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森崎教太調教助手

森崎教太調教助手(栗東・安達厩舎)


09-10年JRA賞最優秀ダートホースに輝くなど、ダートで一時代を築いたエスポワールシチー。これまでの活躍は言わずもがなといったところだが、昨秋からリズムを崩した結果が続いていることも確か。前走のかしわ記念も、1番人気の支持を集めたものの、3着に敗れてしまった。連覇中のかしわ記念で崩れた原因は?そして、復調の兆しはみられるのか?年明け、2戦からエスポワールシチーを担当する森崎教太調教助手が答えてくれた。

-:レースとしては、年明け初戦の名古屋大賞典と、5月のかしわ記念を担当されたと思いますが、担当されてからのこの馬の印象と、レースを振り返ってください。

森:担当してからの目標とするレースが名古屋大賞典ということでしたが、何もわからないゼロからのスタートだったので、手探りな中で調整を進めました。 そんな中でも、とにかく、調教にしても厩舎にいる時も、馬が気分よくいられること、それでいて、人の指示を待てるしつけを教えることを前提においた上で、レースには臨みました。

-:外からみていたのと、実際に担当されるにあたって、イメージのギャップなどはありましたか?

森:旗から観ている時は、雲の上の存在のような馬でしたし、自分も乗り手として「どんな背中をしているんだろうな」とは思っていました。
実際、跨ってみて「これが、超一流馬の背中なんだな」と感じましたね。思っていたよりも、気性的に内に秘めた闘志というものは持ち合わせていたのですが、それが、いざ、乗ってみると、調教で手が掛かるという程ではないですし、厩でも物静かな馬だというのが、第一印象でした。

名古屋大賞典に向かうにあたって、調教師からの具体的な指示は『毎日、大きめに乗ってもいいよ』との事だったので、それがいい意味で、折り合いなどの懸念材料から開放されて、自分も「出来る好きなようにやってみよう」と思いました。

それで、名古屋大賞典に向かうことになりますが、アメリカでの競馬を終えて帰ってきて、帰国緒戦であること、G3だったので59キロの斤量を背負う事、休養明けと、色々なハンデを背負うわけでしたが、負ける事の許されない馬というイメージが強いので、最初に太め残りをなくそうと意識しました。距離も経験の浅い千九でしたし、休み明けとしてはギリギリに近いくらいに仕上げましたね。その結果、当日の体重もガレているわけでなく、(前走比)マイナスで、筋肉もついて息も出来た状態で臨めたのが名古屋大賞典でした。


-:その「超一流馬の背中」というのは、馬に乗ったことのないファンに例えるならば、どんな感触でしょうか?

森:動きが雄大というか、キャンターのフォームにしても、ユッタリとしているんですよね。坂路の攻め時計にしても、感覚的に他の馬と3秒くらい、スピードが違いますからね。あとは無駄な事をしないこと。一度、暴れたら手がつけられない時もあるけれど、それ以外はジーッと我慢してられるところが、G1馬なんだと感じました。

-:G1馬といえば、以前、担当されたバンブーエールもドバイまで駒を進めましたよね。

森:タイプが違うんですよね。体重や体格でいえば、エスポワールシチーよりも小さな馬ですけれど、見た目は明らかにダート馬で、筋肉もあってゴツゴツしていて。なおかつ、ダート馬らしく、硬さもありますからね。その硬さがあった故に故障の多さもネックでしたね。

-:ゴールドアリュール産駒というと、サンデーサイレンス系の種牡馬としては、比較的、骨太なタイプが多い印象があります。この馬については、どう感じますか?

