デビュー前から夢見た樫の舞台へ ココロノアイ
2015/5/17(日)
初の当日輸送が裏目に出た桜花賞
-:ココロノアイ(牝3、美浦・尾関厩舎)の過去、現在、未来の話を伺っていきたいのですが、まずは桜花賞のレース、当日の馬の気配はどう感じていらっしゃったのですか?
前田広宣調教助手:僕個人の感触では、今までで一番おとなしすぎましたね。装鞍所の時点で先生(調教師)にも言ったのですけどね。「これでいいのか悪いのか、ちょっと分からないです」と。“雰囲気”がなかったですね。まずいかな、と思ったところはありましたね。
-:結果を出していた時の雰囲気はどんなタイプでしたか?
前:どこかしら秘めたものがこちらに伝わってきたのですよね。それが完全にボケている感じがあったのです。正直、競馬場に着いてから(飼い葉を)あまり食べなかったのもあったので。当日輸送が初めてだったのですよ。そこが僕の中でのネックではあったのですが、この子は輸送に強すぎるというくらい、牝馬にしては強かったので。当日になると逆にダメかと少し懸念はしていたので、その不安が出たのかもしれませんね。
-:一般的におとなしいというのは、良いとされていますが。
前:そうですね。特にこういったタイプで、なおさらおとなしければ折り合いを欠かないで済むし、その分、スローで我慢が利いたのかなと思ってもいます。額面通りとらえればプラスかもしれないし、そこは分からないですね。あれが本当に負けた、弾けなかった敗因のひとつなのかと聞かれても、分からないところはあります。
「僕はこの馬は切れない馬だと思っていなかったのですが、G1としては届かない切れ味なのだなと。改めて弱点が見つかりました。無敗馬ではないので、何回も何回も弱点を見つけて、修正して、そうやってきたので、これでそう思いましたね」
-:初めてそういう状態でレースに向かったというのもあるわけですね。パドックの時からそういう雰囲気はあったのですか?
前:もう、厩舎に着いてからですね。栗東から阪神へ朝に着いた時から、おとなしいなと。いつもはもう少し怒るのですよ。輸送して阪神に着いて怒りながらでもカイバをバリバリ食べる子だったのですが、何か落ち着きながら、あまり食べる感じではなくて。疲れていたり、そういうわけではないのですが、体も減っていて……。しかし、あの子は頭がいいのですよね。自分の体重で一番強いのが452だと思ったのかな(笑)。452では無敗だったのでね、桜花賞までは。452をつくりにいったのかなと、それも思ったりはしました。
-:頭のいい馬は自分でレースに向けて体をつくるといいますよね。
前:前回が少し重くて苦しい思いをしたから「ちょっと私痩せようかな」みたいになったのかもしれないし(笑)。
-:レースは15番枠からのスタートでした。ペースが遅いレースだったことはいかがでしたか?
前:出る幕がなかったですね。展開も向かなかったといえば、向かなかったでしょうね。切れるとなったら、上位の馬達の方が強かったということです。僕はこの馬は切れない馬だと思っていなかったのですが、G1としては届かない切れ味なのだなと。改めて弱点が見つかりました。無敗馬ではないので、何回も何回も弱点を見つけて、修正して、そうやってきたので、これでそう思いましたね。
どうしても取りたいタイトル
-:レース後の状態はどうですか?
前:少し疲れが出ましたね。競馬から上がってきても、息の入り方は一番早かったのじゃないかなと思うくらい、ケロッとしましたし、レースをしていないようなものだったのですが、体の方ですね。やっぱり栗東の調教は疲れます(笑)。坂路もずっと上りですし、そういうものも積み重なって、蓄積されていた部分がドッと出てきたのもありますね。
-:レースそのものの疲れではなく。
前:気が張っていたのに、それを出さないでくれていたので。本番当日も歩様などは特に何もなかったのですが、使ったあと、気が抜けた時には体全体の疲れがみられました。そこから2週間くらいは戻す方向で、放牧に出した感じですね。
-:戻ってきた時の状態はどうでしたか?
