クラシックを見据える大物候補リアルスティールが中山に登場
2015/3/15(日)
遊んで走って共同通信杯を完勝
－：リアルスティール(牡3、栗東・矢作厩舎)がスプリングS(G2)に向かいます。共同通信杯前のインタビューに続きよろしくお願いします。まず、当時の柿崎さんのお話では「絶対勝てる！」と言い切るような感触ではなかったと思います。レースをご覧になっての印象はいかがですか？
柿崎慎調教助手：ハイ、よろしくお願いします。そうですね……。当時はそこまでの自信を持っていませんでしたが、勝てたことにホッとしています。レースぶりも一番心配していた、折り合いもしっかりついていたことが良かったですね。
－：2戦目で輸送、左回りという初条件もクリアできました。ドゥラメンテという馬がその前のレースを好内容で勝ってきて、対決に注目が集まっていましたよね。
柿：僕は周りの馬は気にしていなかったんです。リアルスティール自身の内容に集中していました。
－：デビュー戦と比較しての疲れはいかがでしたか？
柿：栗東に帰ってきて、獣医さんにも状態を診てもらったのですが「全然疲れはないね」ということでした。「遊んで走っている」とも言っていました。心強い言葉でしたね。
「パワーもあり、(力を要する)そういう条件でも全然問題ないと思っています。決して軽い馬場専用のディープ産駒ではないと思いますね」
－：先週、弥生賞が終わったことで、皐月賞、クラシックへ向けての勢力図は見えてきます。ここでも相手関係より、リアルスティール自身の競馬に徹する構えですか。
柿：前回、勝ったことで賞金も加算できましたし、今回は中山コースの経験が一番大きなテーマですね。
－：ディープインパクト産駒の中には馬場が悪くなった時に、パフォーマンスを落とす馬もいますよね。中山の芝は馬場の改修もあり、例年よりも良い状態であろうとは思いますが、この馬のフットワークや走りはどんなタイプでしょうか？
柿：パワーもあり、そういう条件でも全然問題ないと思っています。決して軽い馬場専用のディープ産駒ではないと思いますね。
－：弥生賞も馬場が悪くて、良馬場でこそという馬には厳しい条件だったと思います。そういう面ではリアルスティールは馬場が渋っても楽しみはありますね。トモだけで走っているような馬ではなく、全身を使って走れているタイプですか？
柿：トモはまだまだ緩いです。それでも、2回使ったことで使った後のほうが良くなってきている感はありますからね。
皐月賞を意識して臨むスプリングS
－：ここまでの成績が2戦2勝とパーフェクトなので、良いところしか見えていないと思います。トライアルの間に確認しておきたいことはありますか？
柿：今までは東京と阪神しか走っていませんし、ワンターンのコースですよね。今回は中山という一般的にトリッキーなコースで、コーナー4つの競馬。そのあたりですよね。今度はスタンドに近い発走になりますから、そのあたりでテンションはどうか、ということも気になりますね。
－：皐月賞へ向けての試走になりますね。本番よりも1ハロン短いものの、ほぼ同じ形態で走れそうです。
柿：そうですね。同じ競馬場で。
－：皐月賞が本番なので、ここが目一杯の仕上げというわけではないですよね。
柿：それはもちろんそうですけどね。
－：今週の調教は下のCWコースで追われたわけですが、動きはいかがでしたか？
柿：時計を見てもらって分かるとおり、馬なりながら、もう勝手に走らせちゃうという感じですね(笑)。福永騎手も「もっともっと良くなるのは先と思っていたけど、思っていたよりも成長が早い」と言ってくれたので。
－：先週の弥生賞をサトノクラウンで勝った福永騎手ですが、本番もリアルスティールに乗ることが決まっていますね。普段の調教も手伝ってくれているのでしょうか？
柿：共同通信杯の前から火曜は僕が乗って、水曜日の追い切りは福永さん。木曜は追い切りの次の日なので運動だけですが、金曜日の普通の調教でも乗ってくれています。土日は開催日なので僕が乗りますが、1週間半々で僕と福永さんが調教に跨がるという感じですね。
3/11(水) CWコースでG1馬タイセイレジェンドとの併せ馬
馬なりながら6F81.7－65.6－51.4－37.6－11.6秒をマークし大差先着した
－：ディープブリランテの時も岩田ジョッキーがダービーまで付きっ切りでした。その辺は矢作先生とのコミュニケーションがあって、福永ジョッキーが付きっ切りになっているのでしょうか？
柿：先生はこの馬のことを、それ程難しくは考えてないと思いますよ。
－：では、先生との打ち合わせの中で、この馬の評価している部分を教えてもらえますか？
柿：前回も話したように、デビュー前から期待している馬ですよね。それに、共同通信杯を勝った後、「これから大変やな」と言われました(笑)。
－：それは皐月賞、ダービーとプレッシャーがかかっていくぞと。共同通信杯の時とはご自身のテンションは違いますか？
柿：あの時はやっぱり期待されている馬なので、まずは皐月賞、ダービーと出走させるために勝って賞金を稼がなければならない、というプレッシャーは確かにありました。それを2戦目で突破してくれたので、今は気持ち的にだいぶ楽ですね。
