秋緒戦のスワンSは安田記念の惨敗を帳消しにする走りを見せたミッキーアイル。これにて京都コースは3戦3勝となり、マイル戦線の天下獲りに絶好の舞台が訪れた。が……、この中間は1週前追い切りで放馬するというアクシデント。しかし、それを懸念材料にしないところが音無秀孝調教師の器量であり、馬の能力に対する信頼なのだろう。さらに応援したくなること請け合い、希代の逃げ馬の大一番にご注目いただきたい。

安田記念の敗因が明確になったスワンS

－：ミッキーアイル(牡3、栗東・音無厩舎)のマイルCS(G1)ですが、前走のスワンSは強い内容でしたね。ファンとしては夏の成長がどれくらいあったか分からないところで、体重だけを見たらプラス2キロということでしたが、先生がご覧になった印象はいかがだったでしょうか？

音無秀孝調教師：スワンSは休み明けということもあったし、レースはけっこう不安でしたね。成長もハッキリとは分かることではないし、体重も同じだったから。もうひとつ懸念していたのは安田記念後にでた疲れで、ひと月ちょっとゲートを毎週のように練習したんです。結果、突っ掛けは直っていたんですけど、スタート自体は良くなかったんですよね。それは馬が競馬に慣れ過ぎて、(ゲートの)出が悪かったというところです。出負けまではいかないけど、スタートで出るのが少し遅かったと。ゲートの不安が的中した形にはなりましたね。

－：不安な点というと、抑えていきたい馬で、当初は壁を作って進めていくのかと思っていたので、枠が11番と外過ぎたことです。もう少し内の方が良いのかなと思っていたのですが、逆にいえばそれは外枠で良かったということですか？

音：浜中君と僕もレース前は行く馬がいたら、行かせて2番手でもいいよ、ということは話をしていたんですよ。それでスタートが悪かったから、“2番手、3番手でいいや”と思っていたんですよ。そうしたら、行く馬がいないんですよね。だから予想外に行かされてしまう形になりました。僕も2番手でいいと思っていたし、押し出されてはいないけど、ほっておいたら行ってしまったということですね。

ミッキーアイル

－：古馬相手の重賞ということを考えると、前半の流れは遅くて、最後の直線でどれだけ弾けるのかなと思っていたのですが、休み明けでもしっかりと走っていましたね。

音：そうですね。見た目詰められているように見えるけど、あそこからは結構強いので。前に行くとしぶといから、ある程度、行ったとしても同じだと思いますね。
－：安田記念の大敗以来でしたし、休み明けの一戦だったので、勝ったことで先生もホッとしたのではないでしょうか？

音：しましたね。安田記念は馬場も悪かったし、皆さんが気付いているか分かりませんが、遅い時計ながらも馬場が悪いからハイペースなんですよ。それだけに、ミッキーアイルについてきた馬は全滅でしたよね。その後ろにいた馬ばっかりが、上に来ていましたし、勝ち馬も後ろにいました。時計よりも馬場が悪化していたから、額面以上にハイペースだったと思います。

－：そう考えると、古馬の一線級、G1ということでもミッキーアイルが力負けしたとは思っていないと。マイルCSではもう一度、頂点を目指すということですね。

音：そうです。前走とは違って、3歳ですから斤量が1キロ軽くなるんですよね。距離も延びますけど、逆に他の馬たちは1キロ増えるということで、それは有利に働くんじゃないかなと思います。しかも、前走が1400だったことを考えれば、走り慣れている1600だから、条件は言うことないかなと思いますけどね。

－：1600のG1ならスワンSよりも流れて、乗りやすい展開になりそうですしね。

音：前半のラップが問題になってくるでしょうね。逃げ切りを考えた時にはね。だからまた同じように速い馬がいたら、それを先に行かせて、という考えはあるんですけどね。将来のことも踏まえて、いつまでも逃げてばっかりでどうかなというのもあるから。それこそスタートが悪くて、行く馬がいたら行かせればいいと。そういう風には考えていますけど。


「もちろん期待通りの状態になると思いますよ。安田記念も叩き2走目なんです。だから悪い訳ないんですよ。結局、何が悪かったというと、馬場とスタートなんです」

－：京都コースは問題ないように思えますが、前回のレースで外から内に入っていかずに、外でじっと待つ形になりました。

音：そこは騎手がどう思ったか分かりませんけど、僕も元ジョッキーとして思うのは、3コーナーまで距離があるから内に入ると距離損なんですよ。内に切れ込んで行くにしても、外でじっとして、3コーナー抜けてから内に入っていけば良いわけで。そういうことを考えたのではないかと思います。しかも他馬を防ぐような形になるからね。だから3コーナーから内に入ればいいと思ったんじゃないでしょうか。

－：休み明けをスワンSで叩いて、ファンの期待も高まっていると思いますが、レース後のコンディションはいかがでしょうか？

音：もちろん期待通りの状態になると思いますよ。安田記念も叩き2走目なんです。だから悪い訳ないんですよ。結局、何が悪かったというと、馬場とスタートなんです。もし、それが克服できるのなら、2走目でちゃんと走れると思うんですよ。

－：ファンの中にはNHKマイルCの評価が低い人もいらっしゃって、古馬とやるには足りないんじゃないかという意見もありますが、あのレースも並の馬だったら押し切れていないと思いますが、そこで勝ち切れているということでは評価したいと思うのですが。

