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安田景一朗調教助手

安田景一朗調教助手(栗東・安田隆行厩舎)


近年の厩舎の隆盛をみせつけるが如く、スプリンターズSに3頭もの出走馬を送り込んだ安田隆行厩舎。そして、今週の南部杯には厩舎の大黒柱・トランセンドが秋初戦を迎える。 昨秋からダートG1を連勝、そして、ドバイワールドカップで殊勲の2着に輝いた、その実力を如何なく発揮してくれることだろう。地方路線でわが道を行くスマートファルコンとの宿命の対決へ向けても負けられない。

-:あのドバイWC以来のレースとなるトランセンドですが、改めて、ドバイWCから振り返っていただけますか?

安:世界の一流どころを相手に、あの馬の競馬をして、あそこまで粘れましたからね。競馬は勝ってなんぼの世界ですけれど、なかなか出来る業ではないと思いますし、胸を晴れる競馬で「素晴らしい」の一言だと思います。自分自身も鳥肌が立ちましたし、ウチの厩舎にこんな馬がいていいものかと思いました(笑)。

-:レース展開は思った通りだったでしたか?

安:思った通りではあったんですが、ケープブランコや世界の一流馬を相手にトランセンドの逃げが通用するかはわからなかったですからね。そういう競馬に持ち込めたことは良かったと思います。

-:もともと栗東のポリトラックではもの凄い時計をマークしていたトランセンドですが、馬場に関してはどうだったでしょう?

安:それは本当にナドアルシバ(これまでのドバイWCが行われていた競馬場のダート馬場)ならば、今まで色々な日本の名馬が挑戦して、結果が伴わなかったので、厳しいとは思っていたんです。
それがタペタに替わったことでチャンスはあるんじゃないかと。去年もブラジル出身のグロリアデカンペオンが逃げて勝ったじゃないですか?あれを観てヒョッとしたらいけるんじゃないかとは思いましたね。


-:トランセンドをはじめ、近年、厩舎から活躍馬が多数出てきていますが、何か要因はありますか?

安:いや~、特に何かを変えたとかはないんです。調教師が言うように馬主さん、生産者の方々が常にいい馬を預けてくれるということが大きいと思います。
あとは厩舎全体で、角居厩舎藤原英昭厩舎さんなどの調教を見て、工夫するようにしていることも一つの要因であるかもしれません。それにトランセンドのように一頭強い馬が出てくると、他も「俺も、俺も」と追いつけ追い越せでやっていることもあるんだと思います。




-:ダートの強豪馬でいえば、JDDを制したものの、残念ながら骨折してしまったグレープブランデーの近況も教えてください。

安:右前脚の蹄骨を骨折したんですけれど、幸いそんなに大きい怪我でもなく、年明けには栗東に戻ってくる予定です。ただ、本当にあの馬の場合はキ甲もまだ抜けていないし、トモの緩さも目立ちますし、返っていい休養になるんじゃないかと思っています。
というのも、僕もグレープブランデーに毎日乗せてもらってきた中でも、正直、緩いという印象はありましたし、トランセンドもこの夏に一度乗せてもらったんですけれど、「トランセンドにはまだまだ追いつかないな」という印象がありました。この休養を経て、来年にG1の舞台へまた挑戦してほしいですね。


-:グレープブランデーはダート馬ながら、大きなトビをしている馬でしたね。

安:大きいんですよね~。でも、追い出してからがモサっとしていないというか、普通のキャンターは大きいのに追い出すと“軽い馬”に切り替わるというか、動きの鋭さがあるんですよね。ああいう大型馬は追ってからがモタモタとするんですけれど、あんな動きをする馬は僕も初めて跨りましたね。
人間がゴーサインを出すと、グーンッと沈みこむというか…。あれがG1を勝つ馬なのかと思わされますね。脚なんかも見た目は重そうに見えて、手入れをする時に触ると軽いんですよ。


-:でも、芝のスピードではないんですよね?

