騎手時代の経験とチームワークの融合

-:馬を仕上げていくにあたって、ここは譲れないというポイントはありますか?

中:時間をかけて調教をする、運動をするというところです。運動をするときには縦列でやるのも良いですし、バラバラにならず、まとまって調教するようにしたいですね。そうすれば乗り手のレベルも徐々に上がると思いますし、まとまって動いていると目立つじゃないですか。トレセン内でも注目されているという自負はありますよ。周囲から「中舘厩舎はどういう風にやっているんだ?中舘に出来るのかな?」というように見られているのは感じています。だからスタッフにも、「どこにいても周りから見られているからね」というのは話しています。エタンダール(牡6、美浦・中舘厩舎)が際どい競馬をしたときも周りが大騒ぎしていましたし、みんな思ったより僕たちのことを見ているんだな、と思いました。

-:周囲の注目も大きい、と。

中:それもトレセン関係者だけではないですよ。厩舎を開業して最初のうちは、難しさのある馬を預かるケースが多いのですが、馬を預けてくださる方もプロなので、馬がどういう状態か分かっていますからね。例えば、脚元に弱さがあって調整に時間がかかりそうな馬をレースに使えるかな、と試されているところもあるんです。そういう馬を再生させて、ある程度良い状態でレースに送り出せれば「しっかり馬を作れるんだね」そのうえ良い結果を出せれば「さすがだね」という評価になるんです。そのためにも厩舎が一丸となって、チームとしてやっていかないといけないと思っています。

-:まとまりが必要なんですね。

中:もちろんです。人間ですから好き嫌いもあったりするでしょうが、仕事に関しては助け合わないと出来ないこともありますから。ただ、その点に関しても、ウチは太郎(高山太郎元騎手)がいるから助かりますよ。僕が厩舎にいないことも多いし、そういうときにスタッフをまとめてもらわないとやっていけませんから。ただ、全部を番頭にやらせてしまうと、その人に対して他のスタッフから風当たりが強くなるので、最初は僕が「こういう風にやるんだよ」とキチッとスタッフに直接言うようにしています。そうしないと、番頭が悪者になってしまいますから。そのうち僕の考えが浸透して、僕が攻め馬に乗らなくてもいいように、厩舎が充実してくれば良いですね。焦ってはいませんが、まずは結果を出していきたいです。


「みんなで考えて、みんなの意見を出し合って、そこに自分の経験を加味してまとめていければいいですね。そうやって出した結論で失敗することもあるでしょうが、その失敗を忘れないようにしたいです」


-:それが何よりですよね。

中:やっぱり馬が走らないと厩舎が暗くなりますからね。競馬だけでなくどの世界でも、稼いでいる人はにこやかですが、稼いでいない人は暗いでしょう?稼げなかったら意味がない。スタッフの生活が懸かっているというのは、すごく思っていますよ。だからこそ自分の意見だけじゃなく、みんなで考えなくてはいけないところですね。

-:なるほど。では、最後になりますが、こういう厩舎にしていきたいという理想の形を教えてください。

中:う~ん、特に「こういう形が理想です」というのはありませんが、みんなで考えて、みんなの意見を出し合って、そこに自分の経験を加味してまとめていければいいですね。そうやって出した結論で失敗することもあるでしょうが、その失敗を忘れないようにしたいです。こういうときはこういう失敗をしたんだよね、と振り返って経験として生かしていければいいのかな、と。あとは、馬も人もすべてが順調だっていうことはなかなかありませんけど、馬も人もケガをしないように良い環境で仕事をしていくことができればいいなと思います。

-:ありがとうございました。先生、スタッフの方たちと調教メニューを考えているときも何だか楽しそうでしたよ。

中:だから「調教師になって楽しい」って言ったじゃないですか(笑)。自分が肩に力を入れても仕方ありませんし、きちんと仕事をしていれば良くなりますから。あとは、良くなったときにそれをしっかり続けられるかどうかが問題でしょう。どれだけ初心を忘れずにいられるかが大事になると思います。

(取材・写真=競馬ラボ 写真=競馬ラボ特派員)

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中舘英二