フランスの競馬と凱旋門賞
2014/2/5(水)
-:現在、日本の競馬の質はフランスと比べて、どうですか?
ル:今、日本のレースレベルはすごく上がっていて、それはなぜかと言うと、日本のオーナーさんがアメリカ、フランス、オーストラリア、ドイツなど外国から良い馬を購入して、それこそ種牡馬にしても血統的にレベルが上がっていると思うので、日本の競走馬はどこに行っても通用すると思います。もう一つは日本のレース自体が速いレースが多いので、勝つ馬というのはそれだけ力がなかったら絶対に勝てないはずなので。
フランスはすごくペースが遅いので、そこまでのレベルじゃなくても最後に少し脚を使っただけで勝てるラッキーな場合もあるんです。そういう意味では日本の馬の質というか、勝つ馬が勝つようになっているのかなというレベルですね。今まですでに、シーザリオなど挙げたらキリがないですが、大きなレースを勝っていて、外国でも通用することが証明されてきているので、レベルが上がっているのでしょうね。
安:最初は全然差があったんだけど、血統的にも世界的な馬が入ってきて、そういう部分では日本の馬はレベルがすごく高くなったと思う。ただ、やっぱりフランスなんかはすごいスローになるでしょ。日本ではああいうペースはあんまりないから、それに対応できない馬が中にいるんじゃないかなと思って。結構、日本は行きたがる馬が多いからね。
ル:難しいです、いつもスローになるから。日本の競馬とは違うので。
安:向こうは厳しいでしょ。ルメール的には日本で乗ってる方が楽だったりするのかな?
ル:日本でも簡単に勝てるとは思ってないです。やっぱり良い馬に巡り合わないと、どこでも勝つのは難しいので。日本のジョッキーのレベルは上がってきていると思うのですけど、ライアン・ムーアなどたくさん外国人が来て、違ったスタイルをレース中に見ることで勉強になると思います。そういう意味でジョッキーのレベルも上がってきているんでしょう。
安:オレらから見ていて、ユタカちゃんがずっとトップであって、あのような長手綱でね。日本のようなペースならある程度は流れるから良いけど、フランスなんかではもうちょっと短く持って抑えきるようなところがないと、ペースが遅いからね。
ル:12年前に初めて来日した時に日本のジョッキーのみなさんの乗り方は速く前に行かす乗り方だったと思うのですけど、今はタメて最後の脚を活かす競馬だとか、そういう風に技術が変わってきているように思います。ユタカさんも前は長手綱でユッタリ後ろからという感じでしたが、そういうのもすごく変わってきたように思います。
安:この前、フランスの競馬を初めて現地で見たけど、あの流れだったら長い手綱じゃ抑えきれないと思うよ。ある程度は抱え込まないとね。
ル:そうですね。もしヨーロッパで日本のような長手綱で乗ったら、全然馬をコントロールできないと思います。なぜなら常にスローペースだから。
-:フランスの話題が出たところで、凱旋門賞について聞いていきたいと思います。
安:オルフェーヴルが勝つと思って見に行ったんだけどね。
ル:ロンシャン競馬場の印象はどうですか。お好きですか?
安:やっぱり歴史を感じるね。
ル:馬場のチェックはされましたか?
安:見ただけだけどね。引退した後だから、さすがに馬には乗ってないよ。
ル:全然日本と馬場の感じが違うんで、チェックしていただければ良かったのですが。凱旋門賞の日に来られたから、すごく素敵な雰囲気とか、良い感情を持たれたと思うのですが、普通の日に来たら本当に誰もいないですし、寂しい感じなので。凱旋門賞の日に来られたことはすごいラッキーだったと思います。
安:パリだけで3~4つ競馬場があるでしょ?
ル:競馬場はロンシャン、サンクルー、メゾンラフィット、そしてシャンティイですね。
安:やっぱり、分散する分だけお客さんは入らない訳、普通の日は?
ル:馬券を賭けるためにおじさんが毎回来ていますが、閑散として普通の時に行ったら全然人がいません。99%、馬に興味があるわけじゃなくて、賭けるために来ている人達です。
安:そういう点では日本は恵まれているんやね。活気があるしね。
ル:いつも言うんですが、日本とは全然違って、サインを求められることなんかまずないので。競馬ファンの方々が自分を判ってくれて応援してくれているということが伝わってくるので、すごく日本の競馬は好きですね。
安:日本だけだもんな。凱旋門賞なんかでもああやって大勢で応援に行くのはね。地元の馬が出るというだけでね。そういう点では日本も熱いよね。
ル:ヨーロッパの競馬場は素晴らしくキレイだし、レースも素晴らしく良いと思うんだけど、素晴らしいモノが揃っているのに雰囲気がないというか、やっぱりファンというか人の部分が……。
安:日本で言うと、地方競馬みたいなもんだな。日本の地方競馬でおじさんが馬券で儲けるためだけに、みたいな(笑)。
-:当然、僕らはオルフェーヴルが勝つと思って凱旋門賞を見ていた訳ですけども、去年、一昨年の凱旋門賞を振り返って、あの馬はどうでしたか?
