3者3用のスタイル
2011/7/30(土)
今年2月の小倉大賞典を制して、デビュー2年目から14年連続重賞制覇を達成した、関西のトップジョッキーの一人・秋山真一郎騎手。
師匠・坂口正大元調教師の定年による引退に伴いフリーとなるも、今年は既に重賞3勝をマークするなど、次代のスター候補・浜中俊騎手。
3月一杯を持って短期免許期間を終了したものの、高松宮記念優勝など、目覚ましい活躍をみせたイタリアのウンベルト・リスポリ騎手。
栗東を拠点に活躍を続けていた3騎手に、お互いのスタイル、日本競馬・海外競馬の比較、競馬界が抱える課題について、語りつくして頂いた。
-:本日はお忙しい中、お集まり頂きありがとうございます。今回、3月一杯まで来日中のウンベルト・リスポリ騎手と、(リスポリ騎手と同い年で)今年も既に重賞2勝をマークするなど、次代を担うであろう若手ジョッキーの一人である浜中俊騎手。そして、デビュー2年目以来、14年連続重賞制覇など、個性的な活躍をみせる秋山真一郎騎手に、お集まり頂き、日本と海外の競馬観の違いなどを、語って頂ければと思います。
まず、リスポリ騎手は、1月8日の初騎乗以来、約3ヶ月が経ちましたが、お二人のレースや、騎乗スタイルをみて、どんなジョッキーだと感じられましたか?
ウンベルト・リスポリ騎手(以下、リスポリ):スグル(浜中俊騎手)は歳も一緒で、精神的にもいいものを持っているし、技術も高い。もっといいジョッキーになるだろうね。日本で初めて来る時に、色々教えてくれたのも彼でした。アキヤマサン(秋山真一郎騎手)はとても楽しい、面白い方(笑)。僕から観ると、乗り方がアメリカンスタイルですね。
-:そんなリスポリ騎手評について、秋山さんはどうでしょうか?
秋山真一郎騎手(以下、秋山):プライベートでは、そんなに絡みはないのですが、ウンベルトが来日して初めてのレースで、僕がレース中に蛇行して、迷惑をかけてしまったことがあったんです。 僕は普段、あまりレースで迷惑をかけるような事はしない方なのに、その日に限って2回ほどやってしまって、その相手が2回ともウンベルトだったんですよね。
リスポリ:あれは怒りました(笑)。来た日に2度もあったんですよ。
秋山:あ、やっぱり覚えてるんやぁ(笑)。(リスポリ騎手に向かって)普段はしませんよ。
リスポリ:小倉大賞典の時(※)は勝たす為にするのが、秋山さんの仕事だからいいと思うけれど、京都のような騎乗はダメですね(笑)。
(※小倉大賞典でサンライズベガに騎乗していた秋山騎手は、直線入り口で、自身と逃げ馬のスペースを上手く利用し、その間から抜け出しを図ったリスポリ騎手騎乗のリルダヴァルの進路を巧く蓋をして、追い出しを遅らせた。結果、サンライズベガの秋山騎手が、大接戦を凌ぎ優勝した。)
-:先ほど、リスポリ騎手が、「浜中騎手に教えてもらった」と仰っていましたが、どんな事を教えられたのでしょうか?
浜中俊騎手(以下、浜中):去年、ウンビィ(ウンベルトの愛称)の通訳さんに、「今度、リスポリって、騎手がくるんだけれども、浜中くんと藤岡康太(騎手)くんが同い年だから、面倒をみてやって欲しい」と、頼まれていたんですよね。それで、ウンビィが初めて京都に来た時に食事をして、競馬以外の面でも、友達になるように色々交流を深めたのです。
-:レース以外ではどんな事を。
浜中:競馬の時以外では、一緒に食事にしたり、カラオケに行ったりですね。彼は(アメリカのR&Bシンガーソングライターの)Ne-Yoが凄く好きらしいので…。(リスポリ騎手に向かって)グッドシングでした(笑)。
-:浜中さんから見た、ウンビィの印象はどうでしょうか?
