この春は大阪杯から香港のクイーン・エリザベスⅡ世カップというローテーション。キズナも不在とあって、昨年のクラシックを盛り上げたエピファネイアの走りを待ち焦がれたファンも多いだろう。この中間はたっぷりと英気を養っており、来る天皇賞(秋)での成長が期待されるところだが、鈴木博幸調教助手は冷静に同馬らしさを強調。今回は角居厩舎流の調整法など、日常における調教のポイントを聞かせてくれた。

敗戦の中でもテーマはしっかりクリア

-:クイーン・エリザベスⅡ世カップ以来、休み明けで天皇賞(秋)となるエピファネイア(牡4、栗東・角居厩舎)ですが、今日(10/22)が1週前追い切りで、福永ジョッキーが乗ってCW単走で行われましたが、動きはいかがでしたか?

鈴木博幸調教助手:「先週と比べてもメリハリが効いて、動きも良かった」と言ってくれましたね。元々、追い切り毎に良くなっていく子なので「これでまた良くなるんちゃうか」とも言っていましたね。

-:先週は1番時計だったんですね。

鈴:1番時計でしたね。先週がコース初追いだったんですけど。

-:馬場に入る時の写真を撮っていて、敢えて表情とかを見せてもらったのですが、どことなく前よりもリラックスをして、コースに入っている印象がありました。

鈴:でも、1頭で運動をしていると、けっこう物見をする馬なので。何か色々なものが気になる子なので、そういうところも必要かなと思いますね。

エピファネイア

-:急かされて走っている感じはなく、自分の方からタイミングを取って走っているような感じには見えました。

鈴:そういう面では、ただのおバカさんじゃないというか。でも、何か子供っぽいような面も、アイツらしくて良いかなと思いますけどね。

-:春は大阪杯と香港と、期待した結果というのは……?

鈴:その都度、その都度、テーマを持って調教はしていますし、教えたことは競馬の中でもクリアはしてくれていますので。ただ、結果が付いてこなかったというか、勝てなかったということで。


「こちらが求める課題というか、テーマは競馬でシッカリと出してくれていましたし、ひとえに競馬としての結果が付いて来なかっただけ、と受け止めています」


-:どうしても、エピファネイアは菊花賞馬でもありますし、ダービーでもキズナと接戦をして、能力的には互角以上のモノがあるはずなので、そろそろ結果が欲しい、というファンも多いと思うんですよ。

鈴:でも、こちらが求める課題というか、テーマは競馬でシッカリと出してくれていましたし、ひとえに競馬としての結果が付いて来なかっただけ、と受け止めています。求めることはやっていないけれど、教えたことはやってくれているんで。別に馬が能力でどうこうというのはね。

-:3歳のクラシック戦線では荒削りな面も出ていて、それも含めてエピファネイアが魅力的だった競走馬でもあったと思います。逆に引っ掛からなくなった方がエピファネイアの良さが薄れてしまった印象があったのですが?

鈴:そういう意見の方は多々おられますね。

-:もう1回、あの激しさを、できたら取り戻して欲しいな、と個人的には思います。

鈴:そこはやっぱり、色々な見方がありますから。ウチは角居厩舎ですから、先生(角居勝彦調教師)の言う通りに馬をつくっていくのが仕事ですので、そこに近付けるようにね。

角居厩舎の調教は常歩にあり

-:角居厩舎の調教について教えていただきたいのですが、コースでの時計云々だけではなく、終わってからジョッキーが乗り替わって、一旦坂路に行って、戻ってきて厩舎でスタッフがもう1回乗り替わって、また上がり運動に行くという、そういう一連の動きというのは、何か負荷とか上がり運動だけではなくて、「歩く」という運動というものを課している訳ですか?

鈴:ウチは基本的には、常歩メインの厩舎なので。

-:歩く量がヨソよりも多いと。

鈴:最近は同じような調教をする厩舎が増えてきたと思いますが、自然の地形を利用した逍遥馬道などもある訳ですし、基本は常歩やと思うんですよ。常歩でシッカリと馬に動きを教えるというか、やっぱりシッカリと歩けないと。歩くことが基本だと思いますよ。

-:それは、エピファネイアの走りとかフォームに繋がってくるものですか?

