師も縁の母タフネススター譲りの切れ味カゼノコ
2014/7/2(水)
未勝利当時は芝で2度の3着があるものの、6戦目の初ダートで急激にレース内容が良化したカゼノコ。そこからはとんとん拍子でオープン特別まで制し、3歳ダート王を決めるジャパンダートダービーへと駒を進めてくる。現代のダート馬には珍しい超が付く決め手を持っており、その末脚は個性的だった母タフネススター譲り。当時からの流れを引き継ぐ野中賢二調教師に、JDDの展望とその将来像を聞かせてもらった。
-:カゼノコ(牡3、栗東・野中厩舎)ですが、お母さんのタフネススターが先生の師匠である藤岡範士先生の管理馬で、重賞のカブトヤマ記念を勝ちましたし、愛知杯や新潟大賞典でも牡馬相手に2着と健闘した芝馬でした。その当時、先生も藤岡範厩舎で助手をされていたので、思い入れがあると思います。お母さんの話から聞いてもいいですか?
野中賢二調教師:今のカゼノコの芝版の馬ですね。切れは凄かったですし、カゼノコが転厩してきた時もそういうイメージで、ああいう切れ味を持っているのかなと思って、お母さんを基準に見ていましたね。脚をタメたら素晴らしい切れ味で、京都の1800外回りとかなら、幸四郎(騎手)がついて行けない、って言うくらい凄い切れ味だったんです。今、考えると、もっと勝たせてやれたなかと思います。
-:お母さんのタフネススターも5勝していますが、それ以上のパフォーマンスができる馬だったんですね。カゼノコは父がアグネスデジタルで、芝・ダートを問わない万能型というイメージがありますが、ダート色が強かったのでしょうか?
野:乗ったら馬が柔らかいですし、まだ緩いですが、良い背中をしていて、先々もっと良くなるだろうなという感じでした。得てしてダートを勝ってくれて、毎日杯で芝を試してみましたが、不発でしたね。お母さんをイメージして、幸四郎にもそういう指示をしたのですが、ダメでした。真一郎(秋山騎手)にそのイメージのまま、ダートで競馬をさせたら嵌りました。
-:タフネススターの現役時代の切れ味は知っていますし、毎日杯の時の馬場はちょっと重かったです。だから、カゼノコがダートで未勝利を勝ち上がったことがプラスなのか、お母さんの切れ味をイメージするとマイナスなのか、プラスマイナス0みたいな難しいところでしたが、ダートに戻ったらすぐに勝てましたね。
野:今は適性がダートで、“お母さんのダート版”かなという感じです。
-:この馬が普通のダート馬と違うのは、未勝利を勝つ時は安牌なポジションで勝つものですが、この馬はお母さんの血を引いているのか、後方から良い脚を使って勝ってしまうという。こういうタイプのダート馬はあまりいないですよね。
野:前走(鳳雛S)も35秒台の脚を使っていますし、良馬場でそんな脚を使う馬はなかなかいませんよね。その前も36秒台でけっこう凄いな、と思いましたが、上がりを1秒くらい詰めてきていますからね。前走にしたら、啓介(太宰騎手のアスカノロマン)が完璧に乗って勝てるレースでしたよね。あれは捕まえられないかなと思ったけれども、差し切りました。ダートでこれだけ脚を使える馬はいないですよね。
-:乗っていても、一介のダート馬ではないと感じますか?
野:まだ遊び遊びですからね。VTRなんかを見ていても、急に追われたり、叩かれたりすると、耳を絞って反抗していますし、前々走のゴールを過ぎた後の耳の絞り方なんて凄かったです。本当にまだ子供ですね。この血統は脚元が弱いところがあるので、その辺も上手く制限して使ってもっと固まったら、さらに走るでしょうね。ただ、今までこれだけの脚を使うと、ダートとはいえ、(反動が)怖いところがありますよね。
-:体重に関してですが、未勝利を勝った頃は今より20キロ弱重かったです。468キロが1番太かった時ですが、そこから未勝利を勝った時に8キロ絞って、この前の鳳雛Sでは450キロでした。体重が全てではありませんが、今度は輸送もありますし、どのくらいで調整されていますか?
