好調産駒の重賞勝ち一番乗りとなるか。現2歳世代の新種牡馬の中で最も注目を集め、すでに産駒の活躍が評判なジャスタウェイ。今回はその秘蔵っ子エイシンゾーンが、父が勝ちあぐねた新潟2歳ステークスに挑むことになる。中京で牡馬相手に好勝負してきた素質馬だ。未知な部分のある産駒の傾向、重賞タイトル奪取への手応えを踏まえ、陣営に語ってもらった。

デビュー前から「走る」 実感した理由とは

-:新潟2歳ステークス(G3)に挑むエイシンゾーン(牝2、栗東・松元茂厩舎)の話を攻め専の田代助手にお伺いしたいと思います。実は松元茂樹厩舎の他のスタッフからも、この馬のいい評価を教えてもらっていまして、新馬戦から注目していました。まず、デビュー前の印象からお願い出来ますか。

田代信也調教助手:よろしくお願いします。僕らはゲート試験を受けると、気性的なものを踏まえ“走るな、走らないな。(仕上がりが)良いな、もうちょっと足らんな”という感触があるのですが、この馬は走るな、とすぐに思いました。というのは前向きだし、ゲートセンスも良いし、走りは軽い。新馬向き、初戦向きの良さがありましたね。

-:これまで幾多の競走馬に跨ってきているわけで、経験を踏まえた感触があると。

田:ゲート試験で大体分かりますね。坂路で上がったり、普段の調教を上がったり、息遣いもそうだし、栗東の坂路を軽快にサッと上がってくる2歳はなかなかいないですからね。

エイシンゾーン

松元茂樹厩舎を支える田代助手 学生時代の同期も競馬界で活躍している

-:単純に人間に例えても、坂道を走るのはしんどいですからね。

田:しんどいですね。栗東の坂路は35~40度の傾斜がついていて、チップが深くて、それを一気に駆け上がるような馬はなかなかいませんよね。それを乗り越えて、次はゲート試験というと、すぐに走ってくるかは判断がつきますね。

-:新潟は雨が降りさえしなければ、軽さも求められる芝だと思います。現時点のエイシンゾーンは中京の荒れた芝の方が良いのか、新潟の方が良いのでしょうか。

田:それはもう軽い馬場の方が良いと思います。走りも綺麗ですしね。新馬の時もキャンター自体がけっこう弾んでいましたもんね。

-:前回(中京2歳S2着)は頭数も少なくて、ゲートの良さが逆に裏目に出たのかと僕は感じたのですが、いかがですか?

田:いや、あれくらいは。これからポジションを取りに行くことも重要なことだろうし、番手で競馬をするのもね。外から来られると、気が良いから、グーンと行きたがるところは確かにありますよね…。

-:というのも、勝ち馬(アドマイヤマーズ)が序盤でポジションを押し上げたじゃないですか。あれはエイシンゾーンにとってちょっといやらしいプレーだったのではないかと。

田:ええ、(デムーロ)ジョッキーの腕ですね。でも、あれがあろうがなかろうが、勝った馬は強かったですからね。やっぱり正攻法どこからでも競馬が出来るのが良いと思うので、番手取りに行ってというのは…。スタートは重要なので、スタートさえポンと出てしまえば、次の新潟2歳Sはほぼ出たなりでも良いですしね。

エイシンゾーン

-:今のところ道中の折り合いは修正の余地がありそうですね。

田:若馬ですからね。確かに幸(騎手)が言うように「馬の後ろに付けた方が折り合う」というのはあるとは思いますね。

-:初戦は上手いこと内に潜り込んだのか、閉じ込められたのか分からないですけど、道中はインで溜めて直線でスペースを突けましたね。

田:番手を取りに行かなくても、出て来られるのであれば4~5番手の内に。今度は頭数も揃うでしょうからね。

-:次回は頭数も揃うので、大外にでもならない限り、そういう意味では上手く収まってくれるんじゃないかなと。

田:そうですね。普段は扱いやすくて、乗りやすい馬なので、競馬はしやすいと思うんですよ。

前向きな気性、食欲旺盛、発達したトモの持ち主

-:走りに関して気になったところがありました。ジャスタウェイは外向だったのですが、この馬はどうでしょうか?

