柴田未崎騎手インタビュー(後編) 兄・大知からのエール
2014/9/3(水)
-:助手をやられていて、再度、騎手に復帰するにあたり、身体作りも新たにやっていかれたのでしょうか。
柴田未崎騎手:馬乗りはやっぱり下半身が重要なので、ランニングとあとは筋トレですね。全身の筋肉が必要だと、最近つくづく感じますね。僕は器具や重りを使ったトレーニングはやりたくないので、「自重トレーニング」といいますか、腕立てと腹筋、背筋とスクワットと体幹などを重点にやっています。美浦にいる頃はヨガにも通っていたのですが、凄く良いと思います。ヨガに行った次の日に馬に乗ると、乗りやすいですし、体が動くというか。馬乗りには良いと思います。
-:何故ウエイトトレーニングは止めているのですか?
未:重いものを持ってやると、無駄な力が入ってしまうイメージですね……。
-:トレーニング本を見ていると、自重という単語が前より出てきている感じがします。体幹に次ぐトレーニングのキーワードですね。
未:サッカーの長友選手の本を読んだのですが、ただ筋肉を付けるだけじゃダメなんですよね。一番大事なのは体幹を鍛えることで、筋肉が逆に邪魔になってしまうそうです。長友さんは「人一倍トレーニングをして、筋肉だけには自信があったのが、実際に試合へ行ったら全く体が動かなかった」ということで、ヘルニアも患われたそうです。結果的に体幹が大事だと気づいたそうですね。
-:未崎さんも腰を痛めていたそうですね。
未:何回かありましたね。ヘルニアまでは酷くありませんが、鍼に行ったり、整体に行ったり、色々と行きましたけどね。本当に酷い時がありました。それから筋肉を付けたり、トレーニングをするようになりました。栗東でも毎週、整体には行っています。聞いたら、そこの治療院はほとんどのお客さんがトレセンの人だと。凄く親切にやってくれていますね。
-:調整ルームのジムでも時間を割いているそうですね。
未:そうですね。あそこで木馬に乗っています。美浦ではデビューした頃に買った木馬を厩舎の大仲に置かせてもらっていました。僕には木馬は絶対に必要ですね。栗東になかったら、どうしようかと思って。木馬が調整ルームにあるというから、良かったです。
「改めてレースに乗ってみると、ジョッキーは凄い技術だと思いますよ。本当にギリギリのところで馬を動かしているのだなと再認識しました。10~15年前より、日本は騎手と馬のレベルが格段に上がっている感じがしますね。追えることや、馬を動かす技術は凄く上がっていると思いますね」
-:調教助手として馬に乗る機会があるとはいえ、レースに3年乗っていなかったわけですから、すぐに馴染める甘いものじゃないのですね。
未:甘くないですね。競馬は本当に調教とは違います。改めてレースに乗ってみると、ジョッキーは凄い技術だと思いますよ。本当にギリギリのところで馬を動かしているのだなと再認識しました。10~15年前より、日本は騎手と馬のレベルが格段に上がっている感じがしますね。追えることや、馬を動かす技術は凄く上がっていると思いますね。ブランクがあった分、痛感します。
-:そういったレベルが上がった要因として考えられるのは、どんなところにあるのでしょうか?
未:やっぱり外国人騎手や、地方の騎手も入ってきていますし、制裁も厳しくなっているので、皆、凄く綺麗に乗ろうとするところもありますからね。以前はもっとラフなところがありましたからね。全体は締まってきていると思いますね。
-:統制された競馬はタイトさが無くなるイメージもあります。しかし、実際は技術的に高度なものを求められるのですか?
未:馬を真っ直ぐ走らせないといけない訳ですからね。それには騎手の技術も要るのでね。下手に動けないですし、ここに入って良いかな、というところでも、やっぱり考えますよね。
-:その差は復帰されてすぐに感じられた部分ですか?
未:感じましたね。凄く制裁が厳しいです。平地、障害に関わらず厳しいですね。
-:今回の勝ち鞍は平地で10年ぶりの勝ち鞍でした。今、平地だけにこだわる理由もお聞かせください。
未:障害レースも好きですが、障害に乗ってしまうと、なかなか平地の馬が回ってこなくなってしまうので。それと、ケガした場合のリスクもありますね。せっかく復帰したので、やっぱりどうしても平地で勝負をしてみたいですね。
-:大知さんも今では平地だけの騎乗となりました。大知さんとは普段から話されたりするのですか?
