“完成途上”でも2冠獲りへ ワンアンドオンリーが出撃
2014/10/19(日)
チーム橋口でダービー馬の総仕上げ
-:休み明けの神戸新聞杯は2着のサウンズオブアースにヒヤリとさせられましたが、叩き合いを制して差し返しました。やっぱりダービー馬のワンアンドオンリー(牡3、栗東・橋口厩舎)は強いんだな、という内容でした。
甲斐純也調教助手:最後の直線はヒヤヒヤしていました。交わされた、と思ってヒヤヒヤしたものの、そこから差し返したのは流石ですね。
-:あの時の直前の追い切りの動きも、格下の馬に煽られるような形でした。乗っていたのは小牧さんでしたが、動き的にはどうなのかな、という気がしていました。レースでもその追い切りのイメージが出ているような、反応の悪さが感じられたのではないですか?
甲:正直、ありました。
-:1週前追い切りですが、赤木さんにテーマを聞いたら、やっぱり反応の話をしていました。「もうちょっとピリッと反応できるように乗ってきます」と言っていましたが、赤木さんと小牧さんの凄く闘志溢れる追い切りでしたね。
甲:良い併せ馬でしたね。
-:上がってきたワンアンドオンリーはどんな感じでしたか?気合いが乗っていましたか?
甲:あんまり普段と変わりません。ただ、ビッシリ併せ馬した、という感じの負荷は掛かっています。
-:栗東の坂路での併せ馬は、実際にそんなに近距離で伏せることもありません。でも、あの2頭はビッシリ伏せていましたね。小牧さんも、赤木さんも、レースがより接近したような感じで、ワンアンドオンリーのやる気を促すようでした。
甲:2人の息は合っていますよね。良い併せ馬ができました。
「この仔自体が、追い切りでビシッとやってもテンションが上がるところもないです。前みたいに追い切った後に飼葉食いが落ちるとか、馬体を細く見せたり、そういうのがなくなったので、ビッシリやっても全然変わりません」
-:普通の性格の馬なら、菊花賞前の調教でそこまでテンションを上げたり、トライアルからピッチを上げてくる陣営も少ないと思います。世代の頂点を極めたダービー馬でありながら、1週前にここまでビッシリ攻めるというのは凄い判断ですよね。
甲:この仔自体が、追い切りでビシッとやってもテンションが上がるところもないです。前みたいに追い切った後に飼葉食いが落ちるとか、馬体を細く見せたり、そういうことがなくなったので、ビッシリやっても全然変わりません。
叩き2戦目で条件面に不足なし
-:タイプとしては休み明けで結果が出る馬じゃなくて、叩き良化型ですよね。
甲:使って、使って、という感じですよね。今日の追い切りもビッシリ行ったことで、ちょっとは馬にも刺激になったかなと思います。
-:距離に関しては、血統的な強味もありますが、折り合いがつくこの馬の良さもあり、2回の4コーナーや、大観衆には動じないタイプですか?
甲:もともと折り合い面に不安はないです。普段の調教でも音に対して鈍感というか、全く音を拾うことがないので、皐月賞でもダービーでも、スタンド前からのスタートで大歓声を聞いても、「聞こえているのか?」というような反応でした。
-:今までやってきた競走馬とはタイプが違うんじゃないですか?
甲:慣れてきたのか、もともと音に対して敏感じゃないので、どれだけ歓声が上がろうが、自分の世界に入っています。
「この間の神戸新聞杯の返し馬の後も、ノリさんが『ダービーとそんなに変わってないね』と言っていたので、ひと夏越して本当に良くなった、というところには、まだまだですね。だから、完成するまでを長い目で見たいです」
-:夏に休んで秋に向かいましたが、見た目の変化はそんなになかったです。さっき言っていた疲労回復や、疲れに対する強さは成長していますか?
甲:春からレースを使うたびに回復も早くなっていましたね。
-:体を見ると、もうひと成長しそうです。ハーツクライ産駒はどの馬もそうですが、古馬になってから筋肉量が増えたり、男らしい体になったりします。ワンアンドオンリーもそういうタイプに見えませんか?
甲:完成はまだまだですよね。この間の神戸新聞杯の返し馬の後も、ノリさんが「ダービーとそんなに変わってないね」と言っていたので、“ひと夏を越して本当に良くなった”というところにはまだまだですね。だから、完成するまでを長い目で見たいです。
-:恐ろしい馬ですね。
甲:現状でこれだけ走れますからね。
-:京都の3000mといったら、橋口先生のところはダンスインザダークやザッツザプレンティで獲ったり、縁起の良いレースであると同時に、ローズキングダムで勝ち切れなかったりと、人気馬にとっては楽じゃないコースです。流れも見えないですし、前残りから差し切りまで色々なパターンがあります。この馬はどんな組み立てをするのですか?
