一年の時を経て 昨年2着のリベンジを期すラキシス
2014/11/9(日)
牝馬が故に描けなかった上昇カーブ
-:思い起こせば、ラキシス(牝4、栗東・角居厩舎)は去年のエリザベス女王杯(G1)でも2着に来た実績馬ですね。あのレースを見た時は、今後、角居厩舎の中でも上位の活躍をしていく馬だな、と思っていたのですが……。おそらくファンの期待はもう少し高いんじゃないかと思うのです。辻野助手からみた、この1年を振り返っていただけますか?
辻野泰之調教助手:去年の秋に復帰してからはトントン拍子で、G1で2着に来るまでの力を付けてくれたので、今年も飛躍の年になるかな、と思ったんですけれども……。幾らか年齢を重ねてきたという面もありますし、そこまで上手く上昇カーブを描けてはいないのかなとは感じますね。それでも、牡馬を相手に善戦してくれたりもしているので、それほど悲観するレースは少なかったのではないでしょうか。
-:ヴィクトリアマイルは思ったよりも負けてしまった印象があります。いかがでしょうか?
辻:マイルであることを始め、幾らか課題はあったにしても、この馬らしいところが余り見られないまま、レースが終わってしまいました。馬体重の大幅な減少に加えて、慣れないマイルのペースにも戸惑ってしまったことが敗因かなと思います。
-:馬体重マイナス12キロが敗因だとすると、ファンも体さえちゃんと見極めていたならば、判断できるところでしたか?
辻:そうですね。春は牝馬にとって難しいシーズンでもありますし、馬体重だけでは計り知れない部分もあるとは思いますが。
-:いわゆる生理的な面が関係しているのでしょうか?
辻:そういうところもありますし、小さなことで牝馬は崩れやすいので。
-:ラキシスほどの馬でも、春は難しいということでしょうか?
辻:振り返ってみれば難しいシーズンだったと思いますね。
-:しかし、1ヶ月ほど前に行われたオールカマーでは、牡馬のマイネルラクリマに半馬身差の2着ということで、思い描いていたラキシスの姿がだいぶ戻ってきてい印象は受けます。
辻:春のレースぶりと比較すると、復活の兆しを見せてくれたと言えますね。牡馬相手にこれだけの競馬ができる馬ですから。
「やっぱり年を重ねて大人になってきた部分もあるので、一気に切れるというよりは、促した分、反応してくれる、という動きに変わってきたのかもしれないです」
-:しかも秋のシーズンは、牝馬によっては生理的な問題も関わってくる、難しいシーズンだと思いますが、ラキシスは大丈夫でしょうか?
辻:去年の秋はいい形でレースを迎えられましたが、去年が良かったからといって今年も上手くいくとは限りません。その辺りは細心のケアをしながら競馬に向かっていますが、ちょっとしたことで崩れてしまうのも牝馬ですからね。
-:その話は他陣営で言えば、メイショウマンボが牡馬と走る際に、宝塚記念でもそういう兆候があったということで、常々気にされており、改めて馬券を買うファンにとっても、フケは大きな問題だなと思わされました。しかし、昨日に行われたラキシスの追い切りを見た限りでは、僕にはそのような兆候は見えませんでしたが、辻野さんはご覧になっていかがでしたか?
辻:昨日の追い切りが1週前ということで、ゴール板過ぎてからちょっとしっかりと動かしてもらうようにしたんですけど、動き自体は悪い感じでもなかったです。やっぱり年を重ねて大人になってきた部分もあるので、一気に切れるというよりは、促した分、反応してくれる、という動きに変わってきたのかもしれないです。今の段階では、動きそのものは悪いものではなかったと思います。
-:レースと同じようなキレを発揮させるのがテーマではなく、レースに行って良い状態に仕上がるように持っていくための追い切りですからね。ゴール板過ぎてからも追っているというのは角居厩舎ならではのことなのですが、ファンが見る競馬新聞の時計欄からでは計り知れないプラスアルファの負荷がかかっていると思っていいですか?
辻:そうですね。時計だけ見ると、うちの厩舎はほとんどの馬は地味に見えると思うのですが、そこからしっかり負荷をかけている馬はかけていますし、調教欄だけではわからない部分はいろいろあると思います。
-:では、ラキシスもそういう追い切り後のウォーキングなども含めて、オールカマーからじっくり上積みを計算しているわけですね。
辻:ある程度、間隔はあいてはいるのですが、在厩のまま乗り込んではいますし、ここまでは順調に調整はできています。
馬場状態問わずの堅実さが売り
-:ラキシスの良さは、多彩な競馬ができるというか、器用じゃないですか。
辻:そうですね。色々なところで競馬ができる馬ではあります。
-:追い込み一辺倒なわけでもないし、ある程度中団より前につけることもできる。それでいて、終いもしっかりした馬というイメージがあります。今のコンディションだったら、去年と比べてどこが成長しているというか、パワーアップしていると感じられますか?