音：3歳ということもあるしね。もうひとつは僕も左回りが得意なんだろうか？というところもずっと思っているんですよ。そこまで右回りばっかり使ってきて、左回りを使うチャンスがなかったのでね。逆に右回りは失敗がないので、強いんじゃないかと思っています。

－：それでは3歳限定ではありますが、左回りのマイルで押し切れたというのは、能力の証じゃないかと。

音：それはありますね。

ミッキーアイル

12日(水)に放馬のアクシデント

－：今週の調教がどういう具合だったのか、教えて頂いてもよろしいでしょうか。

音：実は水曜日(11/12)キャンターを降ろすところで放馬してしまって、どうにもならなくなってしまったんですね。つまずいたんですよ、キャンターを降ろす時にね。鞍上がバランス崩して、落ちてカラ馬になって。カラ馬で49秒8という時計が出たんです。水曜日はレースから9日目で、通常は中1週で調教をやるんですね。ですけど、中2週で作る場合はやらないんですよ、うちの厩舎は。前週の日曜日にやるんですよね。

今回は放馬というアクシデントがあったし、一生懸命走ってくれたから、これを1週前の追い切りと考えれば良しとして、今日は軽く流すだけにしました。明日から乗りますけど、通常の中2週の日曜日の追い切りはなし、ということにしました。なので、今週は追い切りはもうしませんので、当週水曜日、浜中騎手で馬なりというメニューを決めました。

－：僕は坂路の頂上にいたのですが「カラ馬が来るぞ」ということを聞いて、来たらミッキーアイルということだったのですが、49秒台で走った馬とは思えないくらい軽く走ってきて、すぐに止まりました。それでキョトンとした感じで捕まえられて、その様子を見て、タイムを聞いたら、そんなに走っていたのかと驚いたものです。

音：あの馬は放り出したら、いつも一生懸命に走ると思いますよ。水曜日だったからかもしれませんけど、他に絡まれて速くなった訳ではないですからね。だから競馬場でも放り出したら、取り消しですね、おそらく(笑)。なので、くれぐれも放馬したらいけないということですね。

－：つまずくというのはあまり予期できないことですよね。

音：昨日は雨の後だったでしょ、それでツルッと滑った時に右前がつまずいて、それで左も。二重になって、落ちたんでしょう。つまずくだけじゃ大丈夫だったんですけどね。

－：あれだけ走る馬でも滑ったら、すごい衝撃でしょうね。

音：それ故に何かあったら嫌だな、と思ったので、全部獣医に調べさせましたが、どこも異常はなかったから良かったです。今日も1時間半くらい常歩をやりましたけど、特に問題はなかったです。

ミッキーアイル

放馬翌日のミッキーアイル 落ち着いた表情を見せている


3歳の今だからこそモノにしたい一戦

－：馬体の方は一回使って、体重ではなく、締まりというところではどうでしょうか？

音：張りはありますよね。昨日も放馬して、あれだけ時計出して、帰りに体重を量ったら482キロありましたので、馬体重はちゃんとありますから。それほど心配しなくていいかなと。日曜日もやりませんからね。

－：あまり馬体重を心配するよりは、走れるコンディションに持っていって、結果その馬体重がいくつか、というところを見た方がいいと。

音：そうですね。アクシデントもマイナスに考えないで“日曜日にやらなくていいや”と軽く考えましたから。それで帳消しにできればと。

－：先生の機嫌が悪くなくて、こちらとしては良いのかな、と思うのですが(笑)。

音：本当は悪いんですけどね(笑)。だって、誰に文句言っていいか分からないからね。あんまり乗っている人ばかりは攻められないから。

ミッキーアイル

ミッキーアイル

－：3歳である程度レースの流れを作る馬なので、マークも厳しくなると思いますが、G1、2勝目に向かって、頑張って下さい。

音：チャンスがあるとしたら今回だと思っているし、来年からは斤量も同じになる。それこそ新たな強い馬が出てくるかもしれないので、次から次へと色々なことを考えなくてはいけないと思います。浜中君にしても、同じ様なパターンでレースを、あのままやっていけるとは思っていないだろうからね。僕たちは任されている部分もあるから、やっぱりオーナーのためにもね、あの馬のいいところを引き出していきたいなと思いますね。

－：先週まで京都の馬場を見させて頂きましたが、雨が降った中で、馬場が湿って、どれだけ悪化するかというところで、少し懸念していたんですけど、実際のレースを見ると全然馬場が良いんだな、という印象を受けました。それはミッキーアイルにとってはプラスなのではないでしょうか。

音：今週の流れがどうなるか分かりませんけど、来週の天気も読めない中で、冬場だと雨が降ると、なかなか乾かないというのもあるんですよね。けれども、この時期は大雨が降りにくい時期なので、それほど悪化するということはないからね。安田記念の時期はまさにその頃だからね。なので、あのような馬場にはならないとは思いますよ。

－：それでしたら、今回はあまり溜めすぎず、ある程度後続に脚を使わせつつ、上がりが速くなりすぎないようなレースが理想ということですね。

音：ポイントはやっぱりスタートかなと思います。トップスタートでも切ったら行けば良いと思うし、もし切れなくても、他の馬が速かったら行けばいいし。あれこれ考えてもしょうがないので、スタート次第でということですね。

－：最後にファンの皆様にメッセージをお願いします。

音：休み明けは上手いこといきましたから、目標のマイルCSを勝ちにいきますので、また応援してください。

(取材・写真＝高橋章夫)

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