元騎手という視点から最新競馬ニュースを大胆解説。愛する競馬を良くするために、時には厳しく物申させていただきます。週末重賞の見所と注目馬もピックアップ!
悔いと杭
2014/10/9(木)
私の様な老兵が偉そうに言えることは、何もないかも知れません。しかし、信じてきたホースマンとして、期待していた分言わせて下さい。結果として、一言で言うならば「何もできない2分」だったと思います。どの馬も、体の仕上がりは抜群に見えましたし、何よりゲートまでテンションを上げすぎず、闘志を消すことなく、返し馬を含め、全てが上手くいっていました。
過去最高の20頭が揃う中、多くのファンが応援し、全てのホースマンが夢を託したレースでは、内枠を当てたゴールドシップはその準備の良さから、いつもよりスムーズなスタートをきることができ、前に出していけばチャンスはある!と思った矢先、スっと後ろへと下げてしまいました。頭数を考えれば、日本のような競馬はできないことが分かっていたと思います。それでも下げたのは、結果として言えば「海外競馬で馬郡を捌く腕がなかった」と言っている様なものでした。
そのゴールドシップよりひとつ前に位置したハープスターもまた、同じことが言えると思います。返し馬の時点で、あまり海外の馬場は向いていないような脚の抜けをしていたのですが、上がりのラスト32秒という数字を見れば、どれだけ馬が頑張ったかが分かると思います。その中で、道中から内を狙うも、あまりにも浅はかな考えで開けてもらえる訳もなく、大外一気を狙うも届くはずもないままレースを終了し、ネットニュースには「悔いはありません」の文字に、失望しか感じませんでした。私が同じ立場ならば「どうやったら勝たせることができた。どうやったらあの馬郡を自分が捌けた」と自らの未熟さを責めていたと思います。
唯一、馬群にトライしたジャスタウェイも向こう正面の下り坂で、思わず手綱を引いてしまったことで、直線でも脚を出すことができずに完敗でした。ただ、ジャスタウェイに関してのみ言えることは距離適性も合わなかったのかなと思います。勝利したジャルネ騎手からも「日本勢はあまりに戦略が無さすぎた」とコメントされる程、騎手達は甘かったと言わざるを得ません。全ては結果論になりますし、それぞれの騎手が考えてきた戦略があったと思います。しかし、それでは全く歯が立たなかった、これが現実です。
世界は日本競馬のように甘くありません。自分達が良いコース、良いレースをすることに命を掛けています。それに比べると甘かったと言われてもしょうがないです。日本競馬の発展と共に海外から知識をいれ、ここまで来たことに満足していては、上は目指せません。その競馬を打ち負かす程の思いと技術がなければ勝てません。私には悔いしかありません。「向かい風も、逆を向けば追い風となる」、この言葉を持って、もう一度、日本競馬、日本人騎手の精神面から技術面の向上を願っています。
そんな凱旋門賞が行われる前には、秋のG1シリーズの開幕を告げるスプリンターズSが何十年ぶりに新潟の舞台で行われました。1番人気にはハクサンムーンが選ばれ、2番人気には夏の北海道から評価をグングンと挙げて、ここまできたストレイトガールが選ばれました。レース前の返し馬で、まず注目したのはクルクルハクサンムーンでしたが、今回はクルクルがないまま返し馬に入ったため、その際に「何か元気がないのが気になるな」と思っていましたが、レースではその予想が、悪い方に当たってしまいました。
そして、レースを制したのは、芝レース初勝利のスノードラゴンでした。芝戦線に参加してから確実に結果を残してきた馬が、この大舞台で初めての勝利を手にしたことは偶然でもなく、必然だったと思います。また騎乗の大野騎手は初めてのG1制覇となり、スタートが上手くでたこと、外から被せるように4コーナーを回れたことが大きな勝因となったと思います。芝にダートに強さを見せるスノードラゴンの万能性にこれからも期待です!
今週は、変則3日連続競馬!土曜日は新設された重賞いちょうSが行われます。今まで、オープン特別として冬のG1戦線に向けて良いステップレースとなっていましたが、重賞になったことでメンバーが非常に魅力的になっています。
その中でも、私の注目はゆきちゃんの気になる新馬でも、その非凡な素質に注目していたサトノフラムです。あの新馬戦のような戦いができるのであれば圧勝も有り得るのではないでしょうか。しかし、個人的にはここで勝利することよりも、違った競馬を試してもらいたいと思っています。それが今後に活きてくるからです。馬は本番でしか試せないことが沢山ありますからね。馬群に入れてみたり、内ラチを背負ったり、馬の後ろにつけてみたり、その中の課題などを洗出してもらいたいと思います。勿論、その結果、勝利するのが一番ですよ!
最後の月曜日の京都大賞典では、開幕週を活かし、前につけることができればラストインパクト、できなければ京都巧者トーセンラーの2頭に注目していきたいと思います。日本競馬はまだまだこれから!皆様の応援なしでは成り立ちませんので、応援宜しくお願い致しますね。
プロフィール
松田 幸春 - Yukiharu Matsuda
北海道生まれ(出身地は京都)。1969年騎手デビュー。通算成績は3908戦377勝で、その中にはディアマンテ(エリザベス女王杯)、リニアクイン(オークス)、ミヤマポピー(エリザベス女王杯)など伝説の名馬の勝利も含まれる。1987年にアイルランドの研修生として日本人騎手では始めて海外の騎乗を経験しており、知る人ぞ知る国際派のパイオニア。1992年2月の引退後は調教助手に転じ、解散まで伊藤修司厩舎の屋台骨を支え、その後は鮫島一歩厩舎で幾多の名馬を育て上げた。時代を渡り歩いた関西競馬界の証人であり、アドバイスを求めに来る後輩は後を絶たない。