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中山義一調教助手

3歳時にはオルフェーヴルと、クラシックでしのぎを削り合ったウインバリアシオン。ところが、ライバルがフランスの地で名を轟かせた昨年の秋に、当馬は屈腱炎を発症……。戦線離脱を余儀なくされた。しかし、復帰戦となった金鯱賞で3着と自慢の末脚が衰えていないことを証明。ライバルのラストランとなる有馬記念に間に合わせてきた、復帰までの過程を中山義一調教助手に語っていただいた。

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30キロ増で超久々を3着

-:有馬記念に出走予定のウインバリアシオン(牡5、栗東・松永昌厩舎)ですが、この間の金鯱賞は、プラス30キロで3着まで来たというのにはすごく驚きました。1年5ヶ月かけた、復帰までの過程というのを教えて頂けますか?

中山義一調教助手:昨年の9月はジャパンカップ、天皇賞(秋)など、その辺を目標にしていたんですけど、脚元にちょっと不安が出たのでエコーをとった結果、浅屈腱炎ということで、完全に良くなるのを見てから動かしだそうと考えました。どれぐらいまで休ませて、どれぐらいまで調教したら動けるのか、G1を使う馬っていうのはあまりわからないんですけども、もともとすごく期待していて、この馬なら復帰しても動ける、と思っていたので、完全に良くなって、牧場でGOサインが出るまで待とうと。ということで1年5ヶ月の休養となりました。

-:レースから1ヶ月半前ぐらいに戻って調整されたということですけれど、レースでプラス30キロということは、帰ってきた時はもうちょっと余裕がありましたか?

中:帰厩したのは10月11日ですね。一応、プラス50キロありましたね。どこまで絞れるだろうか、と思っていたのですが、跨いだ感触としては、背も伸びてますし、(太めだけの)50キロプラスということはないな、と思っていました。

-:金鯱賞の時のプラス30キロという数字自体はファンにとってはショッキングな数字でしたが、実質はどれくらいの感覚なんですか?

中:順調にずっと使えていれば、少しずつ増えてきていたと思うんです。今の体からすればプラス10キロそこそこじゃないかなと。


「やってみなければ分からないけど、能力を信頼して、クリアしてくれるだろうと思って調教してきました」


-:金鯱賞から有馬記念と駒を進めることになりましたが、ここからさらに上積みがあるのか、もしくは久し振りの激走で疲れてしまうのか、気になるところですが、調子はいかがですか?

中:もともと”30年に1頭の馬”だと思っていたもので、クリアしてくれるだろうと信じています。前走は使うことが目標で、無事に使って次に繋げたいと。着順についてはそう考えてなかったんです。体重も次こそベストになればいい、と思うようにしていたので、30キロでも40キロでも構わない、と思って調教してきました。

ただ、追い切りをこなす本数とか、時計面は加減無くやれていたとは思うのですが、今までBコースと坂路が通常の調教で、追い切りはCコースという風な調教でやってきました。ですから、復帰後から坂路に切り替えて、2本調教するようにして、普段も少し体を暖めながら体温が落ちないようにした調教を心掛けてきて、これまでとは違う状況の中で果たして走れるのか、というのは……。これもまたやってみなければ分からないけど、能力を信頼して、クリアしてくれるだろうと思って調教してきました。




-:ウインバリアシオンの持っている能力っていうのは、競走能力だけじゃなくって、疲労回復とか、トレセンでの攻めに耐えられるところも能力のひとつということですね?

中:普段の回復力、走る能力ももちろんですけれども、順応するとか、そういうことに関しては一級品ではないかと。

-:そういう能力がなかったら、1年5ヶ月の休み明けで、しかも重賞で、3着には来られないですからね。

中:結果は3着だったんですけど、脚が使えるかどうかという点が、一番僕が気になっていました。結果として、前に行って3着に粘り込んだという競馬ではなかったので、まだ衰えてないなという風には感じましたね。

-:しかも1着と2着、カレンミロティックとラブリーデイが先行して2番手から押し切っているところを、ウインバリアシオンは9番手から1頭だけ差してきて脚を伸ばしているところが評価できるポイントですね。

中:”いつも通りの競馬ができれば”というのが大前提だったので。1年半も休んでいて、レースで折り合いがつくんだろうかとか、そういうことが課題でしたね。

上積みがあると見込んでの出走

-:今度は有馬記念になりますが、中山コースは脚質的には若干、不向きなイメージがあるじゃないですか。しかし、敗れてははいるけど、日経賞も2着まで来ていますし、そんなに相性の悪いコースでもないんですよね。

中:僕はウインバリアシオンに絶大なる信頼を置いているので、何でもこなしてくれるだろうと思ってやってるんです。1年半も休んでG1に使う馬をレースに復帰させるということが初めてだったので、ただ復帰させるだけなら、長期休養の馬というのは経験があるのですが、クラスが上の方の馬を1年半もあけて使うのは珍しいので、試行錯誤しながら、うちの師匠(松永昌博調教師)をはじめ、竹邑君(竹邑行生厩務員)とかと話をして、煮詰めた上で調教して、その結果が3着ということだったのですが、デキとしては7,8分だったんじゃないかと思っています。

-:今回は輸送競馬、しかも1回使っている分を換算したら、マイナス体重で10キロくらいは減っていると思っていいですか?

