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安田晋二調教助手

安田晋二調教助手(栗東・友道康夫厩舎)


当初は元プロ野球選手の佐々木主浩オーナーが所有する馬ということで注目を浴びていたヴィルシーナだが、クイーンカップで重賞初勝利を挙げると、続く桜花賞も半馬身差の2着とクラシックのタイトルを手に入れるだけの力があることを証明した。エリカ賞で2000mまでの距離をこなしており、未知なる2400mをアッサリとこなす可能性は十分。オークスへの適性と、桜花賞後の状態を安田晋司調教助手に改めて伺った。

-:よろしくお願いします。直前に話をお聞きしていた桜花賞から振り返って下さい。

安田晋司調教助手:ある程度は予想していた展開になりましたね。ゲートを上手く出て、道中も折り合いがついて、良い感じで流れに乗れていたと思います。後ろから来た強い馬(ジェンティルドンナ)には交わされましたけど、2着に踏ん張ってくれて、能力のあるところを示してくれたと思います。僕自身は力負けとは思っていません。勝ち馬とはもう一度対戦すれば、展開や流れ次第で逆転できるのではないかと思います。

-:ヴィルシーナの強みはレースセンスの良さだと思います。

安:そうですね。ゲートセンスが良く、良いポジションを取れるということはこの馬の武器だと思います。

-:その桜花賞では一線級と互角にやれる手応えを掴める一戦だったんじゃないかと思います。

安:アイムユアーズを差し返した時に勝ったと思ったのですが……。あそこまで行けば勝ちたかったですね。こんな走る馬を担当させてもらえることは滅多にないと思うので、結果を残したいですね。

-:桜花賞の内容としては、ほぼ満点だったのではないでしょうか?

安:はい。ジョッキー(内田博幸騎手)も上手いこと乗ってくれたと思いますし、3着馬(アイムユアーズ)に一旦前に出られたのを差し返していたように、勝負根性は大したものだと思います。

-:直線で差し返す余力があるというのも、無理なくポジションを取れるからこそだと思うのですが?

安:そうですね。レース上がりにジョッキーが言っていたのは、ヴィルシーナが内、アイムユアーズが中、ジェンティルドンナが外という並びだったのですが、もし、中のアイムユアーズがいなくて、ジェンティルドンナと併せる形になっていれば、結果は違っていたかもしれないとのことでした。

-:抜けだすのが少し早かったようには思いませんでしたか?

安:まあ、そうなのですが、アイムユアーズが来たので、あそこは行かざるを得なかったのではないでしょうか。僕はクイーンCのように早めに抜け出す形が良いと思います。

-:抜けだしてからソラを使う心配はないでしょうか?

安:やっぱり馬が傍にいた方が、負けん気の強い馬なので走ると思いますが、ソラを使うということはないですね。

-:オークスに向けて逆転は可能でしょうか?

安:勿論、期待はしています。ただ、どの馬もそうですが、2400mという距離は未知数なので、そのあたりの不安がない訳ではないのですが、桜花賞のレース後も息の入りがものすごく早くて、疲労感もなかったので、大丈夫じゃないかと思っています。

-:デビュー当初は1800m、2000mと長めの距離を使われて、距離不安はないように思います。

安:そうなのですが、ディープインパクトの仔はあまり距離が持たないように思うので、そのあたりは少し不安材料ではありますね。ただ、ヴィルシーナについては折り合いもつくし、2000mでの実績もありますので、こなしてくれるのではないでしょうか。追い切りで最後脚が止まることもないですし、スタミナはあります。クイーンC時に2番手追走から上がり3ハロン33秒6の脚を使っているので、それぐらいの脚を使えれば、後ろから差される心配はないように思います。僕自身は大丈夫だと信じています。

-:ただ、ディープインパクト産駒自体でみると、現状は長めの距離より、短めの距離に良績が残っているように思います。

安:そうですね。ディープインパクト産駒は気の強い馬が多いみたいですね。ヴィルシーナに関してはおっとりしているというか落ち着き払っているので、カッとなってテンションが上がってしまうということはほとんどないですね。基本的には扱いやすい馬です。運動の際も出始めは力んで歩いたりするのですが、徐々にゆったり歩くようになります。だから常歩がスムーズですね。ダクやキャンターに移ってもバネのある感じで、クッションが効いて、ディープインパクト産駒らしい走りをする馬だと思います。調教でも乗りやすい馬です。

-:ゲートの出が良くて、良い位置が取れて、折り合いがつくということは長距離を走る上で欠かせない要素が備わっているように思うのですが?

安:そうですね。前走の桜花賞で競馬に対しての不安はほとんど払拭されたので、後は本当に距離さえこなしてくれればという感じです。



-:1週前時点のコンディションを教えて下さい。

安:短期放牧から帰ってきた時点での馬体重が446キロでした。前走の桜花賞時が434キロでの出走だったのですが、中間カイバ食いが悪く、食べる量が少なかったこともあって、体つきに関してはギリギリの状態だったように思います。今日(5/10時点)の計量では446キロだったので、前走時よりプラス12キロの余裕があります。今回は府中への輸送もあり、幾らかは減ると思いますので、来週まで今の馬体重をキープできればと考えています。レースでは440キロ、もしくは少し切るぐらいで出走できると思います。たとえ増えていたとしても、前走がギリギリの体重だったので、太いという心配はしなくてもいいと思います。ここまで順調に来ていますし、この中間はカイバもちゃんと食べてくれていますよ。

