ゴールデンホーンはキングジョージ回避[和田栄司コラム]

ダービー/エクリプスを無敗で連勝したゴールデンホーンが、フリントシャーとザコルシカンを伴って真夏のG1戦を取り消した。上半期の総決算とも言えるキングジョージ6世&クイーンエリザベスS(芝12F)はゴールデンホーンがいなくなってがっかりさせたが、7頭立てに変わったレースは40年前、グランディとバスティノによって争われた直線の一騎打ちを思い起こすスリルに富んだ結末を生んだ。

7頭立ての人気は、ゴールデンホーンに代ってジョン・ゴスデン厩舎がフランキー・デットーリ騎手を鞍上に据えて送り出したイーグルトップ(牡4歳/父ピヴォタル)5/2、前哨戦のG2ハードウィックSでイーグルトップを抑えて逃げ切ったスノースカイ(牡4歳/父ネイエフ)3/1、障害のG2勝馬ながら今季はG3と準重賞を連勝して臨むクレヴァークッキー(セン7歳/父プリモヴァレンティノ)4/1、前哨戦のハードウィックS3着のポストポンド(牡4歳/父ドバウィ)6/1、昨年終わりのG1ブリティッシュチャンピオンズF&MS勝馬マダムチャン(牝4歳/父アーチペンコ)8/1で続いた。

レースは、ジョン・ゴスデン厩舎のもう1頭でゴドルフィンカラーのダービー3着/セントレジャー2着馬ロムスダル(牡4歳/父ホーリング)が先手を取った。早めに外からポストポンドの黄色い勝負服が上がり、内のスノースカイが3番手、4番手は外からディランマウスが上がり、マダムチャンの白い勝負服は内で5番手に下がる。後方2頭はイーグルトップが外目に出して上がって行き、クレヴァークッキーが最後方になった。

直線残り2ハロン、ポストポンドが逃げるロムスダルを交わして先頭、残り1ハロンでイーグルトップが2番手に上がってポストポンドを追いかける。40年前のレースは、4コーナーで捲って先頭に立ったバスティノを、早めに2番手に上がって追い上げたグランディとの争いで、グランディがゴール前で交わして優勝した。対して2015年のゴール前は際どい勝負となり写真判定に縺れたが、ポストポンドがイーグルトップをハナ差抑えて2分31秒25のタイムで優勝した。

ハードウィックSより100分の26時計が速かったが、ソフト(重)の馬場を考慮してもそれほど価値ある記録ではなく、前にいながら早めに動ける馬に展開が向いたと見るべきだろう。一旦は勢いで勝ったイーグルトップだったが、並んでからアドバンテージを取り切れずに終わったことも不満が残る。直線過度の鞭使用でポストポンドのアンドレア・アツィニ騎手が6日間の騎乗停止処分を受け、イーグルトップのフランキー・デットーリ騎手も4日間の騎乗停止処分を受けた。優勝賞金68万9026ポンド(約1億3160万円)はやはり大きい。

ルカ・クマーニ厩舎のポストポンドは来年も現役を続けることが決まっている。トレヴやジャックホッブスとは凱旋門賞を前に顔を合わせる機会がなさそうだが、キングジョージを回避したゴールデンホーンは次走をヨーク競馬場のG1インターナショナルS(芝10F88Y)と決めているだけに、ポストポンドが凱旋門賞の為にゴールデンホーンに直接ぶつけてくる可能性は十分ありそうだ。

ゴールデンホーンのキングジョージを取り消した決定は、意地悪い見方をすればゴールデンホーンの凱旋門賞制覇が晴雨によって大きく左右されると言う事に他ならない。過去20年を見ても、凱旋門賞がパンパンの良馬場で施行された例は少ない。オーナーのアンソニー・オッペンハイマー氏が考えたように、次のレースの選択は愛チャンピオンSやニエル賞もあった筈である。

遠征競馬を経験せずに次走をインターナショナルSに定めたジョン・ゴスデン調教師の決断、ワールドランキングでトップに立つ馬の選択だけに、キングジョージ取り消しは間違いだったでは済まされない。


海外競馬評論家 和田栄司
ラジオ日本のチーフディレクターとして競馬番組の制作に携わり、多岐にわたる人脈を形成。かつ音楽ライターとしても数々の名盤のライナーを手掛け、海外競馬の密な情報を把握している日本における第一人者、言わば生き字引である。外国馬の動向・海外競馬レポートはかねてからマスメディアで好評を博しており、それらをよりアップグレードして競馬ラボで独占公開中。