外から豪快に差し切った古豪、サウンドトゥルーだ!【平林雅芳の目】

サウンドトゥルー

16年12/4(日)4回中京2日目11R 第17回チャンピオンズカップ(G1)(ダ1800m)

  • サウンドトゥルー
  • (セ6、美浦・高木厩舎)
  • 父:フレンチデピュティ
  • 母:キョウエイトルース
  • 母父:フジキセキ

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抜けた1番人気に支持されたアウォーディー。ダートに主戦場を移してから負け知らずだから当然とも言えるだろう。後は自分との闘いでもあった。気が緩むと言うのか、先頭に立つとそれ以上前へ進まない面を見せる馬。
ゴチャついた1コーナー、向こう正面では鞍上の手綱がかなり動いたりしていたが、何とか直線では外から追い上げる態勢まで来た。先頭に立って逃げ込まんとするアスカノロマンを差せたかと思えた瞬間、ゴール前であきらかに脚色の違う勢いの馬が。サウンドトゥルーが、あっと言う間にアウォーディーを交わしてのゴール。クビ差と出たが、半馬身もあろうかの勢いであった…。

名古屋競馬場は、劇場型と言うのか見下ろす感じのパドックで、ビッシリのファンで埋め尽くされていた。場内の移動もままならぬだけに、奥の手でパドックの電光掲示板側からスタンドを見る位置で周回する馬を見つめていた。
パドックの外目を馬が歩いて、内側にはオーナーサイドが集う。すでにドクターコパさんや前田幸治氏などが愛馬を見守っている。良く見える馬、気になる馬にチェックやメモをとる。アスカノロマンが舌を左の口から出している。
いつも思うのだが、ノンコノユメは牝馬かと思う体のラインだ。ただ気合面などはいい。ゴールドドリームはやはり若いのであろう、キョロキョロさが抜けない。その点で古馬は堂々と歩いている。サウンドトゥルーだけが、気配を消しているのか静かに周回している。後で思えば、それが古馬の風格だったなと…。

馬場へ、ラニが先入れで入ってきた。4コーナーから向こう正面へキャンターで行って、2コーナーあたりの地点でよその馬と離れて時を待っていた。それを見守る松永幹師の後ろ姿も見える。この中京競馬場はファン席がすぐ横、それぞれ贔屓のジョッキーが目の前を通っていく度に大きな声援が飛びかう。生演奏のファンファーレと共に、G1の手拍子がこだまする。スタンド前からの発走で、よりライブ感が増す。当然にアウォーディーを中心に見つめている。

スタートはまずまずに出れた。だが行き脚がもうひとつ。外ではゴールドドリームの出が今ひとつだった。アスカノロマンがいいスタートを切って前へかと思いきや、モンドクラッセが外から交わしていく。ブライトライン、コパノリッキー、モーニンと続いていく。アウォーディーはその後の内目だ。ゴールドドリームが追い上げていく。

双眼鏡でアウォーディーを見ているから、最初の異変に気がつく。1コーナーへと入って行く時にそのまま真っすぐに行きそうな動きをしている。左へカーブに対応せず、外へ膨れ気味となっていた。《これはマズイな!》と内心思う。外からゴールドドリームが上がってきた時でカバーしてくれる壁となってくれた。最後方はカフジテイクで、最初のコーナーを終えた。
向こう正面に入って、先頭のモンドクラッセの逃げは1馬身ぐらい。2番手がアスカノロマンとコパノリッキーが並ぶ。7番手ぐらいにアウォーディーだが、内ラチ沿いで何か行きっぷりがもうひとつ。隣にいたゴールドドリームが前へ上がって行き、モーニンと並ぶ。アウォーディーは、武豊Jが手綱をかなりしごきだした。ここらでペースが上がった様である。

