関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

松田国英調教師

松田国英調教師


馬体減に苦しんだ皐月賞こそ⑪着に敗れたものの、目標である日本ダービー(③着)までに立て直してくるあたりが名門厩舎の所以。いまだ重賞タイトルこそないものの、ベルシャザールの雄大なる馬体は同厩舎の先輩GⅠホースとヒケはとらない。意外にも競馬ラボ初登場となる松田国英師に、同馬の菊花賞適性とキングカメハメハ産駒で大レースに臨む心境をお伺いした。

-:競馬ラボには初めての出演となります。よろしくお願いします。それでは、ベルシャザールについて聞かせてください。

松:お手柔らかに。デビュー時から540キロもある馬で、春当時は調教後に坂路の頂上で息遣いがゲホゲホしたりしていました。これからクラシックという時期までそれが続いていて、今では治っていますが砂に脚を突っ込んで歩くような癖もあったんです。それでもクラシックの日程は決まっていますから、人間の都合に合わせて馬も頑張ってくれていたと思います。競馬が終わったら山元トレセンに戻して、もうひと踏ん張りという状況が続いていました。

-:活字にはならない面で苦労があったのですね。まず皐月賞の敗因はそのようなところが大きかったのですか。

松:直接的な敗因は馬体減ですが、それは総合的なメンタル面からきたものでしょう。大型馬だけに目立ちにくいのですが、馬のメンタルは大きさに関係ありません。それでも皐月賞後にはベルシャザールがどういう状況か掴めたので、ダービー前に戻せる確信がありました。信じてくれたのか分かりませんけれど、記者の方たちにもそう言っていたんですよ。

-:ダービーは8番人気でしたか。プラス16キロでの出走で、おっしゃる通りに見るからに馬体が回復していました。

松:その後、夏は社台ファームで過ごしまして、15-15の本数が少し足りないかなという状態で栗東に戻ってきました。それでもトレセンで15-15をやってのフットワークも軽いし、追い切りでも思った以上に動くんですよ。セントライト記念(④着)は動きを重視して仕上げての結果ですから、菊花賞では本数と中身を重視して臨みたいと思っています。

-:セントライト記念はダービーの時に比べて若干馬体が減っていましたが、菊花賞に向けてはまた増やしていく形ですか?

松:トレーニングをちゃんと積めているものですから、今度の増減はさほど気にしなくていいと思っています。昨今の傾向を見てもらえば分かるのですが、菊花賞前のトレーニングがどの陣営も以前とは違って、坂路やウッドで負荷をかけても壊れないで残っていく馬たちの競馬なんですよ。3コーナーの下り坂をゆっくり降りてでは勝てないと私は思っているんです。あそこで加速できる馬を今度はつくらなければいけません。中山のセントライト記念は小回りで坂のあるコースですし、阪神の神戸新聞杯は馬場も広くてこちらも直線に坂があるコースです。今回は上り坂ではなくて、3コーナーの下り坂で直線はフラットなんです。ここが落とす穴か、落とし穴かと思っているんです。



-:昔と今の菊花賞で明らかに違うのは、馬の能力が上がっているので最初の3コーナーの下りでガツンと行きたがるケースが多いですよね。

松:下りの手前である程度のポジションにつけたいと動いて、そのスピードで最初のホームストレッチを通過したらやはり持ちません。緩急のペース配分というか、スピードに乗せるところを制御して、1週我慢したなりに行かなければならないので、乗りやすさを求めながらの仕上げになります。オルフェーヴルの神戸新聞杯はダービーと違って人気馬がいるポジションで競馬ができていたように進化していましたよね。しかし、あの馬を菊花賞で負かしにいくというシミュレーションはきっちりできています。さすが池添君という競馬が続いていますが、さすが後藤騎手という事にならないかと期待しているんです。

-:ベルシャザールは道中で若干噛み気味で走る馬ですか。

松:その辺りが後藤騎手に依頼するところで、彼なら折り合えるはずです。前半は壁をつくって進めて、坂の下りでスピードに乗せるところでフリーになっていくのではないでしょうか。手脚が長くて心肺機能が高い馬で、息遣いも良くなっていますから、スピードに乗せてしまえばそうは止まりませんよ。

-:セントライト記念後、どのような過程で調教を進めているのでしょう。

松:やはり大きいレースは3本追い切ってレースに臨みたいと思っています。神戸新聞杯の場合は回復を待つために2本しか追い切れません。15-15をやって1週前と当週ですから。今はどの厩舎も横並びで腕もありますから対応できると思いますが、ローテーションも駆け引きのひとつです。

-:この馬のお父さんであるキングカメハメハは神戸新聞杯が最後のレースでした。子供に託すではないですが、先生にとってベルシャザールで臨む菊花賞は特別な想いがあるのではないでしょうか。

松:胸前が狭くて重心が高い。ヒョロっとしている父似の馬体は距離が延びた時に生きる体型ですよね。当然、キングカメハメハの分も走ってもらいたいと思っていますし、この血統が長距離でも走る証明をしたいです。どうしても産駒はマイラーと思われがちですものね。特にヨーロッパでキングマンボ系は長距離の結果が出ていますから。古馬になっても走れる骨格もしているんですよ。進化していくというか、筋肉がつきやすいというのも魅力です。

-:では、最後の一冠に懸ける意気込みを教えてください。

松:どんなペースになっても対応できるように、追い切りの入りを考えながら調整しています。普通の速さではなくて、こんな時計が出るのかというピッチで上がってきています。1週前の段階では指示通り、パーフェクトの時計と状態です。京都3000mは落とす穴か、落とし穴か、オルフェーヴルに一矢報いたいですね。


【松田 国英】Kunihide Matsuda

1950年北海道出身。
1995年に調教師免許を取得。
1996年に厩舎開業。
JRA通算成績は408勝(11/10/17現在)
初出走
96年11月30日 3回中京3日目4R タニノポリシー(10着)
初勝利
97年2月8日 1回小倉5日目2R タニノマウナケア(1着)


最近の主な重賞勝利
・10年 NHKマイルC/毎日杯(ダノンシャンティ号)
・09年 ダイヤモンドS(モンテクリスエス号)


高校卒業後、競馬専門紙「競馬ニホン」に就職してトラックマンとなる。その後、山内厩舎などの調教助手を経て、調教師へと転身する。種牡馬としても大成功しているキングカメハメハやクロフネ、タニノギムレットをはじめ、送り出したGⅠホースは枚挙にいとまがないほど。同厩舎の門下生には角居勝彦師や友道康夫師がおり、現在も競馬サークルに多大な影響を与え続けている。