無限の可能性を秘めたドバイWC挑戦 エピファネイア
2015/3/26(木)
-:ドバイワールドC(G1)が目前に迫ったエピファネイア(牡5、栗東・角居厩舎)です。振り返ると有馬記念は残念な結果だったのですが、そこから振り返っていただけますか?レースは緩急が付き過ぎたというか、あの馬にはジャパンCのようなラップの方が良さは出るのかなと思ったのですが、いかがでしたか?
鈴木博幸調教助手:何が原因なのかは正直分からないですけどね。馬も落ち着いていましたし、道中の折り合いも問題はなかったです。しかし、終いは伸びなかったということで、原因がどこにあるかというのは何とも言えないですね。それこそ、先生(角居勝彦調教師)が言うように「馬場が合わなかった」というのもあるのかもしれないですしね。ただ、こちらが求めていた行儀の良い競馬ということ自体はできたと思っています。まあ、結果に繋がらなかったということを考えれば、それは良くなかったのかもしれないですが、あの子にとったら、課した課題をどれだけ一走ごとにこなしてくれるかというのが、長い目でみれば重要だと思っていますし、そういう面では良かったかなと思っていますけどね。
-:川田ジョッキーに乗り替わった訳ですが、終わってからのコメントというのはいかがでしたか?
鈴:「折り合いも付いたし、感じも良かったんですけどね……」という話を軽くしただけですね。
▲2度目の海外挑戦を目前に意気込みを語る担当の鈴木助手
-:そこから今回は去年と違ってドバイに挑戦するということなのですが、馬が先に行って、鈴木さんは後から追い掛けるという。
鈴:そうです。競馬だけ、おいしいところだけ行きます(笑)。
-:これも珍しいパターンですね。
鈴:ドバイ自体も、向こうの人が調教以外はほぼ全部やってくれるということですし、こちらの厩舎にももちろん馬はいる訳なので、やっぱりそういうバランスも考えての選択ではありますね。
-:こうしている間にも、今朝ドバイでは、エピファネイアの追い切りが行われているタイミングですよね。向こうから聞こえてくる話では、エピファネイアのコンディションはいかがですか?
鈴:検疫に入っている段階からなのですが、早く競馬を使いたいぐらいのデキではあります。あとは、そのコンディションをどれだけ維持できるか、ということだけなので、それも当初の目標通りというか、こっち(日本)でつくって、向こうでは体調維持に努めるという予定で来ていたので、予定通りにいってるかなと思います。
-:栗東でつくって、最終追い切りをした時の馬体というのは、どんな印象でしたか?
鈴:良かったと思いますよ。本当にいつ競馬を(するかという状態)、それこそ先週の阪神大賞典に使っても、十分に勝ち負けできるぐらいのデキにありました。冗談交じりに「ドバイ止めて、今週使おうか」という話もしていたくらいですから。輸送を挟んでも、去年香港に行った時と比べても「馬体も寂しく映らなかった」ようですし、特に何も不安はないですね。そういう意味では、連れていってくれている人間に全部任せていますし、任せておけば何の問題もないです。
-:ジャパンCでは、スミヨン騎手が調教にも騎乗せず、レースだけの本当のテン乗りという状況でした。そのレースを制して、世界のスミヨンでもエピファネイアを絶賛しましたね。ただ単なるリップサービスだけじゃなくて、レース後の彼のツイッターでのエピファネイアの話題アップの数を見ても、本気で感動したんだな、というのが伝わってきましたが、そういう意味で2回目というのは、より期待値を持って乗られるような気がします。
鈴:それはあるかもしれないですね。競走馬ですから、その辺はどういう風に感じてくれるかは分からないですが……。
-:ジャパンCの時が過去最高のデキで、一生に一度のデキだったとも思わないので、あのレースの再現というか、また違うレースもしてくれる能力のある馬だと思います。
鈴:あると思いますよ。今までを振り返れば、JCは彼の中で本当にベスト3に入るパフォーマンスだと思いますし、ただこの先、もっとすごいパフォーマンスが出るかもしれないです。それがJCのようなハイペースで消耗戦でありながら、終始引っ掛かりながらでもという、ああいう規格外のパフォーマンスになるのか、それとも有馬記念のように道中落ち着いて走れていて、なおかつ終いもシッカリ伸びてくれるようなパフォーマンスになるのかというのは分からないですが。