辻:去年、エリザベス女王杯の前の条件戦でしたら、我慢して最後の勝負という競馬しかしていなかったんですけど、エリザベス女王杯などは自分から動いて勝ちに行く競馬をしてくれているので、本当に自在な競馬ができるようになっていると思います。
-:しかも、去年は馬場も結構重くて、パワーを要される条件だと思うので、それを克服できているというのは、やっぱり凄いことですね。
辻:当時はまだ重たい馬場で走ったことがなかったので、半信半疑な面はあったのですが、それでもあの競馬ができるということで、ひとつ課題は克服できたレースではあったと思います。
「良い馬場でもしっかり最後は脚を使ってくれる馬ではありますし、去年みたいに重い馬場でもちゃんと走れる馬なので、その辺りの注文はつかないのかな、という気はしています」
-:ディープインパクト産駒で、母系がストームキャット。あまり重のイメージはないです。この馬自体は乗っていて、フットワークの前捌きがしっかりとしたところというのは感じられますか?
辻:走りそのものはストライドが大きくて、すごく体幹の強いしっかりした馬なので、重馬場で苦しみそうな感じではなかったです。それもやっぱり競馬に行ってみなければわからない部分はありましたし、ああいう馬場でも競馬ができたというのは、ひとつの自信になったかなというのはあります。
-:ここまでの馬場傾向では、今年のエリザベス女王杯は去年のような重い馬場にはならないような印象は、今のところ感じています。時計が速いというか、芝の状態が良くてキレが生きるような状況というのは、これはこれでラキシスに向くと考えていいですか?
辻:良い馬場でもしっかり最後は脚を使ってくれる馬ではありますし、去年みたいに重い馬場でもちゃんと走れる馬なので、その辺りの注文はつかないのかな、という気はしています。
昨年2着のエリザベス女王杯がベスト舞台
-:そんな中で迎えるエリザベス女王杯なのですが、ファンとしたら、ラキシスの好調を判断するのはパドックではどの辺りを見たらいいですか?
辻:落ち着いてはいると思うのですが、気の良い馬なので、あまり落ち着いていると心配にはなります。まあ、体調さえ整っていたら、活気ある動きをしてくれると思いますし、その辺がポイントかなと思います。
-:では、良い意味で気合がみなぎっている感じですね。馬体に関しては450~460キロ台の中型馬ですが、ディープインパクト産駒の中では筋肉量もある程度ある方ですね。
辻:今、400キロ台半ばくらいで競馬をしているのですが、割と体高が牝馬にしてはある馬で、乗っていると少し細身には感じます。しかし、細身にしてはすごくパワーもありますし、体幹の強い動きもするので、ディープインパクトの牝馬にしては、ちょっとタイプが違うのかなというところはあります。
-:それは僕も感じるけどうまく口では表現できないですね。ショウナンマイティのちょっと小さいような感じですかね。
辻:そうなんですかね。デニムアンドルビーとかもディープインパクトですが、ああいうコンパクトにまとまっているという見た目でもないので。
-:もうちょっと伸びがありますね。
辻:そうですね。脚長で。
-:本来、ラキシスの馬体から考えると、ベストの舞台というのはどの辺でしょうか。
辻:ある程度、距離があったほうがいいのは間違いないと思うのですが。
-:例えば1600に使うとどうでしょう。
辻:春は状態の面があったので判断しづらい部分もあります。
-:ヴィクトリアマイルなどは1600でも府中じゃないですか。だから、状態さえばっちりだったらこなせていましたかね。
辻:いいとは思うのですが、現状の競馬を見ると中距離くらいでしっかりタメを作って最後に脚を伸ばす、という競馬が、今は板についてきているというのはありますね。
-:ということは、エリザベス女王杯はばっちりじゃないですか。
辻:秋の目標でもありますし。
-:では、楽しみにしています。ファンは前年以上の結果を望んでいます。しかも、角居厩舎と言ったら、先日もJBCレディスクラシックでサンビスタが勝ちました。エリザベス女王杯にも3頭出ていますね。厩舎の中でも凌ぎ合いがあるかもしれないので、我々ファンも悩ましいレースですが、あと10日くらい頑張ってください。
辻:ありがとうございます。
-:今後ともよろしくお願いします。
(取材・写真=高橋章夫 写真=競馬ラボ特派員)
プロフィール
【辻野 泰之】Yasuyuki Tsujino
学生の時にハマっていたテレビゲームがキッカケで乗馬を始め、競馬の世界を志す。京都競馬場の乗馬センターで経験を積み、北海道の牧場に勤務、その後は社台ファームから競馬学校という過程で、角居勝彦厩舎に所属。初勝利を挙げ、一番思い入れがあるというトーセンキャプテンの持ち乗り助手からキャリアをスタートしたが、この春から名門厩舎の攻め馬専門助手(通称攻め専)として活躍。馬に乗る時のモットーは「馬と会話できるように心掛けています。ただ、まだまだ足りないとは思います(笑)」。素質馬が集う環境で、並みのホースマンには真似できない濃い毎日を送っている。
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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