ダービー馬との思いがけない共通点の持ち主ナヴィオン
2014/8/28(木)
-:1戦1勝で新潟2歳Sを予定しているナヴィオン(牡2、栗東・橋口厩舎)について伺っていきます。
酒井慎調教助手:軽飛行機の名前みたいです。今でこそ、インターネットで検索しても馬のことしか出ませんが、皆は電機屋みたいと言います(笑)。
-:それは「エディオン」ですね(笑)。須貝尚介調教師が乗っていた、お母さんのユキノスイトピーのことは知っていますか?
酒:調べて知りました。この前、坂路の上で待っていたら、須貝先生に「良い馬だな」と言われて「先生がお母さんに乗っていたんですよ」とそんな返答をしました。
-:そのお母さんは6勝もしているのですね。
酒:ナヴィオンのお姉さんにテンシノホホエミという馬がいたのですが、中央では1勝しかできず、大井に行きました。お父さんが違うだけで、こうも違うのかと思いました。
-:ハーツクライ産駒なので、まだまだこれからですよね。
酒:成長力がありますし、これからまだ良くなると想像すると、今後が楽しみです。最初にきた時、僕と赤木さん(元騎手で現調教助手)は“小倉1200の馬じゃないか”と言っていました。スピードが勝った馬でテンションが高く、うるさかったです。正直なところ、だから僕に回ってきたのですが、坂路におろしてもパーッと行くので、“やっぱり小倉1200だな”と。
それでも先生(橋口弘次郎調教師)は「1600で使う」と言うので、距離は長いんじゃないかと思っていたのですが、初めて速いところをやった時は“なんじゃこれ!?”と思いました。ガツンと行かず、フワッと乗れて、シュッと仕掛けたらビューンと行ったんです。コースを出ても乗りやすいです。赤木さんがずっと絶賛していたので、こういう馬が良い馬なのだなと、僕もワクワクしました。新馬戦を使う前からワクワクする馬に出会ったのは初めてです。
-:新馬当時より、ちょっとふっくらした印象です。
酒:もともと手足も短く、背も低いのです。お腹回りがポテッとしているので、大きく見えますが、次も同じくらいで出られると思います。
-:今の体重は460くらいですか?
酒:それくらいあると思います。昨日(8/21)、獣医さんに見てもらったら、「だいぶ楽をさせた体つきになったね」と言われました。実際、食べるだけ食べさせて、楽に乗っていました。
-:1週間後の競馬を考えるとどうですか?
酒:あと2本速いところをやりますし、輸送もあるので丁度良いと思います。
-:水準としては、坂路でどれくらいの時計が出ていればいいですか?
酒:これまでのベストは52秒台で、その時は僕が乗っているんです。赤木さんが乗ったら、もっと出ると思います。
-:ハーツクライ産駒というと、サンデー系ですし、手足がひょろっとした軽いイメージがあります。ナヴィオンはサクラバクシンオー産駒みたいですよね。
酒:見た目は隣の馬房のワンアンドオンリー(牡3、栗東・橋口厩舎)と比べたら正反対ですよね。しかし、走り出すと全身を使った軽い走りをするのです。
-:見た目とは違うのですね。ハーツクライ産駒は並足に癖があったりしませんか?
酒:山手さん(橋口厩舎のベテラン調教助手)が「並足が硬い馬は走らない」と言っていました。でも、そういう硬さを感じないので、これは走るのかな、と思いました。
-:ハーツクライ産駒で子供の頃の歩きが綺麗な馬は、あまり走ってないですよね。だから、癖のある方が良いんじゃないですか。
酒:あの馬の並足を見ていたら、走る馬には見えないです。ポケーとしていて、落ち着いているんです。最初にきた時は、馬っ気が強く、今でもたまに子供っぽさを出して暴れたりします。そういう意味でも、いかにリラックスさせてあげるかですね。馬も何も分かってないと思います。
「同じジョッキーが乗ってくれることは絶対にプラスですし、上がってきた時に『この馬半端ない。こんな馬には乗ったことない』と絶賛してくれました」
-:気が抜けた感じですよね。今の時点では特性や適距離は白紙の状態で、これからどんな色が付くか楽しみです。
酒:まだ分からないですからね。
-:とはいっても、新潟2歳Sが1週間後に迫っています。
酒:僕は楽しみでしかないです。まず、同じジョッキーが乗ってくれることは絶対にプラスですし、上がってきた時に「この馬半端ない。こんな馬には乗ったことない」と絶賛してくれました。
-:的場(勇人)騎手がそんなに絶賛してくれたのですね。それは嬉しいですね。
酒:めちゃくちゃ嬉しかったです。僕も“この馬は半端ない!”と思いながら、毎日乗っています。僕と的場勇人くんは同じ歳でメッシ世代です。
-:サッカー選手ですか。意外なところからきましたね(笑)。前走のレースは後方一気という形でしたが、あの切れ味を新馬戦で出せるということで、これからどうなるのでしょう。
酒:2歳戦での上がり32秒台というのは、ハープスター以来みたいです。あんな勝ち方をするなんて、想像していませんでしたし、スタートしてからは全然進まなかったみたいです。僕はもっとグイグイ行くかと思っていたのですが、進まなくて、直線を向いて大丈夫かと心配しましたが、仕掛けたら、グンッと沈んで、ビュンッときたみたいです。
-:その話を聞いても、さっき見た姿と同じ馬の話とは思えないです(笑)。
酒:顔も性格も赤ちゃんみたいで、本当に可愛いです。
-:天真爛漫で周りを全く気にしないところがありますよね。
酒:大人しいけど、僕にも興味を示してくれてないんじゃないかなと。
-:隣にワンアンドオンリーがいて、心強いですよね。
酒:パワースポットですよね。自分も結婚して、今は社宅に住んでいるのですが、向かいが(ワンアンドオンリーの担当助手の)甲斐さんなんです。馬房も隣り合わせなのに。
-:ワンアンドオンリーのストーカーですね(笑)。その効果は出ていますか?
酒:今年の11月に子供が生まれるのですが、妊娠が発覚してから半年くらいで3つ勝たせてもらいました。“お腹にベイビーがいる間は走る”というトレセン内での都市伝説があるんです。
ナヴィオン・酒井慎調教助手インタビュー(後半)
「手前を替えずして32秒7の末脚」はコチラ⇒
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プロフィール
【酒井 慎】Shin Sakai
父は元障害騎手の酒井浩氏で、引退後は松元茂樹厩舎の攻め専としてビリーヴなど名馬の調教もつけていた。妹はなでしこリーグのASハリマ・アルビオンで活躍する酒井望選手。幼少時は栗東で過ごすも、中学受験をして函館ラサールに進学。同時に函館競馬の乗馬センターで乗馬を始め、北大馬術部の朝練に参加して腕を磨いたことも。高校卒業後は滋賀県長浜にある三田馬事公苑に4年間勤務し、競馬学校卒業を経て栗東に戻ってきた。
在学中には模範賞の表彰も受け、橋口弘次郎厩舎でトレセン生活をスタート。思い出に残っている馬は最初に担当したリュウシンアクシス。入って1年10ヶ月目に挙げた初勝利がキュンティアの仔であるアンジュエで「中京で川田騎手が乗ったのですが、ゴールしたとたんめっちゃ雨が降ったんです。涙を堪えていたのですが、勝ち馬写真を撮るとき、バーって泣いちゃいました」。厩舎に入って3年目を迎え、素質馬ナヴィオンに出会う。新潟2歳Sで自身初となる担当馬の重賞制覇を誓っている。
プロフィール
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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