イン強襲!ダノンシャークがハナ差でG1初勝利!!

ダノンシャーク

14年11月23日(日)5回京都6日目11R 第31回マイルチャンピオンS(G1)(芝外1600m)

ダノンシャーク
(牡6、栗東・大久保厩舎)
父:ディープインパクト
母:カーラパワー
母父:Caerleon

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小春日和の3連休のど真中。昼を過ぎてからどんどんと場内は家族づれが多くなる。ファンファーレが鳴った時にはテラスには人、人で黒くなっていた。
西日に向かって進む2コーナーの少し奥からのスタート。ミッキーアイルを制して先手を取ったのがホウライアキコ。1000mが56.7の超ハイペースとなった。好位置から内目で脚を伸ばしたフィエロが勝ったと思えた瞬間に、その内から忍び寄ったのがダノンシャーク。向こう正面で内目に入る。4角もうまく廻り、眼の前にフィエロが追い出した後を、さらに内目から抜いていく切れ。
G1初勝利をダノンシャークにプレゼントした岩田J。岩田Jの乗り方の凄さが、まさしく勝利に導いたものであった…。


ゴール手前で観ていても、内のダノンシャークか外のフィエロなのか、勝者が判らなかった。検量室の黒板にはダノンシャークの⑫番が先に書いてあるが、これが必ずしも正しくない例を何度も観てきた。信用は出来ないが、ひとつの安心感をもたらす。判定を待つ2頭の馬が枠場のあたりを周回している。金子真人オーナーも夫人も急いで下りてきていた。
岩田Jが『よっしゃー!』という小さな声を出し検量室に入って行ったのを聞いた。本人は判っていたのだろう。そして少ししてJRAの職員がダノンシャークの担当さんの傍に寄っていき、1着の枠場を指して促した。その時にスタンドの方からだろう、『オオ~ッ!!』の歓声が聞こえてきた…。

ミッキーアイルはスタートは悪くなかった。むしろいつもより早めに出れていた。しかし強引に行く気はなかった様子。内を観ている浜中Jだった。その意向を判っていたのか、和田Jがホウライアキコを促していくうちに先手となった。思わぬ先手なのか、ホウライアキコが行く。ややミッキーアイルは掛かり気味の感じ。前半の3Fが33.7だから、ムチャクチャに速いわけではない入りだ。

しかしそこからの流れが緩まず進む。ミッキーアイルと2、3馬身あったホウライアキコとの差が短くなっていき、ラスト800を過ぎたあたりでは、もう前を交し気味となっていく。絶好の5、6番手にフィエロがいた。トーセンラーは外めの後ろから5頭目ぐらい。内に入れる気配はどこにもなかったし、また選択肢にもなかった様子。4角に入っていく時は、少し馬群の中めへと入れられてカーブを小さくは廻ってきている。
直線に入ってきた。先頭となったミッキーアイルだが、内へササり気味。その外へすっとフィエロが出してくる。ラスト300を過ぎてフィエロが先頭、グランデッツァが並びかげんだ。外ではトーセンラーが上手く馬群をさばいて脚を伸ばしだす。

月曜の東京競馬場。検量室の入り口で岩田Jに出逢った。声をかける。《よく向こう正面ですっと内に入れるタイミングが出来たな~、あれがポイントだったんじゃない?》と向けると『ええ、あ!内へ入ったって感じでした。4年前にエーシンフォワードで勝った時と、まったく同じ。うまく行くもんですね~』と自分でも驚く程に同じ様に乗れた点を強調していた。
スタートして徐々に内目に入れてきていたダノンシャークだったが、2F過ぎぐらいに内にいたワールドエースが前に出して行った。その開いた処へスンナリと納まるダノンシャーク。ワールドエースが並んだその前の列には、フィエロやレッドアリオンがいる。2馬身ぐらいの間隔が開くぐらいダノンシャークの前は、プレッシャーも何もない位置となった。

3角の坂は内ラチ沿いを進むダノンシャーク。気がつけばワールドエースと内外が反対になっている。4角手前では前にいるレッドアリオンの外へと出していく。ちょうど、目の前はフィエロ。
後刻にインタビューで岩田Jが《フィエロが道を造ってくれるはず》と述べていた様だが、まさしくフィエロの後を追うように直線へと入ってきた。そしてラスト300で、フィエロが先頭に立ちかかる時に、僅かに進路を右に取ったダノンシャーク。いや岩田Jと言った方が適切か。
フィエロは外に上がってきたグランデッツァとの叩き合いをしている。その内へ、ラチ沿いをグイグイと襲いかかるダノンシャーク。左ステッキから手綱をしごく所作となったフィエロの福永J。場内のアナウンスも『フィエロかダノンシャークか!』と、どちらが勝ったかを言えない程に、鼻づらを併せてのゴールだった。

トーセンラーもうまく外へ出せて、並ぶ馬群をこじ開ける様に出てきた時は《間に合う!》と思えた脚色だった。しかしそこからがガツンと伸びてこなかった。去年ほどの勢いのついた迫力ある伸びとはならなかった。時計もかなり速い決着となったのもあったか。
完璧に力を出し切った福永Jのフィエロ。頭の上げ下げでの勝敗で、単に運がなかったとしか言いようがない。完璧なフィエロをも上廻った《神ががり的な乗り方》の岩田J。おそらく今年でいちばん巧く乗れたレースだったと、心の中で思っているかも知れない。

そんな馬と人の造った素晴らしいレースを観た想いであった。


平林雅芳 (ひらばやし まさよし)
競馬専門紙『ホースニュース馬』にて競馬記者として30年余り活躍。フリーに転身してから、さらにその情報網を拡大し、関西ジョッキーとの間には、他と一線を画す強力なネットワークを築いている。