ル:1年目の凱旋門賞の時の方が勝つ可能性が高かったと思うし、勝つなら初めの年に勝つべきだったでしょう。去年はそういう風には思いませんでした。なぜなら最初の年は4歳だったということもありますし、1年目の方がメンバーが弱かったので。あれで勝てないようだと……。
-:お2人の眼から見て、勝ったトレヴは強かったですか?
安:あれを見ると強かったね。すごい馬だよね。
ル:凱旋門賞以前のすごいパフォーマンスで驚かされることが多かったですが、本当にすごく強い馬ですね。
-:オルフェーヴル云々よりも昨年はトレヴが強かったということですね。あとフランス人ジョッキーにとって、凱旋門賞はどんなレースですか?
ル:世界一のレースです。それしか例えようがないというか、エプソムダービーみたいな素晴らしい歴史のあるレースですね。世界中で他に類を見ないだけの世界で一番有名なレースだと思います。出走メンバーに自分の国以外から7~8頭参加してくるレースというのは本当に凱旋門賞ぐらいしかないので、そういう意味でも特別なレースだと思います。
安:そうそう。やっぱり歴史を感じるような雰囲気があったね。終わって思うと、あんまり簡単に日本の馬が勝たねえ方が良かったかなという部分もあるね(笑)。ましてや日本の騎手が勝つということは大変やと思うよ。パッと行って勝つなんていうのは余程強い馬じゃないと。強いというのも判んないもので、あっちのペースがあるから。そういう向こうに合った馬を連れていかなきゃダメだわね。ディープなんかは正直合わねえと思ってたから。
ル:ロンシャンは特別にそうかもしれないですね。下り坂とかがあるので、掛かって頭を下げてしまったらエネルギーを消耗してしまう馬も多いので、その辺りもすごく難しいと思いますし、特別ムキになってしまうと。
安:ディープは反応の良い馬だったでしょ。やっぱりそういう馬は却って合わないんじゃないかと思って。
ル:フォルスストレートから入ってきて直線がすごく長いので、やっぱりフォルスストレートで反応してしまって行く感じになると最後まで持たないかな。日本の馬には芝も深いので、それもやっぱりスタミナがいるのと長い直線というのがね。
安:オルフェーヴルが最初の年に行って負けたのも、変に反応が良過ぎて早く先頭に立っちゃったからね。
ル:早く動き過ぎたというか、外に出したことで馬がもう行って良いんだと思ったんじゃないかな。日本ではラスト200に全てを懸けて走るから、それがタイミングと直線の長さが合ってなかったんでしょう。JCのブエナビスタも楽に勝てると判っていても、やっぱり動き出した時のタイミングというか、外に出した時にさあ行こうというタイミングで、反応が良過ぎる馬だとそういう風に難しいのかな。
安:日本の走る馬だとそういう点で反応が良過ぎるからね。
-:フランス人だとそういう大レースはフランスの馬に勝って欲しいというのはあるのですか。外国の馬には勝たせたくないという風習はやはりあるのでしょうか?
ル:いいえ、もちろん素晴らしい馬であるならば、日本の馬であろうがどこの国の馬であろうが、全然そういうイメージはないですし、自分は勝って欲しいと思っています。それがアメリカの馬であろうが、日本の馬であろうがね。ライバルですから。人によっては勝って欲しくない場合もありますけど……。僕は日本にしか友達がいないので、日本のジョッキーには勝ってほしいです(笑)。
プロフィール
クリストフ・パトリス・ルメール
1979年5月20日生まれ。フランス国籍。
99年にフランス騎手免許を取得すると、間もなく頭角を現し、02年より短期騎手免許を取得して来日するようになる。日本では重賞勝利までに時間が掛かったが、05年の有馬記念では追い込み脚質だったハーツクライを先行させ、三冠馬ディープインパクトを封じて、初重賞奪取をG1制覇で飾った。他にもカネヒキリと挑んだ08年のJCダート、09年のウオッカでのジャパンカップ、13年のベルシャザールでのJCダートなど、来日時は大仕事をやってのけることでファンにも馴染みは深い。「日本は第二の故郷」と今秋も再来日を誓う、世界トップクラスのジョッキーである。
【安藤 勝己】Katsumi Ando
1960年3月28日生まれ 愛知県出身
76年に笠松競馬でデビュー。78年に初のリーディングに輝き、東海地区のトップ騎手として君臨。笠松所属時代に通算3299勝を挙げ、03年3月に地方からJRAに移籍を果たす。同年3月30日にビリーヴで高松宮記念を勝ちG1初制覇して以降、9年連続でG1を制覇。JRA通算重賞81勝(うちG1 22勝)を含む1111勝を挙げ、史上初の地方・中央ダブル1000勝を達成した。13年1月惜しまれつつ騎手人生に終止符を打った。今後は「競馬の素晴らしさを伝える仕事をしたい」と述べており、さらなる競馬界への貢献が期待されている。
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