、理由は分からないけれども、右回りの中山がベストかな、という風には思いますけどね。

‐:なるほど。

国:あとはエンジンのかかる場所ですね。ゴッホが行きたがるところが、中山だとゴールまでもつような位置なんですけど、直線の長い東京では、微妙に長いところなのかな、と。そこら辺からエンジンがかかったんじゃないかな、という話もしましたね。でも、それにしても天皇賞は負け過ぎだな、というのはありますよね。

‐:レース後のマツリダゴッホの状態はいかがでしたか?

国:別段、異変もないし、元気も良いし「なぜこんなに負けたのかな?」というのが正直な気持ちですね。

‐:天皇賞の後にジャパンカップを使うというプランはお考えになられましたか?

国:いや、考えませんでした。当初から秋は使えるレースを全部使う、という訳にはいかないだろうと思っていましたから。まず、有馬記念は勝てる確率が一番高いレースだから、そこを目標にして、その前に天皇賞かジャパンカップのどちらかを使おう、という予定でした。

‐:去年のジャパンカップで僅差の好勝負をされていますけど、そのジャパンカップではなく、どうして天皇賞を選ばれたんですか?

国:オーナーとの話で、レースの後に間隔があいている方が有馬記念に向けて調整はしやすいだろう、という事で天皇賞に向かいました。それで天皇賞の後は、一昨年と同じように3週間くらい牧場へ出してリフレッシュさせて、それで厩舎に戻したんですよね。

‐:リフレッシュ放牧から戻って来たマツリダゴッホの状態はいかがですか?

国:もう一昨年も去年もそうですけど、この時期はやはり良い雰囲気ですよね。体も立派になって来て、毛ヅヤも良いし。何ら懸念材料はありませんよ。

‐:マツリダゴッホは今6歳で、25戦して来ていますが、デビューから今までで大きく変わったな、と思える時期はありますか?

国:若い頃は少し物足りない面もありましたけど、一昨年の有馬記念に向かって行く段階では凄く調子が良かったですね。天皇賞で負けて、牧場へ行って戻って来て、ちょうど今と同じくらいの時期の調教の動きなんか素晴らしく良かったですから。中山に関してはその時期以外でもコンスタントに成績を残していますけど、状態としたら一昨年の今くらいが一番良かったと思います。

‐:若い頃に物足りない面があった、というのはどういう部分で物足りなさを感じていらっしゃったんですか?

国:もともと体が薄い馬で、入れ込みもある馬なんですよ。それで気持ちが先走って体が付いて来れないというか、気持ちと体のバランスが取れていないところがあったんですね。



‐:今は馬体重も増えましたよね。

国:今は500キロ越えていますから、レースの時には去年と同じくらいの、500ちかい体重で出られると思いますけどね。

‐:勝った一昨年の有馬記念も498キロでしたが、そのくらいがベスト体重になりますか?

国:それがベストというか、もうこの馬は、その季節その季節によって体は一緒ですよ。

‐:では余り細かい数字にはこだわらなくても良いのでしょうか?

国:そうですね。この時期は500ちかい数字になりますし、夏はそこから20キロくらい減ってくるというのが、この馬のパターンじゃないかな、と思いますよ。

‐:季節に合わせてそういう変動をされるんですね。

国:そうです。ただ元々が薄い馬ですから、体重が増えている方が立派に見えますね。

‐:今はレースの1週前ですが、どのような調整をされていらっしゃいますか?

国:調整は例年と同じ形で来ていて、馬も同じような感じで来ていますね。少しずつ落ち着きも出て来たと思います。当然、年齢を重ねるごとに余計なところで気を使わなくなって来ているのは事実ですよ。

‐:そういう年齢と共に起きる変化というのは、万事プラスに働くものですか?

国:いや、それが難しいんですよ。これが競馬の難しいところで、例えばレースで負けた時に「もうちょっと体が出来てくれば」とか「もうちょっと絞れてくれば」とか言って、その通りに調整が出来たと思っても結果が出なかったりしますからね。「もうちょっと落ち着きが出れば」と言っていて、落ち着いた途端に全然走らなくなったり。そこら辺は微妙だと思いますね。

‐:難しいですね。

国:そういう馬もいる、という事ですね。ゴッホは、ちゃんと能力を発揮すれば相当チャンスはあると思いますけど、いかんせん、三振になるケースも多いので。自分の形に持ち込めない場合は惨敗、というケースは今までにもありますからね。

‐:上手く行った時と行かない時の差が激しいんですね。

国:それは物凄いですよ。だから捉え辛いタイプの馬かな、とは思いますね。調子が良くても自分の形に持ち込めないともろい、気ムラというタイプかな、と思います。

‐:先生がマツリダゴッホの好不調を見極めるポイントはありますか?