-:見た目に体のラインにゆとりがあるように思えますし、馬体重以上に大きく見せるように思います。

安:そうですね。現時点では若干、ゆとりはあると思います。背も高いですし、スラッとした体型ですから、そう見えるのかもしれませんね。

-:1週前追い切りの内容について教えて下さい。

安:1週前ですので、ビッシリやる予定で竹之下騎手に乗ってもらって、終いまでシッカリ追ったのですが、彼によると「前走より反応が良かったです。エンジンのかかりは少し遅いですが、スピードに乗るとスゴいです」とのことでした。僕も追い切りを見ていましたが、すごく良い動きだったように思います。

-:相当楽しみですね。

安:そうですね。ここまで順調にこられているのが何よりです。

-:距離以外で敢えて不安な点を挙げるとすれば、どのようなことがありますか?

安:競馬に関しては特に不安はないですね。クイーンCで東京も経験していますので、左回りの心配もないですし、輸送も含めて不安はないです。敢えて不安を挙げれば、スタンド前発走で、スタート後歓声が沸くことですかね。メンコは着用しますが、結構音には敏感なので、それをどう乗り切るかですね。あと3歳牝馬のこの時期なので、フケの心配はありますが、この馬に関してはレース前にフケの気配を見せても、結果を残しているので、影響はないように思います。

-:枠順に関してはいかがですが?

安:内過ぎず、外過ぎずぐらいの枠が良いですね。桜花賞が15番枠だったので、もう少し内目の枠が欲しいですね。



-:別路線組に関してはどうみていますか?たとえば、忘れな草賞を勝ったキャトルフィーユなんかは脚質的にヴィルシーナの前で競馬をする可能性もあると思うのですが?

安:この馬が逃げるのでしょうかねえ。

-:前走は2番手ですね。

安:前を見ながらの競馬なら良いですが、見られながらの競馬はちょっとイヤですね。フローラSを勝ったミッドサマーフェアは気になりますね。僕的にはやっぱり一番強いのはジェンティルドンナだと思っているので、あの馬に勝たないことにはと考えています。あとは出走してきたら中1週になりますが、ハナズゴールも気になります。マイラーの感じがするのですが、対戦していないだけに……。

-:作戦的には先行押し切りの形になりそうですね。

安:どこからでも競馬はできると思うのですが、別に後ろから行く必要もないですし。

-:あまりスムーズな競馬をすると目標にされてしまう恐れはありませんか?

安:そうですね。ジェンティルドンナにはマークされる形になると思います。

-:こうして聞いていると、内枠の方が良さそうに思えますね。

安:はい。最後の直線前が開けば全然問題ないと思います。長距離戦なので、ちょっとでも距離ロスなく行けると言う意味では良いと思います。

-:結果というのはオークスのタイトルですね。

安:はい。もちろんそうです!

-:ちなみにこの馬を手掛ける上で、カイバに関してはどんなものを与えていますか?

安:燕麦(エンバク ※1)と配合飼料の2種類を与えています。今までは燕麦の方しか食べなかったのですが、ノーザンファームしがらきから戻ってきてから配合飼料も食べるようになりました。配合飼料はバランス良く、栄養を吸収できるので、これさえ食べていれば競馬もできるぐらいです。今ではサプリメントも食べてくれています。あと大豆粕(※2)も与えているのですが、ヴィルシーナは乾燥したものは食べないので、お湯でふやかした状態で与えています。一言で言うとお嬢さんですね。担当している僕がいうのもなんですが、品があります。上品な感じがしますね。

-:あとは最終調整ですね。

安:体はほぼ仕上がっているので、来週は微調整で軽くやる程度で良いと思います。反応を確かめる感じで良いでしょう。1週間の短期放牧だったので、体も緩んでないですし、フレッシュな状態です。フックラしていますが、重いということはないので、この状態で良いと思います。レースに向けて今は楽しみしかないですね。

-:GIタイトルも目前に迫ったと思います。ヴィルシーナを応援してくれているファンにメッセージをお願いします。

安:最後まで一生懸命走ってくれる馬なので、応援よろしくお願いします。競馬場に足を運んで、生でレースを観にきてください!

1…エンバクは馬に最も多く利用されている穀類。栄養価が高く、他の穀類にくらべ繊維含量が高いので、競走馬が多量に摂取しても疝痛をおこしにくく他の穀類に比べ安全。一般に、日本で生産されるエンバクに比べ、外国産エンバクの方が可消化エネルギ-含量は高い。

2…大豆粕はタンパク質含量が高く、アミノ酸組成は良好で、発育時期の馬のタンパク質補強飼料としては最適。

(取材・写真)高橋章夫




【安田 晋二】 Shinji Yasuda

高校卒業後、信楽牧場に約8年勤務。厩務員過程を経て、友道厩舎へ。
信楽時代はエプソムカップを制したアドマイヤカイザーを担当。友道厩舎では、持ち乗りと、攻め専を経験。去年の6月からはヴィルシーナの一頭持ちとなった。
攻め専時代、自分の調教技術を向上させてくれた思い出の馬は「全頭です(笑)。でも、ウチの厩舎はけっこういい馬が多いんで、そういういい馬の背中を教えてもらうっていう面でも、すごく勉強になっているかと思います」。その中でも印象に残った馬はサクラローズマリー。