関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

中山義一調教助手

昨年の有馬記念は生涯4度目となるオルフェーヴルの2着。ライバルの意思を引き継ぐべく臨んだ同コースの日経賞は、着差以上ともいえるパフォーマンスで約3年ぶりの勝利を手にしたウインバリアシオン。脚質と相手関係もあって、詰めの甘さが課題であったいぶし銀が、忘れかけていた勝利の美酒を飲んだ瞬間でもあった。ともなれば、目指すものは未だ手にしていないG1タイトルだけ。出走時の登場が恒例となりつつある中山義一調教助手が、大一番に向けての態勢を聞かせてくれた。

日経賞圧勝後のコンディション

-:よろしくお願いします。前回の日経賞はウインバリアシオン(牡6、栗東・松永昌厩舎)を疑っていたわけではないのですが、目の覚めるような末脚でした。

中山義一調教助手:上がりの3Fは速かったですね。ただ、フェノーメノなどの有力馬に休み明けが多かったので、相手に恵まれたと思います。うちも目一杯のデキではなかったので、あれだけのパフォーマンスができて良かったと思います。

-:メンバーが調整不足だったことを加味しても、勝ち切れないところがバリアシオンの歯痒さだったので、鮮やかな勝ち方にたまげました。

中:脚質的に勝ち味に遅いのは仕方がないのですが、どこに行っても恥ずかしくない競馬をしてくれているので、ある程度の番手に行ってかからなければとは思っていました。

-:この脚質にしては安定していますよね。それは能力が2、3歳の時から維持できているということですか?

中:少し緩く、ハミを噛ませてしまうとモタれてかかってしまうというのが唯一の弱点なので、歳がいくにつれて体ができてしっかりしてきた分、ある程度の番手に行けるようになってきたと思います。

-:今回の京都はパンパンの馬場が想定されますが、1年5ヶ月を屈腱炎で休んでいた馬にとって、ダービーの時の裂蹄という問題も考えると、硬い馬場の時のバリアシオンは大丈夫かという一抹の不安があるのですが?

中:綺麗で大きなトビをする馬なので、時計云々は大丈夫だと思っていますし、硬い馬場がツメに与える影響についても、今は裂蹄が心配ということもないので、そんなに懸念はしてないです。


「有馬記念はオルフェーヴルに8馬身も負けてしまったのですが、1年5ヶ月も休んでなければ、あんなに負けてないなと、今でも思っています」


-:ダービーの時は蹄幹部に裂蹄防止のテープを巻いているくらいの状況でしたから、その状態から比べたら今は気にするような状態じゃないということですよね。

中:ただ、走っていて割れると音があるかもしれないです。それはやってみないと分からないです。

-:屈腱炎を経験した馬にとってはソフトな馬場の方が良いようなイメージがあるのですが、硬い馬場の方が走りやすいという面ではプラスと考えていいですか?

中:腱に関しては硬い馬場の方が、負担がきにくいと思います。柔らかい馬場は沈み込みますので、負担がくるんじゃないかと。ただ、それは人間が言っていることであって、科学的に証明されているわけではないので、どうなのかなと思うのですが、どの馬も無理をすれば腱に負担がきます。うちの馬は特にそういうことは考えながらやらないといけないのですが、普通の馬でもそういうところは一番気にして競馬に使わないといけないんじゃないかと思います。

-:日経賞の時のコンディションは、有馬記念の時の仕上がりほどじゃなかったんですね。

中:ただ、日経賞の時は長期休養明けではなかったですし、金鯱賞、有馬記念の時は1年5ヶ月も開いていて、オープン馬のグレード競走で走る馬を仕上げるにあたって、不安の方が大きかったです。どれだけ仕上げればいいのか。体も大きくなってますし、どれだけ絞ったらいいのかということを。ただ使うだけでしたら、ある程度の調教で済むんでしょうけど、どうしても復活させたかったもので、そこを乗った感触から、みんなと話をしたり、先生に相談をしたり、他のツテで聞いたりとしながらでしたから、金鯱賞は「どうなるんだろう」という方が大きかったです。

金鯱賞であれだけ走ったならば、もう少し上積みがあるんだろうし、同じような調教をしておけばプラスの方が大きいだろう、というのが有馬記念でした。ただ、有馬記念はオルフェーヴルに8馬身も負けてしまったのですが、1年5ヶ月も休んでなければ、あんなに負けてないなと、今でも思っています。




馬体重の目安は530キロ

-:1年5ヶ月の休養の間に体重が20キロくらい増えています。普通にイメージすると、屈腱炎の馬というのはボディーを軽くして、脚元に負担がかからないようにダイエットしているものかと思ったら、調教前はもっと太かったんですよね?それは馬の成長という風に見たらいいのでしょうか。

中:放牧から帰ってきた時は40~50キロもプラスでした。乗った感じは、どうしても太いなという感じはなかったのですが、長距離を走る馬なので、ちょっと軽いくらいの体にしておかないと、持久力が持たないだろうと、調教のコースを替え、汗取りもしながらやっていたのですが、なかなか減らないので、これだけやって減らないなら、これは成長分だろうということでやってました。一回使って、その次の体重が本当の体重じゃないかと。それが有馬記念でした。

-:その有馬記念でプラス体重になりましたね。

中:そうですね(笑)。

-:ということは、ベスト体重はどれくらいですか?

中:530キロ前後じゃないかと思うのですが。

-:今回は8キロ減った日経賞よりもさらに絞るということは考えられますか?

中:現状で532キロなんです。京都なので輸送でそんなに減らないと思うんですが、4キロ減ったとして530キロくらいと思っています。逆に、ここにきて減り過ぎるのが怖いです。パワーがなくなるんじゃないかと。減量し過ぎてもよくないんじゃないかと思うので、同じような調教をして、同じような体重で出られるのが一番理想じゃないかと考えています。

-:大幅な変化を厩舎サイドは求めていないということですね?

中:だいたい530キロ前後で行きたいなと思っています。この中間は岩田(康誠)くんが追い切りをつけてくれているのですが、「ここ3戦では今回が一番良い」とも言ってくれていますよ。

ウインバリアシオンの中山義一調教助手インタビュー(後半)
「トレンドであるハーツクライ産駒の特徴」はコチラ⇒

1 | 2









【中山 義一】Yoshikazu Nakayama

父は元騎手でアラブの牝馬アオエースを駆って読売カップを制した中山義次。ギャンブル色が強かった当時の競馬に疑問を持ち、馬術の世界を目指し追手門大学を卒業。しかし、現実的に生活を考えると競馬界に入るしかなかった。初めて所属したのは開業間もない北橋修二厩舎であり、厩舎解散まで25年間所属。エイシンプレストン、スターリングローズ、など数々の名馬の調教を任された。思い出の馬は愛らしい顔が印象的だったゴールデンジャック。ウインバリアシオンについては、ホースマン人生の中でも最大級の評価と手応えを感じている。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

■公式Twitter