浜中:ウンビィの日本でのレースを見るまでは、僕と同い年なのに、イタリアの年間最多勝記録を塗り替えた騎手ってどれだけ凄いんだろうと思っていました。実際はやっぱり、日本に来て初めてのレースで勝ったり(※2)、G2も2つ勝っていますからね。成績が表す通りのものはもっていますよね。
同い年とは思えないくらい冷静に乗りますし、下半身も強い。馬を追う時の力強さもあって、やっぱり、技術レベルは高いなと思いますね。
(※09年に年間245勝を挙げて、これまでジャンフランコ・デットーリ騎手(ランフランコ・デットーリ騎手の父)が持っていた記録を27年振りに更新した)
(※2 1月8日の京都1Rでイイデステップに騎乗し、日本初騎乗初勝利を挙げた)
-:技術の高さとは、ファンにわかりやすく説明するならば、具体的にどんな点でしょうか。
浜中:ファンの方たちが観るのと、プロが観るのは違うだろうし、そこはわからない部分も沢山あると思うんです。でも、ひとつハッキリしているのは成績ですよ。これだけ勝つことは運だけじゃできないということを、ファンの人たちは知っていると思います。馬を追っているアクションひとつとっても迫力がありますし、そうゆうところを観て貰えばわかるんじゃないでしょうか。
-:やはり、ジョッキーにとって、筋力とは必要なものでしょうか。
浜中:必要だと思いますね。ウンビィも下半身が強いと思いますし。
-:浜中さんはそこをご自身で鍛えたりとかは。
浜中:木馬に乗ったり、走ったりとかですね。
-:浜中さんからみて、秋山さんの印象はどうでしょうか。
浜中:秋山さんはを一言で表すと「カッコイイ」です。バリバリ追うような大きいアクションはされないですけど、綺麗なフォームで、馬の(走る)邪魔をしない。手足も長くて、見た目もカッコいいじゃないですか?
ド派手な事はしなくても、僕らが観ていて「あのレースは巧いなぁ」って感じる、レースが多いんです。秋山さんのそういう数少ないスタイルに僕は惹かれるというか、憧れますね。あっ、やべっ、告白しちゃった(笑)。
秋山:(浜中騎手に向かって)もっと言って(笑)。
浜中:ジョッキーの間でも、秋山さんを慕う会というのもあるんですよ。
秋山:それ、調教師の先生の間で作ってほしいなぁ(笑)。
浜中:ジョッキー同士の中で、秋山さんのことを評価している人は多いんです。同じジョッキーとして、凄く上手いなと思いますからね。 僕も本当は秋山さんのような乗り方をしたいんですが、僕の体型や性格だと、そうゆう乗り方は出来ないんですよね。 それに、僕より長くジョッキーをやってきた上で作られたスタイルですし、人は人それぞれだと思うので、僕は僕なりの良さを出したいと思います。 だからあくまでも、僕にとっての、秋山さんのスタイルは理想像ですね。
-:「性格」という言葉も出てきましたが、秋山さんと比べて、ご自身のレースにおいての性格は、どんなタイプなのでしょうか?
浜中:さっき、話題に出たサンライズベガで小倉大賞典を勝った時も、(接戦の中)クールだったと思いますよ。冷静に技術で対応するというか。僕の場合は、そんな場面になるとアタフタしてしまうタイプですね(笑)。
-:秋山さんからみた、お二人の良さは。
秋山:勘がいいですよね。浜中君も、ウンベルトも。動かなきゃいい時は動かないし、動くべき時は動く。外に出したほうがいいだろうという時は出しているし、内を回るのがベターな時は内を回る、といったように、よりよい選択をしてますよね。 同じ状況になった時に、ベストかどうかはわからないけれど、(勝つために)ベターな選択をしているというか。そこで、そういう選択が出来なかったら、負ける確率も高くなると思います。そういった事が出来ているジョッキーでしょうね。
-:ご自身がその当時の年齢の時と比較してどうでしょうか?