「それは、ファンを惹き付ける戦略ですわ、彼(エピファネイア)の。ファン心理を分かっているのですよ」
-:能力があるから、勝ちはしないまでも、結局どんなところでも上手いこと、ある程度のところでまとめてくるようなイメージがあるのですが、エピファネイアの場合はパフォーマンスにムラがあるところが、ファンからすると悩ましくて、お前ならもっとできるだろ、と常に思ってしまって……。
鈴:それは、ファンを惹き付ける戦略ですわ、彼の。ファン心理を分かっているのですよ。
-:ファンが上手いことエピファネイアに翻弄されていると。
鈴:本当に翻弄されているんですよ。そんな感じだと思います。
-:ジャパンCというホームでエピファネイアの強さを世界にアピールした訳です。今度はドバイで、サッカーで例えればワールドカップのようなイベントで、豪快なシュートを決めてほしいと思います。
鈴:逆に楽しみでしょ。いつも同じような競馬をして、ソツのないというよりも。まあ、そういう子は他に一杯いますからね。毎回パフォーマンスが違う、切り口が違う競馬をしてくれて、それで全部結果が出てくれるに越したことはないのですが、それが彼の魅力だと思いますし、ファンの方を惹き付けるところかなとも思いますしね。それが、ドンドン精査されていけば、その中でもどんなパフォーマンス、どんな道中の走り方をしようが、結果として残ってくるようになれば良い訳ですしね。逆に言えば、やっぱりこの先、色々なところで競馬をさせようと思えば、色んなタイプの走りをできる方が、強みだとは思うんですよね。
「純粋に楽しみですよ。初ダートであったりだとか、周りが不安に思うようなこともあるのですが、それ以上にスミヨンがどういう騎乗をしてくれるかという楽しみの方が、個人的には大きいですよね」
-:対応していかないとならないと。
鈴:そうなんですよね。だからそういう意味で、激しい闘争心のみで走りきる競馬もあれば、行儀良く走る競馬もできて、その時その時に合った調整ができるようになれば、言うことはないと思います。
-:ジャパンCの時でも、世界のスミヨン騎手でバッチリ折り合いが付いていたようには思えませんが、結果的に手綱を緩めるだけで、あれだけハジけれたという、ちょっと異常で、理解不能なところがまた感動を呼んだわけです。スミヨン騎手にとっても、あれを経験した上で、どういう風にアジャストしていこうか、という気持ちを持たれていると思うので、その辺も楽しみですね。
鈴:純粋に楽しみですよ。初ダートであったり、そういう不安や周りが不安に思うような要素もあるのですが、それ以上にスミヨンがどういう騎乗をしてくれるか、という楽しみの方が、個人的には大きいですよね。
-:今年から馬場が違う訳で、全然データもない訳ですからね。
鈴:いや、本当にそうですよ。
エピファネイア・鈴木博幸調教助手インタビュー(後半)
「ダートもこなせるF1カーのエンジン」はコチラ⇒
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▲鈴木助手をはじめ、陣営、ファンもその手腕に期待を寄せるスミヨン騎手
プロフィール
【鈴木 博幸】Hiroyuki Suzuki
1977年6月生まれ、京都府出身。競馬とは縁のない家庭に生まれるが、中学生の頃、偶然ダイユウサクが勝った有馬記念をテレビで観て、競馬という職業を意識する。ジョッキーとしては、身長・体重・視力などが適さなかったため、厩務員を目指すことを決意。高校時代に京都競馬場の乗馬苑で乗馬を始め、高校卒業後、北海道の幾つかの牧場を渡り歩き、2004年に競馬学校厩務員過程に入学。
卒業後は角居厩舎に入り、エピファネイアの母シーザリオ(オークス&アメリカンオークス)や、フレンドシップ(JDD)などのG1ホースも担当。日々の仕事に対してのモットーは「ルーティーンにしないこと。繊細に務めることを心掛けたい」と語る。
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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