前にいたモーニンが、アウォーディーの後ろへと入れ替わった3コーナーと4コーナーの中間点。外へ出してやっとアウォーデイーも行きっぷりがましになり、ゴールドドリームのすぐ後ろのポジションまで来ていた。前はロワジャルダンにブライトラインが並びかけている。その後ろではコパノリッキーと内アスカノロマンが待っている位置どりだ。手綱を押しながらアウォーディーも前との差を詰めて来ていた。

各馬、4コーナーを廻って直線へと入ってきた。モンドクラッセがもう一度前に出て逃げ込みを図ろうとするが、アスカノロマンが外へ出して一気に前へと近づいてくる。アウォーディーもまだ3列目の外ながら、何とか前を捕らえれる体勢まで来ている。内で粘るモンドクラッセをアスカノロマンとアウォーディが並んで交わして行く。後方にいたロワジャルンダンが内ラチ沿いを4番手まで上がってきた。だがその時、スルスルと外をサウンドトゥルーが忍び寄って来ていた。

ロワジャルダンが前へと出て行った4コーナー。その後ろにいたサウンドトゥルー、前の外にいたモーニンとの間が大きくパカッと空いて、そこへ難なくと入ってくる。そのまま外へ鋭角に出せたサウンドトゥルー。あっと言う間に前との差を詰めた。前にいるアウォーディーの後ろ3馬身ぐらいへと出てきた。あとは大野Jの右ステッキに呼応して、グングンと伸びてゆく。すぐ右後ろの大外をカフジテイクにアポロケンタッキー、そしてノンコノユメも併せ馬で伸びて来ていたが、サウンドトゥルーを交わすまではない。
アスカノロマンを交わして先頭に出たアウォーディー、しかしその横を並んで抜き去ったサウンドトゥルー。ゴールを過ぎて手前を替えたぐらいの余裕が馬にはあった。

喧騒でごった返す検量室前、枠場に馬を入れて鞍を外す武豊Jが松永幹師との会話の後『ブレーキをかけた』とひと言して検量室へと入っていった。そこからPVを何度も見る。サウンドトゥルーは、道中は経済コースの最内をドンジリで追走。同じ様な競馬をしたロワジャルダンは最後に脚が上がったのに対して、サウンドトゥルーは最後までしっかりの脚色。昨年とは違った直線への入りが出来た様だ。
四苦八苦したアウォーデイーに対して、最初から意図した乗り方が出来た様なサウンドトゥルー。パドックのあの落ち着きぶりが今、やっと何だったのか判った瞬間でもあった。嵐の前の静けさだったのかと、ふと思えた瞬間であった…。

月曜に武豊Jから電話が入ってきた。その時に昨日に聞けなかったことを尋ねる。 やっぱり1コーナーでのアクシデントは凄かったらしい。『外の幸とミルコに助けて貰った』と言う。特にMデムーロのゴールドドリームが外で堪えてくれたので、それ以上外へ行くこともなく、最悪の外へ行ってしまうことは避けられた様である。そして向こう正面で手がかなり動きだした時と直線で前に出た時に、『パタッと止めてしまうんだ。今までいちばんひどかった。あやうくアスカノロマンに差し返されるところだった…』とヒヤヒヤもののアウォーディーの癖だったようだ。

勝ったサウンドトゥルーは、別格の脚を使っての勝利。昨年の悔しい競馬内容を踏まえての今年の騎乗ぶり。思いどおりにスカっと内から外へ出せ、あとは前を捕まえるだけの簡単な作業。勝つ時はこんなにスンナリと行けるものかと思ったに違いない大野Jであっただろう。
火曜朝に厩舎へ寄ったら、幸いにアウォーディーもラニも、元気に無事だとのこと。次なるステップへと行動を起こすのであろう。


平林雅芳 (ひらばやし まさよし)
競馬専門紙『ホースニュース馬』にて競馬記者として30年余り活躍。フリーに転身してから、さらにその情報網を拡大し、関西ジョッキーとの間には、他と一線を画す強力なネットワークを築いている。