秋山:どうやろうねぇ(笑)。浜中君は22歳かぁ。僕がその年齢の時はもっと適当でしたからね。
浜中:そんな事ないでしょう(笑)。
-:逆にお二人が秋山さんくらいの年齢になった時に、どんなジョッキーになっていると思いますか?
リスポリ:僕は小さい時、(ランフランコ・)デットーリ騎手のビデオばかり観て育って、イタリア人のジョッキーこそが世界一だと思っていました。けれども、アメリカだったら、ギャレット・ゴメス、フランスだったら、クリストフ・スミヨンやステファン・パスキエ、今のイタリアだったら、ミルコ・デムーロやダリオ・バルジューなど、いいジョッキーが沢山いるので、そういう人達のいいところをミックスして、自分はもっと巧くなりたいですね。
浜中:僕は日本の競馬しか知らないし、海外のジョッキーをあんまり観ていないので、これから、生で色んなジョッキーを観て、いいところを吸収していければなと思います。秋山さんも、色々な事を経験して、そういうスタイルに行きついたと思いますし、僕も他のジョッキーの色々なところを観て盗んで、形にしていければと思います。
プロフィール
ウンベルト・リスポリ
(Umberto Rispoli)
1988年8月31日生まれ、イタリア国籍。
04年(16歳)に騎手免許を取得すると、09年に若干21歳ながら年間245勝を挙げて、イタリア年間最多勝記録を27年振りに更新する記録を打ち立てた(この記録は、あのランフランコ・デットーリ騎手の父であるジャンフランコ・デットーリ騎手が記録した229勝を上回るものだった)。
2011年にJRAの短期騎手免許を初めて取得。日本での初レースとなった1月8日の京都競馬第1Rでは、イイデステップに騎乗して、初騎乗・初勝利をマーク。
3月27日までの短期免許期間で28勝。G1レース・高松宮記念など重賞3勝を収めるなど、目覚ましい活躍をみせた。
過去のインタビューは↓
http://column.keibalab.jp/interview/jockey/289/
秋山 真一郎
(あきやま しんいちろう)
1979年2月9日生まれ、滋賀県出身。
父の秋山忠一元騎手は現在、佐藤正雄厩舎で調教助手。
現在はフリーだが、1997年に栗東の野村彰彦厩舎所属からデビュー。同期には武幸四郎、松田大作、勝浦正樹騎手ら。
デビュー2年目、1998年の神戸新聞杯(カネトシガバナー)でJRA重賞初勝利を挙げると、今年もサンライズベガで小倉大賞典を制し、13年連続重賞勝利を達成中。
09年にはサマージョッキーズシリーズで優勝。同年のワールドスーパージョッキーズシリーズにも出場した。レースリプレイやパトロールビデオの確認を人一倍欠かさないなど、競馬に対する研究心は、トップジョッキーの今も随一。
プライベートではガンダム好きとしても知られる。
過去のインタビューは↓
http://column.keibalab.jp/interview/jockey/76/
浜中 俊
(はまなか すぐる)
1988年12月25日生まれ、福岡県出身。
2007年に栗東の坂口正大厩舎所属からデビュー。同期には藤岡康太、宮崎北斗騎手ら。
デビュー2年目に73勝を挙げて飛躍。同年に地元の小倉競馬場で小倉2歳S(デグラーティア)を制覇。JRA重賞初勝利を挙げた。その翌年にはスリーロールスで菊花賞を制覇。3年目にして、早くもG1ジョッキーの仲間入りを果たした。
今年3月、坂口正大調教師の引退に伴いフリーとなったが、既に重賞3勝をマークするなど、年々騎手としての実績は右肩上がり。次代のリーディングジョッキー争いの筆頭候補として、年々注目度を高めている。
過去のインタビューは↓
http://column.keibalab.jp/interview/jockey/87/