－：これだけの馬を担当していると、レースに良いコンディションで持って行くという以前に、普段の調教でもケガをしないように細心の注意を払わないといけませんね。
柿：それが一番です。まずは無事に、と。ただし、この馬に限らず、どの馬でもそうですからね。未勝利の馬であろうと、G1馬であろうと、まずは無事に走らせるのが前提なので。
－：競走馬の難しさというのは、馬場がいい時に走った方がケガしないと思って、馬場がいい時を選んで走っていても、ケガをする時はしてしまいますね。
柿：それはどうしても防ぎきれないものはあるので、慎重に、慎重に、とはなりますよね。
今シーズンは先輩ダービー馬の必勝ローテ
－：「前走ではちょっと余裕があった」ということでしたが、まだ見せていないところをデビュー3戦目で見せられたら勝機は広がりますね。
柿：しかし、本番はその次なので。もちろん勝ってくれるに越したことはありませんが、まずは内容が一番大事かと思っています。
－：前回の折り合いであったり、最後の伸びを見ると、あまり中山コースを苦にするようなタイプには見えない気がしますね。
柿：走る馬は馬場状態もコースも関係ないですからね(笑)。
－：折り合いを苦にする馬は中山の2000には向かないと思います。ある程度位置が計算できて、終いも確実に伸びるという馬が中山の2000向きだと思うので。むしろ上がり最速で来る馬よりも4角で射程圏内に付けている競馬の巧さ、センスが問われるコースだと思いますね。
柿：今までの2戦を見ていたら、そういうセンスは十分あると思うので。
－：前走ももしゴール前で進路が開かなかったら、着差はもっと小さいものだったかもしれませんし、能力だけではなくて、他の馬との兼ね合いもあります。中山2000mはポジションの取り合いも見所ですよね。状態に関しては、共同通信杯からのプラスアルファが見込めそうですか？
柿：ノーザンFしがらきへ短期放牧へ出しましたが、状態は全く問題ないですよ。
－：前回も伺いましたが、馬体重の変化はありますか？
柿：ほとんど変わっていませんね。まだまだ先の長い馬なので、できればプラス体重にしたいとは思っていますが。馬体そのものは大きいのですが、意外にカイバ食いが安定しないというか、カイバを残す時もあるのです。
－：その割には疲れが残らないということは、吸収力が良いのでしょうか？
柿：この前のレース後はすぐに食べていたんですよね。
－：この馬の特徴として、ガツガツ食べるタイプではないのですね。
柿：牧場では結構食べているらしいんですよね(笑)。トレセンに来ると、精神的にもそういう部分が出るのかもしれません。
－：トレセン内で見ている時には、少し気の細やかな部分があるのかなと思っていましたが、初の輸送も十分にクリアしていますし、レースで精神的に怯むようなことはあまりなさそうですね。
柿：スタート後すぐに内側にモタれる部分は見せましたが、その後は落ち着いて追走してくれました。まだ若さがあるにはありますが、それもあって当然の時期ですからね。
－：次がキャリア3戦目ということで、今は素質プラス競馬センスの良さで上手く立ちまわってくれると良いですね。この先、担当としてはプレッシャーが高まることかと思われますが、最後にファンの皆さんへメッセージをお願いします。
柿：皐月賞、その次のダービーが本番ではありますが、今回に関してはどのような内容で走ってくるのか、そこを見てほしいですね。
－：今シーズンは厩舎の先輩にあたるディープブリランテと同じローテーションですね。
柿：ブリランテは2歳で重賞を勝って、共同通信杯、スプリングSを経てのダービーでした。
－：今回は相手も強化される一戦ですが、非常に楽しみにしています。関西馬の星になってください。
柿：ありがとうございます(笑)。馬は元気なので、頑張ってくれるでしょう。
－：ありがとうございました。
(取材・写真＝高橋章夫 写真＝競馬ラボ特派員)
プロフィール
【柿崎 慎】Shin Kakizaki
父親の影響で中学生の頃から競馬を見始め、牧場での勤務に憧れを持ち、高校卒業と同時にBTC(軽種馬育成調教センター)の門を叩いた。1年間の研修を受けた後は様々な牧場での勤務を経て、競馬学校に合格。しかし、競馬学校卒業後も定員に空きが出ず、1年間の待機を余儀なくされることに。待機期間に一路フランスへと渡り、コレ厩舎で研修へ。現地の競馬場を転々とし、凱旋門賞の空気を生で感じるなど、フランスでの経験が馬の仕事への思いをより強くした。
ドーヴィルで開催されたセリで偶然、矢作芳人調教師に出会ったのがきっかけとなり、08年から矢作厩舎に所属。これまでグランプリエンゼル(09年函館スプリントS優勝)などを担当している。
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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