中:現状で546キロなのでプラス16キロ。戻りきってしまっていますね。ただ、ダービーを使った後でも、青葉賞を使った後でも、それくらいすぐに戻っていたので、良い傾向だと考えています。ここからまた、今日も強目の調教を行いまして、いくらか減ってくるだろうし、輸送でだいたい10キロ減るんです。それも計算しながら、80、90ではなく、100%に持って行きたいと思ってやっています。


「金鯱賞以降の調教が、金鯱賞に臨む前の調教よりも強くやれるだろうと踏んで、有馬記念に行こうと決定しました」


-:これも金鯱賞の結果が3着と予想以上に良かったから、前向きに有馬記念に出走しよう、ということになったと思います。もしこれが惨敗ということだったら、他のプランもあったのですか?

中:有馬記念を目標に金鯱賞をということだったんですが、全然動けないという状態だったら、もう一度立て直すということもありましたよね。

-:ここに出てくるということは、今は走れるだけの状態にあるということですね?

中:金鯱賞以降の調教が、金鯱賞に臨む前の調教よりも強くやれるだろうと踏んで、有馬記念に行こうと決定しました。

-:今の坂路の状況を考えると、脚元を1回怪我している馬にとっては、簡単な中間ではないと思うのですが、その辺はしっかりと厩務員さんたちがケアしながらやっているんですね。

中:バリアシオンの体調面や脚元などを、竹村君がやっているからこそ持っているんだろうと思っています。



元主戦(安藤勝己)からのアドバイス

-:3歳時から、ハーツクライの代表産駒として頑張っているウインバリアシオンですが、ジャスタウェイなどの新しいハーツクライ産駒にひけをとらない活躍をしてほしいですね。

中:大型馬で手脚が長いお父さん譲りの体型をしていますので、後を追いかけるような形で走ってくれればと思っています。

-:中山ですから、最後の登り坂の100m、150mくらいでガラッと着順がかわる有馬記念というのも過去にありますので、そこにバリアシオンが差し込んでくると良いですね。

中:そう願っています。

-:村本さん(1987年にメジロデュレンで有馬記念を制した元騎手で、現調教助手の村本善之氏)に、あの短いとこでガラッと変わるから、写真を取る時は気をつけろ、と教えてもらったことがあるんです。

中:止まる馬は止まりますしね。

-:バタッと止まるからけっこう難しい競馬場なんですよね。

中:競馬場の中では、一番難しいと思います。


「この間、安藤君(元騎手)にもアドバイスを頂きました。その辺も頭に入れながら調教したり、岩田君と話をしたりしてみたいなと思っています」


-:競馬場の形態としては、バリアシオンのような差し馬には向かない競馬場ですけど、中山の中では、2500mというコース形態が一番差し込める条件だと思います。

中:そうですね。2000よりは2500じゃないかと。うちのバリアシオンは3コーナーで3速、4コーナー4速、直線に向かってオーバートップという馬ではなくて、3分3厘くらいからずっとオーバートップでぶん回ってくるような馬なので、そういう競馬をしてほしいですね。この間、安藤君(元騎手)とも話したんですけれども「あの馬は自分勝手に走らせてるほうがのびのびと走るし、終いも切れる。型に嵌めすぎたり、遅いから前に行くとかあまり考えないほうがいいよ」とアドバイスを頂きまして。その辺も頭に入れながら調教したり、岩田君と話をしたりしてみたいなと思っています。

-:大外をぶん回して伸びてくる、豪快なウインバリアシオンを見られそうですね。

中:これは木曜日に追い切りするまでに試行錯誤しながらなんですけれど、順調に行けばそういう競馬をしてくれるんじゃないかと思っています。

-:あまり早めに動かないでジッとしていてもらいたいという気持ちも、ファンの中にはあるかもしれません。

中:中山ですので東京のようにジックリともいかないし、強い馬は前にいますからそれを見据えての競馬になると思うんですけれども、バリアシオンがのびのび走れればそれでいいかと思っています。

-:ダービーで悔しい思いをしたオルフェーヴルと戦えるのもここが最後ですね。

中:オルフェーヴルが引退するレースで、同じ舞台に立たせてやることができる、という点が一番楽しみで、よかったと思っています。

-:スタッフの方々の努力がここで少しでも結ばれるといいですね。

中:馬が勝手にここまで来ましたから。あと1週間、スタッフも一生懸命やらせてもらいます。

-:最後にバリアシオンを応援しているファンにメッセージをお願いします。

中:ウインバリアシオンは皆様の声援でより一層伸び脚を見せてくれると思いますので、直線を向きましたら、ぜひ大きな声援で応援して下さい。よろしくお願いします。

-:ありがとうございました。




【中山 義一】Yoshikazu Nakayama

父は元騎手でアラブの牝馬アオエースを駆って読売カップを制した中山義次。ギャンブル色が強かった当時の競馬に疑問を持ち、馬術の世界を目指し追手門大学を卒業。しかし現実的に生活を考えると競馬界に入るしかなかった。初めて所属したのは開業間もない北橋修二厩舎。厩舎解散まで25年間所属した北橋厩舎ではエイシンプレストン、スターリングローズ、など数々の馬の調教を任された。思い出の馬は愛らしい顔が印象的だったゴールデンジャック。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

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