敵は新潟の馬場!?遂に戴冠なるかハクサンムーン
2014/9/28(日)
本番は若干のマイナス体重が理想
-:体つきですが、太目に見えやすい馬です。短距離馬で、ちょっとコロンとしています。ファンは馬体重も気にしていると思うのですが、セントウルSのプラス12というのは、この馬にとって太くはないですか?
西:見てもらうと分かる通り、典型的な夏馬で、帰ってきた時に20キロ以上太かったので、春先は体を戻すのが大変だったのですが、実際には数字以上に体ができていました。今度も多少減るぐらいで、プラス12の前はマイナス6だったので、そんなに太くもなかったです。今度も少し減るような体重で出てくると思います。
-:見た目に丸みを残した状態の方が良いということですね。
西:そうですね。中2週しかないですし、トライアルからのG1にしては間隔が短いので、直前の一本(追い切り)だけになると思います。
-:今朝に馬を見させて頂きましたが、レースで激走した疲れがないですよね。
西:全くないですし、いつもは使われるたびにガンガン回るんだけど、穏やかですよね。年齢的なものもあるかもしれませんが、穏やかだから走らないということはないですし、古馬の風格が出てきたのかなと思います。若い時はもっとピンピンしていて、どこ行くんやお前、という感じでしたが、今はだいぶ大人しくなりました。馬は1年でだいぶ違いますね。
-:それだけ心肺機能も強いからこそ、疲労回復がレース後にもできるということでしょうね。
西:若い頃に比べると戻りも早いですね。
-:ということは、期待して良いのではないですか?
西:期待して良いですね。ただ、今の新潟だけに、中山みたいに勝つとは言いきれないから、80%ですね。どうせ1番人気にはなると思いますし、期待に応えられるようにしっかり仕上げては行きますが、それは競馬のアヤということもありますから。
-:この馬は新潟ではアイビスSDで使ってはいるのですが、その時の輸送はいかがでしたか?
西:馬運車ではどうってことなくて、着いてから、日が明るいうちは回るから、可哀想だけど、担当はペットボトルとおにぎりを差し込んで、一日中馬に付きっ切りでした。
-:旋回癖が出ないようにですね。
西:この間の阪神でもそうでした。
-:付きっ切りなんですね。
西:それだけの馬ですからね。これだけの馬にこれから出会えることはないかもしれません。安田隆行厩舎に全弟が入るけど、どうなのでしょうね。すぐ下、吉村厩舎の全弟は全く走りませんでした。良く似ていたのですけどね。去年の外国人馬主が買った父ヴィクトワールピサはちょっと馬のタイプが違いますからね。良く似ているのは安田厩舎の馬ですが、あれがどれくらい走るかなと、楽しみにしています。
-:先生でもこの馬の兄弟に注目されているのですね。
西:見ているし、ご縁があればやってみたいな、というのはあります。実際は安田厩舎に入るので、見るしかないです。
3、4Fだったら世界で一番速い馬
-:ハクサンムーンの精神的な面で、成長して古馬の風格が出てきたという話があったのですが、歩いている時もクビを下げて、全く周りを警戒しないです。短距離馬はもっとクビを高く上げて、周りを気にして、何かがあったらすぐに反応できるような態勢をとっています。
西:調教ではするのですが、人を信頼していて、もともと人好きなんです。近くに行ったら、必ず寄ってきます。馬は嫌いなんだけど、人は好きなんです(笑)。だから、人が曳いていれば、安心して回っているし、担当の後ろに頭を付けて、テクテクと歩いています。ひとたび馬場に入ったら暴れ出しますけどね。洗い場でも大人しいんです。脚冷やすのも、ジーっとして動かないです。上手くバランスが取れています。
-:極端にオンとオフがあるのですね。
西:オンの場合が凄いですが、オフは他の馬以上にオフになります。オンになった時の反動をそこでうまく調整していると思います。
-:乗れない僕らは、馬体や雰囲気で判断しないといけません。それに関しては若干、分かり辛い馬ですよね。新聞だけ見たら強い馬だと分かりますが、裸馬で歩いていたら分かりません。
西:普通の人じゃ分からないですね。
-:見た目には分からない天性のものが、筋肉とか色々な部分であるのでしょうね。
西:体が柔らかいです。あんまり回るものだから、どれだけ回るのかと、寝ワラ棒を馬房に突っ込んだんです。どうするのかなと思ったら、当たるのが嫌で、少しの幅の中で回り出しました。背骨が折れるから止めとけって、体がくの字型になるくらい回るんです。こんなに体の柔らかい馬は初めて見るっていうくらいです。
「1Fの競馬があったら世界一だと思います。2Fとって、1F目行った後の勝負をさせたら世界に通じると思います。9秒台でいきますもん」
-:短距離馬は使うたびに硬くなるイメージがありますが、そういうのもないのですね。
西:ないですし、典型的な短距離馬の体でもないですよね。そんなに胴が詰まっているわけでもないし、身体能力だけで走っているのだろうなと思います。
-:気性的に、マイルに行ったら厳しくなりますよね。
西:厳しいと思います。使っては見ますが、阪神Cもキツイと思います。1Fの競馬があったら世界一だと思います。2Fとって、1F目行った後の勝負をさせたら世界に通じると思います。9秒台でいきますもん。
-:車でいったらゼロヨンみたいな戦いですよね。
西:ゼロヨンだったら凄いと思います。どんな馬でも掛かってこいという感じです。3、4Fだったら世界で一番速いと思います。
-:先生も若干の不安がある、新潟で行われるスプリンターズSですが、おそらく1番人気に推されるので、ファンも注目していると思います。先生からのメッセージをお願いします。
西:中山だったら絶対に勝ちます。「100%勝ちます」と言いますが、新潟に替わったことで、「たぶん勝つと思います」と。80%くらいは勝てると思いますが、残りの20%は色々なアヤがつくし、その辺は何とも言えません。ただ、勝つ競馬というものを知っているジョッキーなので、一回乗ったことで把握していると思います。彼に全編を任せて、託すだけです。
-:あとは普段通りですか?
西:普段通りです。プラス思考で戸崎が乗っているから、新潟に替わっても、ということです。
-:今年のスプリンターズSはちょっと異色ですが、頑張って下さい。
西:G1馬にしてあげられるように頑張ります。
(取材・写真=高橋章夫)
プロフィール
【西園 正都】 Masato Nishizono
1955年12月29日鹿児島県生まれ。騎手時代は安田記念、マイルCSを勝ったノースフライトのデビュー戦を任されるなど303勝をマーク。調教師に転身し、1998年に厩舎を開業すると坂路を主体とした独自の調整方法で活躍馬を量産。特に00年代後半からはハクサンムーンのほか、マイルCSを勝ったエーシンフォワード、サダムパテック、川崎記念を勝ったフィールドルージュ、気っぷのいい逃げでファンを沸かせたシルポートなど、短距離~マイル戦線で毎年のようにスピードあふれる有力馬を送り出している。また、栗東トレセンきってのオープンな人柄でも知られ、マスコミ対応も積極的に行っている。
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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