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蛯名幸作厩務員&日高大輔調教助手

蛯名幸作厩務員&日高大輔調教助手(美浦・田中清隆厩舎)

桜花賞は2着。オークスでは3着。惜しい悔しい思いをした春からひと夏を越しての復帰戦ローズSではしっかりと結果を出したホエールキャプチャ。牝馬3冠のラストをしめくくる秋華賞に向けて、調教を任されている日高大輔調教助手にお話を伺いました。

-:放牧から帰ってきた時はどんな印象でしたか?

日:7月の下旬頃に函館入りしましたが、その時は凄くリラックスしていてしっかりリフレッシュできた感じでした。体もふっくらとしていましたが劇的な変化や成長はなかったです。一時期、飼い葉を食べない時があっておかしいな?と思っていたある日、攻め馬から帰ってきたら口の周りが血だらけになっていてビックリ!どうやら歯替わりで抜けたみたいです。すっきりしたのでしょうね。その後はいつも通り食べていますよ。

-:その後ローズSに向けての調整は?

日:ウッドで70秒を切るくらいの15-15。函館でも美浦でもしっかり乗り込みました。休み明け他の馬に比べても多い調教量だと思います。馬も調教のたびにスイッチが入っていきましたね。

-:そして栗東入りですね。

日:ローズS一週前の10日に。人も馬も栗東行きには慣れました。

-:4ヶ月ぶりの実戦、ローズSを振り返って下さい。

日:イレ込んでいました。ゲートに入るまではカッカしていましたが、ゲートを出てしまったら大丈夫なんですよね。桜花賞とオークスのスタートはたまたま悪かっただけですが、ローズS前にゲート練習は軽くしていました。好スタートで好位からレースを進めて最後は内にもたれたりもしましたが勝ってホッとしました。



-:直線の抜け出す脚が素晴らしいですよね。

日:あの走りは根性ですね。気の強いところが一番の良さです。成績も安定していて本当に凄い馬です。いつも一生懸命に走る。気持ちで走るタイプなんです。

-:なかなかの気の強いお嬢様ですね。

日:自分が気に入ったことしかしないし、わがままし放題。自分が暴れたい時に暴れて、他の馬が暴れたらしら~としていますからね。攻め馬の帰りとかは前にいる馬を全部抜きたがるんです。私が先よ!って。でも他の馬が自分より後ろにいる時は大人しいです。引き連れている感じなんでしょうね。

-:前走に比べて今回は距離が1F延びますが?

日:オークスの2400mはラスト止まってしまったけれど、2000mは大丈夫です。ローズS後、多少疲れが出て、うなだれていました。4、5日休ませると回復して今は大丈夫です。良い状態をキープしています。特別なことはしないで、いつもと同じです。馬に伝わってしまいますからね。

-:担当の蛯名厩務員と二人三脚とここまで来ました。

日:10月21日が蛯名さん65歳の誕生日。この秋華賞で勝って、引退する蛯名さんの花道を飾ってくれたらいいですよね。



過去には1970年の桜花賞馬・タマミなどを手掛け、この秋で引退を迎える蛯名幸作厩務員にもお話を伺いました。

-:初めてホエールキャプチャに出会った時からこの活躍は予想していましたか?

蛯:なんだろう?この仕事をしていたらひらめくことがあるんだよ。初めて俺に会ったホエールキャプチャは『何しに来た!』って脅しに来たけれど俺は怒らなかった。そうすると向こうはただじっと見ていたね。その目が好きだった。何か訴えるように『大事にしてくれ』って言っている感じ。検疫厩舎に20頭。ホエールキャプチャ以外の19頭と比べても一番良かったから『絶対にこいつだ!凄い馬になるぞ』って言ったら周りは笑っていたよ。人はどう感じるかは知らないけれど俺はそう思った。実際にこんなに活躍して自分でもびっくりしているよ。馬はやってみないと分からない。自分で気に入った馬が脚部に不安をかかえながらここまで来た。俺じゃなくてこの馬がいい星の下に生れたんだよ。ただ俺の感じたままの感情でこいつを何とかしてやろうと思いながら一生懸命にしただけ。今でもそうだけど、この仔は本当に荒っぽいし難しい。でもこの荒っぽさに俺は惚れたんだよ。初戦を乗ってくれた横山典弘騎手も気にかけてくれたり、馬主さんや周りの人達が大事にしてくれたおかげなんだよ。

-:最初だけではなくて今でもホエールキャプチャを怒らないですよね?