国:そうですね、ひとつは普段の気合いですよね。気高いというか、頭の位置は元々高いんですけど、威張って歩くようなところがあります。今の時期なんかそういう感じが出ていますよ。

‐:好調と思われる仕草が出ているんですね。状態面に関してはどのようにご覧になられていますか?

国:状態面に関しては、特に気になるところも無いですよ。

‐:ちなみに来週の最終追い切りは、どのような予定を考えていらっしゃいますか?

国:ここ2週ポリトラックでやっているので、同じような感じでいこうと思います。あとは、騎手を乗せるかどうするかという点で、マサヨシ(蛯名正義騎手)にどうするか聞いてみてからになりますね。

‐:ジョッキーの意見を踏まえて決定されるんですね。

国:そうそう。最後の感触を確かめたいというのであれば乗ってもらうし、何回も乗っているから大丈夫というなら、それはそれで問題ありません。

‐:分かりました。マツリダゴッホは順調に来ているという事で、続いてもう一頭、マイネルキッツについてお聞かせください。

国:キッツも特に心配するような事もなく、順調に来て、体調も良さそうです。

‐:マイネルキッツは今年、春の天皇賞を制覇しました。

国:ねえ。松岡(正海騎手)も上手く乗ったしね、馬もそれに応えられるだけの体調だったんじゃないかな、と思います。

‐:天皇賞春の後の調子はどうでしたか?

国:天皇賞後は、宝塚記念に行きましたけど、結果的に調子が落ちて来ていたのかな、という気がしなくもないですね。それとレースが3200から2200に短縮されて、流れも違ったでしょうしね。だから本当は天皇賞春くらい距離があった方が良いのかな、とは思います。距離が長ければ、それだけペースは緩いわけですから、レースでのポジショニングは楽ですしね。

‐:無理せずに良い位置に付けられるという事で。それでこの秋は京都大賞典からジャパンカップに向かわれましたが、このローテーションはいつ頃決定されていたんですか?

国:京都大賞典を使う事は決まっていたんですけど、その後にいろいろな選択肢がありまして、香港ヴァーズへ行こうかという話も出た事は出たんです。でも最終的に、ジャパンカップと有馬の方が良いかな、という事になって、京都大賞典の後にジャパンカップへ進む事を決めました。

‐:そうだったんですね。そのジャパンカップは8着という結果でした。

国:こちらの考えでは、良い位置へつけて、どこかで出し抜いて終いをしのぐか、というような競馬を出来ればと思っていたんです。でも、全然落ち着いてしまって、スタートの後も自分から動こうとしなくて、結局一番後ろからになってしまいましたね。ああいうような競馬では、ちょっと厳しいですね。


‐:なるほど。ジャパンカップは展開的に厳しかったんですね。

国:そうですね。だから、日経賞で2着に来ているような競馬ですね。ああいう感じで、ある程度内目で、流れに乗って終い抜けて来るような競馬が出来ないとキツいかな、と思います。

‐:そうですか。レース後の松岡騎手のコメントでは「京都大賞典よりも良くなっていました。一叩きして馬体が増えていた」とありますが。

国:やっぱり、今の時期は体が増えますよ。どんな馬でも寒くなってくるとどんどん体重が増えて来ますから、そういう意味では自然な流れだと思いますよ。今回もまた増えているんじゃないかな、と思いますよ。

‐:もし増えていても、それは自然の流れだから特に大きな問題は無いんじゃないか、と。

国:そうそう。だから、調教を加減している中で体が太いようでは難しいところがあるけど、ちゃんとトレーニングをこなしていれば、体重が増えても「身になっている」と判断していいんじゃないかと思いますよ。

‐:なるほど。ちなみにマイネルキッツの調教の動きですが、どのように感じられましたか?

