脇役から堂々「まつり」の主役へ! キタサンブラック
2015/5/24(日)
-:キタサンブラック(牡3、栗東・清水久厩舎)についてよろしくお願い致します、いよいよ日本ダービー(G1)ということになりますが、皐月賞のレース前に先生が体調を崩されまして、今回初めて取材させて頂くので、この馬との出会い、最初にご覧になった時の印象からお伺いしてもよろしいでしょうか?
清水久詞調教師:1歳の時ですね。北海道でのことでしたが、初めて見たときから今のような印象でしたね。背が高くてスラーっとしていて。
-:キタサンブラックに出会うまでは、ブラックタイドのイメージは何かお持ちでしょうか?
清:いや、ないですね。産駒はそんなに管理させてもらったことはないですし。
-:実際に入厩が近づいてから、牧場時代の動きはいかがでしたか?
清:少し馬格ばかりが大きくて、大きくなり過ぎた体をよう動かしきれないといいますか、無理をさせずに体力がついてくるのを、成長を促しながらゆっくりと馬に合わせて調教を進めていました。たまたま入厩が遅くなっただけで、どこが悪いとかで休んでいたわけではないので。
-:肝心の体が整ってきて、動けるようになってきたというのは2歳のいつ頃でしょうか?
清:夏を越えて、秋に入ったぐらいで、それなりに少しずつ負荷をかけだしました。秋に一旦こちらに移動して、暮れにトレセン入厩しました。
▲高橋章夫氏のインタビューに応じる清水久詞調教師(左)
-:常識的に考えるとローテーション的には1月にデビューするというのはかなり遅い部類なので、皐月賞に出走するにはトライアルで出走権を得て、4着以内でダービーに出走するというのが、描けるローテーションだと思います。この馬の場合は3連勝で皐月賞までいけるほどの上昇度あったので、トラブルなくデビューできたことプラス、どこかでまたプラスの成長をしていると思うのですが、その辺は感じられることありますか?
清:入厩してデビューまでは何事もなく、こちらの思うメニューを難なくこなしてくれて、デビューもこの動きなら、ということでした。大きな馬なので、少しくらいは本数きちっと重ねてから行こうと思い、ジョッキーやレースを考えながらも、すこぶる順調でしたよ。デビューの日程を考えると、考えられないような大出世というか、皐月賞に駒を進めるとはね。1月末のデビューでは、なかなか過去を遡っても、数えられる程だと思うのですが。
-:しかも、皐月賞に出走するというだけなら可能なことだと思うのですが、スプリングSを勝っての参戦は、皐月賞の1、2番人気の馬を負かしていってるわけですから、その辺が並の馬じゃないことですよね。
清:確かに能力はありますね。攻め馬でも動きますよ。2戦目で府中に行ったのですが、(勝ち負けの勝算は)イーブンな気持ちで見ていたら、すごく強い内容で伸びてきたし、その2着だったサトノラーゼンも今回ダービーに出走してくるというので、相手に恵まれて勝ったわけではないですし、あのレースで3馬身くらい着差つけましたからね。
-:あのペースからいったら、そんなに着差はつきにくい、接戦になることが多いと思うんですよ。それが3馬身突き放していたし、1枚2枚違う能力を感じました。
清:あの時は新馬を勝った2戦目で、メンバー見てもそこそこ血統馬がいましたし、それなりの成績の馬もいましたので、手強い相手やなと思っていたのです。まさかあれだけ離して勝って、競馬の内容もガラッっと変わりましたからね。
-:しかも、抜け出す時の脚がいいですよね。普通、皐月賞やダービーで人気になる馬は瞬発力、上がりの速いところ注目されると思うのですが、上がりが速いだけじゃなく、平均的なタフさを持ってる馬ですよね。
「僕のイメージでは中山の直線より、東京の長い直線の方が、この子には合うと思っています」
清:僕のイメージでは中山の直線より、東京の長い直線の方が、この子には合うと思っています。
-:そういう目でご覧になっていたスプリングSで勝つわけですが、あのレースでより評価があがったのではないでしょうか。
清:あの時はね、人気どころからのマークも薄かったと思います。そういう助けもあったというのも事実だと思いますよ。
-:それから続く皐月賞の大一番はスプリングSで勝っているだけに、かなりレースのキーになっていた馬がキタサンブラックじゃないですか。
清:それは覚悟していましたね。3連勝で皐月賞を迎えているので、3コーナーから確かにプレッシャーかけられて厳しかったですし、2着の馬もぴったり後ろにいましたね。それは仕方ないですよ。覚悟の上ですからね。目の前でスプリングSを勝ってるの見てるわけですから、(福永)祐一君も。きっちりやられてますんでね。
-:ただ、北村ジョッキーが騎乗停止で乗れなくなるという不運がありつつ、大一番でテン乗りというのもジョッキーにとっては酷な話だと思うのですが、癖がないというか、誰が乗っても能力を出せるというのは、この馬の強みじゃないですか?