森:周りからは『ダート馬っぽくない』と言われますけれど、跨ってみると、線の細さを感じさせないというか、パワフルさが伝わってくるし、パワフルな仲にもしなやかさが伝わってくる、夢のような馬というか。



-:立っている姿では硬さを感じるところはありますね。

森:そうですね。そう感じますし、どちらかといえば、線が細くて芝馬のような感じもありますけれど、跨ってみると、そう感じさせないのがダートの一流馬なんだと思います。
サンデーサイレンスのしなやかさと、(母父の)ブライアンズタイムの力強さがミックスされた感じですかね。そういう意味では、エスポワールシチーは理想の競走馬なんじゃないかと思えますね。


-:少し話は逸れてしまいましたが、名古屋大賞典を使ったあとの反動はありましたか?

森:あると思ったので、注意深くケアしていたのですが、観ているぶんにはそれほど大きなダメージもなかったですね。疲れはあるものの、普通の競馬の疲れといった程度で、脚元にも不安はありませんでした。不良馬場のレコード決着だったので、走り過ぎといえば、走りすぎでしたが、最小限の疲れで済んだのかと思います。

-:レース前の印象と、実際の名古屋大賞典でのレース振りにイメージの誤差はありましたか?

森:なかったですね。距離に一抹の不安は抱えていたので、「ジョッキーも折り合いは大変そうだな」と思って、ハラハラしながらレースはみていましたが、力で押し切って欲しいというイメージ通りの競馬だったと思います。結果、休み明けを反動もなく、勝ち切ってくれたので、上々の滑り出しだったと思います。

-:そして、かしわ記念へ向かうわけですが、周囲はひと叩きした上積みを期待しますよね。

森:レース使ったあと、上積みもあって筋肉の動きであるとか、パンプアップした部分も顕著に表れていたので「これなら…」という思いはありましたし、次に向けて、更なる上積みというのは感じました。

-:そのイメージと結果が違ったというわけですね。

森:そうですね…。違ったというか、敗因をなかなか特定することが難しいというか…。万全で臨んだはずだけれども、ああいう結果になってしまったのは、年齢的なものは、もしかしたら、あったのかもしれないですし、敗因は一つの要因だけに求めることはできないですね。何か一つリズムが狂うことで、ああいう結果になってしまったと思いますし。

-:馬体が仕上がった馬では、精神的な面での余裕はありましたか?

森:競馬前はこちらの言うことを聞いてくれて、競馬場についてもどっしりしていて、「落ち着き過ぎているくらいかな」とは思いましたけれど、それでもうるさいところはみせていたので、特に心配はしていなかったですね。返し馬で引っ掛かることも珍しいですし、レースであれだけ引っ掛かることも記憶にないですから。その辺りは、「一つ歯車が狂うと、G1では甘くないな」と感じさせられた一戦でした。

-:かしわ記念後の様子はどうですか?

森:名古屋大賞典の時ほど、疲労はなくて、走ってないのかなということも考えましたけれど、勝った馬とほぼ同等の脚は使っていますからね…。やっぱり、前にいけなかった事も、この馬の競馬じゃなかったのかなと。

-:調教のラップの出方をみると、本質的には差し馬の印象はありますよね。

森:もしかしたら、かしわ記念は馬場に不安があったかもしれません。返し馬の時に自分で船橋の馬場を踏んだ時、深いわけじゃないけれど、走りにくそうな印象は受けましたね。砂質が粗くて重いというか。これまでにも、(砂の深い地方競馬場で行われる)交流競走を沢山勝たせてもらっていますけれど、蹄踵の低い馬で、基本的には中央の軽いダートが合っているのかと思います。年齢的にも、力だけでなんとかなるわけにはいかなくなってきているでしょうし。



-:そういう意味ではこの時期の帝王賞というのは、雨が多いこともあっていい方に働きそうですね。

森:それはありそうですね。雨も降って欲しいですし、渋ってくれるに越したことはないかなと。

-:距離に関してはどうでしょうか?

森:未知数ですけれど、折り合いがつければ全然問題はないと思いますね。ペースは速くなるでしょうから、競馬はし易くなると思いますし。

-:残りの追い切りスケジュールはどんな予定でしょうか?