野:体を見ると、オープンを勝った今がベストでしょうね。あれだけ切れましたし。
-:ダート馬だからと言って、筋肉量を増やし過ぎなくていいのですね。
野:ええ。切れが勝負ですから。藤岡範厩舎にいた時はカイ食いがちょっと細い仔でしたが、こっちではやるだけ食べています。本当に食わし込んで鍛えています。調教を強めていますが、全然問題ないです。
-:ヘロヘロになりそうですね。
野:ヘロヘロになりますが、そこをケアして乗り越えさせていかないと、今度はオープン馬が相手ですから。前走も中1週ですが、しっかり乗って、しっかり作っていっています。あそこを勝たないと、ここに出られないと分かっていますし、馬はタイミングなので、良い時にしっかり勝たせてやって、次に行かないと。経験上わかりますが、一回躓いて出世しない馬もいますし、勝負所でしっかり行っておかないとね。
-:リズムが狂わないように、行くところは行かないといけないのですね。
野:当然、しっかりとケアをしながらの話ですが。
-:未勝利を勝つのに8戦を要した馬が、先生のところにきてからは2戦目で勝ちました。
野:それは藤岡先生のところが良いタイミングで、良い状態でウチにくれたということです。それをちゃんと大事に走らせて、恩返ししないといけません。
「お母さんも調教していたりして、そこからまた縁ができて、オープン馬が出て、統一G1に行けるというのは、凄いところですよね。それがこの世界の良いところですよね」
-:タフネススターの馬主さんと同じですよね。僕らオールドファンからしたら、懐かしい勝負服です。
野:僕が助手の時から声をかけて頂いて、そういうチームの馬です。お母さんも調教していたりして、そこからまた縁ができて、オープン馬が出て、統一G1に行けるというのは、凄いところですよね。それがこの世界の良いところですよね。こんなところで繋がっているのだという縁が、今は上手いこと廻っていますよね。
-:個人馬主さんがお母さんからの流れを汲んで、オープンまでたどり着けるというのは競馬の魅力の一つですが、今はそういうのが淘汰されて、競馬のロマン的なところが薄れています。そんな時代にこの馬ができたのですね。この馬のカゼノコという名前の由来も、タフネススターの切れ味がカゼと喩えられているのですかね。今度はJDDということで、今までよりもワンランク上のパワーが要される馬場の舞台に替わります。450キロくらいのスパッと切れる良さが消されないか、という心配があります。
野:それは走ってみないと分からないです。かといって体重を増やしたから走るというものでもないですし、地方の馬場に対しては適性の有無がはっきりします。直線が長いといってもコーナーはキツイですし、うちの馬はその辺がキツイです。ああいう脚質の馬ですから、小回りだからとテンを急がして脚を使えるかと言うと、使えないですし、うちの馬は自分のリズムで競馬をして、届かなければダメだし、馬場適性が合わなかったらしょうがないです。それはどの馬も同じですが、この馬に関してはそのへんだけですね。
-:現時点では、ちょっと他力本願な部分を切れ味で埋め合わせていく感じですね。時期的に梅雨となると、ひと雨降って走りやすい馬場になるのが理想ですね。
野:その方が絶対に競馬はしやすいですよね。
-:どういう将来像になるか楽しみです。
野:こっちが思っているより、今は上を行ってくれています。脚の使い方とか。これだけのパフォーマンスを見せていますから、馬をもうちょっとしっかりさせて、上手く成長させれば、凄い面白い良い馬になるでしょうね。
-:もう一回芝に帰ってくるというのはありますか?
野:それは片隅にあります。もう一回やってダメなら諦めますけどね。
-:毎日杯で乗られた幸四郎さんは何かおっしゃっていましたか?
野:「道中から真面目に走ってないというか、全然集中力がなかった」とは言っていました。ちょっと難しいところがあります。
-:そういう馬が砂をかぶるダートで集中力は大丈夫なのですか?
野:逆にそこがないから、最後に切れるんですよ。
「前々走よりは、前走の方がちゃんと出ていますし、段階的にちょっとずつ、どうすればできるか、それを調教でやらせています。前走もあの馬にしては、良い流れで最初はサーっと出て行っています」
-:1番人気に毎回応えるというタイプではなく、アップダウンありつつ、嵌ればバキュンとくるのですね。
野:それじゃダメだから、これからはそれをどうして行くかです。ゲートの出はだんだん良くなっているんです。前走もいつもよりはゲートを普通に出て、スッと進んで行っているんです。その距離は長いんです。そこから自然に下がっていっていますし、それはこっちも色々考えてやっていますし、オープンで取りこぼさないようにするには、そこも直していかないといけません。
-:スタートしてポジションを取ったところでずっといられるようにですね。
野:前々走よりは、前走の方がちゃんと出ていますし、段階的にちょっとずつ、どうすればできるか、それを調教でやらせています。前走もあの馬にしては、良い流れで最初はサーっと出て行っています。道中もそれができれば楽になりますよね。
-:そうなると、より最後の脚が利いてきますね。
野:出てから、追っ付けて行って後ろにつけるのと、スッと行ってジッとしているのとでは、全然違います。
-:ガソリンのロスが違いますよね。
野:たった何秒ですが、全然違います。その辺はちょっとずつ。リスクが少ないところで、どういう競馬ができるかというところをやっていかないと、追い込み競馬一辺倒ではやっぱりキツいですし、負担も掛かります。
-:ここから骨格的にも体質的にもしっかりしてきますよね。
野:まだ3歳ですから。
-:将来を楽しみにしています。また秋に取材させてください。
野:了解です。
-:ありがとうございました。
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■最近の主な重賞勝利 |
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厩務員だった父の影響で10歳から乗馬を始める。昭和57年10月から藤岡範士厩舎に入り、厩務員から助手へと転身し、その後は厩舎を開業するまで所属。 |
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