甲:どんな競馬でもできると思うので、ペースが遅ければ自分から動いていけるし、速ければジッと折り合えます。不安は全くないです。
中団から反応に磨きがかかる可能性大
-:皐月賞よりはダービーよりの競馬になりそうですか?
甲:どうなんですかね。展開的には神戸新聞杯に近いんじゃないですか。ゲートは出たなりで、周りの動きを見つつ、だと思います。
-:神戸新聞杯と同じくらいのラップで走れるとしたら、菊花賞ではそこそこ中団にいられそうですね。あとは勝負所から、課題の反応がどれだけ出るか、ですね。
甲:一回使ったことで、反応は変わると思います。
-:普通、神戸新聞杯は負けているレースですよね。あそこからもう一回脚を使えるというのは、ちょっと考えられないです。
甲:ダービー馬の意地ですね。
-:カメラマンの中にもゴール前写真を撮れなかった人がいたみたいです。どの人もサウンズオブアースが勝つのかと一瞬思ったけれども、もう一回闘志に火がつきました。肉体的な能力で勝ったというより、あれはハートですよね。
甲:本当に気持ちが強いです。最後まで諦めません。
-:今日の坂路でも、隣に接近している馬に睨みを利かせて最後走っているのが、写真に写っていました。
甲:追い切りでは、いつも手応え的に見劣るし、見た目も良くないですが、競馬に行くと全く逆で、最後まで負けん気出して、一生懸命走ります。
-:菊花賞の先も楽しみですね。
甲:まだまだ先がありますよね。
海外遠征を見据えて菊花賞を勝つ
-:ちなみに、甲斐さんは凱旋門賞をご覧になりましたか?
甲:見ました。行ったこともないですし、凱旋門賞というレースが自分の中でどれくらい世界最高峰か、見たことがないので分かりません。ただ、世界各国の馬が出てきて走るというレースに、来年は行って勝ちたいな、と素直に思いました。
-:その頃には違うワンアンドオンリーになっているんじゃないですか?
甲:今まで(日本馬は)一回も勝ったことがないですし、勝てば馬名の由来通り「唯一無二」の存在になれますよね。そうしたら、先生も調教師生活に何も悔いを残さず引退できます。でも、その前に、まずはキングジョージ(英キングジョージ6世&クイーンエリザベスS)を勝たないとですね。
-:息子が親父(06年ハーツクライ3着)の無念を晴らしにキングジョージに行くのですね。
甲:可能性は十分に有るんじゃないですか。先生が今までダービーを獲れなくて、それをちゃんと勝ってくれました。
-:あれほど自信満々で出るレースはない、と言っていたダンスインザダークで負けて、酸いも甘いも経験した先生が、平常心で行ったワンアンドオンリーの時にダービーを獲りました。
甲:先生の夢のためにも、この仔はまだまだ頑張ってくれそうです。
-:その前に日本のG1で2勝目ですね。ワンアンドオンリーで淀を沸かせて下さい。
甲:まずは菊花賞ですね。
-:ワンアンドオンリーの体重の変化はいかがですか?
甲:全然変わりません。馬体もしっかり戻っています。
-:精神的には凄く強くなっているみたいで、マスコミにもだいぶ慣れています。
甲:カメラにも慣れていますし、厩舎に新聞記者や色々な方が来るのにも慣れました。大勢の人にも慣れましたね。
-:良くなった反応を菊花賞で見せて下さい。まだあと10日あります。来週はそんなにビッシリやらないのですか?
甲:当週はノリさんに乗りにきてもらえるみたいです。併せるのか、単走なのか、まだ分かりません。
-:それは直近の状況を見て決めるのですね。
甲:そうなると思います。
-:菊花賞、そして来年の凱旋門賞とファンも夢を見ていると思います。今年の凱旋門賞は日本馬にとって絶望的な負け方で、皆のイメージより負けた感があったはずです。来年は凱旋門賞へ行って、日本馬は違うぞ、というところを見せて下さい。
甲:頑張ります!
(取材・写真=高橋章夫)
プロフィール
【甲斐 純也】Junya kai
幼少時代から競馬サークル内で過ごして自然と厩務員を目指した。池添、太宰騎手らとは幼稚園から一緒の同級生。亡き父も橋口弘次郎厩舎の厩務員で、ダイタクリーヴァや、オールドファンなら御存知のツルマルミマタオーなどを担当していた。アイネスフウジンが勝った年でツルマルミマタオーは橋口厩舎初のダービー出走馬。当時、自身はまだ小学5年生だった。「親父と一緒に馬運車に乗って行きましたよ。当時は土曜日も学校があったから休んで行っていました」。
18歳から4年間、岡山の栄進牧場で働いた後、栗東の野元厩舎に所属する。23歳でトレセンに入って2年目で出会ったのがエイシンデピュティ。野元厩舎解散後は縁もあって橋口厩舎に入る。仕事をする上で、いつも心がけている事は「馬は友達」という言葉。
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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