森:競馬の一週前に一本と、22日の動き次第で、26日にもう一本やるかどうかですね。馬の体自体は、ほぼ仕上がって、文句付けるところはないと思うので、上がり重点か息を整えるであるとか、微調整の範囲になると思います。

-:今日(16日)の追い切り後、哲三ジョッキーはどう評価していましたか?

森:『体に余裕があるけれど、全然問題ない』とのことでした。でも、その余裕というのも、意図してそうしていた部分はありますし、かしわ記念が終わって、3週間くらいはいつ競馬を使ってもいいような状態だったので、そのままだと梅雨の時期、夏に向けて何があった場合、バテてしまうので、意図的に脂肪を増やしてスタミナを蓄えました。
気性的なものもありますし、絞れることはすぐ出来るので、気持ち重めに造っていたんです。それも追い切り前に伝えて、検討した結果、『今日は意図的に時計を出していこうか』という話になったんです。


-:距離を持たせようとすると、馬の造りも変わってくるものですか?

森:そうですね。名古屋大賞典の時もそうですけれど、無駄肉が1キロでもあると、それが重りとなってしまいますからね。
人間でも陸上の短距離選手と、マラソンランナーでは体型も違いますよね?筋肉まで落としてしまうと、走るパワーはなくなってしまいますし、筋肉をつけた上でギリギリの状態にするというか。


-:今日の追い切りで変わってきそうですね?

森:変わってくると思いますね。今日もあれだけ追い切り時計は出ていますけれど、毎週診てくれる獣医さんの話では、『筋肉にもう少し張りをみせてもいい』との事ですからね。

-:わかりました。ここまで長い時間ありがとうございました。最後にファンへ向けて、一言まとめてください。

森:あれだけの馬をやらせてもらうと、勝ち負けを超越したというか、いかに競馬が盛り上がるかとかを考えしまう自分がいます。三つ巴(取材当時はフリオーソの回避は報じられていなかった)と巷では言われているけれども、同じ脚質ですし、どういう展開になるのかファンも注目するでしょうし、3頭がハナを切って並んで走るシーンがあっても面白いかもしれません。我々も、こういう仕事している人間だから、ファンに馬券を喜んで買ってもらえるように、そういうレースをしてもらいたいなと思います。勿論、勝ち負けも大事ですけれどね。

エスポワールシチー 2010年からの戦歴
日付 レース名 距離 人気 馬体重 勝馬(2着馬)
11/5/5 かしわ記念(G1) 船橋ダ1600 1 3 498 フリオーソ
11/3/21 名古屋大賞典(G3) 名古屋ダ1900 1 1 494 (ワンダーアキュート)
10/11/6 BCクラシック(G1) 米ダ2000 1 10 - BLAME
10/10/11 南部杯(G1) 盛岡ダ1600 1 2 511 オーロマイスター
10/5/5 かしわ記念(G1) 船橋ダ1600 1 1 496 (フリオーソ)
10/2/21 フェブラリーS(G1) 東京ダ1600 1 1 498 (テスタマッタ)
昨春までは破竹の勢いで6連勝を達成。海外でも好勝負が期待されたが、昨秋からはリズムを崩し、南部杯でまさかの取りこぼし、ブリーダーズカップでも、勝ち馬らから大きく離されて10着に沈んだ。今回は初めての大井・ナイター競馬に挑むが、2年連続JRA賞最優秀ダートホース賞に輝いた名馬の復活に期待が集まる。


【森崎 教太】 Kyouta Morisaki

1977年8月27日生まれ、大阪府豊能町出身。
高校の時にビワハヤヒデの宝塚記念を観て、競馬に興味を持つ。その後、甲南大学で馬術部に所属。「一番下手くそだった」と自身を称するものの、全国大会にも出場。
(現在は美浦で厩舎を開業した)木村哲也氏の勧めもあり、トレセン入りを決意。島上牧場、アカデミー牧場を経て、競馬学校に入学。これまでに、JBCスプリント勝ちのバンブーエールなどを担当。乗馬で培った経験を活かして、日々の仕事に勤しんでいる。