関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

柴田未崎調教助手

函館2歳Sで世代初の重賞タイトルを手に入れたクリスマス。新馬もレコードで快勝しているように突出したスピードが魅力だが、2ハロン延びたアルテミスSは直線で伸びを欠いての7着。あれは距離の壁なのか、久々だった分なのか、阪神ジュベナイルフィリーズ(JF)を占う意味でも気になるところだ。「トレセンLIVE!」のコラムで目にした皆様も少なくないと思うが、現在は栗東に滞在中の柴田未崎調教助手を直撃し、ストレートな質問をぶつけてきた。

人馬とも初の栗東滞在中

-:よろしくお願いします。阪神JFに出走予定のクリスマス(牝2、美浦・斎藤誠厩舎)は、すでに栗東に入られて、ハナズゴールなどと同じ出張馬房にいるわけですが、環境の変化や戸惑いはないですか?

柴田未崎調教助手:思ったほどではなかったです。もともと細い馬ですし、カイ食いがもっと悪くなるかと思ったのですが、思ったほどは変わらず、同じくらいは食べてくれています。むしろこっちに来たほうが落ち着いています。

-:それは栗東トレセンの中でもちょっと離れたところにあるからですか?

未:ちょっと静かだからかもしれないですね。

-:美浦から来られたということで、クリスマスにとっては、美浦は運動馬場もラチがあって、栗東はラチがないなどの環境の変化、場所の違いにも戸惑ったのではないかなと思うのですが?

未:もっとイライラするかと思ったのですが、そんなことなく落ち着いています。

-:馬はレース後に1回美浦に帰って、それから来ているのですよね?

未:1週間くらい疲れを取ってから輸送してきました。

-:馬としては、レースで全力疾走した後に美浦に帰って、そこから短期間で栗東に来ているから、レース前の輸送自体は短くなっていますが、そこはどうですか?

未:完全に疲れは取れたと思います。

-:前走は人気を背負いながら敗れてしまいましたね。

未:久しぶりだった上に、初めて距離ということで、馬が一生懸命になりすぎたという感じがします。それでも良い経験になったとは思います。

-:今度は阪神に舞台が替わりますが、道中などで何か対策はありますか?

未:もともと一生懸命になりやすいところがあるので、今回乗るミルコ(デムーロ騎手)が上手くなだめてくれたらいいなと。来週も追い切りに乗ってくれるので、ちょっと掴んでくれるとは思いますが。

美浦と栗東のチップの違い

-:今週の追い切りの内容を解説して頂けますか?

未:併せ馬の予定だったのですが、僕の方がちょっと入れる間隔を間違えてしまって、汗をかいただけになってしまいました。

-:未崎さんがリードしたのですか?

未:Cウッド(CW)で僕がリードしたのですが、上手く併せ馬にはなりませんでした。行き過ぎちゃって、後ろからミルコが来ましたが、ちょっと失敗しました。美浦の感覚とチップの感じが違うので、それもありました。

-:クリスマス自体の動きはどうでした?

未:時計的にもそれなりに出て、良かったと思います。

-:牝馬で1週前ということは、事実上のホイッスルのような意味合いがあったと思うのですが、ミルコの感触はいかがでしたか?

未:ちょっと非力な感じを受けていたみたいです。直接は話をしていないのですが、先生(調教師)から聞いた話です。

-:それはトレセンのCWでのフットワークと、実戦での阪神の芝生とでは感覚が違ってくるはずですよね。

未:チップは下が重いので走り辛いところがあると思います。



-:未崎さん自体が乗られて、美浦のチップと栗東のチップの違いを解説して頂けますか?

未:栗東はとにかく深いですね。ちょっと悪くなると、ノメっちゃいます。あと、直線は坂がないので思ったよりも時計が出ちゃいますね。美浦は直線に坂があるので、目一杯で行っても、最後はある程度かかります。あとは、馬場の幅員が狭いので、思ったよりも出てしまう感じがあります。

-:いきなり来て追い切りというのは、時計感覚の修正がありますか?

未:でも、先週もやっているので、ある程度は掴めているはずです。

-:併せて未崎さんがリードした馬はどの馬でしたか?

未:ゴットフリートですね。土曜日の朝日チャレンジカップに出走予定で、日曜日にクリスマスです。

-:ゴットフリートも期待しているファンの方が多いですね。

未:そうですね、ローエングリンの数少ない産駒ですので。

-:あの馬もスレンダーなタイプですか?

未:そうですね。シュッっとしている感じです。もともと動く馬で、思っていたよりも動いちゃって……。来週は逆にクリスマスを前に行かせて、後ろからちょっと最後だけ併せようかなと思っています。


「1回やればガラッと動きが変わるとは思っていたんですけど、これなら十分かなと思います」


-:それを聞いたら、最後に時計感覚がズレて併せられなかったというのも、納得が行く気がします。

未:終いだから遅くはしたくないな、というのが頭にあったので……。

-:ミルコからしてみると、未崎さんに対して「速いよ!」と思っていたかもしれませんね。

未:馬を止めた時に、速効で「ハヤイ!ハヤイ!」って言われました(笑)。

-:向こうにとっては「何すんねん!」という感じでしたかね(笑)。でも、クリスマスの動き自体がよかったのなら、別に単走の追い切りをしたと思えば。

未:木曜日は運動で、今日から乗り始めだったんですけど、もう気もだいぶ乗っちゃって。1回やればガラッと動きが変わるとは思っていたんですけど、これなら十分かなと思います。



折り合い次第でマイル克服も

-:クリスマスは、今までターフビジョンやテレビでしか見たことがなかったんですけど、実物を見ると、京都の軽い平坦の芝で良さそうなタイプかなと思ったのですけど、阪神の少し重たい芝で、直線に坂もあります。それを克服するために必要な条件はありますか?

