リーディング矢作師も惚れ込む逸材 リアルスティール
2015/2/8(日)
全兄も所属する厩舎ゆかりの良血
-:共同通信杯(G3)に向かうリアルスティール(牡3、栗東・矢作厩舎)ですが、新馬戦の勝ちっぷりは鮮やかでした。ファンからの注目を一気に集めましたが、デビュー前から動きに光るものはありましたか?
柿崎慎調教助手:入厩前から先生(矢作芳人調教師)に良い馬だと聞いていました。しかし、ゲート試験に一回落ちて、時間が掛かってしまいまして、ゲート試験に受かって初めてCWで追い切ったのですが、その時に上がってきた安藤助手が「これは怪物やわ」と。やっぱりそうなのかと僕も思いましたね。
-:血統的にディープインパクト×Storm Catで、配合的にはキズナやラキシス、アユサンらに近いです。ディープ産駒にしてはやや大柄で、パワータイプなところがあるのですか?
柿:僕のイメージとして、お兄さん(ラングレー)は素軽く、そこまで大きくないイメージですが、弟のリアルスティールは一回り大きい感じで、どちらかと言うとパワータイプのイメージです。
-:気性的にラングレーがどんな馬かは知らないのですが、勝ち味に遅いところがありますよね。
柿:同じ厩舎とはいえ、僕はラングレーにはノータッチなんです。期待されていたので、ダービーを目指してトライアルを使っていたのですが、ここぞというところでね……。
-:良いところまで来ていたのですけどね。これは勝つな、というレースで2着になったりしていましたね。
柿:年が明けて、この前のレース(初富士S)は素晴らしい勝ち方でした。圧勝でしたよね。担当している方から、「カイ食いも安定していなかった」という話は聞いていました。
「新馬のデビューまで、ゲートもあって詰め込んでやった感があったので、一回短期放牧に出しました。良い意味で、精神的にも落ち着いて帰ってきましたし、そこが一番だと思います」
-:ラングレーとリアルスティールの違いはありますか?
柿:体型的な違いが一番ですね。ラングレーは新馬戦のゲートを出た瞬間に尻跳ねしたり、ゲートも怪しい感じでしたが、リアルスティールは好スタートを切ってくれました。ゲート試験こそ時間が掛かりましたが、あんな綺麗にスタートでパッと出ると思いませんでした。
-:ラングレーの不運だったところは、2戦目の東スポ杯でいきなりイスラボニータとあたっています。今度の共同通信杯も同じ2戦目で、強敵が出てくるでしょうし、府中の1800という舞台は、本当に力が求められます。ファンとしては、緒戦からどれだけ上積みがあるかに注目していると思います。使った後の感じはいかがですか?
柿:新馬のデビューまで、ゲートもあって詰め込んでやった感があったので、一回短期放牧に出しました。良い意味で、精神的にも落ち着いて帰ってきましたし、そこが一番だと思います。レースを使った後は、精神的にだいぶピリピリしていました。
-:詰めて使うよりも、使って戻してもう一回レースに挑む方が、この馬にはベストですか?
柿:う~ん、そこはまだ何とも言えないです。
デビュー戦のゲートまでを振り返って
-:今回は2戦目というだけではなく、府中への長距離輸送も控えています。
柿:新馬戦の時の輸送は全く問題なかったです。トレセンから馬運車への積み込みとか、道中の感じも、馬が落ち着いていて、あの感じで行ってくれれば、輸送自体は大丈夫じゃないかなと思っています。
-:新馬戦の時のパドックは、馬にとっては未体験ゾーンです。初めてのパドックに、リアルスティールは戸惑いませんでしたか?
柿:変なイレ込みはなかったですし、装鞍所から馬が落ち着いてので、このままいってくれればいいなと思いました。パドックに行ってからも、変にお客さんを見たり、力んだりはなかったです。初戦は良い感じでした。
-:新馬戦のパドックに出てくるまでに、ファンの知らない一面があります。予想以上に装鞍所でイレ込んだり、発汗し過ぎて綺麗に洗ったのを見て、ファンは大人しいと思っているものの、ただ単に元気がないパターンとか、暴走したり、色々なことがあって、なかなかドラマチックな場面だと思います。リアルスティールは、落ち着いて迎えられたのですね。
柿:やっている僕らとしては、レース以前に、朝のトレセンを出発して、パドックに出るまでにも、だいぶ時間があります。馬運車への積み込みから道中と、着いてから待機馬房で新馬の昼間まで3、4時間以上あるわけで、そこでは落ち着いていましたし、朝のカイバもしっかり食べられていました。
-:そこからレースで全力疾走するということも、あまり分かっていない状態で返し馬に行きますね。
柿:新馬で大人しい馬は、訳が分かっていませんからね。新馬は大人しかったのが、2戦目で豹変するのは、よくあるパターンなんですよね。一回使って、今度は競馬だと分かってくるでしょうし、そこで馬によっては力みが出てきます。
-:長距離輸送の経験がないのに窺うのも恐縮ですが、作り手としては、輸送するのにどれくらいの余裕を持って行くプランですか?
柿:輸送に関して、特に意識はしていません。輸送があるから増やそうとか、カイバも今のところは、やればやるだけ食うというタイプではないです。そういう馬だったら逆に考えますが。
ディープブリランテを彷彿させる器
-:今朝(2/4)の追い切りですが、どんな状況だったか教えて頂けますか?
