壮絶なるデッドヒート、最後の最後に前に出たのはマカヒキ!

マカヒキ

16年5月29日(日)2回東京12日目10R 第83回東京優駿(G1)(芝2400m)

マカヒキ
(牡3、栗東・友道厩舎)
父:ディープインパクト
母:ウィキウィキ
母父:フレンチデピュティ

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人、人、人で溢れる東京競馬場。午前と違って風も少し出てきて、観戦するのに最高の舞台設定だ。スタンドの上階から鶴瓶も手を振る。国歌斉唱で痺れた後に、手拍子でのファンファーレ。ボルテージも凄かったが、歓声となったのはゴール前のマカヒキかサトノダイヤモンドかと、2頭が頭の上げ下げでゴールに並んで入った時だった。僅かに内が出ている様に見えたが判らない。しかし馬上の二人は知っていた。ルメールが、川田とタッチした映像が後で流れた。蛯名の悲願のディーマジェスティは半馬身遅れる3着。だが上位3頭は、力の差はほとんどないと思えるハイレベルなサラブレッドであるのは間違いないと感じた瞬間でもあった…。


もしもを言わせて貰う。《もしもエアスピネルが、4コーナーで外へ逃げ加減にならなかったら…》そこで鞍上がステッキを2発も入れて矯正している事実。そのすぐ後ろがサトノダイヤモンドだ。《もしもあそこでエアスピネルが先に動かなければ…》で、まだまだある。ゴールまでラスト200のところだ。エアスピネルが先頭に立ち、すぐ後をサトノダイヤモンドが追いかけて来ていたが、あそこで《もしもサトノダイヤモンドが外へ流れなかったら…》あれほどに、パカッとエアスピネルとのサトノダイヤモンドとの間が開かなかっただろう。《もしもルメールがあそこを締めて追えていたなら…》であった。
《もしも、もしも》ばかりでは、物事は始まりも終わりもしない。また、もしもなんて事にはならない。すでにこの結果と言うものが出ているのだから…ではある。

今回もひとつ前の《むらさき賞》はパドックで馬を見て、そのままレース観戦もあきらめて居座り、ダービー出走馬を待った。パドックの周りもすごい人で、身動きがとれないぐらい。今年も客の入りは悪くなさそうだ。
やがて入場してきて周回し始める。中にも続々と出走馬関係者が中へと入って、いやがおうでも雰囲気が上がっていく。iPadで1頭ずつの写真を撮ったりしてその場を楽しむ。
ディーマジェスティは落ち着いてドッシリとしている。マカヒキも大観衆をなんとも思っていない様子。サトノダイヤモンドも悪くない。エアスピネルも前走よりはだいぶ落ち着きが出てきた。リオンディーズはやや発汗が目立つ。スマートオーディンの毛艶もいい。

そしていつもの場所で、馬場入場から返し馬と見る。サトノダイヤモンドがパドック時よりも少しうるささが出てきていた。マカヒキは変わらず、クビをぐっと下げて4コーナーへの方へと返し馬をしていく。ディーマジェステイも落ち着きはらってキャンターに入って去って行った。1コーナー奥のポケットにてたった1頭でポツンと時間を過ごしていたブレイブスマッシュが目の前をゲートの方へとキャンターで行く。だが時折、内ラチの方へと逃げる仕草。まるでスタンドの大観衆に怯えて、馬の気持ちが逃避に入った感じ。これがダービーなんである。

ダービーの流れは、私のつたない文で書き綴るよりも各人が見たイメージで思い出して欲しい。
逃げる馬が逃げて、主力馬が意識した様に中団で同じ位置にいた。リオンディーズが今回は後ろから行っているのも読みどおり。それでも最初は掛かっていた。エアスピネルの武豊が、3角手前でしきりに後ろの動きを気にしているのが見て判った。PVでも二度ばかり股の下からと左から振り返って見たのを確認した。それほどにいいポジションでいたし、いい流れで進んでもいた。そしてあの4角での所作であり、直線での先に仕掛ける流れとなっていくのである。
そして最後はあのゴール前の、マカヒキとサトノダイヤモンドのデッドヒート。マカヒキとサトノダイヤモンドの差は、《8センチ》だそうである。ハナ差抑えてのダービー優勝。マカヒキにもっとも『運』があったのである。

火曜朝の坂路上の監視小屋。当然の様にダービーが話題となる。音無師が『蛯名も1番引いているのに、最初から外へ出す気持ちだものな~。内で競馬していたら、ディーマジェステイも判らなかったんじゃないの。何せ、この上位3頭は強いよ。これからもいい戦いをする馬達じゃないの…』との意見だった。
いつも少し遅れた時間差で入室してくる友道師。今朝もそんな会話が盛り上がっている時に入ってきた。当然に小屋の中からも、坂路の下を通る馬上の関係者からも祝福の声をかけられる。それに一人ひとり言葉を返す師だ。昨日の敵も過ぎれば仲間なんである。
ダービーのゴールを過ぎて、すぐにルメールが川田にタッチして祝福をしていたシーンがある。これがホースメンなのである。

そうそう、音無師が『日曜の晩は祝福の宴だったのか~』と尋ねる。それに友道師は『ルメールと一緒にご飯を食べましたよ…』と『いや、偶然に一緒になったんですけど』と言うのがおかしかった。
そして日刊スポーツの中西記者が執拗に《凱旋門賞へのチャレンジはどうですか》の質問ばかり。まだまだ何とも言えない状況の様である。
最後に音無師へ、《この監視小屋からまたダービー・トレーナーが生まれたね。あと、残るのは音ちゃんと須貝師…》と声を振ると、『そうプレッシャーをかけるなよ…』といいながらも、まんざらでもなさそう。
そう、すでに来年のダービーへの道が今週末から始まる。2017年のダービー馬たらんとする戦いが始まっていくのである…。


平林雅芳 (ひらばやし まさよし)
競馬専門紙『ホースニュース馬』にて競馬記者として30年余り活躍。フリーに転身してから、さらにその情報網を拡大し、関西ジョッキーとの間には、他と一線を画す強力なネットワークを築いている。