清:浜中ジョッキーは場慣れしてますしね。あれだけ勝ち鞍をあげてますし、大一番でも結果を残してます。特に不安もなにもなかったのではないですか?逆に楽しんで乗ってくるくらいのジョッキーですよね。ああいう大きな舞台では。
-:浜中ジョッキーのレース後の談話はいかがでしたか?
清:「頑張ってます、力を出し切ってます」ということでした。それに「東京ならもっといいと思います」と言っていましたので。
-:ダービーは皐月賞で3着に負けていることに加え、常識でしたら「ドゥラメンテ対リアルスティールの2強対決」という様相じゃないですか。そこに割って入れる馬をファンは探してると思うのですが、キタサンブラックも怖い1頭じゃないですか?
清:サトノさんも2頭(サトノクラウン、サトノラーゼン)いますしね、ポルト(ポルトドートウィユ)も出てくるんでしょ。ファンからすれば本当にそれがきちっと揃えば面白いメンバー、見ごたえがあるんじゃないですか。管理する立場としては、相手のことは気にしないですが。
-:皐月賞後は急に気温が上がってることや、帰厩後のコンディションはいかがですか?
清:もう心配することはないですよ。
-:どんな段階で調整されてきたか教えていただいてもいいでしょうか。
清:さすがに疲れはありましたね、皐月賞後は。やっぱり一生懸命走ったな、という体をしていましたので。10日ほど完全にゆっくりさせて、その時点でもう体も520キロ台まで戻りましたし、毛ヅヤもよくなりました。そこから少しずつ立ち上げて、戻してからは抜群の時計が出てますし、今日もジョッキーが跨って、何も問題なかったです。
▲20日、北村宏司騎手が駆けつけて一週前追い切り
霧のため計測不能だったが、CWコースでの併せ馬を行った
-:キタサンブラックの特徴というのは、まずおっとりしてそうな仕草。あまり細かいことに気を遣わず、どっしりと構えているところですね。それに、体にいい感じの丸みといいますか、カリカリしてなさそうな馬体がいいですよね。
清:その通り性格がいいです。余計な事しないでし、イレ込まないです。手のかからないお利口さんです。
-:そういった性格というのはG1になった時に心強いというか。
清:やっぱり。大きな武器です。
キタサンブラック・清水久詞調教師インタビュー(後半)
「誰もが気になる距離適性は!?」はコチラ⇒
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プロフィール
【清水 久詞】 Hisashi Shimizu
父親の清水貞光氏が冠名カルストンの馬主。幼少の頃より毎週競馬場に連れられており、牧場勤務を経た後に自然とこの世界に入る。「目指そうというよりも気がついた時には厩務員になっていた」と。
トレセン勤務後は定年での解散まで浜田光正厩舎に所属しており、当時に携わったのが牝馬2冠馬のファレノプシス。その思い出を「あの経験は未だにすごく大きなもの。古馬になってからのプレッシャーは大きかった」と語る。調教師になった後も「今こうやって調教師をしているのはいろんな人の力。人と人との繋がりを大事にしていくこと」と、絆をモットーにしている。
1972年大阪府出身。
2009年に調教師免許を取得。
2009年に厩舎開業。
初出走:
2009年6月21日3回阪神2日目11Rメイショウロッコー
初勝利:
2009年8月16日3回新潟2日目6Rチョウハイレベル
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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