新潟芝1600mの新馬戦を、上がり3F32秒7という、かのハープスターを彷彿とさせる末脚を繰り出して快勝したナヴィオン。橋口弘次郎厩舎のハーツクライ産駒といえば、昨年のダービー馬ワンアンドオンリーを連想してしまうが、酒井慎調教助手に聞けば馬房も隣で、担当者同士は社宅も向かいで生活しているという。名伯楽が2戦目に選んだのは、言わずもがな新潟2歳S。早くも、来春に向けての偉業を期待せずにはいられない。

デビュー前からワクワクしていた馬

-:1戦1勝で新潟2歳Sを予定しているナヴィオン(牡2、栗東・橋口厩舎)について伺っていきます。

酒井慎調教助手:軽飛行機の名前みたいです。今でこそ、インターネットで検索しても馬のことしか出ませんが、皆は電機屋みたいと言います(笑)。

-:それは「エディオン」ですね(笑)。須貝尚介調教師が乗っていた、お母さんのユキノスイトピーのことは知っていますか?

酒:調べて知りました。この前、坂路の上で待っていたら、須貝先生に「良い馬だな」と言われて「先生がお母さんに乗っていたんですよ」とそんな返答をしました。

-:そのお母さんは6勝もしているのですね。

酒:ナヴィオンのお姉さんにテンシノホホエミという馬がいたのですが、中央では1勝しかできず、大井に行きました。お父さんが違うだけで、こうも違うのかと思いました。

-:ハーツクライ産駒なので、まだまだこれからですよね。

酒:成長力がありますし、これからまだ良くなると想像すると、今後が楽しみです。最初にきた時、僕と赤木さん(元騎手で現調教助手)は“小倉1200の馬じゃないか”と言っていました。スピードが勝った馬でテンションが高く、うるさかったです。正直なところ、だから僕に回ってきたのですが、坂路におろしてもパーッと行くので、“やっぱり小倉1200だな”と。

それでも先生(橋口弘次郎調教師)は「1600で使う」と言うので、距離は長いんじゃないかと思っていたのですが、初めて速いところをやった時は“なんじゃこれ!?”と思いました。ガツンと行かず、フワッと乗れて、シュッと仕掛けたらビューンと行ったんです。コースを出ても乗りやすいです。赤木さんがずっと絶賛していたので、こういう馬が良い馬なのだなと、僕もワクワクしました。新馬戦を使う前からワクワクする馬に出会ったのは初めてです。

酒井慎調教助手

-:新馬当時より、ちょっとふっくらした印象です。

酒:もともと手足も短く、背も低いのです。お腹回りがポテッとしているので、大きく見えますが、次も同じくらいで出られると思います。

-:今の体重は460くらいですか?

酒:それくらいあると思います。昨日(8/21)、獣医さんに見てもらったら、「だいぶ楽をさせた体つきになったね」と言われました。実際、食べるだけ食べさせて、楽に乗っていました。

-:1週間後の競馬を考えるとどうですか?

酒:あと2本速いところをやりますし、輸送もあるので丁度良いと思います。

-:水準としては、坂路でどれくらいの時計が出ていればいいですか?

酒:これまでのベストは52秒台で、その時は僕が乗っているんです。赤木さんが乗ったら、もっと出ると思います。

隣の馬房にワンアンドオンリー

-:ハーツクライ産駒というと、サンデー系ですし、手足がひょろっとした軽いイメージがあります。ナヴィオンはサクラバクシンオー産駒みたいですよね。

酒:見た目は隣の馬房のワンアンドオンリー(牡3、栗東・橋口厩舎)と比べたら正反対ですよね。しかし、走り出すと全身を使った軽い走りをするのです。

-:見た目とは違うのですね。ハーツクライ産駒は並足に癖があったりしませんか?

酒:山手さん(橋口厩舎のベテラン調教助手)が「並足が硬い馬は走らない」と言っていました。でも、そういう硬さを感じないので、これは走るのかな、と思いました。

-:ハーツクライ産駒で子供の頃の歩きが綺麗な馬は、あまり走ってないですよね。だから、癖のある方が良いんじゃないですか。

酒:あの馬の並足を見ていたら、走る馬には見えないです。ポケーとしていて、落ち着いているんです。最初にきた時は、馬っ気が強く、今でもたまに子供っぽさを出して暴れたりします。そういう意味でも、いかにリラックスさせてあげるかですね。馬も何も分かってないと思います。


「同じジョッキーが乗ってくれることは絶対にプラスですし、上がってきた時に『この馬半端ない。こんな馬には乗ったことない』と絶賛してくれました」


-:気が抜けた感じですよね。今の時点では特性や適距離は白紙の状態で、これからどんな色が付くか楽しみです。

酒:まだ分からないですからね。

-:とはいっても、新潟2歳Sが1週間後に迫っています。

酒:僕は楽しみでしかないです。まず、同じジョッキーが乗ってくれることは絶対にプラスですし、上がってきた時に「この馬半端ない。こんな馬には乗ったことない」と絶賛してくれました。

-:的場(勇人)騎手がそんなに絶賛してくれたのですね。それは嬉しいですね。

酒:めちゃくちゃ嬉しかったです。僕も“この馬は半端ない!”と思いながら、毎日乗っています。僕と的場勇人くんは同じ歳でメッシ世代です。

-:サッカー選手ですか。意外なところからきましたね(笑)。前走のレースは後方一気という形でしたが、あの切れ味を新馬戦で出せるということで、これからどうなるのでしょう。

酒:2歳戦での上がり32秒台というのは、ハープスター以来みたいです。あんな勝ち方をするなんて、想像していませんでしたし、スタートしてからは全然進まなかったみたいです。僕はもっとグイグイ行くかと思っていたのですが、進まなくて、直線を向いて大丈夫かと心配しましたが、仕掛けたら、グンッと沈んで、ビュンッときたみたいです。

ナヴィオン

-:その話を聞いても、さっき見た姿と同じ馬の話とは思えないです(笑)。

酒:顔も性格も赤ちゃんみたいで、本当に可愛いです。

-:天真爛漫で周りを全く気にしないところがありますよね。

酒:大人しいけど、僕にも興味を示してくれてないんじゃないかなと。

-:隣にワンアンドオンリーがいて、心強いですよね。

酒:パワースポットですよね。自分も結婚して、今は社宅に住んでいるのですが、向かいが(ワンアンドオンリーの担当助手の)甲斐さんなんです。馬房も隣り合わせなのに。

-:ワンアンドオンリーのストーカーですね(笑)。その効果は出ていますか?

酒:今年の11月に子供が生まれるのですが、妊娠が発覚してから半年くらいで3つ勝たせてもらいました。“お腹にベイビーがいる間は走る”というトレセン内での都市伝説があるんです。

ナヴィオン・酒井慎調教助手インタビュー(後半)
「手前を替えずして32秒7の末脚」はコチラ⇒

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(左)ワンアンドオンリー、(右)ナヴィオン

(左)ワンアンドオンリー、(右)ナヴィオン