研究員ヤマノの重賞回顧

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9/29(土)、札幌競馬場で行われた札幌2歳S(2歳、G3・芝1800m)は、オリエンタルロック(牡2、栗東・田所秀孝厩舎)が6番人気ながら最後方からマクリ気味に上がって行き、豪脚を爆発させて快勝した。
今回鞍上を務めたのは、弟の幸四郎騎手から乗り替わった、武豊J。
この勝利で武豊Jの名声は、否が応でもまた一段と高まることであろう。
リーディングジョッキー争いで、ついこの間まで、トップの岩田騎手に大きく水をあけられていたいたのに、あれよあれよという間に勝ち星はトップに並んでしまっているのだから、やはり並みの手腕でないことは確かだろう。
今回も、気性の難しさが課題とされ、3戦目でようやくクビ差で勝ち上がった馬を重賞で優勝させてしまうのだから凄い。
しかし、この激勝の裏には興味深い余談がある。
それは、ここがテン乗りになる武豊Jが、レース前に幸四郎Jにこの馬の話を聞いた末に、終いに賭ける作戦に出たということだ。
弟、幸四郎Jの存在が少なからずこのレース結果に影響があったわけである。
このように兄弟という特殊な関係になくても、騎手がテン乗りの場合には、前任騎手に意見や情報を聞いてレースに臨み、それが好結果を出すということはままあることだ。
レース結果を左右するのは、馬の能力や調子、騎手の技量などさまざまな要素があるが、こういった情報も一つの大事なファクターであるということを、改めて認識させられた。


同29(土)、阪神競馬場で行われたシリウスS(3歳上、G3・ダート2000m)は、ドラゴンファイヤー(牡3、美浦・久保田貴士厩舎)が1.8倍と圧倒的な支持を集めて優勝した。
これで4連勝で重賞制覇。
実に楽しみな馬が現れたものである。
これで次はJCDへと駒を進める事になろうが、もちろん今回のように楽なレースにはならないだろう。
今回は長休明けで+16kgでの出走だった昨年のチャンピオン、アロンダイトも当然立て直してくるだろうし、斤量差も詰まる。
更に多士済々な顔ぶれが予想され、ドラゴンファイヤーにとっては次走のJDCこそが試金石の一戦となるだろう。
ところでJCDといえば、忘れてならない馬が一昨年の王者強豪カネヒキリ。
現在、このカネヒキリが苦境に立たされている。
周知の通り長らく屈腱炎を患い苦しんでいて、引退が噂された同馬であった。
しかし、引退して種牡馬になるためには、芝実績がないことから評価が低いとの陣営側の判断により現役続行、休養に入ったということだ。
そこで今秋の武蔵野Sに向けて調整されていたが、屈腱炎を再発し、再度療養に入った。
芝のスターホース、ディープインパクトと、かつてダート王と謳われたカネヒキリ。
この2頭はオーナーが同一であるが、片やファンに惜しまれつつ昨年引退。
片や怪我に苦しみながら、未だに現役続行を余儀なくされている。
この2頭の境遇の違いには、真に深い感慨を覚えざるを得ない。


翌30日(日)、中山競馬場で行われたスプリンターズS(3歳上、G1・芝1200m)は、中舘英二騎手騎乗の3番人気アストンマーチャン(牝3、栗東・石坂正厩舎)が、不良馬場をモノともしない回転の速いフットワークで中山の坂を一気に駆け抜けてG1王者に輝いた。
アストンマーチャンは春のG1戦線では、G1王者の称号にあと一歩手が届かなかった。
その後路線を短距離に変更したものの、夏の北九州記念では、6着と案外な結果に終わっていた。
そこで陣営は早いうちからこの中舘騎手に白羽の矢を立てたという。
中舘騎手の逃げの巧さは誰しもが認めるところだ。
そして本番。アストンマーチャンの回転の速い独特の走法は、中山の坂適性は十分にあるように思われた。
しかしながら、個人的にはレースが始まるまでは半信半疑だった。
ところがゲートが開くや否や矢のように飛び出したあの行きっぷりは、まさに圧巻だった。
今回は絶好枠を引き、道悪の適性もあったのかもしれない。
しかし、それを差し引いてみても、あの競馬をされたら他馬はなす術もないだろう。
よく“人馬一体”という言葉を耳にするが、まさにその言葉がピッタリ合うような今回の中舘騎手&アストンマーチャンだった。
良きパートナーとの出会いこそ、能力を最大限に引き出せる最高のファクターなのかもしれない。