勢いが1頭だけ違う脚!キョウヘイが雨のシンザン記念を勝利!!【平林雅芳の目】

キョウヘイ

17年1/8(日)1回京都3日目11R 第51回シンザン記念(G3)(芝外1600m)

  • キョウヘイ
  • (牡3、栗東・宮本厩舎)
  • 父:リーチザクラウン
  • 母:ショウナンアネーロ
  • 母父:ダンスインザダーク

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2Rの前あたりからついに雨が降りだした。稍重から重まで直前に進行してしまった。やや速い流れで推移して、先行馬と後続が入れ替わる直線半ば。トラストが出て内からペルシアンナイトが顔をのぞかせるが、馬場の外をタイセイスターリーの勢いがいい。ところが先頭に立ち気味になった時に、ブレーキをかける様に外へと流れた。その空いた間を一気に脚を伸ばしてきたのがキョウヘイ。あっと言う間に1馬身の差をつけてゴールへと届いた。
馬場悪で、父がリーチザクラウン。あのダービーを思い出させる様な産駒の初重賞勝ちとなった…。

傘をさして誰もいない2階のテラスから周回する馬を観ていたが、雨中では馬もモヤって良く見えない。ましてや冬の雨である。寒さも伴って長い間見てもいられない。ヨレヨレになってしまった専門紙。早々にスタンド内へと引き上げた。
返し馬もゴール前まで来る馬がほとんどいない状態で、早々と1コーナーへと去っていく馬ばかり。雨降りの日は肝心のデーターが少なくなってくる。見た目には芝はそんなに水を吸っているのかと判らない状態だが、スタンドを一歩出た外ではかなりの水たまりが出来ている。少なくともディープインパクト産駒やスピード、切れ味タイプの馬では動けないだろうと思える馬場コンディションだ。

当然に、武豊Jに乗り替わったタイセイスターリーを中心に見る。スタートは五分以上に出た様だ。前に行くことはないだろうとは思っていたが、馬場が馬場だけに判らない。でも内から幸四郎Jのメイショウソウビが行く。続いて馬体がやけに良く見えたブラックランナーが行く。PVでスタート直後を見直すと、キョウヘイの出があまり良くない様に見えたのも、わざとユックリめにしたのだと後で知る。

ブレイヴバローズにトラストと、前を形成していく。人気のペルシアンナイトはジンワリと行って、向こう正面では後ろから4頭目ぐらいで、内目をジンワリと上げて行っていた。先頭のメイショウソウビは、やや外へ張り気味なとこをもあったりした。この馬場で前半3Fの34.5に1000mの59.5は、かなりのハイペースであっただろうと思える。好位にいたタイセイスターリーの武豊Jが、ポジションをぐっと下げたのも当然だっただろう。

直線入口のラスト300までもう少しのあたりで、メイショウソウビが外へまた流れた。その後ろにいたアルアインが手綱を引くアクシデント、その後で体勢を立て直して内に入って少しは脚を使ってはいたが、アルアインにはあの不利はかなり響いた様だ。真ん中を走っていたペルシアンナイトはそのアクシデントのあたりでジッとしており、ラスト1ハロンからトラストの内へ入りこみ、脚を伸ばしてくる。進路を確保して、しっかりと伸びて一瞬は内ラチ沿いを先頭となるシーンもあったが、すぐにキョウヘイの鬼脚に飲み込まれ、最後はタイセイスターリーにも差されていた。

最後方にいたキョウヘイが先頭から20馬身近い差だったが、4コーナーに入る時は5、6馬身差で、大外のタイセイスターリーとほとんどタイム差のない位置にいる。大外を廻って上がっていくタイセイスターリーは、ややロスのある廻りかた。外へ後脚が流れる感じにも見受けた。内ラチをグルっと廻ってきたキョウヘイは、あっという間に馬群の中のエアポケット状のところにいる。

大きなアクションで、馬を外めへと進路を促す高倉Jの動き。それに応えて少し外へ出たキョウヘイ。すぐ前のマイスタイルとタイセイスターリーの後ろまで接近する。そしてマイスタイルとタイセイスターリーの間がごく自然な様に空いていくのだから、神がかりと言っていいだろう。タイセイスターリーが、兄ミッキーアイル同様の癖があるのか、外へと流れてしまう。難なくその間を入って行くキョウヘイ。高倉Jの左ステッキで促されスイスイと前へと進んで馬群を抜け出して、ついに先頭に躍り出た。ゴール前では高倉Jの左手でのガッツポーズまで見られた。会心の騎乗であり、最高の結果を導いた瞬間であった。

宮本師は橋口先生に可愛がられていた。橋口弘次郎先生の管理馬だったリーチザクラウンの子供で重賞勝ちをする、この繋がりが実にいい。
宮本師の前回の重賞勝ちが、2年前の2015年11月7日の京王杯2歳Sのボールライトニング。初重賞勝ちが小倉2歳Sで、2008年夏のデグラーティアを浜中Jで勝った様に、2歳もしくは3歳になりたての時期と若駒で勝っている。また鞍上の高倉Jは、今年の初勝利がシンザン記念勝ちと最高の仕事ぶり。フラガラッハで勝った前回が、2013年夏の中京記念。その時以来の重賞勝ちでもあるし、最高の騎乗で勝利を勝ち取ったものだ。

また馬名の『キョウヘイ』がどんな由来なのかと調べようと思ってもいたが、月曜のスポーツニッポン紙に詳しく書いてあった。オーナーの知人の息子さんが、21歳の若さでガンで亡くなった。競馬好きで最後に観たレースが、シンザン記念。その彼の名前を貰った『キョウヘイ』がシンザン記念を勝つのは、勝負の神様の心の中では決まっていたのだろうと思えるもの。
タイセイスターリーが外へ膨れなかったらとかそんな小さなことではなく、大きな力が淀の雨空の上にあったのだろうと思えてならない今年のシンザン記念であった…。


平林雅芳 (ひらばやし まさよし)
競馬専門紙『ホースニュース馬』にて競馬記者として30年余り活躍。フリーに転身してから、さらにその情報網を拡大し、関西ジョッキーとの間には、他と一線を画す強力なネットワークを築いている。