前:分かりやすくいえば7分くらいで帰ってきて、今は上に向かっている状態です。ドンドンと。今日よりは明日、明日よりは明後日のような感じで、本当に良くなっているので。
-:日ごとに良くなっている状態と。
前:今は「絶好調ですか」と言われても、そうとは言わないです。絶好調ではないですが、いい曲線が見えているので。「今週?」と聞かれたら、まだ足りないかと思いますが、来週にはピッタリ行くような気もするのですよね。
「調教で息切れしたことが全くないのです。これがオークスを意識した本当の理由ですね。初めて跨って15-15で走らせた時に、この子は本当にケロッとしていたのですね。普通は新馬なら息が乱れますよ」
-:1週前という段階で、昨日(5/14)の追い切りは、厩舎としての狙いはどの部分にあるのですか?
前:この馬ってどうしても掛かってしまって、単走でも猛時計が出てしまう馬なのです。先生の狙いとしてはやっぱり、ノリさんを乗せたことで折り合えるように、ということです。今は折り合いがだいぶ良くて、「やっと来ましたね」と先生に言っちゃったくらいです。「こういう馬にしたい」とずっとデビュー前から思っていたところに、ほぼ近いところに来たといいますか。それを先生が掬ってくれて、じゃあノリさんを乗せてみても、グッチャグチャになることはないだろうと。僕はこの子でどうしてもオークスを狙いたかったんです。
-:それはなぜオークスを狙いたかったのでしょうか?
前:僕は地元が東京だから(笑)。東京での勝率がすごく良いんです。他の競馬場は相性が悪いのです。それは余談ですが、調教で息切れしたことが全くないのです。これがオークスを意識した本当の理由ですね。この子は本当にスタミナが並じゃないなと。血統背景もあるのですが、それを抜きにして考えても、初めて跨って15-15で走らせた時に、この子は本当にケロッとしていたのですね。普通は新馬なら息が乱れますよ。こんな馬、ウチの厩舎では初めてでしたね。「これは普通じゃないな」と思ったのが最初の印象です。
-:いいスタミナを持っているということですね。ここまでマイル戦をずっと使っていましたが、本当の持ち味となると。
前:2000m以上にしてあげたいですね。気性面が勝っているから1600mでも対応できたのかなと思います。ただ、前走のようにスプリントのような短い部分での競馬になった時にモロさが出ましたね。オークスでもスプリントになることはありますものね。道中はスローペースになることが。そうなると分が悪くなる可能性はあります。
-:瞬発力勝負にはなってほしくないところですね。
前:前半(1000mが)63秒くらいのペースになるとマズいですが、そうなりそうな雰囲気もありますよね。これが60秒を切るペースになったら言い訳ができません。
14日、横山典騎手が騎乗してウッドコースで単走での追い切り
馬なりで6F79.2-13.3秒をマークしている
テンションが課題の最終調整
-:この中間の調整で気をつけてきた点はありますか?
前:2400mという距離はどの馬にとっても初めてになりますし、桜花賞から参戦する馬も多いですから、何よりも折り合いですよね。掛かる馬にしてはいけないですから。ノリさんにも昨日「この馬は仕上げ過ぎない方が良いね」と言われました。桜花賞の後にも、敗因のひとつとして「仕上げ過ぎたんじゃないかな」と指摘されたんです。僕は良い状態だったと思っていましたし、悪い部分はないと思っていましたが、結果として負けてしまいました。そして、仕上げ過ぎるとテンションが高くなるのは確かです。
-:見た目ではなかなか分かりづらいですが、内で闘志が高まっていくと。
前:桜花賞でも馬場に出てからがすごかったですね。装鞍所では大人しくても、やっぱりうるさいのではないかと。その時は「大丈夫だ、さっきは気にしすぎだったのかな」と安心したのですが。いつものココアちゃんだと……。ただ、あのテンションではオークスだと辛いですよね。
-:もう少し落ち着いてきてほしいと。
前:この前の装鞍所の時のテンションで良いんだなと。パドックでも大人しくしてもらって、馬場で少しテンションが上がったとしても、前よりは大人しい馬であってほしいですね。
「成長がすごく伝わってきます。ガラッと変わりましたよ。まだまだ教えなければいけないことがたくさんあるなと思いながら育ててきましたが、目標に届くところまでは近づいてきています。自分の我を捨てて、人間の言うことを聞くようになってきたのが大きいですね」
-:実際に調教で前田さんが跨っている時には、折り合い面での変化は感じますか?
