ベルシャザールのルーツをたどる
2014/2/5(水)
-:お二人にとって馴染み深いベルシャザール(牡6、栗東・松田国厩舎)についてお話をしていただきたいんですけれど、安藤さんはデビュー当初の主戦ジョッキーだったので、どういう馬だったのかを伝えていただきたいのですが?
安:デビューする前に2回ぐらい調教に乗ったんだけど、すごく品のある馬で柔らかくて、キングカメハメハのイメージがすごく出ている馬だなと。あの年は先生も力が入っててね。でも、デビューした頃は何か足りねえなという感覚もあったんですよ、芝では。
ル:私も一番最初に乗った時のイメージがないのですが……。
安:ルメールも芝のホープフルSで勝ったんだよね。芝ではあれと新馬しか勝ってないんだわ。
ル:サトノノブレスとかもそうですけど、時間が掛かって育ってきたというか、時間を掛けてもらった馬なので、その間にトラブルはあったけれども、その分、今ドンドンと強くなってきているというイメージがあって。カネヒキリもそうだったんですけど、すごく大人になって、今すごく強くなってきてますね。まあ、カネヒキリはケガする前もトップクラスだったので、ちょっと違いますけどね。
-:安藤さんがベルシャザールに乗られていた時は、どちらかと言うと芝でちょっとパンチが足りないような馬だったと思うのですが、ダートだったら変わるなとか、やれるなというイメージはありましたか?
安:そういう感じはしなかったけどね。何かもう一つ足りない弱さもあったというか、ひ弱さがあったというか。ただ、クッションも良かったし、雰囲気を持っていたからすごく期待はしてたんだけど……。まあ、ダービーでも3着には来てるんだけどね。クッション的には柔らかくて、もう一つグンという瞬発力がねえのかなというか、芝の時は結構前に行って、ある程度粘るという競馬をしていたから。芝でもそのうちに重賞を勝つんじゃねえかなというイメージはあったんだけど。
ル:ダートで開花して強くなってきてますが、安藤さんが乗っていた時に「悪い面ではなく、良いイメージを持って乗っていた」とおっしゃっていたので、やっぱりそれだけのモノがあったのでしょう。安藤さんが「何か一つ足りない」とおっしゃってたのは、多分年齢とかを重ねて馬がもう少し大人にならなきゃいけないという部分で、そういうのが欠けていて、今、大成したのかなと思います。
安:考えてみれば、相手も強かったよね。オルフェーヴルの年代は芝路線が。ウインバリアシオンもいて、それなりに揃っていたから。いつもソコソコに来るんだけど、やっぱり大きいところでは勝ち切れないとか、そういうのもあったんだろうけどね。
-:復帰して3着、次走ですぐに準オープンを勝ちました。あのレベルの馬であれば、それも当然だと思うのですけど、ルメール騎手が乗って重賞の武蔵野Sも勝ちました。距離が短いのではと言われたりした中で勝ちましたけど、その時のイメージをそれぞれ教えて下さい。
安:武蔵野Sの時はやっぱり何かモタモタするというか、そういう風に見えたんだけど、内を走っていて追い出しての反応が鈍いというか。一瞬、あれっ、来ないのかなと。
ル:何かモタモタしていたというよりは跳びも大きいので前が閉まらないか心配でした。ひたすら待って、待って……、さらに前が開くタイミングを待っていました。開いた後の反応はすごく良かったです。スペースがないところに入れてしまうよりはJCダートのように外を回る感じの方が彼にとっては好走できるんじゃないかなと。
安:跳びが結構、ユッタリとしているからね。反対に芝ではその分、キレがねえんじゃないかと。芝では勝負所がビューンと速くなるでしょ。その分、ダートの方が良いのかなというイメージがあるんだけどね。
ル:そういう意味ではパワフルだし、脚の送りとかもすごく体全体を使って大きいので、ダートが良いのかなという感じはします。
-:マイル自体は忙しいイメージはなかったですか?
ル:それはなかったですね。2400のダービーで3着に来ていたということもあるので、別に2000、マイルぐらいでもこなせるのじゃないのかな。
安:JCダートは思ったより強かったね。オレは3着になったホッコータルマエがすごい強いイメージがあったから。あれもキンカメの子なんだよ。ホッコータルマエの方が先行力もあるし、ある程度は恵まれた部分もあるのかなと思って。ホッコーは早く先頭へ立たされちゃって。
ル:展開面もあるかと思いますけど、大きなストライドの馬なので外を回ってくる予定でした。5頭分ぐらい外を走ることになるので、ちょっと不利かなと思う部分もあったのですけど、安藤さんも現役時代にあったと思うのですが、乗っている感触から今日はいけるんじゃないかと感じてました。馬からそういうモノがすごく伝わってきたのでね。
安:そうだったんだ。早くから乗ることは決まっていたの?
ル:武蔵野Sを勝った後は松田先生が「JCダートには行かない」とおっしゃってたんですけどね。勝った後のインタビューで「この後はどうなると思いますか?」と聞かれた時にフェブラリーSも勝てると思いますと言って、最後に“どうしてJCダートに行かないの?”と言ってしまったんですよ。それもあるのかもしれませんね。
安:インタビューを聞いてて、JCダートまで日にちもなかったので「ルメールが乗れなきゃ、JCダートは使わない」と先生が言っていた記憶がある。
ル:エージェントが「松田先生と話をして聞いてみましょう」と言っていたので、乗れることは早めに伝えていたみたいです。
プロフィール
クリストフ・パトリス・ルメール
1979年5月20日生まれ。フランス国籍。
99年にフランス騎手免許を取得すると、間もなく頭角を現し、02年より短期騎手免許を取得して来日するようになる。日本では重賞勝利までに時間が掛かったが、05年の有馬記念では追い込み脚質だったハーツクライを先行させ、三冠馬ディープインパクトを封じて、初重賞奪取をG1制覇で飾った。他にもカネヒキリと挑んだ08年のJCダート、09年のウオッカでのジャパンカップ、13年のベルシャザールでのJCダートなど、来日時は大仕事をやってのけることでファンにも馴染みは深い。「日本は第二の故郷」と今秋も再来日を誓う、世界トップクラスのジョッキーである。
【安藤 勝己】Katsumi Ando
1960年3月28日生まれ 愛知県出身
76年に笠松競馬でデビュー。78年に初のリーディングに輝き、東海地区のトップ騎手として君臨。笠松所属時代に通算3299勝を挙げ、03年3月に地方からJRAに移籍を果たす。同年3月30日にビリーヴで高松宮記念を勝ちG1初制覇して以降、9年連続でG1を制覇。JRA通算重賞81勝(うちG1 22勝)を含む1111勝を挙げ、史上初の地方・中央ダブル1000勝を達成した。13年1月惜しまれつつ騎手人生に終止符を打った。今後は「競馬の素晴らしさを伝える仕事をしたい」と述べており、さらなる競馬界への貢献が期待されている。
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