関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

今浪隆利厩務員


宝塚記念間近にゴールドシップ(牡4、栗東・須貝厩舎)の出遅れ癖の秘密や好走時における仕草などを伝授してくれた今浪隆利厩務員だが、ファンの皆さんはこういったサインを見逃さなかっただろうか?今回は喜びに浸る当人に、ゲートイン直前のエピソードや改めての勝因、今後に向けての意気込みを聞かせていただいた。チーム・ゴールドシップの皆様、秋以降も独占取材をよろしくお願いいたします。

ゲート前から絶好調の兆候あり

-:この度は宝塚記念優勝、おめでとうございます。

今浪隆利厩務員:ありがとうございます。

-:直前にお伺いした今浪さんのコメントどおり、直線でブイブイ言わせてくれましたね。

今:言わせちゃいましたね。

-:前日の土曜日朝に馬場を見てきたんですけれど、平日は大雨だった馬場のはずが、全然悪くなくって。その影響があまりにもなくて、これは明日、高速馬場になるんじゃないかって心配していたんです。

今:僕は馬場自体が良馬場でも、雨が降って悪くても、あの馬に対しては阪神の馬場が合うから、良のパンパン馬場でも構わないなと思ってましたよ。

-:それで迎えた当日はゴールドシップのテンションはどう感じましたか?

今:ちょっと今回は馬房の中でテンションが高かったですね。それをなるべく落ち着かせようと思って。前半はそうでもなかったんだけど、昼からちょっとイレ込みだして、馬房につきっきりでずっといましたからね。その分、ナンボか体重が思ったより減ってましたから。

-:そういう不安点もあったかと思うんですけれど、ゴールドシップの覇気自体はどうだったのでしょうか。

今:イレ込んでる中でも、普段、ブルブルしたりだとか、汗がガーッと出るけど、あいつのイレ込みは、元気のいい時は立ち上がったりするから、それをやってたから今日は元気いいなって。

-:それは調子がいいという証拠なんですね。内田ジョッキーに事前に取材した時に「やっぱり、いい時のゴールドシップは馬場入りの時、飛んで出ていく仕草があった」っていう話をしていまして、今回はどうかなと。

今:僕が手綱を離す直前にちょこっと行きそうな格好をして、離した途端に少しだけ上がってピュッと行ったでしょ。

-:それを聞いてたので、飛んでくれたほうがいいなと僕は思ってたんです。そうしたら、微妙に飛んだから。

今:微妙やったなぁ。中途半端な飛び方やなぁって。

-:神戸新聞杯ぐらいからフェラーリのマークみたいに立ち上がったりしてたので。それぐらいではないから、どうなのかなって思ってましたけれど、スタートしたらなんのなんの。ゲートを五分に出ましたね。

今:五分に出て、一応、僕がゲートのすぐ後ろに隠れたんやけど、それでうまいこといったんじゃないかなぁと思って(レース前のインタビューで「ゴールドシップはゲートを出てから、僕を探してしまうから、行き脚がつかない」と今浪厩務員は語っていた)。

-:今浪さんが細かったから良かったんですね。ゲートのところに太い人だったら隠れても。

今:隠れてもな、出るから(笑)。





パンパンの良でも勝っていたはず

-:ゴールドシップはこれまでも先行策はしたことがありましたけれど……。

今:共同通信杯で。あの時は嫌々、前に行ったような感じで。今回は最初だけ、あとはハミが掛かりすぎたんかなっていう感じは、レースを見ていたらありましたけどね。

-:でも、行きっぷり自体はそんなに良くはないじゃないですか?

今:スーッとは進んで行かないけど。ちょこっとね。

-:あの8枠10番という枠も?

今:一番良かったんじゃないですかね。

-:内枠で控える馬とかいたら、邪魔になって先行できなかったかもしれません。あの枠もゴールドシップの持っている運ですね。あとは「最強馬」という競馬で。

今:すごい競馬でしたね。3コーナーから4コーナーの争いがすごかったですね。

-:1コーナー入るまで何をしてるんだと思って、そんなに行って脚なくしたらどうするんだっていうヒヤヒヤ感があったんですけれど、今浪さんは逆に“これぞゴールドシップの強い競馬”という感じでご覧になっていたのですか?

今:いやいや、もうちょっと真ん中あたりくらいでいいかなぁって、フェノーメノの後ろくらいでいいかなとは思ってたんだけど、見ていたら4番手につけて。

-:ゴールドシップとジェンティルドンナ以外に9頭いるんですけれど、実際はマッチレースのような形でしたね。

今:3頭のマッチレースみたいな感じで。やっぱり、レース的には、あの3強が3コーナーからの直線向いてからの争い、駆け引きとか色んなものがあったんじゃないかな。

-:そこからは、どちらかと言うとゴールドシップの逞しさのみが際立って?

