秋の“ラストチャンス”へ飛躍を誓うエピセアローム
2014/8/17(日)
3着だった一昨年とは成熟度が違う
-:エピセアローム(牝5、栗東・石坂厩舎)について伺います。前走のCBC賞は惜しくも2着でしたが、芝の状態が重くて全体的に時計がかかる状態でした。以前のエピセアロームは、どちらかと言えば硬い馬場が合うというイメージがありましたが、馬場状態に加え、ペースが遅かったとはいえ、先行して踏ん張れた点は強調できるポイントかと思いますが、レースを振り返ってもらえますか?
桑村光史調教助手:調子は良かったですよ。時計がかかるとはいえ開幕週だったので、デコボコして走りづらいような馬場ではなかったから、好走できたかなとは思います。それでも、過去には最終週に行われた小倉2歳Sも勝っているくらいですから、本当のところどういう条件が得意かは分からないですね。ただ、1分7秒台前半で走ってくる脚力もあって、2歳Sのように、前日に雨が降って荒れている馬場でも勝利していますので、基本的に能力の高さの現れだと思っています。
-:今年の高松宮記念に出走できなくて残念に思っているファンは多かったでしょうね。ここらで久々の勝利に期待がかかりますね。
桑:もちろん勝ってほしいですが、それは他の陣営も同じ思いですから気は抜けません。
「2歳時に初めて跨った時から凄い馬だと思っていましたし、それでもなかなか勝てないのが競馬です。2歳の夏からコンスタントに競馬を使ってきて、成績が崩れたこともありますが、毎度のように一生懸命走ってくれています。今は尊敬の念しかないです」
-:今回の北九州記念は2年前に3着に入ったレースです。その時は後方からのレースでしたね。
桑:あの時は久々の1200m戦でしたし、ユタカさん(武豊騎手)が乗るのも初めてでしたよね。それに、当時とは馬が変わっていますよ。
-:成熟度が違いますか?
桑:まだ3歳でしたからね。しかもオークスを使った後でしたし、こちらも気持ちの入り方が違いました。
-:オークスから距離が一気に半分になったわけですよね。それを踏まえると、この馬の万能性、色々なことに対応できる点は評価できますね。
桑:やっぱり能力が高いのだと思います。2歳で初めて跨った時から凄い馬だと思っていましたし、それでもなかなか勝てないのが競馬です。エピ(セアローム)は2歳の夏からコンスタントに競馬を使ってきて、成績が崩れたこともありますが、毎度のように一生懸命走ってくれています。今は尊敬の念しかないです。ケガをしてほしくないし、だからと言って甘やかすわけでもなく、この馬のことを尊敬しています。
ハンデが敵も能力に全幅の信頼
-:CBC賞を使った後の状態はいかがですか?
桑:先生(石坂正調教師)とよく相談しながら調整していますが、高いレベルで安定していると思いますよ。
-:では、CBC賞以上の結果も見込めるでしょうか。前走はペースが遅かったので、もう少し流れそうな今回の方が、良さを引き出せるような印象があります。
桑:そうかもしれません。ただ、北九州記念は軽ハンデの差し馬が上位に来やすいですし、小回りで馬場も荒れてくる頃ですから、内枠を引くと苦しいですよね。内枠の先行馬が総崩れになる時があるじゃないですか。力がある馬でも負けているレースだと思います。ウチのアストンマーチャン(07年6着)もそうでしたよね。厳しいレースだとは思いますが、その辺は浜中騎手に託します。考えて乗ってくれるだろうと思いますし、僕は馬のコンディションのことを第一に、いつも通り競馬場へ持っていくことを考えています。
-:ハンデはどれくらいになると想定されていますか?
桑:相手次第ですけど、前走から据え置きくらいじゃないかな、と思っています。重くても55.5キロでしょう。3歳のベルカントあたりは52キロになるのではないでしょうか。
-:前回のような馬場をこなしてくれたので、今回も心配することはなさそうですね。
桑:その点は考えてもしょうがないですし、僕はあまり心配していないですよ。
-:エピセアロームの良さを、一言で表すとどうなりますか?
桑:「スピードとパワー」ですね。気性も激しいです。圧倒的な強さを感じます。毎回乗っていて気持ちが良いのです。“上手く乗れたな”と思うときは、毎回“素晴らしい馬だな”と思わされますよ。
-:今週の動きも素晴らしかったですね。
桑:終いの伸びは最高でした。併せたクレスコモアも走る馬なんですよ。
-:その相手を1秒ぐらい引き離しました。今回は上手く乗れた感触はありましたか?
桑:そう思いましたね。上手く乗れたのもありますけど、上手く走ってくれましたね。
-:1週前の追い切りとしては上出来でしょうか。
桑:ここである程度デキていないと、本番では苦しいですからね。キッチリやろうと思っていましたよ。
-:その青写真どおり、今のところ進んでいるということですね。
桑:そうですね。
来春の引退に向け一戦一戦が勝負
-:今年の夏前からの暑さは、どの馬にとっても過酷な状況だと思います。エピセアロームは暑さに対する耐性はいかがですか?