未:一番は折り合いというか、(ハミが)抜けて走れるか、というところだと思うんですけどね。

-:気の良い馬だから、スタートもある程度行ってしまうから引っかかりやすい環境になりやすいと思うのですが、そこで上手く馬の後ろに入れたらいいのか、前に馬を置かずに伸び伸び走らせたほうがいいのか、この馬はどちらのタイプでしょうか。

未:馬の後ろに入れたほうがいいんじゃないかな、とは思いますね。一生懸命に走ってしまう馬なので。

-:この馬は、名前がクリスマスですから使う時期は2週間ほど早かったですかね?

未:いやいや、真夏に勝っているのでね(笑)。

-:では、季節が真逆のオーストラリアにでも行きましょうか(笑)。しかし、昔と違って夏場に活躍した馬が早熟で終わって、暮れや来年に繋がらないという時代じゃなくなってきました。夏にデビューした馬でもクラシックで活躍できる馬も増えてきました。クリスマスの馬体もこれからまだ良くなりそうですよね。

未:これから、もう一度成長があると思います。凄くバランスが良くてバネのいい馬なので、個人的には距離を延ばせるようにしてあげたいです。


「今はもうオンとオフがはっきりしてきたというか。オンの時は結構気が入りますけど、終ったあとは気が抜けて。そこら辺が分かってきたのかなと思いますね」


-:前走の敗因の一つとして、枠順もありましたか?

未:そうですね。外枠だったので、馬の後ろに入れられればもう少し違ったのかなと思います。前走で乗って下さった(武)豊さんも、「1600mでも持つよ」と言ってくださったので、折り合い次第ですね。

-:では、阪神JFではちょっと内枠に入れば違った一面が見られそうですね。あとは、乗った感触や、この馬のタイプについて聞かせて下さい。

未:気持ちが前向きなので、基本的にはスピードを活かす競馬のほうが良いと思うんです。上手くタメられる馬に成長してくれるといいのですが。

-:走法はどのような感じですか?

未:ピッチ走法ですね。

-:坂路とかで時計が出やすいタイプですね。

未:トビが大きいほうではないですね。ただ、坂路で追い切ったことはないんです。

-:美浦でも栗東でも、コースを使用して追い切っている理由はありますか?

未:テンションが上がり過ぎちゃうので、あんまり場所を移動しないでということで、同じ場所でずっと、ということが一番だと思いますけど。

-:この馬に対する未崎さんの思い入れをファンに教えてください。

未:北海道にずっといたので、美浦に帰ってきてから初めて見た馬で、最初からの印象というのは正直分からないんですけど。前走のレース前から、ちょこちょこと乗り始めた感じです。



-:その最初の印象と、まだ出会って間は短いんですけど、進歩したところはありますか?

未:だいぶ落ち着きは出てきましたね。最初は結構ヒステリックなところがあって、急にスイッチが入って、バタバタやってみたりするところもあったんですけど、今はもうオンとオフがはっきりしてきたというか。オンの時は結構気が入りますけど、終ったあとは気が抜けて。そこら辺が分かってきたのかなと思いますね。

-:さっき僕も写真を撮らせていただいたんですけど、イメージよりまったりとした顔をしていましたね。目つきも全然キツくなくて。

未:今はああいう風に、すごく人懐っこくて、顔を寄せたりもしてくるんですけど、馬場に入ると、テンションが上がってくる感じで。レースが終っても地下馬道では普通に歩いていて、おそらく、どこで走って、どこで終わりなのか、というのが、分かってきたと思うんです。

-:あとはレースの時だけ、ゴールの時に一番速く走ったら良いんだよ、ということを教えていけたらいいですね。美浦から栗東に来て、未崎さんも馬も戸惑っている状況での大舞台だと思いますが、応援していますので。今日くらいから寒くなってきているので、馬自体もすごく元気になってくるんじゃないかなと思うので、健闘を祈っています。

クリスマス&ゴットフリートの柴田未崎調教助手インタビュー(後半)
「ゴットフリートは距離克服が鍵」はコチラ→

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【柴田 未崎】Misaki Shibata

1977年生まれ。福永祐一、和田竜二らとデビューを同じくする「花の十二期生」の一人。同じくJRA騎手の柴田大知とは双子の兄弟。 JRA史上初の双子騎手として話題となった。 中学時代はほぼ全科目において 学年上位の成績を残したために競馬学校入りを驚かれたという。1996年3月にデビュー、初騎乗は16頭立ての12着。 同年6月16日、マイネルダンケで初勝利を挙げた。 2004年、東京競馬場でハッピートウキョウに騎乗し障害競走初勝利を挙げ、以降は障害競走を中心に騎乗していた。
2011年3月、騎手を引退し斎藤誠厩舎の調教助手となり、現在は新たなホースマン人生を歩んでいるものの、引退騎手の現役復帰の明文化を受けて奮起。騎手免許1次試験に唯一人だけ合格し、来年1月27~29日の二次試験合格でカムバックを目指す。馬と携わる上でのモットーは「真剣に向き合うこと。1頭1頭、毎日が違うので、その違いに気付いてあげられるように。早いうちに気付いてあげられれば、取り返しのつかないことにならない、そんなに悪くならないうちに対処できる」。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

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