柿:今日は福永祐一騎手に乗って頂いて、CWコースでの3頭併せで真ん中から行きました。一番前はまだレースに使っていない新馬で、後ろは準オープンのタイセイドリームとの併せ馬でした。ただ、遠目からだったのでハッキリとは見えなかったのですが、動きとしてはタイセイドリームと併せていけて、ビッシリと追い比べができたと思います。
-:お兄さんのラングレーよりも瞬発力があるイメージがあるのですが、その辺りはいかがですか?
柿:どうでしょうかね。僕の中ではラングレーの方が素軽くて、瞬発力のあるイメージがありますけれどね。レース前の乗った感じでは、勝負どころで一気にギアが上がって、そこから長く良い脚を使う印象ですかね。
-:それでは同厩舎だったダービー馬のディープブリランテに近いイメージでしょうか?
柿:そうなりますかね。ブリランテは引っ掛かったりもしてましたが。
-:血統的に凄く瞬発力があるイメージがありますが、スタミナ的な要素もあるんでしょうね。そうなると府中の長い直線も苦にしなさそうです。
柿:そうですね。楽しみです。
ジョッキーもその伸びしろに期待
-:新馬戦ということで全体的な時計は遅かったですが、2走目となる今回はペースも上がって、上がりは出にくくなると思います。時計が速くなることは、この馬にとってマイナスにはならないのでしょうか?
柿:大丈夫だとは思います。
-:この馬はそんなにクセのある感じではないですよね。
柿:新馬戦を見る感じではそういう風には見えません。ただ、やっぱりまだ子供というか、アゴを浮かせるような走りをしていましたし、コーナーも逆手前で走っていましたからね。普段の歩様も硬めで、トモの踏み込みが浅いんです。まだ体が緩いのもあるのでしょうが。「良い馬が入ってきた」と聞いて、初めて会った時に乗って歩かせてみたら、正直、「アレッ?」という感じもありました。
-:それで最初の話に戻ってくるのですね。そういったイメージがあったが、安藤助手に追い切ってもらった感触は全然違うと。
柿:僕も乗りましたが、キャンターで走り出したらやっぱりバネがあるというか、常歩の時の歩様と、キャンターの時とギャップがありました。
「この状態で新馬戦を圧勝した訳ですから、やっぱり能力はありますよ」
-:そういう感触は走る馬に多いようにも思えます。やっぱり歩様といっても、クセもありますし、デビューして間もないですからね。見る方としては、もちろん競走馬の歩き方という物差しで見てしまいますが、2歳馬の12月ということを考えて見なくてはいけないのかもしれません。来年、再来年と同じような歩様では問題がありますが、いくらでもこれから変わりますからね。リアルスティールで言えば、去年の12月時点ではちょっと物足りないところもありますが、逆にそこは伸びしろがあるということですね。
柿:そうですね。今日、乗っていた福永騎手も同じことを言っていました。「まだまだぎこちない走りだったけど、その分の伸びしろは十分にあるから楽しみだ」と。その状態で新馬戦を圧勝した訳ですから、やっぱり能力はありますよ。
-:2歳のデビュー直後で500キロ近い馬体重というのは少し大きいですよね。担当される方としては、それだけ脚元の不安や負担が掛からないようにするのは大変じゃないですか?
柿:その辺りは気を付けています。
-:苦労は絶えないと思いますが、これからスターホースの一員になっていくと思うので、頑張ってください。
柿:フフフ(笑)。そうなったら嬉しいですね。
-:先週のドゥラメンテ(牡3、美浦・堀厩舎)のレースはご覧になりましたか?スタート前はプラス14キロでどうなのかな、と見ていたのですが、恐れ入りました、というレースでした。そのドゥラメンテが出走してくる可能性もあります。
柿:もう出走決定ですか?出てきたら中1週ですね。ウチ(矢作厩舎)なら普通のローテーションですが(笑)。
-:色々なライバルはいますし、まだ枠順も分かりませんが、どんなレースになるのか楽しみにしています。リアルスティールは遅れてきた大器ということで期待しています。
柿:そうなってくれたら良いですね。
-:最後に怪物候補としてリアルスティールを応援してくれるファンに、一言お願いします。
柿:凄いプレッシャーですね(笑)。まだ新馬だけで一回しか使っていないので、僕らとしても手探り状態ですし、馬がレースに向かうまで、どのような状態でいるのか気を使うところです。どのようなレースをするのか未知数な部分はありますが、どうか温かい目で見守ってください。まだまだ乗り越えるべき壁はたくさんあります。
-:これからも頑張ってください。ありがとうございました。
(取材・写真=高橋章夫 写真=競馬ラボ特派員)
プロフィール
【柿崎 慎】Shin Kakizaki
父親の影響で中学生の頃から競馬を見始め、牧場での勤務に憧れを持ち、高校卒業と同時にBTC(軽種馬育成調教センター)の門を叩いた。1年間の研修を受けた後は様々な牧場での勤務を経て、競馬学校に合格。しかし、競馬学校卒業後も定員に空きが出ず、1年間の待機を余儀なくされることに。待機期間に一路フランスへと渡り、コレ厩舎で研修へ。現地の競馬場を転々とし、凱旋門賞の空気を生で感じるなど、フランスでの経験が馬の仕事への思いをより強くした。
ドーヴィルで開催されたセリで偶然、矢作芳人調教師に出会ったのがきっかけとなり、08年から矢作厩舎に所属。これまでグランプリエンゼル(09年函館スプリントS優勝)などを担当している。
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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