桑:気力が充実していますね。この子は暑くてもへばったりしないんですよ。一生に一度出会えるかというくらい、素晴らしい馬ですよ。こういう馬に携われて幸せですね。今年の高松宮記念には結果的に出られませんでしたが「G1に出したい、G1を勝ちたい」とずっと思ってきました。ただ、来年の春には引退が決まっています。もし何かアクシデントがあったら、そこで現役生活は終わりですよね。もう長い休みはとれませんからね。
-:そうなると、今年のスプリンターズSが大勝負でしょうか。
桑:というよりも、一日一日が「今日で最後かもしれない」と思っています。毎日集中して、丁寧に仕事をするというだけですね。
「この馬のことを尊敬しているんです。“可愛い”とかそういう心情とはまた違います。素晴らしい存在です。能力のある馬でも思うように勝ち負けできないのが競馬だと思いますので、結果には満足しています」
-:この馬を無事に母馬として送り出すのも、努めの一つですね。
桑:何事も悔いの残らないようにやっておきたいですよね。突然お別れの日が来た時に、悔いが残ったら嫌じゃないですか。そういう思いをしないように。もちろんレースでは勝ってほしいし、走ってほしいですけど、それよりも毎日無事に過ごしてくれれば。なかなか伝わりにくいと思いますけど、この馬のことを尊敬しているんです。「可愛い」とかそういう心情とはまた違います。素晴らしい存在です。能力のある馬でも思うように勝ち負けできないのが競馬だと思いますので、結果には満足しています。
-:エピセアロームという素晴らしい馬の血を残すことも使命ですね。
桑:是非とも、子供を見てみたいですよね。無事に引退したらホッとするでしょうね。
-:着順やG1を目指すこと以上に“安全第一”であることが大事なんですね。
桑:そういうことです。「なら、馬を可愛がっているだけで鍛えていないのか」と言われると、決してそんなことはないですよ。良い成績を挙げるためにはトレーニングは不可欠ですからね。
重賞での口取りが携わった方への恩返し
-:2歳から付き合って来られましたが、ここまで安定して活躍してきて、重賞でも上位に入る馬とはなかなか巡り会えないですよね。
桑:このような馬はゴロゴロいるわけじゃないですからね。
-:牝馬は一旦状態が崩れてしまうと、そこで終わってしまう馬も多いですよね。でも、この馬は大敗した後も、休みを挟んで復活しています。端から見ても精神的な強さを感じる馬ですが、何とかもうひと花咲かせて欲しいですね。
桑:一緒に写真を撮りたいなあと思っています。口取りで。
-:その願いが、北九州記念で叶うといいですね。
桑:ここまで、牧場のスタッフたちも一生懸命やってくれているから、長い間頑張って来れているし、気力も続いていると思うんです。先生も色々と相談すれば理解してくれるし、みんなの協力あってこそです。
-:あとは浜中ジョッキーがどうエスコートしてくれるかですね。
桑:ずっと乗ってくれていて、僕も信頼していますから、彼に任せます。
-:では、CBC賞以上の、最高の活躍を期待しています。
桑:そうなればいいですね。
-:エピセアロームはファンの多い馬だと思いので、その方々にメッセージをお願いします。
桑:本当にいつも頑張ってくれています。ファンの皆さんには横断幕を出してもらったり、いつも本当にありがたいと思いますし、嬉しいですね。G1に出せなくて申し訳ないという気持ちもありますが、馬は常に頑張ってくれていますので、今後も変わらず応援してあげてほしいです。
-:その先にはお母さんとしての活躍を、エピセアロームの子供を見たいというのもファンの願いでしょうね。
桑:牧場の人たちの気持ちも、馬主も、ファンの人たちも、できるだけ全部を考えながら。すべて背負うと苦しくなる時もありますが、みんなの気持ちは常に感じますからね。毎日を無事に過ごせたらと思っています。
-:レースまでの残り1週間、頑張ってください。
桑:本番まで、なかなか緊張しますね。頑張ります。
プロフィール
【桑村 光史】Koji Kuwamura
昭和48年生まれ。親族に競馬関係者はいなかったが、動物好きという理由でこの業界を選ぶ。一番最初に見た競馬はアイネスフウジンが勝った日本ダービーで、高校時代に有馬記念のオグリキャップに魅せられた記憶があるという。解散した福永甲厩舎からトレセン生活をスタートし、現在所属する石坂厩舎は2厩舎目。エピセアロームの他、今年の春に桜花賞へ挑んだリラヴァティを担当。「こちらが相手のことを好きだから、自分に懐いてくれる」と愛情を注ぎ、両馬の活躍を支えている。
プロフィール
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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