前:成長がすごく伝わってきます。ガラッと変わりましたよ。まだまだ教えなければいけないことがたくさんあるなと思いながら育ててきましたが、目標に届くところまでは近づいてきています。馬場入りでゴネることも減りましたよ。自分の我を捨てて、人間の言うことを聞くようになってきたのが大きいですね。アルテミスSの時はひどかったですから。
-:精神面の成長には、向こうの主張をある程度聞いてあげることも大事なんですか?
前:やはり女の子なので、すべて上から押さえつけるのではなくて「アナタの言うことも少しは聞きますよ」と。ただしコチラも譲れない部分はあるので、そういう部分はしっかりと聞いてもらえるように。女の子と言えども、コチラから叱る場面もあります。今は『ヤンチャ娘』から『お嬢様』にはなれたかなと思いますね(笑)。ヤンチャでただ走り回っていた女の子が、目標に向けて頑張れる女の子になりましたね。後はオークスで『女王』になってもらいたいですね。
-:やはり、そのためには折り合いということですね。
前:そうなりますね。それでも、以前ほど心配はしていません。
-:昨日の追い切りを前田さんもご覧になって手応えはあると。時計も結構出ていましたよね。
前:終いが遅くなったのは、ノリさんが意図的にそうしたのだと思います。
-:馬が垂れてしまったというわけではないのですね。
前:全然違います。桜花賞の1週前追い切りと比較していただければ、馬の首の位置の違いが分かってもらえると思います。バテている時の位置ではないなと。キレイなフォームで走ってくれました。今回はノリさんにお任せする形だったのですが、一度やってみたかった部分でもあるんですよ。今回乗ってくれたことで、ノリさんも色々と考えを巡らせてくれると思っています。
-:残り時間からすべて逆算して、調整を進めていくと。
前:残り1週間半は僕がこの子のテンションを戻してあげて、更に良い状態でジョッキーに渡してあげたいですね。それが僕たちが描いている理想の曲線です。
-:最後に、レースに向けて一言いただけますか?
前:前回のインタビューでも触れましたが、酒井牧場さんとノリさんの絆があって、厩舎も一丸となって頑張っています。後は、G1を獲って先生(尾関調教師)への恩返しとしたいですね。僕は海外にいた時に拾ってもらったようなものですから。縁あって一緒に働けて、大きなレースに使えるわけですから、僕がこのチャンスを掴んで勝利できれば最高です。
-:ありがとうございました。
(取材=競馬ラボ 写真=高橋章夫、競馬ラボ特派員)
プロフィール
【前田 広宣】Hironobu Maeda
家の近くにあった馬事公苑で乗馬を経験したことから競馬の世界を志す。元々、海外志向が強く、高校卒業後にはオーストラリアへ馬の勉強に。デルタブルースが制した2006年のメルボルンCでは当時所属していたD.オブライエン厩舎の管理馬・ディマージャーが出走していた。
カジノドライヴがアメリカ遠征する際に、現在所属する尾関知人調教師、藤沢和雄調教師に同行。それをキッカケに藤沢和師に「日本に戻ってこないか」と声を掛けられたことで帰国を決意する。これまでに担当した主な馬はココロノアイ、チャーリーブレイヴ。日本でのデビュー戦で初勝利を飾るなど、自他ともに認める“馬運”の持ち主。