若手騎手を育てるための体制づくり

-:一方で、西川オーナーは日本馬主協会連合会の副会長も務められています。その集まりというのも頻繁にあるのですか?

西川:ありますよ。「企画予算委員会」は、翌年度の賞金、見舞金、その他をどうしようかということを、会長さんが集まってやる会ですね。「総務委員会」というのは、全体的な流れを見て、色々なお金の掛かる部分等を見直します。「労務・預託委員会」は調教師と馬主に焦点を当てます。僕はその委員長をやっているのですが、「渉外事故防止委員会」というのは地方競馬のG1レースの賞品を出すのと交流競馬。それから「競走馬資源委員会」というのは、セリの立ち合い、スムーズに進行するように競馬会と話し合うという形です。

-:そう考えると、ご自身のお仕事がある中で、馬主としての仕事の負担も相当なものですね。

西川:だから、競馬場に行くと「議事録が出たんですけど、ちょっと眼を通してもらえますか?こういう人が入会してくるので、ちょっと面接をしてくれ」なんて絶えず何かがありますね。労務・預託委員会というのは何のためかというと、預託料を軽減するためですから。基本預託料というのは各厩舎全部違うんですよ。基本預託料が40万とか、そこに何があるかというと、雇用している厩務員が52~3歳だと一番給料が高いわけです。それを馬主が負担するわけにいかないから、厩舎の中で割って、厩舎で歳を取った厩務員が多いとそれだけ給料が高いから預託料も高くなるんです。

安藤:年功序列なんだね。オレら地方から来た人間からすると、ベテランが反対にできないこともあるんですよ。危ない馬なんかは手伝わなきゃ一人で御せないとか。

西川:例えば、関西は出入りが激しいじゃないですか。28馬房が一番多くて、そうすると外にも40頭いるわけ。40頭入れ替えようとしたら、厩務員だって面食らうわけですよ。それを厩舎の中で、進上金はみんなで分けっこしような、というシステムができれば、若い人もベテランも手伝って頑張れば、みんなに入ってくるんだぞ、というこのチームワークが必要なんですよ。それと、労働基準法というのがあって、組合はしょうがないんですよ。今年なんてアベノミクスで企業は(給与を)全部上げてるでしょ。その分を要求していると思うんですよ。

安藤:オレが中央に入った時に「毎日調教に来てもらったら困る」と言われたの。正直、毎日調教はやるもんだと思っていたのが、ジョッキーが毎日調教をバンバンやったら「厩舎のスタッフが困る」と。それだけ中央の乗り役は楽ということだよね。一方でそれでは若い乗り役が育たない部分もあるのだから、もっと乗り役は毎日調教で忙しくした方が上手くもなるし、そうすれば攻め専なんて必要ないわけだから。

「もっと乗り役を有効に使ってほしい。それだけ乗り役も数を乗れば上手くなれるのだから。毎日一頭の馬に乗ってつくる、育てるくらいにならないと。乗り役が怠けているのではなくて、使う方も考えないといけないよね」(安藤勝己)

西川:ジョッキーが乗れば良いですよね。それで癖も分かると思いますよ。いきなりテン乗りで「頼むよ」と言われるよりも。

安藤:地方では毎日調教するのが当たり前だと思っていたのが、全然違うんですよね。「ウチでやるからええ」と。だから、本当はあれだけ人を使う必要はないよ。出張とかがあるから、そういう時だけはいるかもしれませんが、全然動いてないです。それだけ手が余っているのに、調教もできない乗り役が一杯いるのだから。やりたくてもやらせてくれない。調教させたらレースでも乗せなきゃならないから。

「攻め専」といいますが、毎日、調教をやっていれば騎手の方が絶対に上手いですよ。レースに乗せる、乗せないは別で、それだけやらせているのだだから、たまにコイツを乗せるかという気持ちになるやん。もっと乗り役を有効に使ってほしい。それだけ乗り役も数を乗れば上手くなれるのだから。特に若手なんかはね。トレセンで1日1~2鞍乗って帰るのはどうなんやろ?減量ジョッキーだったら、最低5鞍は乗りたいよね。毎日一頭の馬に乗ってつくる、育てるくらいにならないと。乗り役が怠けているのではなくて、使う方も考えないといけないよね。


西川:今、仰っているように「乗せてやるから乗ってくれよ」と。「その変わり2週間頼むな」と言われた方が、乗り役としても意気に感じますよね。この程度にしよう、明日もちょっと跨いでみよう、これぐらい強くやったけど、右にちょっと疲れが出てるから来週はサッとやってみましょうよ等、厩舎と会話ができるわけで。それこそ調教助手にどうだったか聞いて「物見するけど、レースでは大丈夫。ちょっと右に疲れが」と自分が乗ってないのに言われたって、10鞍も乗っていると忘れるはずです。自分で乗っている馬だったら、ああ、この馬かと、そういう感覚が掴めるわけで。

安藤:地方にいた頃は1頭の馬にくっ付いて歩いて、それぐらい若い衆が一生懸命やっているのを見ると、こちらも力が入り過ぎちゃうという部分もあったものの、そういうのが全然なくなったら、反対に寂しいなという感覚がありましたね。ただ、新馬前等は乗せてもらっていたから、この馬はやっぱり走りそう、と感じたり、そういう楽しみはすごくありましたね。

西川:新馬なんか使う前はジョッキーに「ちょっとこれだけ頼むよ、レースも乗ってもらうから君やってくれよ」というコミュニケーションが絶対に出てきますね。

安藤勝己×西川オーナー

「ジョッキーをもっと調教に乗せるべき、使うべき」と説く安藤勝己氏


-:新馬といえばファクターの少ない条件です。馬主さんは競馬関係者の中では堂々と馬券が買える立場じゃないですか。どんなことを参考に馬券を買われるのか、ご自身の馬が出走する時にも買われたりするのですか?

西川:やっぱり、預けている厩舎の成績が結構上がっていると自分の馬の状況も聞くじゃないですか。「今週何か使うのいるの?」と聞くと、調教師は「これとこれを使いますよ」と言うの。「前回何着に来てるから、良い競馬はしますよ」と聞いたら参考にしたり、あとは乗り役にも状態を聞いたりして、僕の場合はそれですね。競馬が心から好きなので、パドックで馬を見てという、自分の手の内もあるの。例えば、ガレていても、ガレていた中で張りがあったり。テレビでは分からない、眼が違ったり、そういう部分ですね。パドックに行ったら、ファクターとなるのは張りと眼。やっぱり、キョロキョロしていたり、何か落ち着きがないとイラついているなという見方をしちゃうね。人間も嘘をついていると分かるのは眼だからね。

安藤:大体、馬を見る時はそうだよね。やっぱり、人間も眼だよね。でも、騙されますけど(笑)。

西川:良い顔しているなと思っても、本当に騙されますよ。自分の好みというか、僕の場合はどちらかと言うと、眼がグリッと大きな馬が好きなのですよ。例えば白目。意外と目尻が尖がっている馬がいるの。そういう馬は利口だと思うんです、自分の中で。利口の馬とちょっと怠ける馬と、それはやっぱりあるんですよね。勝負所を自分で知って動く馬とかね。そういうのは馬相に表れてきてるんじゃないかと思うんですよ。自分なりに、勝った馬を見た時に、この馬はすごい顔をしているなと感じることはありますよ。