蛯:馬が噛んだり蹴ったりするのは仕方がない事。それを叱りたりひっぱ叩いたりするなんて・・・。なんとか矯正してやろうと思ったら今のホエールキャプチャはないよ。大人しくなったり、人間に従うようになってしまったら“らしく”なくってしまう。

-:ありのままを受け入れてもらえるなんて馬にとって幸せなことです。コミュニケーションもバッチリですね。

蛯:こいつは頭が良いよ。パドックでは15分くらいしたらちゃんと時間が分かっているようで自分でどんどん気持ちを高めていく。気持ちをきっちり切り替えられる。強めの調教を終えたらぱっと気持ちを切り替えてこれで1週後まで何もないなって分かっているんだよ。普通、強い調教した後なかなか冷めなくて興奮状態が続くけれどパッと冷めてしまう。だから競馬も掛からない。パドックや地下馬道で興奮していてもキャンターに出たらケロっとしている。ゲートの後ろでもう一度テンションが上がってしまうけれど、ゲートに入って早く出たいだけ。成績にむらがないし、馬場、距離も関係ない。まだまだもっと良くなるところがあるよ。

-:馬体の成長はどうですか?

蛯:函館入りした時ビックリしたよ。乗り運動しているのをみたら見た目には分かり難いけれどガラっと変わった。背筋が凄く強くなったのを感じたよ。まさにアスリートの体。



-:成長を感じたのは肉厚で優しそうなその手ですね。蛯名さんの“揉みほぐし”は凄いと日高助手から聞いています。

蛯:時間をかけて触れて撫でてあげると、痛いところやコリが分かりますね。首の痛いところはここで、今回は右が疲れているなとか、左が疲れているなって。筋肉の全部を触ってあげないと分からない。たとえ痛い部分が分かってもその痛さをカバーして使っている筋肉も見つけてあげないと故障に繋がるからね。赤ちゃんのように皮膚が薄くて、弾力があって柔らかいのが良い筋肉。長い時間触れて、血液の循環をよくしてやったら疲れが早く取れる。疲れた部分に電気を当てるのも悪いことではないけれど、少々の時間ではあれだけの大きな体の疲れはなかなかとれないからね。

-:まさに腕利きの職人さんですね。

蛯:馬は何年やっていても分からないよ。全てが整っているから走るという訳ではないからね。駄目なところがあっても、膝が柔らかいとか、肩関節が素晴らしかったり。馬にあれだけたくさん関節があるのは神様がちゃんと色々考えてくれたから。目だって爪だって左右みんな一緒なんてあり得ない。人間だってそうなんだから。ホエールキャプチャは筋肉や関節が特別良いわけではないけれど、全体的に良い方に出来ているね。

-:秋華賞ではホエールキャプチャの持てる力を存分に発揮できそうですね。

蛯:一番気になっているのはスタンド前のスタート。ゲートさえ上手く行けばやれると思う。自分に負けなかったら良い競馬ができるはずだよ。



【日高 大輔】 Daisuke Hidaka

1983年生まれ、調教助手歴は未だ5年目ながらも、ホエールキャプチャの栗東滞在に昨年から同伴。競馬ラボでは、GⅠ特集内の「関係者に聞きました」でも、度々取材に協力して頂いていた。
自身も「よく食べる」との事だが、180cmの長身で体重は高校の時から58キロのまま増減ナシ。スマートなシルエットの持ち主。


【蛯名 幸作】Kousaku Ebina

67年に東京競馬場の坂本栄三郎厩舎で厩務員となる。90年に現在の田中清隆厩舎に移籍。 タマミ(70年の桜花賞など、重賞5勝)をはじめ、グルメフロンティア(98年に中山金杯、フェブラリーSと連勝)、トーホウシデン(ダービー④着、菊花賞②着、中山金杯勝ちなど)やタイキリオン(02年ニュージーランドT勝ち)を担当。 競馬界に身を置いて、40年以上ものキャリアを持つベテラン厩務員。この秋を最後に定年で競馬を去る。