関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

荻野仁調教助手

荻野仁調教助手


大レースに欠かせない藤原英昭厩舎のラインナップからトーセンラーとダノンミルが出走する。トーセンラーはきさらぎ賞を制している京都巧者であり、ダノンミルは近年で好走馬が続出しているトニービンの血を引くジャングルポケット産駒。クラシックとして最も条件が合うであろう舞台が淀の3000mであり、名門厩舎の手腕に期待が高まる。今回は幾多の名馬の背を知る荻野仁調教助手に、クラシック最終戦へと懸ける意気込みを伺った。

まさに全ての条件が好転するトーセンラー


-:荻野さんにトーセンラーの話を伺うのは皐月賞以来となります。同馬が震災の影響を受けていたこともあって慎重なコメントが思い出されます。結果としては⑦着だったわけですが、あの当時を振り返っていただけますか。

荻:正直、しんどい競馬になる覚悟はしていました。きさらぎ賞で強い競馬をして、僕たちもファンも夢を抱くわけですが、成長を促すための放牧先で震災があったわけです。心の中で「馬は大丈夫やろ」と強がろうとしましたが、やっぱり影響はありましたので。線が細いし意外に気が細かい馬なんです。皐月賞に関わらず、ダービーの時も本物の状態ではありませんでした。

-:ダービーはそれに加え、不利な外枠で不良馬場でもありました。

荻:内に潜り込んで馬場がしんどい部分を終始走っていたから道悪が最も堪えたけれど、敗因はそれだけではないと思います。

-:小柄なこの馬にはとにかく厳しいコンディションだったわけですが、レース後にさらならダメージというのはありませんでしたか。

荻:そこにいく段階までにしんどかったので、それほどは感じませんでした。出る権利を持っていたら出なければならないレースですからね、ダービーは。ここに出るために馬主さんは馬を買い、僕たちも頑張っているわけですから。ひとつ言いたいのは、できる中での最善を尽くしての⑪着でしたよ。条件が揃って万全だったら、新馬やきさらぎ賞であれだけの競馬をする馬ですから、歯がゆい部分もありましたけどね。

-:共通するのは京都コースですね。

荻:馬場は軽いに越したことないし、菊花賞で何が利点といったらやはり京都コースになります。それに、夏を越して馬も良くなっていますよ。リセットというよりも、馬体重云々ではなく成長しています。気持ちの面が全然違いますね。セントライト記念も内を捌いて②着に来ることができましたし。



-:そう言えば、レース後は『勝たなアカン』と落ち込んでいましたけれど(笑)。

荻:そうだったっけか(笑)。まぁ、一線級は神戸新聞杯でしたから。それでも一回叩くと馬は変わりますから、良しとしなければなりませんね。

-:坂のある中山で最後まで伸びて②着ですから、先に向けての収穫もありましたよね。

荻:そうですね。内でもがいて伸びてくるディープインパクト産駒もなかなかいませんし。よく見ててください。ほとんどが外を回してきますよ。ディープ産駒は柔らかいので、つくる側としてはなかなか難しいんです。そういう意味でもトーセンラーは違いますよ。菊花賞にはオルフェーヴルがいるわけですから、どんな競馬でもできなければチャンスはありません。立ち向かうためにはコースロスなどご法度ですよ。

-:小柄な馬ですけれど、セントライト記念後の上積みはどうでしょうか。

荻:若干へたる可能性も想定していましたが、馬自体は凄く良くなっています。皐月賞やダービーの時と違った感触というか、楽しみにしていますよ。以前とはオルフェーヴルも別馬ですが、京都では勝っていますからね。坂を下ってからゴールまでの平坦コースをとにかく利した競馬をしたいです。ライバルを射程にする形になるのではないでしょうか。

-:京都コースは折り合いがつかない馬には一番不向きな舞台です。そういう意味でトーセンラーのアドバンテージはやはり大きいですよね。

荻:枠順なんかもあるけれど、あと僕ができるのは、今の状態をより良くしてゲートインさせること。そこからは先生の作戦とジョッキーの仕事ですから。

-:藤原英厩舎の希望はすべて内枠でしたよね。

荻:すべてそう。競馬は馬場の良い部分をどれだけ距離をロスしないように走らせて、どのタイミングで仕掛けるかですから。

-:最後にもう一度、聞かせてください。皐月賞、ダービーに比べて条件はもちろんですが、状態がいいのは間違いありませんね。

荻:間違いありません。小柄な馬ですが、当日は体を大きく見せてほしいですね。サクセスブロッケンなんかもそうでしたが、小さく見せる時はいい思い出がありません。

大胆な競馬で持ち味を演出したいダノンミル


-:続いてダノンミルについてお伺いします。

荻:未勝利勝ち後に若葉Sを勝ってくれたように高い潜在能力はありますが、まだ競馬自体に注文はつきます。まだ気性が少し若いところがあって、スイッチをこちらで入れてあげなければならないんです。どうしてもやめてしまうところがあるので。

-:傍目からは先行できて乗りやすそうに見えるのですが、実際そうでもないのですね。

荻:難しいですよ。鞍上が思うゴーサインどおりに走っていたら、もうひとつは勝っていますよ。早めに抜け出すとフラフラするのですが、それをどれだけ我慢させて追うのかがポイント。若葉Sは作戦どおりというか理想の競馬でしたね。

-:逃げ馬的な要素を持った馬かと思っていました。

荻:道中は前に何頭かいたほうがいいんです。



-:神戸新聞杯後(⑥着)の状態はいかがですか。

荻:変わりなく順調です。どちらかというと、精神面のほうが重要な馬なので。担当の博司(田中助手)が乗りやすさを求めて仕上げていますよ。前々で運ぶことができる馬ですし、トーセンラーとはタイプも全く違うので、この馬の競馬も楽しみにしています。

-:お忙しい時間に、ありがとうございます。

荻:こちらこそ。横綱相手に金星を挙げる努力をしていますので、2頭とも応援をよろしくお願いします。


【荻野 仁】 Hitoshi Ogino

卓越した調教技術は、専修大学時代の馬術チャンピオン(障害)という裏付け。藤原英昭厩舎の開業当初から調教助手として屋台骨を支えており、フードマンとして各担当からの意見を取り入れ全頭の飼い葉を調合している。2つ上の先輩である藤原英昭調教師とは小学生時代から面識があり、両人の絆と信頼関係は絶大。名門厩舎の躍進を語る上でこの人の名前は欠かせない。