クリンチャー ロンシャンの重い芝は望むところ! G1未勝利馬が日本の悲願へ
2018/9/13(木)
異色の挑戦が実を結ぶか。これまで幾多の強豪日本馬が立ち向かい、阻まれてきた凱旋門賞の頂き。今年はクリンチャー陣営が海を渡ったが、従来とは一風変わったプロフィールの持ち主、未知の魅力を秘めているだろう。フランスでの視察を終え前哨戦のフォア賞を控えた今、管理する宮本博調教師に現地での様子などを語ってもらった。(取材日:9月5日)
-:9月16日(日)のフォワ賞(G2)まで、あと10日弱に迫りました。先生が現地フランスに到着して、確認されたクリンチャー(牡4、栗東・宮本厩舎)の様子から教えていただけますか?
宮本博調教師:本当に至って順調ですね。輸送も上手い具合にいきまして、向こうに着いてからもちゃんと飼葉を食べています。現地の水にも馴染んで、飲みだしています。念のために日本からも水を持っていきました。当初は日本から持って行った水を飲ませていたのですが、少しずつ現地の水を混ぜて飲ませていく方法でやっています。
-:今回の輸送は台風の影響で1日ずれてしまいましたね。
▲フランス現地視察を終えた宮本博調教師 多忙の日々が続く
宮:確かにずれましたが、トレセンの検疫所から動かなかったので影響はなかったです。半日間遅れで出発できました。
-:現地の環境に対応しているということですが、シャンティイのパスカル・バリー厩舎はどんな感じでしたか?おそらくファンには日本のトレセンのイメージしかないと思うので。
宮:対面の馬房で馬房自体も大きいし、優遇された馬房に入れていただけました。馬も落ち着いていますし、すっかり安心しきっています。それに国際検疫厩舎から、ずっと(帯同馬の)ゲネラルプローベが横にいてくれるのでクリンチャーは安心していますね。
-:調教する環境はトレセンとはだいぶ変わると思います。
宮:そうですね。それは自分の足で歩いて、色々考えてエーグルの調教場に決めました。まず、安全に調教が出来る場所であることを第一に考えました。パスカル・バリー厩舎からエーグルの調教場へは行き方がすごく安全なんですよ。でも、これがリヨンの方に渡っていこうと思ったら、トンネルを潜ったり、あと車と交差する場所もありました。そういったことを踏まえ、安全に調教が出来て、調教場が綺麗なところにしようと思いました。実際にエーグルの調教場はフランスの一流厩舎ばかりが調教している場所なんですよね。それを差し置いて、リヨンまで行くこともないなと思って、エーグルに決めました。
-:エーグルの調教場はとても広いところだと思いますが、どんな調教場か教えてください。
宮:起伏に富んだ馬場で、直線の1600mのダートコースがあるんですよ。調教場全体はかなり広大ですね。
▲出国前のクリンチャー(8月中旬撮影)
-:芝生もかなり軟らかいのではないですか?
宮:そうですね。だいぶ力の要る芝生だと思いました。
-:単純に調教だけではなくて、行き来や前後の運動でも負荷が掛かりそうですね。
宮:それは言えますね。
-:担当の長谷川助手が現地に行かれていると思いますが、先生がいない間、長谷川さんからクリンチャーの状態が良くなっているという報告はありましたか?
宮:彼自身がフランスに馴染んでいましたよ(笑)。あとは大山ヒルズからスタッフが一名来てくれています。向こうに行ってから2頭ともコンディションもいいと聞いていますし、楽しみですね。
▲クリンチャーと担当の長谷川助手
-:レースに向けての展望でいえば、去年のフォワ賞を観ると、若干馬場が渋って日本馬は苦戦していました。その面ではクリンチャーは日本の馬の中では重馬場が得意です。先生から見て、新しいロンシャン競馬場に対応する可能性を、どのように感じられていますか?
宮:かなり対応してくれると思っています。日本でも菊花賞(2着)のあんなグチャグチャの馬場をスイスイ走っていましたし、京都記念でも重い馬場の中、G1馬4頭を負かすパフォーマンスも見せてくれましたよね。
-:ダービー馬(3着のレイデオロ)も負かしましたし、当時7着だったミッキーロケットは宝塚記念を勝ちましたからね。しかも、今期は京都記念から始動して、そこを勝って、阪神大賞典、天皇賞(春)でも3着、3着とまとめています。
宮:前田幸治オーナーの意向で宝塚記念ではなくて、凱旋門賞に向かうということで切り替えて放牧に出したのですが、それもまた合っていたと思いますね。より馬がパワーを蓄えることが出来たんじゃないですかね。
「ロンシャンの馬場への適応力はあると思います。前田オーナーは日本だけでなく、世界の競馬にも熱い想いを持っておられるのをヒシヒシと感じます。ですから僕としてはなんとか結果で応えたいなと思っています」
-:フレッシュな状態で、過酷な条件の凱旋門賞に向かえるということは良いことですね。これまでの日本馬のローテーションとは違って、注目したいところです。
宮:そうですね。G1こそ勝っていませんが、ロンシャンの馬場への適応力はあると思います。前田オーナーは日本だけでなく、世界の競馬にも熱い想いを持っておられるのをヒシヒシと感じます。ですから僕としてはなんとか結果で応えたいなと思っています。
-:血統的にも(父ディープスカイという)なかなか渋い馬で、これまで行った日本の馬とはちょっとタイプが違いますから、結果がどう出るか興味深いところです。
宮:そうですね。頑張ってもらいたいですね。
▲(8月15日栗東トレセンで撮影)
-:クリンチャーはすごく適応力がありそうに見えますね。フォワ賞から凱旋門賞へ向けて2週前の追い切りはいかがでしたか?
宮:今日はある程度やろう、という指示を出してきました。来週は僕もフランスに行きます。武豊騎手に乗ってもらって、芝で追い切る予定をしています。僕は直線の芝をイメージしているんですけど、最終的には直前に、ジョッキーと話し合いで決めようと思っています。併せ馬ではやらないで、今まで通り単走で良いかなと思っています。
-:凱旋門賞に向けて大事な一戦ですが、先生が注目している他の陣営の馬がいたら、教えてください。
宮:気になる馬もいますが、それよりも、クリンチャーをしっかり仕上げることに集中します。クリンチャーにとって初めての海外遠征になりますが、これまでと同じように彼の競馬に徹して頑張ってもらいたいですね。
-:応援しているファンに向けて、メッセージをお願いできますか?
宮:いい状態で競馬に送り出せそうです。まだ先のことで天候や馬場状態はわかりませんがいい結果につながるよう頑張ります。
-:フォア賞は凱旋門賞前の大事な一戦ですが、応援しております。
宮:はい、分かりました。日本から応援してくださいね。
プロフィール
【宮本 博】Hiroshi Miyamoto
1963年3月27日生まれ。滋賀県出身。中尾謙太郎厩舎の厩務員、調教助手を経て2003年に調教師免許を取得。2004年に開業。2008年にデグラーティアの小倉2歳Sで重賞初制覇を飾る。今年はクリンチャーが京都記念を制し、春の天皇賞で3着。ノーブルマーズが宝塚記念で3着に入るなど春のG1戦線を賑わせた。JRA通算300勝にもあと5勝と迫っており、注目の秋を迎えている。