未:離れてしまったから機会は無くなってしまいましたが、向こうにいる時はトレーニングも一緒にやったりしましたし、話をすることはありましたね。
-:性格的には似ていますか?
未:いや、大知の方が負けず嫌いかなと思いますね。ちょっと強気というか、「攻め」の方ですね。
-:良い意味で未崎さんは「守り」ですか(笑)?
未:いえいえ。守りまではいかないですが(笑)、熱し過ぎず、守り過ぎず、というほどほどのところで、という感じです。
-:新天地ではその「攻守」のバランスを活かして、活躍してほしいですね。先日の勝ち星は沢山のファンの方々の感動を呼びました。改めて応援してくれるファンへ向かって、一言をいただきたいと思います。
未:関西に来ても、やっぱりそんなに甘くはない世界なので、そう大きく変わることはないと思いますが、できる限りのことはやりたいですね。
「やっぱり勝たないことには生き残れないので、一つでも多く乗って、勝つことですね。なかなかチャンスがある馬は簡単に回ってこないですが、どこかにはありますからね」
-:国分優作騎手など、移籍してから目立っている騎手もいます。
未:そうですね。関西はレースに乗せていただけける可能性が高いですから。それでも、色々とお世話になった馬主さんや、乗せてくれる先生もいるので、栗東に来てしまったのは申し訳ないな、とは思っている部分もあります。
-:しかし、そこはご本人の人生ですからね。
未:はい、そうですね。精一杯、頑張ります。移籍するかどうかは考えていないですが、栗東の良いところもあれば、美浦の良いところもありますから、東西の色々な部分を吸収して、活かしたいと思います。
-:そして、栗東で再起を誓うわけですが、これからの具体的な目標とかはありますか?
未:やっぱり勝たないことには生き残れないので、一つでも多く乗って、勝つことですね。なかなかチャンスがある馬は簡単に回ってこないですが、どこかにはありますからね。
-:再デビューに漕ぎ着けた訳ですから、何とかそのチャンスをモノにしたいですね。
未:そうですね。諦めないでやります。
【柴田 大知】Daichi Shibata
何でもコツコツ一生懸命やりますよね。凄く丁寧に仕事はしますので、栗東でも、そういう姿勢を見てくれる人はいると思いますし、チャンスを掴めるよう頑張ってほしいと思います。
弟としてはどんな存在でしょうねえ……(笑)。自分よりも決めたことに対する行動は早いですね。悩むことなく、“じゃあこうする、ああする”とパッと動きますよね。今回も栗東に行くかどうかは相談を受けたのですが、「考えてみる」とは言っていたものの、すぐに「行くことにした」というように、行動に移すのは早かったですね。
●田所秀孝調教師が語る柴田未崎騎手
「チャンスは与える栗東の環境」はコチラ⇒
プロフィール
【柴田 未崎】Misaki Shibata
1977年生まれ。福永祐一、和田竜二らとデビューを同じくする「花の十二期生」の一人。同じくJRA騎手の柴田大知とは双子の兄弟。 JRA史上初の双子騎手として話題となった。 中学時代はほぼ全科目において 学年上位の成績を残したために競馬学校入りを驚かれたという。1996年3月にデビュー。初騎乗は16頭立ての12着だった。同年6月16日、マイネルダンケで初勝利を挙げた。2004年、東京競馬場でハッピートウキョウに騎乗し障害競走初勝利を挙げ、以降は障害競走を中心に騎乗していた。 2011年3月、騎手を引退し斎藤誠厩舎の調教助手となり、新たなホースマン人生を歩んでいたが、2013年より再び騎手試験を受験し合格、2014年3月1日から騎手に復帰することとなった。
プロフィール
【柴田 大知】Daichi Shibata
1977年6月18日生まれ、栃木県出身。
1996年に騎手デビュー。デビュー2年目までは年間20勝以上をマークする若手有望株として注目を浴びたが、年々勝ち星が減少。遂に2006〜2008年は未勝利に終わった。しかし、騎乗数を徐々に取り戻すと、2011年には中山グランドJで涙のG1制覇。「マイネル軍団」の主戦ジョッキーとしてのポジションも確固たるものとした。2013年にはマイネルホウオウでNHKマイルCを制し、平地・障害ダブルG1制覇を達成した。