鈴:常歩というのはやっぱり走るフォームに繋がってくると思いますよ。常歩ができないことには駈歩もできないでしょうしね。

-:写真を撮っていて、追い切りやレースも含めてそうですが、エピファネイアの良いと思うところは、もちろん畳んでいるところも綺麗なものの、伸ばしているところの四肢がもの凄く伸びるんですよね。

鈴:パッと出るでしょ、前脚が。

エピファネイア

エピファネイア

エピファネイア

-:あれがエピファネイアの魅力であり、上手く縮められないと最後に弾けられない面でもあるのかなと。

鈴:そうですね。やっぱり伸びるには畳む作業も必要でしょうし。

-:畳むには、やっぱり畳む背筋も、腹筋も、フォームも。それプラス、リラックスしているというか、力まずに筋肉疲労をおこさずにゴール前までスタミナを残しておくというのが大事ですものね。

鈴:おそらく理屈で言えばね。

-:その基本が結構、常歩にあるということですね。

鈴:常歩はやっぱり大事やと思いますよ。人間も歩くことのウォーキングというのが一時流行りましたけど、大事じゃないですか。そこで、やっぱり体の軸を整えたりする訳ですし。

エピファネイア

パドックでエピファネイアの歩き方に注目

-:エピファネイアの歩きというのはどういう特徴がありますか?

鈴:そんなにフォームが綺麗ではないですね。けっこう雑な歩きをしたりとか、その辺は余計に整えてあげないと、そのまま走りに出ちゃうかなというところはあると思います。

-:体で特徴的なのはけっこう肩が強そうな印象です。見栄えもそうですね。

鈴:目立つのは目立ちますね、最初から。トモも理想的でシッカリとしていますが、ちょっと長いのでね。やっぱりそういう意味で畳むという、さっきの話じゃないですが、苦労するところはありますね。

エピファネイア

-:大雑把な話で申し訳ないのですが、日本の馬はヨーロッパの馬に比べて、そんなに長くないと思うんですよ。ヨーロッパで見る馬の方が胴長が多いし、蹄もちょっと高い馬が多いです。エピファネイアみたいな胴長の馬というのは、構造的に畳みにくくないですか?

鈴:畳みにくいと思いますよ。ひとつ間違ったら歪んでいますしね。まず馬の背骨というのは、そんなにしならないですからね。それを真っ直ぐしようという時に、馬はしんどいとは思いますね。しんどいことを教えてやっていかないことには、それができないでしょうし、その辺は僕の仕事なんです。

-:疲れていたら、躓かないように普通に歩いているつもりでも躓いてしまったり?

鈴:ありますね。よくあります。

-:馬でも、パドックでちょっと躓いている馬とかもいますからね。

鈴:僕も何もないところでよく躓きますからね。

秋緒戦もいつも通りがポイント

-:1週前の追い切りが無事終わった訳ですが、ここから来週の追い切りまでの持って行き方というのは、何かプランは考えられていますか?

鈴:いや、いつも通りで。1週毎にジョッキーも跨って「良くなってる」と言ってくれてますし、このまま順調に行ってくれればなと思いますね。

-:天皇賞(秋)の週は3連休で、お客さんも多く集まるので。

鈴:注目してくれると良いですね。

-:スターホースですからね。

鈴:他に一杯いるじゃないですか、スターホースは。でも、見に来てもらえれば良いとは思いますね。折角のG1ですから。

-:エピファネイアはもちろん菊花賞を勝った訳なので、この時季というのは得意でしょうか?

鈴:あまり気にしたことはないですね。もちろん、ない訳ではないんでしょうけど……。

エピファネイア

-:コースも問題ないし、良い休み明けで緒戦を迎えられそうですね。

鈴:そうですね。良いレースをしてくれると思いますね。

-:応援しているファンにメッセージをお願いします。

鈴:いつも通りですが、今のところ良い休みを取ってくれたみたいで、良い状態で帰ってきてくれていますし、調教の方も順調に来ていますので、ぜひ競馬場に足を運んでもらって、秋緒戦の姿を見てもらえればと思います。

-:最後に、今の体重だけお願いします。

鈴:体重は、先週の時点で498ぐらいですかね。そこから追い切りも挟んでいるので。

-:感覚としてはどれくらいで出れそうですか?

鈴:そこまで大きく変わらないと思いますけどね。

-:今回もありがとうございました。

(取材・写真=高橋章夫 写真=競馬ラボ特派員)

●香港遠征前・エピファネイアのインタビューはコチラ⇒