田:これは逆に内向ですね。昔は「内向は脚元が持たない」と言われていましたが、今は坂路がありますからね。昔ほど気にならないと思います。

-:ジャスタウェイもそれが嫌われて、セレクトセールで1200万円と比較的値が上がらなかったそうでしたからね。

田:でも、ジャスタウェイの子は全体的に走っていますからね。その辺はやっぱり気性が良いんじゃないですか。前向きだし、自分から走っていくようなタイプですしね。

-:装鞍所、パドック、返し馬と競馬場での様子はどうですか?

田:大人しいですよ。何もしないで良いくらい。オンとオフが本当にハッキリしていて、攻め馬の時も大人しいですしね。こっちの指示には全部応えてくれるしね。牝馬だから多少カッカッするのは、それはそれで良いのでしょうし。走る時も物見をしたりしないし、使い終わった後も、1頭で500の馬場に行って、クルクルと回って帰ってきたりしていますからね。本当に乗りやすいですね。

-:ちなみに、2歳馬にとって1頭で調教をさせるのか、集団で行かせるのか、どちらの方が良いのでしょうか。

田:時と場合によりますね。普段はみんなと一緒にずっと歩いていかせるのですけど、たまには自分1頭で行かないといけない場合もあるから、そこもちょっとずつ教えながら。地下馬道を1頭でトットッと行く場合もあるでしょうし、500なんかでも1頭で乗らないといけない場合もあるでしょうし。

エイシンゾーン

-:今年はかなり暑い夏でした。新馬から3戦目になるので、体調も気になるところですね。

田:元気ですよ。まだ日が昇らない前半の内に乗って、あとはケアと調教の強弱ができていますからね。この馬の場合430kgそこそこの馬体重なんだけど、よく食べるしね。やっぱり食べないとアカン。

-:今の時季ですし、牝馬ですしね。ロードクエストが勝った年のように雨が降る可能性はないとも言い切れません。軽い馬場のほうがいい、とのことでしたが、馬場が悪くなった場合というのはいかがでしょうか。

田:ベチョベチョにならない限りは、そう大きくは変わらないんじゃないですかね。深いチップの坂路でも動くしね。

-:先ほど「カイ食いは良い」とおっしゃられていましたけど、2歳にしては発達していると感じられる部分はありますか?

田:発達してるところはバネですね。ということは、やっぱりトモの蹴っぱりが強いということだし、あと10キロくらい増えて大きくなってくれれば。2歳だし、今の時点で求めることはね。それが、3歳、4歳になって厩舎が求めることとはまた違ってくるだろうし、今の時点では言うことはないですね。

-:田代さん的にも、今回はけっこうチャンスと感じる部分は大きいですか。

田:そうですね。だから、この前みたいな強い男馬が出てこない限り…。牡馬も牝馬も斤量が一緒でしょ。

-:使っていっても、精神面が悪い方に向いていっていないというのは、2歳馬にとってセールスポイントなのかなと思いました。

田:そうですね。ドンドン前に行くような感じで、気持ちも萎えていないですからね。

-:お父さんは差し馬でしたけどね。

田:僕が思うのは、やっぱり中団から差してくるくらいの競馬が理想ですね。ジッとして溜めておいてビュッと伸びる方が。普段から溜まるような乗り方をしておかなかったら、溜められないですからね。キレる脚は持っているでしょうし。しかし、折角スタートセンスが良くてビュンと出ていっているので、出たなりの中で折り合っていければ。そういう乗り方をしておけば、勝つ、負けるは別の話として、結果は自ずと出てくるでしょうからね。

-:スタートセンスが良いということは、ゲート練習でも優秀でしたか?

田:ゲートの中も大人しいし、出っぱも良いし、ゲート試験も一発ですぐに受かったので。

厩舎の活躍馬アルナスラインから教えられたこと

-:将来的には距離はどれくらいのタイプになりそうですか?