今:うん。かかって来られようが何されようが、知らん顔して弾き飛ばして、自分の行く道を走っていったという感じで。



-:結果的には土曜日から使っていく毎に下に水が溜まって、馬が走っていくに連れて液状化現象みたいな感じになって馬場が悪くなったと思うのですが、あのクラスの馬になったら敗因を馬場のせいにできませんからね。

今:そうですね。馬場が悪かったからこの馬が抜いたとか、そんなことは全然思っていない。良馬場でもこれくらいやれる馬だから。競馬は雨降ろうが、晴れようが何しようが、強い馬が強いっていう確信を抱いている。

-:天皇賞(春)が一番人気ながら残念な競馬だったじゃないですか。それは今浪さん自身も悔しかったですか?

今:やっぱり悔しかった。アレがあったから、(レース中の)ゲートから帰りのバスの中で吠えてしまった(笑)。

-:なんて吠えたんですか?

今:「ゴールドシップ行け!」って大きい声で三回吠えました。うるさくて周りに迷惑かけてしまったんですけどね。

-:その雄叫びに応えるように?

今:応えるようにグングン伸びていって、ゴール前というか直線は思ったとおりの競馬をしてくれてね。

-:またしてもゴールドシップが勝つときは接戦にならない、突き放しての競馬でした。ある意味、カメラマンからすると、写真を撮っても面白みがないという(笑)。

今:ないね、他の馬が写ってないから。

-:でも、すごい馬ですね。

今:ホンマにこの馬は……。すごく強いと思いますよ、この馬は。



東京のG1を勝ってから海外に

-:今からの休養で秋に備えてリフレッシュしてもらって、今度こそ良馬場で好時計で勝てるゴールドシップというのを証明していただきたいですね。

今:なんとか“東京の馬場でもこういう強い勝ち方することがでるんや”というのを見せてもらいたいですね。

-:客観的に見て3馬身半差をつけてるじゃないですか。別に無理に先行しなくてもどこから行っても勝てていたのではと思いませんか?

今:どこからでも行けると思うんですけどね。でも、やっぱり、どういう競馬をするのかは馬の状態や馬場を見てから。それからの考えで、次も宝塚記念のみたいな競馬をできるか、できないかというのはやってみなきゃわからないからね。ただ、こういう競馬をしたら安定感もあるし、強い勝ち方もできるんじゃないですかね。

-:今回は頭数が11頭だったんですけれど、今度15頭、16頭、そして、フルゲートになった時にあのポジションがとれたら人気薄の馬に邪魔をされることもないですからね。

今:ないですね。同じような競馬をしていったらゲートも早くなって、スッと楽に前に付けられるような競馬を覚えてくれたら最終的には無敵の馬にね。

-:先生に言うと怒られてしまいそうですが、この馬場で走ったことで、ファンとしてはやっぱり凱旋門賞に向きそうな馬だと思うのですが。

今:向くと思いますよ。



-:ただ今年はプランが無いそうなんですけれど、早く行ってみたいですか?

今:やっぱり、行くんやったら天皇賞(秋)、ジャパンカップを勝ってから胸を張って行きたいですね。

-:是非、向こうから「来てくれ」と言われたい?

今:向こうから「すみません、来てください」って言われるくらいの馬になってから行きたい。

-:それまで怪我をしないでトップで頑張り続けて欲しいですね。

今:無事だというのは何よりも宝物ですからね。

-:ゴールドシップはもう放牧に出しましたか?

今:はい、もう火曜日(25日)に吉澤ステーブルWESTへ。それで、北海道に一週間くらいしてから持って行くんじゃないかな。

-:秋に復帰するときにはまた取材させてください。今回は本当におめでとうございます。

今:はい、わかりました。ありがとうございます。




【今浪 隆利】Takatoshi Imanami

昭和33年9月20日生まれ。小倉競馬場の間近で育ち、16歳の時に名古屋競馬場に見習い助手(赤帽子)として入る。そこで3年間、優駿牧場で1年の勤務を経て、JRAの内藤繁春厩舎の一員に。その後は中尾正厩舎に解散までの24年間勤務。当時の思い出を「大分、先生に鍛えられた。こういう馬はこういう風に、ああいう馬はああいう風にやった方が良いというのを聞かされて、煩い馬は煩いなりのやり方、扱い方を学ばせてもらった」と語る。担当馬の初重賞はシングルロマンの京阪杯。開業と同時に須貝尚介厩舎に入り、ゴールドシップと共に怒涛の日々を過ごす。