異国の地、ドバイでの圧勝劇によって世界No.1ホースの座を獲得したジャスタウェイ。帰国緒戦となった安田記念では、僅か9cm差の大接戦を制し、改めて自身の能力を証明。次なる道は、まだ日本馬が成し遂げていない凱旋門賞制覇へと定められた。競馬ラボでは恒例となった大和屋暁オーナーへのインタビュー。今回は大一番を目前に控えた現在の心境を伺った。


-:前回、ドバイが終わってからのお話は伺っておりますので、安田記念から振り返っていただきたいと思います。大接戦になりましたね。

大和屋暁オーナー:大変な一戦でしたね。レース中も2度負けた、と思うシーンがありました。まず、一つは直線での進路取り。外に出さなかったじゃないですか?あそこでヤバいとは思いましたね。そして、もう一つはグランプリボスが抜け出してきた時。良い脚だっただけに、敗戦を覚悟しました。

-:確かにあの進路選択もレース中に見ている時はどう出るのかな、とヒヤヒヤしました。

大:あるカメラマンの方に聞いたのですが、ジャスタウェイが通ったあの一頭分だけ、グリーンベルトができていたようなんです。カメラで見て、芝が綺麗だったらしいんですよね。グランプリボスとぶつかり合っていたのも、グランプリボスがヨレていたのもあると思いますが、そこの取り合いがあったようです。しかし、ジャスタウェイはよくぞ頑張り抜いてくれました。

ジャスタウェイ

ジャスタウェイ

-:その安田記念は不良馬場、直前の乗り替わりなど、ジャスタウェイにとってはお馴染みというべきか、不安材料がたくさんありましたね。

大:本当にサダムパテックの陣営の方々には申し訳ないことをいたしました。セレクトセールの時に大西オーナーにお会いをして、ご挨拶をしたのですが、懐の深い、大きな方でした。

(※柴田善臣騎手は本来、サダムパテックに騎乗予定だった)

-:その後、サダムパテックが勝ってくれたことも何よりでしたね。

大:そうですね。応援をしていただけに嬉しかったです。

-:そして、安田記念を終えて、レース直後の検量室前で「凱旋門賞」レース名を明言されました。レース直前にそのプランも意識されていたのですか?

大:ええ。ただ、本当は宝塚記念も使う約束だったのですが、出走が叶わなかったですね。でも、結果的にはゴールドシップも宝塚記念を勝ってくれて、こうして2頭で出られるわけですから、良い流れになったのかと思いますね。そして、このローテーションになったことで不安材料をささやかれるでしょう。1600mから2400mへの距離延長とかね。そうやって言われることは、こちらとしては大歓迎です。

-:未だに距離の話を言われてしまうのか、と個人的にも思ってしまいますが……、他には「休み明けで凱旋門賞を勝つ馬はいない」という声もありますね。そして、輸送のトラブル。関係者にとっては大変だったでしょうが、こういうアクシデントがあると、(逆境を乗り越えてきた)ジャスタウェイ向きの流れなのかと思ってしまいました。

大:輸送は大丈夫でしょうね。「無事、到着しました。平熱です」と聞いていますし、一度、ドバイに行ったことで慣れもあるようですね。

-:凱旋門賞へ向かうにあたって、大和屋さん自身の心境、モチベーションはいかがですか?

大:緊張というか、緊張し過ぎて、わけわからなくなってきました。緊張感が一回りした感じですね。そして、今日は風邪の予感……。これは危険な香りがします(笑)。

-:これからフランスへ行くわけですから、風邪をひくわけにはいきませんよね。ドバイが終わってから取り巻く環境は変わってきましたか?

大:前回のインタビュー当時は頭を悩ませる話が多かったのですが、凱旋門賞に行くと決めてからは落ち着いてきましたね。

-:その凱旋門賞はだいぶ前から意識していたものでしたか?

大:う~ん、須貝さん(須貝尚介調教師)から海外のレースに登録を行う一環で、「一次登録をしますよ」とハッキリ連絡を受けた頃からかな。凱旋門賞も視野に入れた上で、安田記念は受けて立つ立場だったじゃないですか。絶対に勝たないといけない、と見られていたから、嫌だなあと思っていましたよ。

-:宝塚記念にいっていればコーナー4つのコース形態や距離も疑問視されて、挑戦する立場だったかもしれないですよね。それに安田記念は馬場も悪くなっただけに、陣営としてはやり辛いレースだったでしょうね。

大:そうですよね。しかし、ドバイを勝てたことは本当に大きいですよね。あれ以上のレースとなれば、凱旋門賞という答えしかないでしょうし、行くところまで行ってしまえ!と思いきれました。

ジャスタウェイ

-:ただし、大和屋さんのお話を伺っていると、非常にファン目線に近いというか、ファンが楽しめる競馬を提供してくれていますよね。

大:どうなんだろうなあ。もちろんファンの気持ちも大事にしたいですけれど、それだけではなく、関係者の意見もありますからね。今回に関してはドバイ以上のレースって何だろう、と考えた時に“凱旋門賞じゃないの?”としか思えなかったですから。結局、G1を勝った時に須貝先生が「僕らだけの馬じゃなくなった」と言ったじゃないですか。それはファンや関係者の意見も汲み取っていかないといけないし、皆が納得できるようにね。そういうことなのだと思いますよね。

-:他のオーナーよりもファン目線に近いところは大和屋さんの良さなんだと思いますね。

大:ふざけるわけではなく、やっぱり面白い、楽しめるものが良いじゃないですか。ジャスタウェイの走り、競走馬生活を見て、楽しんでくれたらいいんじゃないのかとは常に思いますね。