田:やっぱり1400~1600じゃないかな。

-:松元厩舎といえば、アルナスラインなどもいましたが、先生の引退も間近。活躍馬が出てきて残りの時間で集大成となればいいですね。

田:馬乗りだけはずっと勉強ですね。こういう乗り方をした方が良いな、ああいう乗り方をした方が良いなと、やっぱり色々な引き出しを持っていた方が良いだろうし。僕らも馬をこういう風に持っていきたい、というイメージがあるので、それをどういう風にして持っていこうかという段取りの順番があって、それが今なのか、もうちょっと大きくなってからなのか、まだなのかとありますからね。

-:エイシンゾーンはどういう馬になっていきそうですか。

田:僕が考える馬の形はエイシンゾーンだけじゃなくて、他の馬も全部、乗り手に従順であること。こっちが話すことに対して、耳が動いて気が向いている、それで来なければ脚を使う。そういう会話をしながら、ここは行ったらアカンところで行かさないなど、そういうことを教えながらですね。まだ2歳なので、ちょっとヤンチャなところも出てきたら愛撫したり、一方通行じゃなく、とりあえず話が出来るような馬と乗り手でありたいと思いますね。舌鼓(ぜっこ)を使っても反応しないようでは、会話が成り立たないですしね。

-:ちなみに、今まで馬とのコミュニケーションがよく取れたなという分かりやすい例はありますか。

田:アルナスラインとは本当によく会話をしましたね。呼吸をバァと吐くでしょう。あれが一番大変なんですよ。僕らが乗っていて「さぁ行こか!」と言った時に、ファと言ってからブァーと走り出すんですよ。お腹を膨らませて、ファと吐いて、ブァと走り出すから、そういう中で感じ取れてあげられたし、向こうも感じてくれたみたいなね。昔、エイシンルーデンスやらエイシンビンセンスに乗っていた時は、僕も全然そこまで会話が出来ていない状態で乗っていただろうし、数乗って経験してじゃないと。振り返ってみると、なかなか分からない部分がたくさんありましたね。

エイシンゾーン

田代助手とエイシンゾーン

-:乗り手のお仕事も、ご自身では成果があって達成感があったとしても、レースに行って結果が出ないとどうしようもなかったりするところがありますから、中間の役割でもあり、正解という正解がないというか、難しいですね。

田:確かに。でも、良い時は自分のやっていることと結果が結びついてきますからね。たとえばこの前、500万のローデルバーン(牡5、栗東・松元茂厩舎)という馬が勝って、1000万に上がって京都(白川特別)で走って、低評価ながら3着まで来てくれました。怖がりでヤンチャくれ。そんな馬がまだいるんですけど、それもゲートまで付いていって、こうしてあげて1個でも着順が上がるのであれば、何でもしますよね。それが500万くらいは勝てる馬なのに、なかなか気が悪くて怖がりで勝てなくて、その500万を勝った時も嬉しかったですね。やっと勝たせてあげられたみたいな、ブリンカーを着けたりして、やっと競馬で能力を発揮出来て。結果を求めていくけど、7着、8着だったら…。だから、馬の人間もコミュニケーションが取れれば。

-:松元厩舎も解散まで残りわずかですね。

田:来年2月ですね。だから、重賞を勝とうとすると、また大変というか、あと何カ月を1個でも多く勝てるように、僕らはやっているんですけどね。その中で重賞が1個でも増えたら良いんですけどね、ハハハ。なかなか1つ勝つのも難しい時代ですからね。

-:厩舎的には最後の2歳馬なのに、良い馬を入れてくれるオーナーのためにも。

田:そうですね。それも感謝しないといけないだろうし、そういう期待に応えられるようなことを、僕らはやっていかないといけないだろうし、この馬だけでなく、この前のラジオNIKKEI賞に行った馬(キボウノダイチ)も、こちらとしてはけっこう手応えがあったんですよね。

-:キボウノダイチ(牡3、栗東・松元茂厩舎)は強い内容でしたね。

田:逃げて3着だったんですけどね。これからも1つでも勝ちにこだわって、1つでも着順が上に上がるようにしたいですね。

-:お忙しいところ、色々なお話をありがとうございました。