安:う~ん、菊花賞のような条件だったら通用するんじゃないかと思います。ロングスパートで早めに動いて粘るような。二千やスローでドーンと行くような競馬はキレ負けはすると思いますが、ヒシミラクルやビッグウィークのような競馬をしたら、面白いんじゃないでしょうか。だから、芝ではキレ負けしますしダートなら走れますし、中間のタペタは最高じゃないでしょうか(笑)。

-:あ~(笑)。では、ゆくゆくは…(ドバイに?)。

安:絶対良いと思いますね!あれだけのジョッキーであるノリ(横山典弘騎手)さんが、この馬のことを絶賛してくれているので。いぶき賞を勝った時も「この馬にこれから乗って行きたい」と仰ってくれましたし、そこまでは僕らも半信半疑の評価だったのが、自信を持って挑めるようになりました。ノリさんの一言は本当に大きかったです。

-:グレープブランデーの話題にそれてしまいましたが…、最後にトランセンドのここへ向けての調整過程はいかがですか?

安:7月8日に大仙ヒルズから帰ってきて、今はレースが近くなってきたので、速い時計をバンバン出しています。暑い時期から調整を始めて、秋3戦、南部杯~JBC~JCダートと走れる体を作ってきていますけれど、山下調教助手がいい調整をしてくれているので、秋もいいパフォーマンスをみせてくれるんじゃないかと思っています。
当初は日本テレビ盃~JBC~JCダートと予定していましたが、今年は震災の影響もあり、南部杯が東京競馬場であるということで、勿論、(本来の)盛岡でやることも価値はありますが、中央場所のG1になりますから。今年も同じ舞台のフェブラリーSを勝たせてもらっていますし、あとは相手関係ですよね。


-:ここではあのスマートファルコンとは棲み分け?するような格好になりましたね。

安:エスポワールシチーなど、南部杯には強い馬も出て来ますけれど、スマートファルコンとトランセンドはお互いの競馬スタイルも似ていますからね。僕は避けられて良かったと思います(笑)。

-:ファンもこの秋はトランセンド、スマートファルコン、フリオーソら、ダート戦線の強豪馬が大レースで戦うことを楽しみにしていたと思います。

安:やっぱり、スマートファルコンと南部杯かJBC辺りで戦うのが、お互いいいんじゃないかと思いましたが、自然とそうなりましたね。もし一緒に走っていれば、(両馬のタイプ的にも)お互いトライアルから力以上のモノを出し切ってしまうようなレースになってしまいそうですからね。
それにお互い前哨戦からいいパフォーマンスをみせて、次にぶつかった方がもっとレースが盛り上がるんじゃないかと思います。まずはそうなれるように、この南部杯でいいレースをみせらるよう、頑張って行きたいと思います!





【安田 景一朗】 Keiichirou Yasuda

1978年10月27日生まれ。栗東生まれ、栗東育ち。父は安田隆行調教師。弟は同じく安田厩舎で、先日のスプリンターズSを制したカレンチャンなどを担当する翔伍調教助手。

ジョッキーであった父の影響で自然に競馬に興味を持つ。小学校5年から乗馬を始めると、栗東高校で馬術部に入部。スポーツ推薦で青山学院大学に入学。

そこからノーザンファーム、競馬学校を経て、2002年6月に約半年間、作田厩舎に所属。2003年1月から安田隆行厩舎に所属し、現在は調教師試験も受験しつつ、厩舎のスポークスマンとしても活躍している。

安田隆行厩舎については、「みんないいスタッフで、いい時も悪い時も力を合わせて頑張ってくれます。調教師も仕事が終われば親だけれど、調教師としても従業員を信頼してくれるし、先生のおかげで楽しい仕事をさせてもらっています。スタッフの声にも耳を傾けてくれる調教師であることには感謝しています」とのこと。