国:今日も併せ馬でやりましたけど、動きは良かったですよ。全然問題なかったです。元々そんなに調教駆けする馬でもないですけどね。

‐:そうですか。では、マイネルキッツの好不調を見極めるポイントがあったら教えてください。

国:なかなかこの馬はねえ…、難しいところがあるから(笑)。あまりファイトする感じの馬ではなくて、淡々としているところがあるんですよ。前は子供っぽいところがあったんですけど、ここのところ全然そういうのもありませんし。

‐:そうですか。マイネルキッツもマツリダゴッホと同じ6歳ですが、こちらはこれまでに32戦しています。

国:ゴッホは早いうちからオープンに入っていたから、キッツに比べて使うレースが少ないですね。キッツは丈夫だし、準オープンだとかG3だとかいろんな条件に使って来ましたからね。

‐:着実に力を付けて来た、と。

国:そうそう。そんな感じですよね。

‐:さて、今回は有馬記念に向かうわけですが、マイネルキッツにとっては同舞台の日経賞で2着の実績がありますけれども、先生はこの中山・芝2500メートルとマイネルキッツの相性に関してはどのようにお考えですか?

国:悪くはないと思うんですよね。ただ、ゴッホという馬がいますからね。ゴッホと比べると、やはりコース適性という点では分が悪いかな、という気はします。

‐:逆を言うと、それだけマツリダゴッホのコース適性が高い、という事になりますね。

国:やはり成績を見てもそうですしね。有馬記念を勝って、オールカマーは3連勝しましたし、AJCCと日経賞も勝っていますからね。落馬してしまったけど、セントライト記念も良い競馬をしていましたしね。レースが安定していると思います。

‐:それだけの実績があるマツリダゴッホと比較してしまうと、マイネルキッツも分が悪いでしょうけれど、向いていないという事はありませんよね?

国:はい。春の天皇賞の3200でああいう競馬が出来ているので、中山でもやはりチャンスはあるんじゃないかと思っています。

‐:マイネルキッツの最終追い切りの予定は決まっていますか?

国:来週は松岡に乗ってもらって、併せ馬でやる予定でいます。

‐:併せ馬の相手は…。

国:同じ厩舎の中から選ぼうと思っています。

‐:ジャパンカップの前にはロジユニヴァースと併せ馬をして注目を集めていらっしゃいましたね。

国:あれはね、萩原調教師に果たし状を出されたから(笑)。こちらが調教駆けしないタイプのうえに、向こうはダービー馬で、イキの良い馬だからアッサリとアオられてしまいましたね(笑)。

‐:そうだったんですか(笑)。しかしマイネルキッツのように、調教で動かない馬がレースでは走ったりする事ってありますよね。

国:それがまた面白いんですよね。新馬でもあるでしょう、時計も速いし、騎手も凄いと言っているからって人気になった馬が全然何て言う事はない、という例が。逆に、稽古ではズブくて動かないと言っていた馬が、レースでは動いたり。そこら辺が面白いところですよ。

‐:稽古と実戦が直結しない馬たちがいるんですね。永遠の課題ですね。

国:その理由が分かったら苦労しないですから(笑)。

‐:そうですね(笑)。話は戻りましてマツリダゴッホとマイネルキッツですけれども、レース当日のパドックで、こんな状態だったら良い、というようなものはありますか?

国:もう2頭とも6歳ですし、何回も大舞台に立っていて泰然自若としていますから、パドックでどうのこうの、というのはありませんね。もし発汗がひどかったり、あまりにもチャカついているようであれば、マイナスかなとは思いますけど。

‐:分かりました。では、マツリダゴッホにとってはラストランになる有馬記念ですが、マツリダゴッホとマイネルキッツ、2頭を応援しているファンに向かってメッセージをお願いします。

国:2頭とも順調に来ていて、G1ホースとして恥ずかしくないレースが出来る状態だと思っています。今年最後のビッグレースですので、皆さんぜひ競馬場まで応援に来てください。

‐:先生、お忙しい中ありがとうございました。

国:ありがとうございました。




国枝 栄

1955年岐阜県出身。
1989年に調教師免許を取得。
1990年に厩舎開業。
JRA通算成績は501勝(09/12/16現在)
初出走:1990年2月4日 1回 東京4日  3R シャインハード(11着)
初勝利:1990年 3月10日 2回 中山5日  10R リュウカムイ


■最近の主な重賞勝利
・09年阪神ジュベナイルF (アパパネ号)
・09年天皇賞・春 (マイネルキッツ号)
・07年有馬記念 (マツリダゴッホ号)


09年12月12日に通算500勝を達成し、翌13日には管理するアパパネで阪神ジュベナイルフィリーズを制し、勢いに乗っている。 2009年の有馬記念には、マイネルキッツとマツリダゴッホの2頭を出走させる予定。 2007年に続く、2度目の有馬記念制覇を狙う。